記録室より
ファイルは、今朝、机の上に、置かれていた。
表紙に、事案番号〇〇九。
前のファイルは、先週、書庫へ回した。
異常なし、と書いた。
書けない一点があることは、どの欄にも書かなかった。
書く欄が、無かったからである。
今度の舞台は、██町の██荘という集合住宅である。
申し立てたのは、そこで管理人をしている人物だ。
記録の種類は、住民からの申し出を書き留めた受付簿と、建物の設備台帳。
それに、気象台の観測記録である。
音は、この事案の現象であって、記録ではない。
私が照合するのは、建物の側の紙だ。
いつ作られ、いつ壊されたか。
誰が住み、いつ出ていったか。
申し出の中身は、音についてだ。
空いている部屋から、水を使う音がする。
音の申し立ては、この課では珍しくない。
たいていは配管の共鳴か、上下の階の生活音か、風の通り道である。
原因が見つかれば、その日のうちに閉じる。
音は、出どころさえ分かれば、ただの音になる。
この一件は、その出どころを潰していった記録が、先に添えられていた。
水道は止めてある。
メーターは動いていない。
管の中は空である。
それから、その部屋には、浴室が無い。
音のする場所に、音を出す設備が無い。
私が書き足すことがあるとすれば、それは、いつ鳴るかについてである。
鳴るのは、雨の降った翌日だ。
降った日ではない。
降っている最中でもない。
翌日である。
一日、遅れている。
遅れているというのは、どこかに、一日ぶん置かれている場所があるということだ。
表紙をめくった。




