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特異事象調査記録  作者: モリタ・ハク
事案〇〇九 きのうの雨

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報告書⑥ 経過

六通目は、経過の記録である。


――――――――――――――――


三〇四号室に、入居が決まった。


申し込みは先月、入居は今月の初めである。

契約者は市内在住の男性一名。


部屋を見に来たのは雨の日で、傘を差していなかった。


入居後、最寄りの観測点では、日降水量十ミリを超える降雨が二度あった。


いずれの翌日にも、音の申し出は無い。


管理人は二〇四号室と三〇三号室の住民に確認し、両名とも聞こえなくなったと述べた。

管理人自身も廊下で二夜を過ごし、音の無いことを確認している。


入居者に対しては、事情を伝えていない。


取り下げの届が、先週、出されている。


――――――――――――――――


取り下げたのは、申し出た者である。


日付の無い一件だけが、取り下げられていない。

申し出た者の欄が、空だからだ。


音がしなくなった理由は、書ける。

部屋が埋まったからである。


人が住んでいれば、水の音がしても誰も申し出ない。

それだけのことかもしれない。


分類の欄に、対処済。

処理の欄に、事案終了。


誰も対処していないが、状態は変わっている。

様式は、変わったかどうかしか問わない。


判を押してから、二十三枚目を、もう一度見た。

日付の欄も、申し出た者の欄も、空である。


十四年住んで雨の日に出歩かなかった人が、浴室を作らせ、五年で撤去させている。

撤去の理由の欄も、空欄のままだ。


私は、埋めない。

埋める材料が無い。


記録室に窓は無い。

降っているかどうかは、音でしか分からない。


いま、音がしている。


昨日、この市に、雨は降っていない。

降っていたのは、私が三度聞いた録音の中だけである。


三つのうちどれなのかは、聞いていれば分かる。

四分十二秒で終われば、一つ目だ。

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