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特異事象調査記録  作者: モリタ・ハク
事案〇〇一 迎えトンネル

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報告書① 調査員A

 最初の一件は、四通の報告書だった。

 まずは一通目。


 筆跡は、後半にいくほど乱れている。

 以下、原文のまま記す。


――――――――――――――――


 私が現地に着いたのは、十月の終わり、午後十一時を過ぎた頃だった。


 廃第三隧道。

 新道が開通して三十年、車も人も通らない。


 地元では〈迎えトンネル〉と呼ばれている。

 入口の金網は右端が人ひとり分だけ捲れ、その縁は、何度も握られたように錆が剥げていた。


 依頼はこうだ。

 「あのトンネルの奥には、会いたい人が立っている」。

 肝試しの若者が、何人も同じことを言った。

 死んだ祖母を見た者。


 事故で亡くした友人を見た者。

 そして――そのうちの幾人かは、奥へ歩いていったきり、戻らない。


 私は懐中電灯をつけ、金網をくぐった。

 中は、外より二度は寒い。


 光の届く先は、闇を塗り込めたように黒かった。


 奥から数えて七本目の照明の下で、私は足を止めた。


 人影が、立っていた。


 こちらを向いて、動かない。

 若い女だった。


 ライトを上げる。

 顔が――見えた瞬間、私は息を止めた。


 ██だった。


 三年前、病室で私の手を握ったまま、冷たくなっていった彼女だ。

 葬式も、骨も、私はこの目で見届けた。


 それなのに、彼女はそこに立っていた。

 あの頃のままの顔で、少しだけ困ったように、笑って。


 「おいで」


 唇が、確かにそう動いた。

 声は聞こえないのに、頭の中へ直接、届いた。


 規定は知っている。

 異常存在への接触は禁止。


 確認のみ。

 私はそう訓練された。


 わかっている。

 わかっているのに、足が、一歩、前に出た。


 彼女が、手を差し出す。


 私は、その手を――


 ※報告書①は、ここで途切れている。

 調査員Aは当該調査を最後に出勤しておらず、現在も消息を絶っている。


 ――記録係


――――――――――――――――


 ここまでが、一通目だ。


 調査員Aの失踪は、事実として確認できた。

 会いたい人に会い、その手を取り、帰らなかった。


 痛ましいが、我々の扱う事案としては、ありふれた結末ではある。


 通常なら、私はここで判を押す。

 「対象との接触により調査員一名を喪失、事案終了」と。


 だが、この件は、終わらなかった。

 二通目が、あったからだ。

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