記録室より
私は、特異事象調査課の記録分析官である。
現場には出ない。
各地から集められた報告書を読み、照合し、分類して、一つの事案にまとめる。
それだけが、私の仕事だ。
前のファイルは、書庫へ送った。
あの事案では、私は、書いた。
数えたものを、数えたとおりに、報告書へ移した。
書けば、誰かが確かめに行く。
それを承知で、書いた。
判を押した手のことは、よく覚えている。
次のファイルは、思っていたより早く来た。
今朝、机の上に、置かれていた。
表紙に、事案番号〇〇六。
今度の舞台は、██市の██団地である。
五棟あるうちの、██号棟。
四十二戸。
築四十年の、どこにでもある集合住宅だ。
申し立てを起こしたのは、その棟の管理人だった。
ファイルを開いて、扱う記録の種類に、目が留まった。
証言でもない。
映像でもない。
音でもない。
貸出の記録でもない。
配達の記録である。
いつ、どこへ、何が運ばれ、誰が受け取ったか。
伝票と、番号と、日付。
それだけが並んだ、事務的な一覧。
配達には、必ず、運んだ者がいる。
運んだ者がいれば、出した者がいる。
両端に人がいる記録だ。
片方だけでは、成り立たない。
これまで私が扱ってきた記録は、そうではなかった。
場所も、機械も、電波も、向こう側に人を要求しない。
誰かが仕組んだ形跡を探しても、何も出てこない。
配達だけが違う。
運ぶには、手が要る。
手が要るなら、その手の持ち主が、どこかに登録されている。
登録されているなら、辿れる。
はじめて、辿れる事案が来たと思った。
そう思って、私は、一枚目をめくった。
ファイルの一番下に、薄い紙が一枚、挟まっていた。
報告書の用紙とは、厚みが違った。
私は、それを、あとで見ることにした。




