報告書⑤
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前任の記録分析官が、行方不明になった。
事案〇〇二――電話ボックスの綴りを、編纂している、その途中でのことだった。
彼は、前の事案から続けて、この課の記録を、一人で背負っていた。
引き継ぎもないまま席が空いたので、後任として、私が、彼の失踪の経緯を、調べることになった。
彼の住まいを訪ねた。
鍵は、内側から掛かっていなかった。
部屋は、きちんと片づいていた。
争った跡も、荷物を持ち出した様子も、ない。
ただ、住人だけが、いない。
机の上に、彼の、携帯電話が、置かれていた。
画面が、点いていた。
通話中だった。
確認のために、私は、その携帯を、耳に、当てた。
雑音しか、聞こえなかった。
古いラジオの、局と局のあいだのような、ざあ、という音。
それだけだ。
切ろうとしたが、切り方の分からない、古い機種だった。
私は、しばらく、その雑音を、聞いていた。
――聞いているうちに、気づいた。
雑音の中に、規則的なものが、混じっている。
声だ。
遠い、たくさんの声が、重なって、順番に、何かを、読み上げている。
数字だ。
電話番号を、一つずつ、丁寧に。
途中で、聞き覚えのある番号が、読み上げられた。
前任者の、この携帯の番号だった。
次に読み上げられたのは、この部屋の、固定電話の番号。
その、次は。
私が、自分の携帯電話の番号を、思い浮かべた、そのとき。
声が、それを、読み上げた。
私は、手の中の、前任者の携帯の、画面を見た。
発信先の番号が、表示されていた。
──私の、スマホの、番号だった。
この電話は、ずっと、私に、架けていたのだ。
とっさに、自分のスマホを、ポケットから出した。
画面は、点いていた。
通話中。
通話時間が、四秒、五秒、と、増えていく。
発信先は、██―████。
あの、ボックスの番号だった。
私は、前任者の携帯を、耳から離して、通話を、終わらせようとした。
だが、通話は、切れなかった。
通話中の表示は、消えない。
怖くなって、私は、自分のスマホを、床に投げ捨てた。
前任者の携帯は、両手で掴んで、柱に、思い切り、叩きつけた。
画面が割れ、部品が飛び散った。
それでも――投げ捨てた私のスマホの画面の中で、通話時間の数字だけは、まだ、増え続けていた。
私は、この事案を、引き継ぐことになった。
前任者の机には、四通の記録が、遺されていた。
今、私が、その続きを、こうして、書いている。
書いているあいだも、私の携帯は、まだ、通話中だ。
切り方が、わからない。




