記録室より
回す、という言葉を、この課では一日に何度も使う。
読み終えた書類は書庫へ回す。
判の要るものは決裁へ回す。
手に負えないものは、次の誰かへ回す。
回した先でそれがどうなるのかを、私は知らないままでいる。
前のファイルも、先週、そうやって回した。
分類の欄には、対処済とある。
処理の欄には、事案終了。
誰も対処していないのに、そう書ける様式になっていた。
今度のファイルは、その翌日に置かれ、今朝も、机の上にある。
表紙に、事案番号〇一〇。
舞台は、██市██町である。
市街地の外れの、住宅の並んだ一帯だ。
申し立てを起こしたのは、そこの自治会で、今年度の班長を務めている人物だった。
第四班、十二戸。
班長は一年ごとの持ち回りで、四月に替わる。
表紙の次の頁に、記録の種類が書いてある。
回覧板である。
正しくは、自治会が回覧を出した記録と、歴代の班長が書き継いできた申し送りの帳面。
それに、回覧板から抜き取られた紙が十九枚。
回覧板そのものは、記録ではない。
板と、紐と、留め具でまとめた紙の束である。
読んだら次へ渡す。
それだけの道具だ。
ただ、回覧板には、順番がある。
一番目の家から、十二番目の家まで。
誰の次が誰かは、決まっている。
順番の書かれた紙を、私はいくつも読んできた。
名簿にも、履歴にも、順番はある。
ただ、それらは後から並べ替えて、はじめて順番になるものだった。
回覧板の順番は、はじめから、紙の上にある。
私は、その一番目から追うことにした。




