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特異事象調査記録  作者: モリタ・ハク
事案〇〇五 返却日は空欄

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記録室より

私は、特異事象調査課の記録分析官である。


現場には出ない。

各地から集められた報告書を読み、照合し、分類して、一つの事案にまとめる。


それだけが、私の仕事だ。


前のファイルを書庫へ送ってから、しばらく経つ。

次のファイルは、来なかった。


来ないなら来ないで構わないと思っていたが、今朝、机の上に、積まれていた。


表紙に、事案番号〇〇五。


前の事案には、異常なし、と書かれていた。

判は、私が押した。


あれから、あの調査員とは、連絡がつかないままである。

連絡がつかないことは、課に報告した。


書かなかったのは、別のことだ。


私が数えたものと、報告書に書かれていた数が、一つ、違っていた。

それを、私は、どこにも書いていない。


書かなければ、誰も、確かめには行かない。

そう考えた。


書かなかったことだけは、私が、覚えている。


今度の舞台は、市立██図書館である。

本館が一つ、分館が二つ。


市の中心にある、どこにでもある図書館だ。


申し立てを起こしたのは、そこの司書だった。


ファイルを開いて、まず、扱う記録の種類に、目が留まった。


証言でもない。

映像でもない。


音でもない。


貸出記録である。


誰が、いつ、何を借りて、いつ返したか。

それだけが並んだ、事務的な一覧。


日付と、番号と、書名。


これまでの事案とは、性質が違う。

証言には、書いた人間がいる。


見間違いも、隠しごとも混じる。

映像にも、音にも、それを写した機械の癖がある。


貸出記録には、それがない。

誰かが何かを主張しているのではなく、機械が、起きたことを、順に積んでいるだけだ。


嘘の入る余地が、ない。


私が毎日していることと、まったく同じ形をしている。


――余地が、ないはずだった。

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