報告書⑤
五通目は、日付のない、あの一通である。当課の記録システムに、作成者不明のまま登録されていた。形式は、当課の事案処理票と、同一であった。
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【事案処理票】
事案番号 〇〇四
名称 ██郡██町 防災行政無線に関する申し立て
調査結果
一、町の送信記録に、十八時台の放送は存在しない。設備に異常は認められない。
二、住民の証言する十八時台のチャイムは、隣接自治体の防災無線が、気象条件により到達したものと推定される。
三、児童が町はずれへ向かって歩行したとの証言については、いずれも第三者の主観によるものであり、裏付けとなる記録は存在しない。
四、過去七件の行方不明事案との関連は、認められない。山間部における児童の行方不明は、全国的にも一定の頻度で発生している。
五、廃寺において確認された履物については、不法投棄として、町へ通報済み。
所見 当該事案に、異常は認められない。
分類 異常なし
処理 事案終了
※起案者不明。決裁欄、空欄。
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私は、この処理票に、判を押した。異常なし、と。
隣町の放送でも、気象条件でもないことは、わかっている。一時間の遅れも、七年から八年の周期も、揃えられた履物も、説明できていない。
だが、押した。そう書けば、事案は閉じる。閉じれば、書庫へ送れる。それが、私の仕事である。
写真を数えたことは、書かなかった。
書けば、確認のために、また、誰かを行かせることになる。
――町の人は、みな、同じことを言っていた。声をかければ、止まる、と。
だから、あれは、助けられる現象なのだと、私は思っていた。
思っていたのだが、記録を読み返して、気づいたことがある。
七件の目撃証言は、いずれも、こう述べている。「声はかけなかった」「急いでいるようには見えなかったので、気に留めなかった」。
誰も、悪意を持って、見送ったわけではない。
ただ、夕方の、見慣れた町の風景の中を、子どもが一人、歩いていただけだ。
そこに、声をかける理由は、なかった。




