第17話 栄光の懸け橋へいざ
遅れてしまいました、予約投稿自体忘れているとはとんだトリ頭で、大変申し訳ありません。
次回は今月中に1話投稿を予定しております。
時間は大体19時から20時の間です。
それでは、どうぞ。
気の重くなった朝食(最終調整)を終え、俺は宮廷料理人たちが忙しなく動き回っている調理場で料理に励んでいる。
昨日の打ち合わせで俺の担当は決まっている。
料理を3品作って終わりだ。
この式典は立食パーティー形式になっている、よって常時宮廷料理人のようにメイン料理を調理している事は出来ない。
俺は常時エルライドの護衛で側にいないといけないからな、よって温かい料理よりも、冷めてもおいしい料理を作ることにした。
まず一品目は異世界風バンバンジー。
マッサンという魔獣(高級鶏肉)を順次蒸していき、肉のあら熱が取れたら裂いていき、キュウリの触感に近いギョリという野菜を細切りにしていく。
春雨はこの世界になかったので作った、知識あったら意外と簡単だし。
春雨を茹でて魚醤を始めとした各種調味料をかけて他の材料を混ぜ合わせ、完成である。
普段味の濃くて脂っこい料理ばかり食っている貴族連中からすればこのさっぱりしたバンバンジーはお腹にも優しいだろう。
二品目は異世界風チキン南蛮。
ベルパーという魔獣(こちらも高級鶏肉)を一口サイズにカットして揚げていき魚醤ベースの漬け汁に野菜を漬け込んだ一品である。
メイン料理なのに冷めているというのは意外とこの世界じゃないものらしいので作ってみた。
まぁバンバンジーと似ていなくもないので、少し采配ミスな気もするがあまり心配していない。
三品目は特製のスフレチーズケーキである。
材料が高いだけで、単純だからなこの手のケーキは。
常温のクリームチーズ、卵黄、砂糖を混ぜていきバニラビーンズと小麦粉を投下して更に混ぜていく。
作っていて思ったが、ハンドミキサーがあった前世の世界が酷く懐かく感じた、手首痛い。
卵白と砂糖少々を泡立て器でツノが立つまで混ぜていく、宮廷料理人に任せた、疲れる。
あとはオーブンで約40分かけて焼いていく、それで完成だ。
後はお好みのジャムを添えれば更にこのケーキのうまみを引き立ててくれるだろう。
口に入れた瞬間とろけて仄かな酸味と甘みのある味わいは絶品である。
失敗はしていない、何せ孤児院のガキどもの誕生日には大抵これ作っているからな。
他のケーキも作っているが、リピート率が最も高いのがこのスフレチーズケーキである。
スイーツの少ないこの世界じゃ間違いなくバカ受けだ。
…はぁ、料理に没頭しているから何も考えていなかったが、いい加減現実を見ないと。
エルライドの事は…まぁ機会を見て聞くとしよう。
さてと、レシピはもうキュベレイに渡したしエルライドの所に行くとするか。
誕生会―――成人の儀が始まる。
エルライドの、王太子としての…次期王としての決定がされる吉日だ。
盤上に残っているのはどれもカスばかり。
王手といきましょうかね。
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一国の王子の誕生日―――成人の儀となればやはり主催者である王族も盛大に見栄を張りたいというものなのだろうか、王宮内は暗殺者たちの襲撃が起きて1日も経っていないのに煌びやかだった。
戦闘痕が色濃く残っている場所については機転を利かせたのか福を呼ぶとされる月桂樹を急遽無理矢理ではあるが埋めて周囲を土で覆うことで隠し通した。
俺が破壊してしまった王宮の専用区画については現在アルベルトが時間を縫って修復中だ。
あの時はかなりキレていたからよく覚えていない、魔力を放出していただけだったと思うん…ちょっと見てきたんだが、まるで超高温を浴びたアスファルトみたいだった。
魔力を放出しただけなんだが…どうしてこうなった?
そして招待状を送られて貴族たちは侍従や近衛騎士団の騎士たちに簡易的ではあるが身体検査を受けている。
さすがに昨日の今日の出来事だから、どの貴族も不平を鳴らすものの仕方ないとばかりになすがままであった。
これで毒物や危険な魔道具なんてバカ正直に持ってくるような貴族がいれば確実にそいつの信用は地に落ちるんだが…さすがにいなかった、残念。
その代わりと言っては何だが、やけに自信満々な貴族があちこちで見られた。
これがおそらく第一王子側についている貴族たちなんだろう、何せ100を超える貴族連合だ。
その一員とあらば、自分だけの力じゃなくても過信してしまうんだろう、気持ち悪いからやめてほしい。
「―――実は、私には王子と同い年の娘がいましてな」
「私の姪が現在12歳なのですが、器量も良く―――」
「生まれたばかりの孫ですが、将来は大陸一の美人に―――」
「ミツミネ卿もどうですかな、私の娘がちょうど―――」
そして俺とエルライドは同じ派閥の貴族、それも結構な爵位を持つ高位貴族たちに自分の娘を差し出されようと…つまるところ『お見合い』をさせられようとしていた。
隻眼の奴は警備体制を見直すということでフラウ爺さんの所に行っていない為、俺が急遽エルライドの護衛としてそばにいた。
…そう、貴族というのは血の繋がりを重視する嫌いのある種族である、殆どの平民と違う点はそこだ。
何故か貴族というのは自分の血というのを誇らしげに語る、始祖が偉業や功績を立てたのをまるで自分のものかのように語るのは道化を見ているようで面白くもあり、気持ち悪くもあるが。
冗談はそのでっぷりと出た腹だけにしてほしい、一体何を食えば出るんだよ、運動しろ。
饅頭みたいな面しやがって、笑いを誘うのも大概にしてほしい。
まぁ、何とかかわしているが、そろそろ手を出しそうで怖いな。
エルライドに至っては…すごい、完璧な営業スマイル、こっちの顔もやっぱり可愛い。
女の子だと知ってからは更に…うん、なんか思い出したらまた顔が熱い、静まれ俺。
まぁ、エルライドが婚約ねぇ…あれ、けどエルライド結婚したところで両方女じゃん、子供生まれないぜ?
ていうか王族だから絶対に次代の王、あるいは女王候補を生まなきゃならないからな、分家筋といえばいいのか、傍系の血筋から養子にしてするとか病弱で子供を生むのも難しいと言われても側妃を勧められるだろうし…こっそり男呼んで抱いてもらうとか?
……まぁ、そうなると候補は隻眼辺りか…確かあいつの実家ってエルライドの母さんと懇意にしていたとか聞いた事があった気がする。
まぁ、堅苦しくて眉間に皺が寄っているのがデフォルトな奴ではあるが、そこそこ見られなくはない容姿はしている、ハロルドさんと比べると格段に劣るが。
実力も……まぁ俺やアッキーみたいな規格外枠を除いて、常人としては間違いなくトップクラスの人間だ、これまで危なげなくもあったがエルライドを守ってきただけの事はある、エルライドからの信頼も厚い。
問題は本人が望んでいるかどうかだが……まぁ、秘密を知っているのは少数の方がいいだろうし、こればっかりは部外者の俺がどうこう言うのは………なんかモヤモヤするが。
「…まぁ、僕も王族としてそういう話があるのは分かりますが…こういった事は父上が…陛下がお決めになる事ですから。
確約は出来ませんが、どうしてもというのでしたら陛下に…」
あ、かなりこれは怒ってるわ。
言外に『そんなにしつこいと、陛下にチクっちゃうぞ』を発動した、営業スマイルが一転、氷点下の笑みへと早代わりする。
さすがに慌てたのか、手早く謝罪を口にした貴族たちはすごすごと立ち去っていく。
高位貴族もエルライドにかかれば形無しか、カッコいいね俺のご主人様は、惚れちゃいそうだよ。
そういえば、陛下は…あの爺さんはエルライドが『女』である事を知っているのだろうか?
親なら生まれたばかりの子供を抱き上げたりしたりするとは思うが…さすがに男か女かの判断は生まれたばかりの赤ん坊を剥く訳にもいかないか。
となると…知らない可能性も出てくるのか?
気付かない内にどこぞの貴族、それも飛び切りの高位貴族の令嬢を婚約者をエルライドに宛がうかも知れないのか。
癪ではあるが、あの爺さんの『王』としての資質は確かにすごいと思う。
これまで他国と戦争こそなかったし、帝国ともかつては一触即発となった状態があったらしいが戦争は回避している。
問題といえば起こしてしまった魔獣大侵攻位だ、それもエルライドのシナリオ通りとはいえ解決でき、その采配を全て承認した王としての判断はまさに迅速果断といえた。
まぁ、あまりにも『王』としての面が強過ぎて、人としての『情』というのが見えてこないから好きじゃないんだがな。
俺の父さんと母さんの結婚を認めないばかりか引き裂くような工作をしていたって聞くし、正直頭下げられても許す気にはなれないけど。
とはいえ、あれでもエルライドの父親で、一応ではあるが俺の祖父でもあるのはなんと言うか因果なものである。
うーん、女同士で結婚したとしても破綻するのが目に見えているし…相手方に事情を説明すれば間違いなく『弱み』になってしまう。
かといって、王の決めた婚約者に対して妨害工作したら間違いなくエルライドが気付くし、そっちが怖くて出来んわ。
何か良い手がないものやら…エルライドが損をせず、尚且つ王太子妃になるだろう令嬢とその実家にも知られずに済むというアイディアが。
……まぁ、俺は知識担当だけど辞書みたいなものだからな、ご主人様に聞かれるまではお利口に『お座り』しておくとしようか。
「…ユーリ、何で助けてくれないのさ?
僕の護衛でしょ?」
「悪いな王子様、俺も自分の身が可愛くて助けに行けなかったんだ、許せ。
というか、あの状況で俺に助けを求めること自体間違ってる」
「そこは護衛役に徹してほしいなぁ」
「そこはほら、俺だし?」
「自慢することじゃないだろうに…もう」
軽く頬を膨らませる美少女王子様、テラカワユス…使い方、合ってるかこれ?
思わず脳が一瞬スパークした様な衝撃を受けたが、何度も平静を保っていられたのは奇跡だろう。
…こっちの頬が緩みそうでいかんな、顔がなんだか熱い。
換気が悪いなこの会場は、あとで文句言ってやる。
「おいユーリ…主催者側が何暢気に話してるんだ、客の相手しろ客の」
ちょうどいいタイミングでアッキーが声をかけてきた。
ミツミネ家の紋章入りの正装をしたアッキーは周りの令嬢たちを魅了しまくっているが本人は完全に無視している。
アッキーもそこそこ有名だからな、俺の護衛というのもあるし冒険者としての腕もランク以上に見られている。
何せ近衛騎士団との総当たり戦で難なく全勝しちまうほどだからな、宮廷中の話題にあっという間になった。
どこか疲れたような表情をしているのはおそらく俺とエルライドの代わりに招待された貴族たち、及び周辺国の使者への対応をしていてくれたんだろう、ご苦労なことである。
「…エルライド王子も、連中と口を利くのが嫌なんでしょうが辛抱してくださいよ。
今日が済めば、あとはどうとでもなるんでしょう?
ていうか、この国の貴族と話すのが嫌ならそれで構わないので、周辺国の使者の方々と話をしてください、もう待ちかねていますよ」
遠くから豪快な笑い声が聞こえてくる、あのクソ司祭がきているのだろうな。
教会は基本中立だけどもしかしたら教会を優遇してくれるかもしれない王族、しかも次期王に最も有力なエルライドに近づく為なら多少の強引さがないとやっていけないだろう。
個人的には政教分離が望ましい、これはエルライドもよく口にしていた。
宗教が国の方針に口を出すとか面倒極まりない、教会の中でドロドロとした勢力争いを死ぬまで内部で続けてろと毒を吐きたくなる。
それにしても…エルフにドワーフに獣人か、揃ってるねぇ。
あと魚人がいれば全種族が揃っていたんだろうけど、連中は陸に上がるの大変らしいし、祝言しか来ていないらしい。
大陸東部でも比較的大きな国であるソラージュ王国の次期国王となるエルライドに声をかけたいという他国からの使者たちも多いのだろう。
まぁ、エルミナ神樹国辺りは俺が近くにいるから近付けないんだけど…あとで少し離れていようかな。
エルフたちは食欲が湧かないのか、食事もワインもそこそこにエルミナ神樹国と接しているソラージュ王国の貴族たちと話をしていたりしていて当分の間こちらには来ないだろう。
もともと彼らは小食で、しかも食わず嫌いが激しいと聞く。
魚や肉、野菜と満遍なく出しているが嫌いな食材が一緒に入っていたりしたんだろう、キュベレイと俺がメニューを考案したんだが、どうにもエルフの連中には不評なようである、大変、大変申し訳ない事をした、反省している。
ソラージュ王国は魚人以外の種族が貴族になっているという者も少なからずいる。
まぁ大多数を占めているのはやはりヒューマン種だ、貴族みたいな面倒な人種は他人種である彼らの気質とは合わないのだろう。
それは他国の、ヒューマン種以外の種族で形成された国を見ていればよくわかる。
ドワーフの国、ガレリア共和国辺りは最高級のワインを椀子そば並みのチャンプレベルの速さで飲みまくっていて近くで酌をしているメイドを戦かせている、王宮の酒蔵を潰す気かこいつら。
獣人の国、アマニア国は出されている料理を黙々とテーブルから自分の胃袋へとせっせと詰め込んでいる。
冗談抜きで今日の成人の儀が終わったとき、明日の朝食が何品か少なくなっていそうでいて怖い。
国内のヒューマン種以外の貴族たちは…まぁ他国の同族たちを見て少し羨ましそうな目で眺めていた、自分も
「……あと、未確認ですが王都が何か騒がしくなってきているとハロルドさんたちから報告が来ています。
予期せぬ来客が来たのかもしれませんね」
「…ふうん?」
どこか哀愁漂う雰囲気を醸し出しているアッキーにエルライドが楽しそうに笑っている。
いや、本当に楽しそうでちょっと引くくらいに。
「ここまでうちの王子様の予想通りだと、もう一種の特殊能力に見えてくるわ。
なに、王子様『未来視』でも使えるの?」
未来視とはその名のとおり未来を視通す力である。
俺にはそんな力を持っていないからわからないが、ある種の異能だろうとも思う。
本来ありえない筈の、人知を超えた力を持つ超常の存在。
しかし、エルライドは軽く笑ってそれを否定した。
「まさか、そんな便利な力持っていないよ。
僕は手に入れた情報を精査し、想像し、状況を照らし合わせる事でも数ある未来の中で最も可能性の高い未来を示したに過ぎないんだ。
ていうか、未来視なんて持っていたらもっと早くユーリと出会っていたよ」
……いやいやいや、それはそれで大変結構な能力ですよ、ご主人様?
むしろ未来視より性質が悪いし、それだけでも十分ですから。
これ以上人間離れした能力を見せ付けないでほしい、へこむから。
「…それじゃあ俺はこれで、使者の方々にエルライド王子がこちらに来るという旨をお伝えしてきます。
ユーリ、間違ってもキレて王子に迷惑をかけるなよ?」
「明らかにやらかす気だろ的な目はムカつくし否定したいところなんだけど…頑張るわ」
「そうしてくれ」
念押しとばかりに俺に何度も言質を取るとアッキーは騒がしい方向、あのクソ司祭の元へと向かっていった、どうやらいい加減会わないと面倒になりそうだと観念したらしい、潔いことである。
その疲れた背中は会社帰りの中年のサラリーマンを連想させたのだが、口にすると間違いなくブチ切れるのでやめておいた。
さすがにこんな祝いの場で本気の殺し合い、それも勇者のアッキーとやりあうとか面倒すぎる。
「……さて、真面目にお仕事しようかな」
「誕生日なのにお仕事とか、大変だねぇ王子様って」
「ユーリもやってみれば?
その気になれば本当になれちゃうよ、何しろ親が親だしね。
しかも功績とか軽く僕を上回れそうだし…まぁ、なったらなったでとんだ暴君が生まれそうだけど」
まぁ、何しろこの国の元第一王子と隣国の第二皇女との間に生まれた貴種の中の貴種ですから、なれなくはないけど。
エルライドの言うとおり、なったらなったで間違いなく俺は次期国王候補に上がっていただろう。
が、王様なんて俺の柄じゃないし、絶対に拒否するが。
まぁ、俺が王様になったとしても、エルライドあたりが宰相にでもなってくれれば国は回ると思うし、お飾りの王様でもいいと言うのなら名前だけ貸さなくともない。
まぁ、その場合恋愛結婚が完全に潰えてしまうので断固拒否するが。
ちなみにこういった貴族社会の場合、本気の恋愛は第二婦人からでなければならない場合が多いらしい。
正妻はお互いの利益となりえる女性と結婚して愛が育められればそのままで、既に相手がいた場合内縁としたり密会したりと実に大変である。
だが、その貴族社会の頂点、王族だけはその恋愛結婚が間違いなく無理だ、不可能である。
受け入れる血はすべて王族の、ひいてはソラージュ王国の反映につながる女性にならなければいけない。
平民の女性なんて迎え入れれば、間違いなく反乱が起きるだろうし、他国に利用されて起こされるだろう。
まぁ、王族の正妃であれ側妃であれ、社交界で主催者側になるのに満足に歓待出来ないとなると王族の面子を潰すようなことになるから、当然っちゃあ当然だけど。
たとえマナーが完璧でも、貴族の血を受け継いでいない時点でそこも弱みになるしで、物語に出てくる平民の女性と王子との恋愛なんてまさに夢物語だ。
「―――これはこれは、エルライド王子っ!!
ガレリア共和国のヴァン・フガンです!!
この度は成人となられた事、まことに喜ばしいことで!!
どうですかな一杯、我が国で造られた秘伝の酒を持参いたしましたぞ!!」
「―――エルライド王子、アマニア国のリン・ドウと申す。
この度は成人の儀に立ち会えたこと、まことに祝着なれば我が国で討伐したランク8のグランドドラゴンの素材を献上させて頂いた。
この機会に是非とも貴国との親交を温められればと思い馳せ参じました」
俺は遠目から、そんなまともに恋愛も楽しめない『|不自由な檻(王)』で満足しようとしているエルライドを見て、どこか胸が苦しくて気分が重くなった。
ユーリがなんだか珍しく『恋愛』についてあれこれ悩んでいる!?
ヒロイン(?)が誰かとはもう皆様お気づきでしょうが、彼女との道のりがどうなるのか、作者も戦々恐々としながら書いてまいります。
…読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




