表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/93

第18話 不倶戴天の隣国の皇太子、参上

ギリギリ今日に間に合いました。

長くなりそうなので、短いですがこの辺です。

次のお話は、出来れば明日か、それか6日後…になる予定です。

 




 その馬車は、せっかくの第二王子エルライドの成人の儀―――生誕祭だというのに水を差すかのように王都に現れた。


 ―――隣国、ガスターク帝国の剣を咥えた竜の紋章を付けた漆黒の馬車が護衛の騎士たちと共に王都の大通りをまるで我が物顔で進行する、それを阻もうとする者は誰もいない。


 何故なら、その馬車を導くように黄金の獅子が盾を掲げ、盾のフィールドは5分割され全ての種族を守護するようにした紋章―――ソラージュ王国の国旗にして王族の紋章をつけた馬車があったからである。


 それを眺め見る王都の民たちは、『あの帝国』が態々(わざわざ)王子の誕生日だからといって祝いにやってくるはずが無いと得も知れない不安を抱えながら馬車を見送った。


 そしてその馬車の中では、3人の男たちが談笑をしながら王都を眺めていた。


「…さすが王都ケルンズだ。

 以前訪れた頃よりも民の活気で溢れている。

 為政者である国王陛下の治世の賜物なのだろうな。

 我が帝国も、将来を目指す良い見本の国が隣にあって幸運だ」


 手放しで王都を褒めちぎっていたのは壮年期に入った位の年齢のヒューマンである。


 (タカ)の様に鋭い眼差しと皮肉気に釣り上がった口が似合い本当に褒めているのか怪しいものだ。


 彼こそがガスターク帝国次期皇帝、皇太子ライナ・カルザス・メルネルム・ヴァル・ガスタークである。


「…それは良かった、ライナ皇太子殿。

 偶然(・・)出会ったとはいえ、我が弟の成人の儀を祝いに来ていただき感謝する」


 そう頭を下げず、軽く笑ったのはエルライドの異母兄アボリスである。


 その隣では疲れ気味のサウザー公爵もとい、元王族にして現王弟ザクネスが空元気を発揮してライナに今回の『計画』の協力に感謝の意を伝えていた。


「ライナ皇太子殿、此度の協力、まことに感謝をいたしますぞ。

 これが成れば、アボリス王子が王と成るに間違いないでしょう。

 そして、その暁には…」

「―――我が帝国との貿易協定の見直しと軍事的同盟(・・)に参加する、そういう事だったな?」


 アボリスが難しい表情をしてライナを睨むが、ライナは意に介さずその通りだと笑うだけだ。


 現在、ガスターク帝国とソラージュ王国との貿易はガスターク帝国の輸入が7で、ソラージュ王国への輸出が3と摩擦が生じている。


 関税も以前よりも高く設定され、元々はこの倍近く設定されていたものを帝国の特使が粘りに粘ってこの状態に落ち着いたとされていた。


 これは13年前、帝国が王国に対して何らかの逆鱗に触れたとされ、それからこの状態は継続中である。


 別段帝国は王国の輸入に対して依存している訳ではない為大きな問題ではないが、ソラージュ王国の特産でもある装飾品は帝国の富裕層、特に商人や貴族といった限られた者たちでもあまりの値段に目を剥くほどだ。


 元々決して安くない、むしろ貴族でも二の足を踏むような値をしていた装飾品が、帝国が王国の逆鱗に触れたばかりに贅沢がし辛くなったのだ。


 この装飾品を買うのは帝国でも限られた大貴族、または大商人くらいになっていた。


 アボリスやザクネスはこの貿易摩擦の真実を知らないが、大よその推測は立てていた。


 それは目の前の男―――ライナがアボリスの異母兄ラインハルトを手に掛けたとされる時期と合致するからだ。


 ライナがラインハルトの妻に当たる彼女、カリュラリシアに並々ならぬ欲望を抱いていた事を知ってていたのは有名な話だ。


 病没したとされた2人を探し出し(・・・・)、何がしか後ろ暗い所業を為そうとしたとしても、彼の性格からして何ら疑問を挟む余地もないほどに疑わしいほどだ。


 執念深く、毒蛇のような狡猾さを持つライナの周りには不審な死を遂げた者が両手両足では足りないほどいる。


 その結果が現在の皇太子としての地位でもあり、競争社会でもあったガスターク帝国皇族の彼の正しいあり方といえなくもない。


 アボリスは内心ライナに対して不快感を隠し通したが、この毒蛇相手にそれがどこまで通用するのか警戒を怠らず今後を憂いた。


 今更ながら、自分が一体どれだけバカな事をしてきたのかこれまでの諸行を思い出したのである。


 そして、自らが辿るだろう『結末』に自嘲せずにはいられなかった。


 舗装された大通りを我が物顔で進む黒き馬車は王城にゆっくりと、確実に近付いていた。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




「―――歓談中に失礼します、王子。

 実は…」

「…へぇ、来たんだ?

 しかも兄上と一緒に来るなんて…一体何がどうなっているんだろうねぇ?」

「……白々しい」

「ん、何か言ったかなユーリ?」

「なんでもないです!!」


 隻眼の奴がエルライドに耳打ちしたのが聞こえてきたので思わず反応してしまったんだが、ご主人様地獄耳過ぎない?


 ていうか、俺の精神状態は至って正常だ。


 まぁ、事前に聞いてなかったら今すぐその場所に行って周りの被害とか考えずに特大級の魔法をブチ込んでいるのは間違いないが。


「……帝国の皇太子(・・・・・・)が、この時期に来るとはねぇ。

 予想してはいたけど、本当に来るとは思ってもいなかったよ」


 …そう、エルライドが口にした通り、現在王城に入ってきた客の中に第一王子のアボリスと一緒に帝国の皇太子、ライナがやってきているという。


 うん、普通に俺の両親の仇です、こんな状況じゃなきゃ確実に殺してます。


 刺殺撲殺焼殺毒殺などなどなど、ありとあらゆる手段で殺しても飽き足らない仇だ。


 …エルライドからの命令がなかったら、本当に今すぐ殺しに行きたいよ。


 何しにきたかはアボリスと一緒に来た時点で凡そ分かっているけど、現在戦争中の帝国の皇太子が暢気に護衛を連れてきているとはいえ隣国の成人の儀に来るとか状況を理解していないとしか思えない。


 …と、普通は思うんだろうけど、この期に来ないとタイミングが悪いだろうから来たんだろうなぁとも思う。


「…殺しに行きたいなぁ」


 会場が喧騒の中だからこそ誰も俺の声に気づいていないが、やっぱりエルライドだけは俺の言葉に反応して目を吊り上げている。


 いや、だから何で聞こえてるの、行かないって。


 冗談だから…6割本音だけどさ。


 隻眼からの報告によると、ライナ皇太子…ライナは護衛を2人連れてアボリスとサウザー公爵と一緒にこの会場にと向かってきているらしい。


 いやはや、最後の最後にご登場とは恐れ入る。


 国王の祖父(じい)さんはすでに会場に到着してエルライド側の大貴族たちの接待をしていて、明らかにエルライドに次期国王の座を譲位させると言っているようなパフォーマンスをしている最中だ。


 実に芸が細かく、かつ分かりやすいパフォーマンスである。


 こういう機微が実生活に向けられていたら、アボリスのバカもこんなバカげた面倒を起こさなかったかも…知れないのに。


 本当に、残念な実祖父である。


 こんな祖父さんと俺血縁関係なんだと思うと、ちょっとため息が出て来るぜ。


「……ユーリも結構残念な孫だと思うんだけどなぁ」

「……口に出てた?」

「普通に出ていたよ。

 周りが煩いからバレていないと思ってるようだけど、意外と聞き耳を立てている貴族は少なからずいるんだから、気をつけてよね?」


 そ、そうだったのか。


 心の中でぼやいているだけと思っていたけど、口にしちゃっていたのか…気をつけないとな。


 …あれ、けどさすがに血縁関係については口に出していないと思うんだが。


 だって、俺今飲み物を飲みながら(・・・・・)考えていたと思ったんだが…どういう事だ?


 理由が思いつかないうちに、ライナたち一行がこの会場へとやってきた。


 次期皇帝となることが決定している男と、次期国王を指名されるおと…男装美少女か。


 しかも2人とも大国の後継者……例えアボリスの事がないにしても、荒れていただろうなぁ。


 大陸東部において決して無視出来ない2つの大国の次期指導者との邂逅が迫っていた。


 そして、会場の扉が大きく開く。


 現れたのは―――、


「…あれが、ガスターク帝国次期皇帝、ライナ・カルザス・メルネルム・ヴァル・ガスターク」


 毒蛇のような目をした男が2人の男女、しかもその一方の男は昨日会ったばかりのパイソンを従えて会場に現れた。





肝心の話が動くのが次回という。

読んで頂き、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ