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第一話 七瀬怪異譚 短編集「縁の呪い」


 最初に気づいたのは、みなみだった。

 花びらが散り終えた四月。高校に入学して数日が経った放課後。

 みなみが席から立ち上がり、中学からいつも一緒に帰っている美咲に声をかけようとした時、美咲の様子がいつもと違うことに気づいた。

 美咲は沈む様に伏せていた。

「美咲」

声をかけても、美咲は顔を上げなかった。

「美咲」みなみはもう一度声をかけた。

「何?」

「大丈夫?なんか、ぼーっとしてたよ」

「そう?大丈夫だよ」

 笑った。でもその笑いは、いつもと違った。

 みなみは美咲の隣の席に腰を下ろした。

「何かあったの?」

「何もないよ」

「嘘つくの下手だな、美咲は」

 美咲は少し黙って、それから小さな声で言った。

「帰り道、聞いてくれる?」


 しばらく歩いた先で美咲は話し始めた。

「好きな人がいるの」

「中学の時の勇太くん?」

「うん」

 美咲の好きな人は中学の時の同級生。ずっと好きだったけど、違う高校になって会えなくなってしまった。想いを募らせていた時にネットで見つけた。古い恋愛のまじない。好きな人の名前を紙に書いて、特定の言葉を唱えながら燃やすだけの簡単なおまじない。

「やってみたの」

「どうなったの?」

「最初は何も。だから、またもう一度やったの。それが一週間前」

「それから?」

美咲は歩きを止めた。

「夜、変な夢を見るようになった。知らない場所で、誰かにずっと見られてる夢。それと……」

「それと?」

「部屋の隅に、何かいる気がするの」美咲の声が少し低くなった。「見えないんだけど、いる。息をしてる様で。そこだけ温度が違う」

 みなみは黙っていた。

笑って否定したかった。おまじないなんて気のせいだよ、と言いたかった。でも、美咲の顔を見ると、それができなかった。

美咲は本気で怖がっていた。

「わかった」みなみは言った。「一緒に考えよう」

「どうするの」


 まずは二人でネットを調べた。霊媒師、除霊専門家、お祓い。

 出てくるのは怪しいものばかり。神社かお寺でお祓いして貰うべきか、でも普通の神社かお寺でこういうことを受け付けてくれるのか。

 その日は答えが出なかった。

 明日また考えよう、と言って別れた。

 

 みなみは家に帰ってからも美咲の顔が頭を離れなかった。

 あの顔は、一週間ずっとああだったのだろうか。それを思うと胸が締め付けられた。

 みなみは宿題に集中しようとした。

 スマホが鳴ったのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。


 画面を見ると、美咲からだった。

 LINEじゃなくて電話だった。

 こんな夜遅くになんだろう。

 みなみは眉をひそめながら恐る恐る電話に出た。

「美咲?こんな時間に」

 返事がなかった。

「美咲?」

「……みなみ」

 か細い声で微かに聞こえた。美咲の声じゃ無いみたいだった。かすれて。小さくて。震えていた。

「どうしたの」

「来て」

 それだけだった。

「今から?」

「来て」

 みなみはパジャマから着替えて美咲の家に向かった。


 

 美咲の家は自転車で十分もかからない距離。

 みなみはドキドキする胸を感じながら自転車を漕いでいた。急いで息が上がっているのではない。どうしようもない不安からだ。

 美咲のあんな声は初めて聞いた。

 美咲は家の前で待っていた。

 パジャマのままだった。

「……みなみ」

「どうしたの?」

「来てくれた」

「来るよ。当たり前じゃない」

 美咲の部屋に入った瞬間。空気が変わった。

 どこか水の底にいる様な重いずっしりとした空気が漂っていた。吸い込む空気もどこか冷たい。

 そしてどこからか見られている気がした。

 美咲が今日言っていた事を思い出した。

「――部屋の隅に、何かいる気がするの。見えないんだけど、いる。息をしてる様で。そこだけ温度が違う――」

 みなみは部屋の隅の、天井のあたりを見上げた。

 そこだけ何かが違った。視線を向けようとすると目が見るのを嫌がった。本能が見るのを怖がっている。それでもみなみは無理矢理、目を向けた。

 目が合った。

「……」

 みなみの全身を悪寒が通り抜けた。

 何も見えてはいない。でもそこにある何かと。目が合った気がした。

 美咲がかすれた声で言った。

「さっき、名前を呼ばれた気がしたの」

「誰に?」

「わからない」

「美咲、ここ最近ちゃんと眠れてる?」

「眠れない。眠ると夢を見るから」

「どんな夢」

「真っ暗な場所で、誰かに見られてる夢。振り返ろうとすると体が動かない。声を出そうとしても出ない。ただ、ずっと、見られてる」

 美咲の声が細くなった。

「今日は夢じゃなくて、起きてる時に名前を呼ばれた。それで、もう怖くて怖くて」

 美咲が泣き始めた。声を殺して、肩を震わせて泣いた。

 みなみは美咲の隣に座って、背中に手を当てた。

 何かしてあげたかった。でも、何もできなかった。

 どうにもできないまま、みなみは一時間ほど美咲の隣にいた。

 美咲が少し落ち着いてから、みなみは帰った。

 夜道を自転車で走りながら、みなみはずっと考えていた。

 どうすればいいんだろう。どうすれば解決できるんだろう。

 考えても、考えても何も思い浮かばない。何も出来ない自分に苛立っていた。


 家に帰ってからも寝る事は出来なかった。

 さっき目が合った気がした。あれはなんだったんだろう。

 みなみは再び恐怖を思い出していた。

 はっきり見えた訳じゃない。でも。でも。目が合った事はわかった。

 布団の中に入っても、みなみは目が合った事が頭から離れなかった。

 いつしか、誰かに見られている様な気がしてきた。

 自分の想像なのか、実際に見られているのかはわからない。

 みなみは布団の中に篭り。必死に目を閉じて振り払おうとした。

 いつのまにか寝ていた。


 夢を見た。

 暗い場所だった。どこかもわからない。

 自分が立っているのか座っているのかもわからない。ただ、暗かった。

 見られている気がした。

 振り返ろうとしても、体が動かなかった。

 声を出そうとしても、出なかった。

 ただ、ただ、ずっと、ずっと

 何かに見られていた。


 朝、起きたら凄い汗をかいていた。

 ずっと何かに見られている夢を見た。

 誰かに見られている感触が、まだ微かに残っている気がした。身体が重く感じる。

 スマホを見るとメッセージが届いていた。

 美咲からだ。

 今日、一緒に登校出来る?


 三

 

 美咲と合流して学校に向かった。

 美咲はみなみの顔を見た瞬間、表情が変わった。

「みなみ」

「おはよう」

「……顔色、大丈夫?」

「大丈夫だよ。昨日あんまり眠れなくて」

 美咲はみなみをじっと見た。

 何かを見ているような目だった。みなみじゃなくて、みなみの後ろか、周りか、そういうものを見ているような。

「昨日、私の部屋に来てくれたじゃない」

「うん」

「多分」美咲は申し訳なさそうに小さな声で言った。「帰る時、部屋の隅のいたもの……ついていった」

 みなみは立ち止まった。

「えっ」

「私についていたものが、みなみについていったんだと思う。昨晩から、軽くなった気がして。」美咲は今にも泣き出しそうな顔で続けた。「でも、でも、みなみから昨日まで私が感じていたものが……みなみから感じる」

「今も感じるの?」

「うん」美咲が震えながら声を絞り出した。「みなみの後ろにいる」

 みなみは深く息を吸った。

 後ろを向いて確認したかった。でも振り返る事は出来なかった。


 

 その日の授業は、全く頭に入って来なかった。

 後ろに何かいる。

 美咲の部屋で目が合った気がした。あの時から私に取り憑いたのだろうか。

 どうすればいい?

 とりあえず神社に行く?お寺の方が良いのだろうか?

 誰に相談すれば良い?

 考えても考えても良い案は浮かんで来なかった。

 気が付いたら放課後になっていた。

 美咲が申し訳なさそうに隣に立っていた。

「……みなみ」

 美咲の顔は真っ青だった。

 二人は校門の前で立ち止まった。

「どうする」美咲が言った。

「考える」みなみは言った「でも普通の方法じゃない気がして」

 商店街を歩きながら、ふと前の看板を見た。

 ハザマ洋品店。


 みなみは記憶を思い出していた。

 子供の頃から母と買いに行っていた店。学校の制服や体操服などを扱っている。

 店主のおばさんがとにかく話好きで、物知りで。町のことなら何でも知っている。話の中で、なぜかいつも妖怪や妖などの例えをよくしていた。

 おまじないの事も何か知っているかもしれない

「行ってみたい場所がある」

 藁にも縋る思いで店の前に立った。

「ここ?」美咲が言った。

「ここ」

 みなみは引き戸を開けた。



 店に入ると、制服や体操着が整然と並んでいた。客はいなかった。奥のカウンターに、店主が座っていた。四十代くらいの女の人で、明るい柄のエプロンをしている。

「あら、みなみちゃん。美咲ちゃんも。いらっしゃい」

「こんにちは、おばさん。今日は買い物じゃなくて、ちょっと相談があって」

「相談?」店主は美咲を見た。「どうぞどうぞ、座って」

 カウンターの前の椅子を勧められて、怪訝な顔をしている美咲を伴って腰を下ろした。

「ちょっと待ってね」

 店主はお茶を入れてくれた。みなみが一口飲んだところで店主は口を開いた。

「どうしたの?」

 みなみは躊躇いながら美咲をみた。美咲が頷く。

「おまじないをしたの」

 まじないのこと、一週間前からの気配のこと、夢のこと、部屋の隅のこと。みなみが駆けつけた夜のこと。そして、今朝のこと。みなみに何かがついていったこと。

 話しながら声が小さくなっていった。でも店主は黙って最後まで聞いた。

 話が終わると、少し間があった。

「そう。それは大変だったわね」

 店主は言った。

 馬鹿にしない。その空気が伝わったのか、美咲の肩が少し下がった。

「おばさん、何か知ってますか」とみなみが聞いた。

 店主は少し考える素振りをしながら奥を見た。

 みなみと美咲の視線も奥に向かう。

「知ってるかどうかはわからないけど、聞いてみたらいい人が奥にいるわよ」

「奥に?」

「甥っ子。ちょうどいるから」

 店主は立ち上がって、奥に向かって声をかけた。

「七瀬ー」

 返事がなかった。

「七瀬ーったら」

「聞こえてる」

 奥から声がした。低くて、静かな声だった。



 現れたのは、男性だった。

 年齢はよくわからない。若く見えるけど、どこか落ち着きすぎていて、歳をとっている様にも思える。黒い髪で、首から勾玉をぶら下げている。不思議な色をした勾玉。乳白色に見えたが、覗き込むたび色が変わって見えた。

 手に文庫本を持っていて、読んでいたところを邪魔されたという顔をしていた。

 でもみなみが最初に気になったのは、目だった。怖いわけじゃない。ただ、何も読めない。値踏みするわけでも、警戒するわけでもなく、だけどどこか暖かい。そんな目だった。

「何」

「お客さん。おまじないをしたんだって」

「……」

「話してみて」

 みなみと美咲は顔合わせ、二人でもう一度、話していった。七瀬は黙って聞いていた。相槌も打たない。でも聞いていないわけじゃない。

 話の途中で一度だけ、目が鋭くなった気がした。

話が終わると、七瀬は短く聞いた。

「まじないをやったのはいつ」

「二週間前と一週間前の二回です」

「夜か」

「はい」

「何時」

「一度目は二〇時くらい」美咲は考えながら続けた「二回目は深夜の二時くらい」

「丑三つ時か」

 七瀬は少し考える素振りをしながら、みなみを見た。

「今はお前に憑いている」

「見えるんですか?」

「見える」

「どんなものが取り憑いているんですか?」

 みなみは震える声で言った。

「小さい。だが悪意はない。ただ引っかかっている」

 七瀬はみなみを見ながら続けた。

「まじないの煙に引き寄せられた。美咲から縁が解けて、お前に移った。それだけだ」

「祓えますか?」

 美咲が震える声で言った。

「祓う」

 

 七瀬は立ち上がった。

 七瀬は青銅でできた小さな鈴を取り出し鳴らした。

 リーン。リーン。リーン。

 そして、胸の勾玉を握り不思議な言葉を吐いた。

 リズミカルな音の羅列、素朴かつ力強い響き。なのにどこか懐かしさのある不思議な言葉だ。

 その瞬間、みなみは目を細めた。

 七瀬の周りに波紋が生じ、渦巻き文様と、弥生調の尖った三角の連続したギザギザの幾何学模様が空間に鮮やかに浮かび上がった。

 そして、勾玉が光りだした。見たこともない不思議な白い光が、月明かりみたいに優しく溢れだした。

 その光を浴びていると、重くるしさから解放されていく様な気がした。首の後ろなのか肩なのかわからない。後ろにあった違和感が無くなっていた。

 解放されている。

 美咲はぼんやりと七瀬を見ていた。店主はにこにこと微笑んでいる。

 勾玉の光がすうっと消えた。また普通の不思議な色をした石に戻った。

 それだけだった。

 煙も出ない。風も吹かない。音もしない。騒がなかった。急がなかった。ただ、淡々と、当然のことをするように、終わらせた。ほんの一瞬の出来事。でも。

「終わり」

「終わり?それだけですか」

「それだけだ」

 みなみは拍子抜けした。

 美咲が不安そうにみなみを見つめながら言う。

「大丈夫?」

「ん〜」みなみは肩を回しながら「重苦しさ無くなってる」

「本当に大丈夫なんですか」

「縁を解いた。もう引っかかるものはない」七瀬は美咲を見た。「今夜から夢は見ない。まじないはするな」

 美咲は小さく頷いた。目に涙が浮かんでいた。

「ありがとうございます」

 七瀬は何も言わなかった。何事も無かった様に奥に戻ろうとした。

「あの」

 みなみがまた声をかけた。七瀬が振り返る。

「お礼は?謝礼とか、お金とか」

「いらないよ。大したことじゃない」

 七瀬は奥に消えた。

 店主がお茶を足しながら言った。「気にしないでいいのよ。あの子、ああいう子だから」

 みなみは店の奥を見ていた。

 先程の光景が蘇る。

 何だかよくわからない言葉を吐いて、勾玉が光っただけだった。さっきの光がまだ目に残ってる。

 あの人は何者なのか。なぜあんなことができるのか。お金は取らなかった。何もわからない。説明もなかった。

 でも一つだけ、確かなことがある。

 本物だ。



 本当だった。

 お店から出てから気分が軽くなった。後ろに感じていた重さも何にもない。

 爽やかな風が心地いい。

 次の日、美咲の顔色も元に戻っていた。変な夢も見なくなった。部屋に篭っていた重苦しさも無くなった。

 みなみも大丈夫だった。美咲の目に光が戻った。

「よかった」

 みなみは心から言った。

「みなみのおかげだよ」と美咲が言った。「一人だったら、ずっと抱えたままだった」

「おばさんと七瀬さんのおかげだよ」

「みなみが連れて行ってくれなかったら会えなかった」

 少し間があって、みなみはふと思い出したように言った。

「ねえ、七瀬さんが何かしてた時、凄かったね」

 美咲がきょとんとした顔をした。

「え?そう?気づかなかった」

「七瀬の周りに紋様が浮かび上がって、勾玉が、白く光ってたじゃん。きれいだったよ」

「全然見えなかった。みなみはよく見てるね」

 美咲はあっさり言って笑った。

 みなみは笑い返しながら。

「そうかな。月明かりの様に眩しかったよ」

 少し引っかかりを感じたが、二人で笑いあった。

 もう恐怖に怯える事はないのだ。心の底から笑いあった。


 それで終わりのはずだった。


 問題が起きたのは、三日後の帰り道だった。

 美咲と別れた直ぐあと、春の夕日が淡く染めていた自宅を見た時、視界の端に何かが映った。淡い靄のような、煙のような、形のはっきりしないものが通り過ぎた。

「何いまの」

 気のせいなんだろうか。何か見えた気がした。

 次の日、確信に変わった。

 学校に向かう道すがら何かが見える。

 良く見ないと見逃してしまいそうな淡い何かが、朝日に照らされたいつもの通学路の所々で存在していた。

 悪意は感じない。でもそこにはいる。

 学校に向かうにつれて、次第にハッキリと、そして数も多くなっていった。

「……」


 学校に着いたみなみの様子を見た美咲が声をかけてきた。

「何かあった?」

「ん〜。何でもない」

 自分でもわかる、乾いた笑顔で返したが美咲はそれ以上は何も言わなかった。

 美咲にも話せなかった。心配させたくない。

 頼れるのはただ一人。


エピローグ

 放課後、みなみはハザマ洋品店に走った。

「七瀬さんいる?」

 店に入り即座に七瀬を呼ぶ。

「あら、みなみちゃん。美咲ちゃんは?」

 店主がにこにこと語りかける。

「今日は1人で来ました。あの……」

 どう話していいか分からず言い淀む。

 店主は少し目を細めた。笑っているような、考えているような顔だった。みなみの様子を見た店主は奥に向かい。

「七瀬ー」

「聞こえていた」

 七瀬は既に奥から出て来ていた。

「どうした?」

「変なものが見えるんです」

 みなみは昨日からの出来事を話す。最初はぼんやりと。次第にハッキリ見える様になり。数も増えていった事。

「見える様になっただけだ問題ない」

「数も増えていったんです」

「元からいた幽世の存在だ。君の方が見える様になって気がついた」

「幽世?……元からいた」みなみは続けた「どうして見える様になったんですか?」

「普通なら見えない」七瀬は少し考え、みなみの目を見て続けた。「縁が出来た存在は別だ」

「縁」

「おまじないをした子から縁が君に映った。きっかけに心当たり無いか?」

「目が合った」

「普通は幽世の存在を感知しても、本能が見るのを嫌がるはずだ」

 あの時、頭では見るのを嫌がっていた。それを。無理矢理。見に行った。

「私が自ら見に行きました」

 本来ならとても怖い事。なのに驚くほど心は静かだった。落ち着いていた。

「見えた存在に邪気や悪意は感じたか?」

「感じてません」

 そう、おまじないの時の妖に感じた禍々しい邪気。見える様になった存在には全く感じない。むしろ見慣れてくると、自然とそこにいて当然だと思えて来た。

「見えていても問題ない」七瀬は静かに続ける「君が自分から変に関わらなければ」

 そう言って七瀬は奥に戻ろうとした。

「待ってください」みなみは慌てて続ける「また来ても良いですか?」

「いつでも。いらっしゃい」

 店主がにこにこしながら言う。

「勝手に決めるな」

「あら。ここは誰でも来店出来る洋品店よ。いつも制服を買ってくれてる、みなみちゃんはお得意様」

「はい。また来ます」

 そう言ってみなみは頭を下げた。


 帰り道、みなみは空を見上げた。春の柔らかな夕日が優しく降り注いでる。

 周りを見渡せば。幽世の存在、妖が見える。でも悪い気はしない。悪意は感じない。

 怖い思いをした。

 七瀬に会わなければ、とんでもないことになったかもしれない。

でも、怖い気持ちより、別の気持ちの方が大きかった。

 自分の知らなかった、新たな世界に足を踏み入れた。

 不安よりも期待がいっぱいの気持ちで商店街を歩いていた。



七瀬怪異譚 第二話「かくれんぼの縁」へ続く

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