第07話 問題増える、どうしてこうなった?
遅刻してしまいました、申し訳ありません。
奴隷商人から話を聞いて、俺は目が点になった。
俺以外の面子も同様だ、さっきまで会議を開いて方針を決めていたのに、台無しにされたのだから当然だろう。
「…ちょっと待て、会頭。
今の話、本当なのか?
冒険者パーティー『力の盾』が王都から出て行ったっていうのは?」
俺の目の前にいるフリーデン商会会頭エヴァンナからの話によると、今朝方見習い冒険者がフリーデン商会に手紙を届けに来たことが発端だという。
そして手紙の内容をエヴァンナが読んで、すぐに情報を集めて精査し、『どうしようもない』と判断してこの孤児院に、預かっている女奴隷たちと共に現れたのだという。
ソラージュ王国屈指の商会の主である彼女の持つ情報収集力なら疑いようがない、張り合えるのは国の諜報機関と同じく王国屈指の商会くらいだし。
その『どうしようもない』というのが冒険者パーティー『力の盾』の出て行った…というか、失踪である。
「はい、ミツミネ卿、わが商会でも調べた限り、開門して一番に冒険者パーティー『力の盾』の面々がこの王都を出たという確かな情報を得ました。
方角は一直線に国境を…獣人の国『アマニア国』へと向かっています。
彼ら獣人の身体能力ですと…追跡するのは不可能に近いかと」
いや、その気になれば空間転移してすぐに捕らえることは可能…なはずだ。
が、その後の展開が不味い、まず事情を知ってしまった目の前の女会頭、エヴァンナが間違いなく感付くだろう。
腹芸の得意じゃない俺はその後の展開をうまくやり切れる自信がないし、『奴隷譲渡』という取引で余計な腹を探られるなんて冗談じゃない。
石鹸の製造から販売までしてもらう商会の候補に挙がっているこのフリーデン商会だが、この強かな彼女に余計な隙は見せたくないのだ。
というか、この人ヒューマンだよな、ステータスを見た限り年齢と見た目が合ってないんだけど…美魔女って奴か?
いや、余計な事を考えるのはよそう、それよりも目の前にある手紙だ。
手にとって封を千切る、そして一枚の羊皮紙の便箋が現れた。
内容を一読して、思わず呟いてしまう。
「…やられた、あいつら分かって逃げやがったのか」
要約するとこうである。
『今回の依頼の違約金が莫大でこの王都で払うのが難しいので、高額の依頼が多いアマニアに戻ってそこから送金します、冒険者ギルドとは話をつけておきました。
予約してもらっている奴隷たちについてはまだ予約しておきますので、それまでのお世話をよろしくお願いします』
アマニア国は強い魔獣が生息している地域が多数あって、魔獣の素材を取引して国を運営している小国だ。
が、小国となめちゃいかん、あの国は多種多様な獣人がいるというのに国という社会を作り上げた傑物たちが治める国である。
単純な戦闘能力だけでも大国の軍隊に匹敵する、国民皆戦士、という訳だ。
つまり、あの獣人たちは違約金を理由にして俺にあの女奴隷たちを世話を押し付けた。
しかも、文句を言おうにも俺はこの国から出られないし、行ったとしてもアマニア国のどこにいるのか知れないあいつらを連れ戻すわけにもいかない。
アマニア国には排他的なヒューマン排除主義を掲げている、ハーフである俺もヒューマンの血が流れているのでその主義によって何らかの妨害を受けるだろう。
加えて冒険者ギルドだ、違約金が発生したのにアマニア国から送金するというのは、いくらなんでもおかしい。
何らかの裏取引があったと見ていいだろう、『力の盾』の中にアマニア国、それか冒険者ギルドと太いパイプを持つような人物がいたと考えるしかないか…。
ていうか、昨日の今日でよくここまでやりきったな、むしろ感心する、面倒を押し付けられたので腸は煮え繰り返っているが。
「…ユーリ様、魔力が漏れています、お気を静めますようお願い申し上げます」
クリミナの言葉に俺はいつの間にか魔力が漏れ出していた事に気付いてすぐに押さえ込む。
いかんな、感情的になりすぎて制御を見誤ったか、まだまだ修行が足りないな。
最近孤児院とか他の事に忙しいから満足な修行というのが余り出来ない、鈍るのは困るから近いうち何とかしよう。
「…失礼した会頭、気分を害されたようならお詫びする」
「いえ、こちらも英雄であらせられるミツミネ卿のお力の一端を知れて恐悦でございますわ。
わたくしに娘がおりましたら、ぜひ側室にお願いしたいところですもの」
直球なアピール入りました、たまに来るんだよなこういうの。
王都屈指の商会といえど平民である以上、貴族の正室になる事は出来ない、たとえ俺が名誉男爵位を持っていようと、法によって定められているから仕方ないことだ。
まあ、俺と関わり合おうとしている連中は爵位の釣り合いとか考えずに『ぜひ私の娘を正室に、側室でも構わないから』という見合いを迫ってくる、鬱陶しいことこの上ないが、これも困った事に貴族に成ってしまった因果だ。
俺としては恋愛結婚を希望しているから正直自分の相手は自分で見つけたいが、孤児院の所為で恋人…運命の人探しが遅々として進まない。
いや、その前に帝国に報復したりしないといけないんだが…目的がどんどん重なって、面倒が増えている。
どうしてこうなったんだっけ?
……今は余計な事は考えないでおこう、それよりも奴隷の件だ。
「……まぁ、そんな縁を持たずとも、フリーデン商会とは良い仲を持ちたいと考えている。
検討中の案件で詳しい事は言えないが、近々そちらの商会に契約をするかもしれない。
頭の片隅にでも置いていてくれればいい」
「その際は最高の準備をしておもてなしさせていただきますわ。
では…今回の件、我が商会といたしましてもミツミネ卿からお預かりしている奴隷たちをどうするのか、それをお聞きしたいのですが。
なんでも、奴隷を所有したくもないので権利を放棄しそうになって、このような事態になったのだと知ったのですが、どうなのでしょうか?」
そういえば、フリーデン商会は奴隷部門も持っていたか、質の高い奴隷を扱っていて貴族の受けが良いと聞いた事がある。
他の商会と違って奴隷をぞんざいに扱わないと聞くし、おそらく彼女は現状の奴隷の立場を少しでも良くしようと志向しているのだろう、結構なことである。
まぁ、そんな彼女からしたら奴隷を要らないと言って遠回しに殺そうとする俺からどういう言い訳が聞けるのか待っているのだ。
言う気はないが。
「こうなった以上、予定を変更せざる得ないな。
連れてきてもらった奴隷たちはこちらで預かる。
そちらにずっと預ける訳にもいかない、幸い伝手はあるし、なんとかしよう。
クリミナ、『力の盾』がこの王都に帰ってくるまであの奴隷たちは本宅を使用する。
急いで本宅に戻って人数分の部屋と食事、それと生活必需品を用意しろ」
「……仰せのままに、急ぎ支度してまいります。
しかし、失礼ながら私は男性です。
彼女たちが怯えてしまう事を考慮すると、どなたか女性を同伴して…」
「それなら考えてある。
もう1人の客を連れてこい」
そう、玄関で喧しく騒いでいた女冒険者がちょうどいた。
この孤児院には入れたという事は、悪意は持っていないと言うことは判明したし、そこまで警戒する必要はないだろう。
バカだから少し面倒だが、この際毒を喰らわば皿までだ、どうとでもなれ。
クリミナは恭しく頭を下げると、部屋から出て行った。
「会頭、そういう訳だ。
少なくともあの女奴隷たち4人はこちらで責任持って世話をする。
面倒だが一度権利を持ってしまった以上、世話をする責任が出来たからな。
あのバカな冒険者たちが帰ってくるまで、せいぜい世話をしてやるさ」
あのバカ獣人パーティーめ、次会ったらあの女奴隷たちのそれまで掛かった世話代を請求してやるからな、覚悟してろよ。
とりあえず勉学から戦闘、礼儀作法まで完璧に備えた人材にして、度肝抜かしてやる。
銅貨1枚だが、それまでに掛かった教育費と世話代も絞ってやる…。
エヴァンナは俺から言質を取ると納得したのか、一息つくと軽く微笑んだ。
大人の魅力に思わず鼻の下を伸ばしそうだったが、あいにくと美魔女はタイプじゃないので遠慮します、なんか食われそうで怖い、性的に。
ま、まさか男食って美貌を保っているとか…いや、まさかな、ラノベの読み過ぎだ俺よ、しっかりしろ。
「そうですか、それは良かったですわ。
なんでしたら、我が商会からも教育係を派遣いたしましょうか?
格安でお引き受けしますが?」
む、さりげなく営業もしてくるとは、さすが抜け目ないなこの人。
まぁ、俺じゃ手に余り部分も出て来るだろうし、いくつか頼むか、縁も出来たことだしな。
「分かった、いくつか頼むとする。
後日また連絡するから、詳しい話はまた今度という事で」
「はい、本日はお時間を頂き、誠にありがとうございましたわ、ミツミネ卿。
何かご入用の際は、気軽に我が商会をお尋ねください、歓迎いたします」
搾り取られないよう、細心の注意を払って来店しますよ、美魔女さん。
エヴァンナは立ち上がって優雅に挨拶すると、使用人と一緒に部屋から出て行った。
気配が遠のいて行くのを確認して、俺は深く息を吐いた。
「……あの女会頭、目力ハンパなかったな、俺目逸らしたくて仕方なかったわ」
「さすが王都屈指、いや、ソラージュ王国屈指の商会の主だな。
並みの木っ端貴族じゃあの迫力に貫禄負けするぜ。
しかもあの美貌…ユーリ、『美魔女』って言葉思い浮かばなかったか?」
「奇遇だなアッキー、俺もそれ思った。
何したらあんなアンチエイジング出来てるのかね、魔力はそんなに高くなかったんだが…」
「若い男食ってるんじゃねえの?」
「……アッキー、ラノベ読み過ぎだ。
ちょっと常識考えようぜ?」
俺と同じ考えに行きついた事を呆れれば良いのか、似た者同士だと嘆けば良いのか、どっちにしてもため息つきたくなる。
まぁ、俺は口に出していないから言い返したが。
「……まさか、お前に常識を教えられるとは…俺もちょっと耄碌したのかねぇ」
ボソッと失礼なこと言いやがって、あの美魔女に食われてくれば良いのに。
やいのやいのと話していると、扉がノックされる。
気配は2つ。
『ユーリ様、お客様をお連れしました』
クリミナからの言葉を聞いて、俺は部屋に入るように命じた。
「…ずいぶんと待たせてくれるじゃない、客を待たせるなんてなっていないんじゃないの?」
開口一番、ケンカ腰の声が俺に向かってきた。
昨日会ったばかりの、ランク3の女冒険者ツァーリである。
今更だが、この勝気な態度がこの女の処世術なのか、それとも素なのかよく分からない。
俺は別に気にしていないが、アッキーとクリミナの目が剣呑なものになっていく。
ああ、うん、絶対に不機嫌だなこいつら。
初めて会った時の印象が強烈で俺もイラッときたし、初対面でこれだとやっぱ皆そうなるか。
「…招いてもいないのに勝手にやってきたお前に『なっていない』なんて言われる筋合いはない。
用件を聞こう、とっとと言え」
まぁ、言いたい事はなんとなくだが察しているが。
大方俺がこの国の第二王子と懇意にしているとかで俺に接触してきたんだろう。
付き纏われている…恨みを買った貴族から身を守る為に、少しは頭を絞ったんだろう。
断れると考えていないあたり、どこか頭が『お花畑』みたいだが。
「アンタが、その、この国の王子様と仲が良いっていう話を聞いて、それが本当かどうか確かめにきたのよ」
俺がエルライドと仲が良いのはもう知られているしな、ちょっと調べれば分かる情報だ。
さてさて、どんな要求が来るのやら。
「それを聞いてどうするんだ?」
「私を紹介してほしいのよ、もちろん剣の腕はあるし、冒険者ランクだってランク3だけど…アンタだってランク3の頃に王子様と知り合ったんでしょ?
だったら、私にもチャンスがあるはずじゃない!!」
………まぁ、予想してはいたが、酷く自分勝手な理由だな、呆れて物も言えん。
俺とエルライドとは確かに仲は良い、普通は毒見役が必要な筈の食事を提供するくらいにはその新密度は高いと言っても良いだろう。
まぁ非公式にお泊りもしてるし、そこらの貴族よりも仲が良いだろうな。
そういえば、初めてお泊り会した時随分と慌てていた気がするが、何か忘れ物でもしていたんだろうか?
3人川の字になって寝るとか、前世でもあったんだが…まぁ育ちの良いお坊ちゃんだし、初めてで困ったんだろう。
それはいいとして、こちらの都合もあるし、『試用期間』を含めてそれ次第でどうにかしてやろう。
どうせ無理だろうし、こき使ってダメだったと言えば良いだろう、いくらでも理由は見つかりそうだし。
この世の中、女だからって皆優しくて守ってあげたいなんて考えると皮まで剥がされるからな、俺は生憎と優しくないが、身ぐるみ剥がすまではしない。
精々ボロ雑巾一歩手前まで使い倒して、エルライド以外の適当な貴族に紹介しよう。
こんなバカをエルライドに紹介するなんて事が知れたら、俺の貴族社会での評価も地に落ちるし、何よりエルライドの期限がマッハで落ちる、関係悪化とかありえないから。
「…ユーリ、まさかこの女の頼みを聞くなんて事、天地がひっくり返ってもある訳ないよな?」
「ユーリ様、ユーリ様が考えている以上にこの問題は非常にデリケートなものです。
このような粗忽者を使うより、ランクが低くても常識を知っている者に任せた方が良いかと愚考します」
あぁ、2人は俺の意図に気付いているけどさっきの言動の所為で駄目だったか。
それも一理あるけど…他に使えそうな人材っていたか?
ノエル…あの守銭奴はダメだ、雇う以前にギルド員だし時間が取れない。
サムズさんのとお付き合いしているサズリナはどうだろう。
鍛冶屋の受付をしていて、時間は…お願いすればどうにかなるか?
いや、サムズさんが断りそうだ、面倒事に巻き込むなとか言われそうだし。
…俺ホンと女の知り合い少ないな、目ぼしい候補終わったぞ。
となると、ある程度人となりを知っているツァーリならマシだとは思うんだがなぁ。
そもそもこいつに期待なんてしていないし。
あの女奴隷たちが人並みな生活を送れるのをただ監視してるだけの簡単なお仕事なんだから。
「俺もそうは思うが…今は緊急事態だ。
どうせ誰を選んだところで余程の失態をしない限りどうとでもなる。
どうせ期間限定だ、誕生会が終わるまででいい」
「…俺、終わるまで絶対に本宅に戻らないからな?」
「私は……何度か確認をします、何かあっては困りますので」
「何ごちゃごちゃ言ってるのよ、それで、紹介してくれるの、どうなのよ?」
ツァーリ、お前空気読まない奴だな、腕っ節だけでランク上げてきた冒険者の中でもこれは酷過ぎるだろう。
人を使うのって大変だな、エルライドってマジですごいわ。
一癖も二癖もある貴族を転がして動かしているんだ、俺は今でも手一杯なのに、更に面倒くさい奴まで抱えることになるなんて…面倒ごとが増えてるなぁ。
「いきなり王子に会わせる訳にはいかない。
当然だがお前が王子に対して何かしないとも限らないからな。
よって、すぐには紹介しない」
「なんでよっ!?
私はすぐにでも…っ!!」
「お前の都合なんて知ったことか。
勝手に自分の都合を押し付けるような奴を紹介するわけないだろう」
「ぐっ…じゃぁ、どうすればいいのよ?
何をしたら、アンタは私を王子様に紹介してくれるのよ」
うん、少しは勢いで突っ込むというのは控えたらしいな、そこは感心だ。
2人の機嫌は下降し続けているが、それはどうにかしよう。
「『試用期間』を設ける。
お前はある場所で一定期間過ごしてもらい、他4人と共同生活を送ってもらう」
俺は詳しい説明はせず、女奴隷4人とこのバカ冒険者ツァーリを本宅に押し込んで共同生活を送ってもらうことを簡単に説明した。
女奴隷4人の監視役、と聞いたツァーリは不愉快そうな顔をしたが、俺も同じく不愉快なツラされて不機嫌なんだ、我慢しろってんだ。
週に一度の報告を除いて、本宅から出ずのある意味では軟禁生活に等しい依頼だ。
これで断ってくれてもいいし、時間はかかるが他の女冒険者を呼ぶのもいい。
フリーデン商会から信頼の置ける冒険者を紹介してもらうのもいい気がするが、これ以上借りは作りたくないな。
もちろん、依頼を受けている以上ツァーリの身柄の安全は保証した。
これをいっとかないとおそらくこの女は依頼を受けないだろうしな。
「……どれ位すればいいのよ、依頼」
「王子の誕生会が終わるまでだ。
俺は今後忙しくなるから孤児院から…王都から離れられない。
人材が少し足りないからな、それまでの依頼を完璧にこなせば、王子に紹介はしてやる。
ダメならこの件はなかったことにする、孤児院から即刻出て行ってもらう」
革靴をトントンと鳴らして考えているんだろう、少しして舌打ち―――依頼主にする態度じゃないなもう―――をして『分かったわ』と頷いた。
「いいわ、やってやろうじゃない。
その依頼を達成して、晴れて私も王子様の『お気に入り』の仲間入りね」
もう遠い未来を夢見ているツァーリに、俺はアッキーとクリミナが目を合うと、小さくため息をついた。
2人は『いわんこっちゃない』とか『絶対人選ミスです』と言った表情をしてるが、仕方ないだろう人材不足なんだから。
俺はこれ以上面倒が増えないことを祈りながら、部屋から出た。
この後、最も面倒な相手と面談しなければならないからな。
……気が重いわ。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




