第19話 よろしい、ならば戦争だ
気づけば予約投稿を忘れていました…大変申し訳ありません。
ついに事態が動き出します、どうぞお読みくださいまし。
次の投稿日は、10日未明です。
死に損ないとどこか前世を髣髴とさせるアジア系の美少女を連れてやってきたライナのステータスを確認した。
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名前:ライナ・カルザス・メルネルム・ヴァル・ガスターク
種族:ヒューマン
称号
ガスターク帝国皇位継承者
覇道を目指す者
性別:男
年齢:35
魔法適正値
火:30
地:40
水:40
風:40
無:40
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…マジか、てっきりパイソン辺りの奴が使っていた魔法で替え玉を送り込んでくるかと思っていたけど、まさか『本物』がご登場とは恐れ入る。
にしても、称号にある【覇道を目指す者】って…もしかしてこいつ大陸制覇でも目指しているのか?
よし、絶対に阻止してやる。
複数の国と戦争してまだ平気みたいだけど、戦争している国がソラージュ王国に救援を求めてきたら絶対に駆けつけてこれ以上ないほどの敗北をお見舞いしてやろう。
けど…ちょっと本気で殺したくなってきた、この機会逃したら次がいつかわからんな。
殺したいなー殺したいなー…しないけど、エルライド怖いし。
そういえば、従者の服を着ているヒューマン…パイソンと騎士甲冑を着込んでいる少女のステータスも見てみるか。
昨日は戦闘していたしそんな余裕なかったからしていなかったけど、いくつか気になる所もあるからな。
特に、この少女は妙に気になる…目が虚ろなのに敵意があるという変な感じだ。
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名前:アカリ・コンドウ(朱里・金堂)
種族:ヒューマン
称号
異世界召喚者
戦奴隷
性別:女
年齢:19
魔法適正値
火:50
地:20
水:30
風:60
無:60
光:70
名前:パイソン・コランダー(偽)
種族:ヒューマン
称号
悪魔契約者
暗殺者
複製人形
性別:男
年齢:50
魔法適正値
火:10
地:20
水:10
風:15
無:35
闇:50
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「…おいおい」
思わず声が上がったが、ライナの登場で更に騒がしくなっている会場の所為でその声は掻き消された。
パイソンのステータスはいくつ書きになる点があったけど、この少女…朱里は全くの想定外の状況だぞ。
ていうか、異世界召喚ってあの胸糞悪い宗教キチ…アマリア教国お得意の魔法じゃなかったのか?
…いや、考えてみればあれは特殊系統魔法に該当するから、世界でたった1人がその魔法を有しているという訳じゃない。
むしろあの国が目立って自ら勇者とか天使を召喚出来る魔法を有していますと主張しているだけで、世界は広いんだから他にも何人かいてもおかしくないはずなのだ。
とはいえ、『勇者』を召喚するとなるとアマリア教国にあるとされる『勇者召喚の間』とやらの魔法陣が必須だとアッキーから聞いていたんだけど。
…帝国だし、勇者に『強い駒』という価値を見出したライナ辺りが特に優秀な暗殺者を使って写し取らせたんだろうな。
……あの宗教キチのバカ国家め、こんな時にまで面倒の種蒔きやがって。
警備体制ザルなのかよ、重要な場所なんだから精鋭置いとけよ。
ステータスを見る限り、光魔法の適正値が70とかなり高い、他にも無魔法の60は結構な脅威だ。
あの特注の甲冑越しでも分かる細腕でもかなりの強化が可能だろう、剣の腕前は知らないが…称号にアッキーと違って【勇者】がないから補正はそこまで無いと見るべきなのか…いや、過小評価はよくない、慢心の元だ。
勇者補正は無くても、召喚による何らかの特典が無いとは限らないからな。
薄幸の美少女朱里か、一応同郷だし敵対してもボコボコにしてから生かしておけば何かの役に立つかもしれないからな。
戦奴隷なのは…まぁ主人を変更すればどうにかなるだろう。
奴隷はあんまり好きじゃないから、自発的にこちら側に友好的になってもらうようにするが。
パイソンは…【悪魔召喚者】じゃなくて【悪魔契約者】とある。
つまり、こいつは闇魔法の適正値が高いのに悪魔を召喚していないという事になる。
となると…この闇魔法は悪魔と契約をした特典と見るべきだ。
過去の契約者たちの特徴として悪魔と契約した者は高位の闇魔法を操る事が出来るという記述もあった。
まぁ、普通は【悪魔召喚者】と【悪魔契約者】の2つの称号はセットな筈だが、【悪魔召喚者】については別口の人間がやっているんだろう。
その肝心の【悪魔召喚者】はというと…この場にいないということは帝国のどこかにいるんだろう。
まぁ、このパイソンも名前とか称号に『偽』とか【複製人間】とかある辺り殺しても意味無いんだけど。
…昨日の意趣返し位はしたいなぁ…出来ないんだけど。
ああ、エルライドからの視線が痛い、ヒシヒシと来る。
俺が色々と考えているうちにエルライドとライナの挨拶が終わる。
頭の片隅というか右から左だったが、なんとも寒々しい挨拶である。
まぁ、仮想敵国筆頭…というか敵国のガスターク帝国の次期皇帝に対して、この国の次期国王であるエルライドが握手して笑い合うような場面なんて起こる訳無いが。
「…この者は僕の護衛です。
ユーリ、挨拶を」
俺の紹介をしたエルライドが俺に自己紹介を促した。
挨拶…しなきゃ…いけないのか。
「…お初にお目にかかる。
ユーリ・フォン・ミツミネです。
噂のライナ皇太子と出会えて光栄です」
近い将来絶対に破滅させてやるから覚悟してろや?
恨みの篭った視線を一瞬だけ向けた俺は短く挨拶をした。
こういう時エルライドの面子が無ければ間違いなく挨拶なんてしなかったし見つけた瞬間戦闘だろうが、ここは我慢の時である。
「ほう…貴様があの竜殺しか。
ハーフエルフという穢れた存在にも拘らずとんだ戦闘能力を有した化け物とは聞いていたが…」
「………」
いや…ちょっと驚いた。
面と向かって言われる事が最近無かったから忘れていたが、そういえば世間一般ではハーフエルフという混血の者は『穢れ』扱いだったな。
あんまりにも当たり前のように、まるで当然という様な風な口調に目が点になった。
次第に不快感が沸々と湧いてきて殺気が漏れ出ようとした時、エルライドが俺の前に立った。
「……ライナ皇太子。
この国の英雄に対してその様な暴言と誹謗はやめて頂きたい、不愉快だ。
そもそも…招待されてもいない身で自国のように好き勝手出来ると本気でお思いか?
だとしたら、我が国の牢屋でその考えをゆっくりとして差し上げるが、如何か?」
「…これは失礼をしたエルライド王子。
どうにも私には混血が好きではなくてな、不快にさせたのなら謝ろう」
「僕が不快になったのは貴方の言動が原因でもあるが、それ以前にユーリに対しての暴言に関しても謝罪は必要だと思うが、まだ聞いていません」
「必要だとは感じられないなエルライド王子。
英雄と言えど所詮は混血。
なれば英雄と呼ばれ国家のために尽くすのは当然といえよう」
…エルライドがキレて『牢屋にブチ込むぞコラ』と至って平静に、だが怒気の篭った声音でライナを睨み付け、ライナも俺ではなく不快にさせたエルライドにだけ謝った。
ワザとですね分かります、んでもって余計にエルライドの眉間に皺が寄る。
謝る対象が暴言を吐かれた俺じゃなくてエルライドなのは混血の俺には謝りたくないという表れなんだろう、実に分かりやすい。
代わりにエルライドが怒ってくれたから落ち着いたが、ライナとエルライドの口論を聞いていた周りの貴族たちは震え上がっていた。
まぁ、隣国の皇太子を牢屋にブチ込むとか普通に考えたら戦争ものだからな、当然の反応だ。
その後も口論を続け、埒が明かないとみたのかライナが強引に話を変えてきた。
「…本題に移ろうか。
どうしてこの国へとやってきたのかを伝えようと思っての事だ」
そう言うと、ライナがそれまで黙っていたアボリスを前に出して肩を持った。
そして嫌らしい、蛇の笑みを浮かべて口を開いた。
「…ここに宣言をしよう。
私、ガスターク帝国皇太子ライナ・カルザス・メルネルム・ヴァル・ガスタークはソラージュ王国第一王子、アボリス・ウル・ソラージュ殿が次期ソラージュ王国国王となる事を強く推挙する」
この言葉を境に起きた戦乱を歴史はソラージュ王国史上最大の内乱となる。
しかもその引き金となったのは隣国ガスターク帝国の皇太子だった。
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皇太子ライナの宣言を聞いた会場はそれ以上になく騒然となった。
それも当然だろう。
隣国の皇太子が、堂々と内政干渉と取れる発言を取ったのである。
それはエルライドを御旗に掲げる派閥からすると由々しき事態であり、アボリスを御旗に掲げていた派閥からすれば追い風が吹いてきたも同然の事態だったのだ。
アボリスはどこか憮然とした表情をしていたがすぐにそれを押し隠し、不敵な笑みを浮かべてエルライドに獰猛な笑みをしてみせる。
エルライドはその様子をただ黙って聞いていて、その表情からは同様も見受けられない。
ただ、不気味なほどその周囲は静かだった。
「…兄上は…アボリス兄上は、それで良いのですか?」
冷めた声で、冷めた表情で、冷めた目はただアボリスを見つめていた。
その様子に隣にいたユーリが引き攣った表情をし、駆けつけてきたアキラもエルライドの豹変振りに肝を冷やしていた。
アボリスはエルライドの豹変振りに目を見開くもののうろたえたりせず、堂々と頷いた。
言葉を発した訳ではない、だがアボリスはエルライドに向けて一度だけ頷いただけである。
しかし、エルライドはアボリスの行為に対して酷く顔を歪めると俯き、しばらくの間黙り込んだ。
そして次に口を開いたとき、その表情は烈火の如く、その瞳は燃え滾るような怒りで溢れていた。
「……ライナ皇太子、これは貴国からの宣戦布告と取れますが、それでもよろしいのですね?
ライナ皇太子のその『強い推挙』とやらを陛下が、ガイネス・ウル・ソラージュ国王陛下が聞き入れなかった場合、貴国がどういう対応をしてくるのかお聞かせ頂きたい」
エルライドの豹変に対して、ライナは口元を歪めながらも笑う事を抑えながら、若干上ずりながらもその問いに答えた。
「それはもう、聞き入れてもらえるよう誠心誠意努力させてもらおう。
我が国で出来る最高の援助をアボリス殿には提供するつもりだ。
無論、必要とあらば軍も動かそう。
動員出来るのはざっと10万ほどだが、十分であろう?」
ガスターク帝国は軍国であり、領土拡大を国是としている。
他国の王位継承問題に干渉して帝国が後に有利になる事を前提に協力し国を弱体化させ、内乱で弱った所を帝国が喰らい飲み干すという手法は使い様によっては何度でも使える手である。
この手法で、帝国は幾度となく領土を広げ現在の広さの領土となったのだ。
ソラージュ王国に対してもこの手法を使い、更には有力貴族でもあるサウザー公爵家と関わり少しずつ侵食していった。
そしてソラージュ王国における継承問題が最終局面となったこの時を狙いライナ自身が現れたのだ。
「貴国が、ガスターク帝国がソラージュ王国の王位継承問題に口出しするとはね。
…この問題はいい加減に解決しなければならない問題だと思っていた所だし、是非もない。
貴国の…ライナ皇太子が望んだ結果になる事を願うと良いだろう。
……では陛下、ご決断を!!
今、この時を以ってしてお答え頂きたい。
この国の、ソラージュ王国次期国王を誰に指名するのかを」
貴族たちが一斉に二手に大きく分かれた。
ゆったりとした豪奢な服を着たヒューマンの壮年の男はアボリスの、そしてエルライドの父でもあり、このソラージュ王国国王ガイネス・ウル・ソラージュその人である。
その表情はエルライドと同じく怒気に満ちており、いつ爆発してもおかしくない火薬庫だ。
ユーリとエルライドの間に立つと、ガイネスは立ち止まる。
「……帝国の、どうやら貴国はあれだけの被害を受けてまだ懲りないと見た。
いや、むしろ屈辱を受けたからこそ引けないのか…」
ライナと挨拶もせず、小さく呟くガイネスは険しい表情をしたまま杖を床に打ち付けると大きく息を吸い、会場に響き渡るほどの声を上げた。
「よく聞け!!
今日この時を以って、長引かせていた王位継承問題に終止符を打とう!!
我ガイネス・ウル・ソラージュはこのソラージュ王国の次期国王を第二王子エルライドを指名する!!
これに反対する者はその悉くを国賊と見做し駆逐しよう!!
帝国と密かに繋がり王国に乱を持ち込もうとしたサウザー公爵家を筆頭にした『ソラージュ王国真王臣下録』などという物に名を連ねた者たちは即刻貴族名鑑から除外し、国賊とする!!」
ガイネスの宣言によって、喜ぶ者、嘆く者が分かれた。
エルライドの派閥にいた者が前者で、後者がアボリスの、サウザー公爵家と関わり『ソラージュ王国真王臣下録』に名を連ねた貴族たちである。
帝国の、ライナの思惑通りとなったのか、彼はガイネスの宣言を聞いて笑っていた。
「…アボリスよ、貴様は王族から追放する、どこへなりとも行くがよい!!
そして帝国の皇太子よ、貴様の思い通りに事が運ぶと思ったら大間違いじゃ!!
この場は見逃そう、故郷へ帰り我が国に弓引き剣を向ける愚行の準備に励むが良い!!
我が国に邪な思惑を持った軍勢が入れば、貴様らを容赦なくその悉く殲滅してくれようぞ!!」
アボリスにガイネスは王族を追放し、余裕の表情を崩さないライナにその舌端を向けた。
「ははっ、いいでしょうガイネス陛下。
すでに賽は投げられた、後は武を以って雌雄を決するのみだ」
「―――っ!!」
ライナはガイネスの気迫に驚かせるが引こうとはせず、ただ不敵に笑っていた。
そしてアボリスはガイネスの言葉に表情を強張らせた。
だがアボリスは拳を握り締め、歯軋りをしながらもガイネスを睨み付け、一言も交わさずに会場を去っていく。
アボリスを追いかけるようにサウザー公爵も慌てて会場を去り、更に『ソラージュ王国真王臣下録』に名を連ねた貴族たちもバタバタと優雅さの欠片もない走りで去っていく。
最後に会場を去ったのはライナたちだ。
まるで自分がここで何もされないのが当然だと言わんばかりの表情で優雅にも一礼して去っていく後姿は如何にも無防備で、たとえパイソンと朱里がいたとしてもユーリ1人には敵わないだろう事は間違いない。
「……捕らえなくても良いのですか陛下?
今なら全員捉えられたのに…」
ユーリがガイネスに声を掛ける。
特にライナたちを睨んでいるのは彼らを帰した事により内戦が更に混沌具合を増すのを危惧してのことだ。
「…良いのだミツミネ卿。
この場はエルライドの為の祝いの日である。
その様なめでたき日に血で塗らす様な事は良くない。
それに、我が国に救う病巣を取り除く良い機会じゃ。
その為にはこの場であの国賊どもを捕らえるよりも、集まった状態で殲滅した方が後々の為じゃ」
「そうだね、陛下の言うとおりだよユーリ。
というか、こんな状況だけども僕の為の会場を国賊の血で汚す気かい?」
「…分かりました…失礼しました」
王族2人からのダメ出しにより、ユーリがライナたちを襲う事はなくなった。
不承不承な様子を隠し切れていない所をガイネスとエルライドが申し訳ない気持ちにさせられたが、やはりユーリがこの場で戦闘を行うのは問題があった。
ユーリたちの知らない、エルライドとガイネスの企てているもう1つの計画を実行する為にも、ユーリにはこれ以上目立ってもらう訳にはいかなかったのだ。
「…さて、邪魔者も去ったのじゃ。
成人の儀を再開しようぞ」
ガイネスが侍従に呼びかけると音もなく年配の侍従がグラスとワインを持って現れる。
ユーリにエルライド、そしてガイネスの3人分のグラスにワインが注がれ、ガイネスがワインを掲げ音頭を取る。
「皆、この祝いの後、我が国に最大級の苦難が訪れるじゃろう。
じゃが、この場にいる皆が力を合わせれば、必ずやその苦難を打破出来ると信じておる。
そして、王太子エルライドによる治世を確実とする為にも、我らは明日を掴み取るのじゃ!!」
「おおっ!!」
「エルライド王太子万歳!!」
「ソラージュ王国に栄光あれ!!」
この場にいる貴族たちが声高に叫び会場は熱気に包まれた。
ユーリは少しばかり呆れた目を貴族たちに向けていたが、それを隠すと隣にいたエルライドとグラスを打ち鳴らす。
この日、大陸東部でソラージュ王国の次期国王となる者が指名された。
名を、エルライド・ウル・ソラージュ。
後にソラージュ王国歴代国王の中でも最も輝いていた時代の王であり、『革命王』と呼ばれた彼が歴史の最重要地点に降り立った瞬間である。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




