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特異事象調査記録  作者: モリタ・ハク
事案〇〇八 置いておいてください

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報告書⑥ 経過

六通目は、経過の記録である。


――――――――――――――――


十五回目の棚卸しが、今月末に行われた。


受付簿の残数と、棚の現物の点数は、一致した。

差は、ない。


名入りの湯呑みは、前月末、十一回目の処分として搬入されている。

翌月の棚に戻っていないのは、十四か月のあいだで、これが初めてである。


受付簿の末尾、拾得者不明の発見品を書き足してきた欄は、当月、一行も埋まっていない。

これも、十四か月で初めてである。


残る十三点は、棚にある。

うち、受付から三か月を経過した十一点は、当月、処分簿に記載のうえ搬入した。


翌月の棚卸しは、来月末である。


搬入した分だけ、棚の左端に空きができている。

担当者は、そこに何も置いていない。


数が合ったという報告をもって、申し立ては、取り下げられた。


――――――――――――――――


合った。


十四か月のあいだ一度も合わなかった数が、合った。


センターの棚から、一点、無くなったからである。


無くなった物の行き先を書く欄は、受付簿にも、処分簿にも無い。

返還か、処分か、様式はその二つしかない。


どちらでもないものを書く欄は、この課の処理票にも、無い。


書く形が無いものは、事案にならない。

事案にならないものは、誰にも読まれない。


前にも、書かないことで何かが止まると思ったことがある。

止まらなかった。


だから、これは、期待ではない。

書く欄が無い、というだけのことだ。


私は、処理票を書いた。


判は、分類の欄と処理の欄を埋めてから押す。

異常なし。


事案終了。

そう書いたうえで、押した。


湯呑みは、机の右手にある。

書類を読むあいだ、私は幾度もそれに手を伸ばす。


今日も、伸ばした。


底の姓は、私のものではない。


保管室の数は、合っている。


合わないものが、こちらに、一点ある。

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