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第48話 醜悪祭≠喜劇(2)

まずは1話です、テンション的に今日の2話目もいける筈…です。

 




 ユーリは前方の気配を察知してフィリップを手で制した。


 なるべく音を立てずに足を止めたフィリップは同じく後方からついてきている聖騎士達を制止する。


 装備の違いというものなのか、彼らの付けている鎧は無駄に華美で音を立てていた為、ユーリが顔を顰めていたが顔を出していただけで何も言わずにいた。


「…連中だ、200歩くらい先に気配が複数ある」


 ユーリは小声で聖女を誘拐しただろう下手人がこの先にいる事を示した。


 そしてすぐに四方から囲んで下手人を捕らえようと案を出したが、待ったをかけた者達がいた。


 聖騎士達である。


 彼らは囲んで襲い掛かる等卑怯とのたまい、正面から正々堂々と打ち勝つと宣言したのである。


「ふん、ユーリとやら、ここまで我らを連れてきた事には一応の感謝を述べよう。

 だが、その策はあまりにも卑怯といえよう。

 たとえどんな悪であろうと、こちらが相手と同じ卑怯な手段を用いずとも正々堂々と戦って勝てばいいのだ」


「これだから下賎な混血は考えが卑怯で困る。

 我らがそのような卑怯な行為をする筈がないだろう」


 どうだといわんばかりに胸を張る聖騎士達だが、ユーリは『そうですか』と言ってフィリップに振り返った。


「んで隻眼の、お前はどっちに票を入れるよ?

 お前がそこの聖騎士がいう『正々堂々』とやらで連中を捕らえるのなら一応従ってやる、面倒だが雇い主側の人間だしな。

 現場指揮官のお手並みを拝見しようか?」


 呆れてもうどうでも良くなったのか、フィリップを見るユーリは『このバカどもに言ってやれ』という表情を前面に出していた。


 当然ながらフィリップもユーリと同意見だ。


「…分かりきった事を言うな、四方から囲い込んで不意を衝いて聖女様を奪還する。

 戦闘中は聖騎士殿に聖女様の護衛を任せれば良いだろう。

 聖騎士殿も、自重なされよ。

 こちらには時間がないのだ、そのような見得の為の奪還など人質である聖女様のお命を危険に晒すだけです。

 聖女様のお命が第一というのなら、ここはこの作戦をお聞き入れください」


 これで断るのならユーリとフィリップもこの聖騎士を無視した形で聖女の奪還に向かうだろう。


 残念な、面倒なモノ(・・)で見る2人に聖騎士が顔色を悪くした。


 ユーリの事を悪し様に『混血』と言った聖騎士も、正々堂々と戦って打ち勝つといった聖騎士のどちらも2人に勝てるほどの技量など持っていないのだから。


 むしろ一撃持てば良い方である、無駄に華美を目的としたその鎧同様、メッキの様な強さしか持っていない彼らに発言権などあってないも同然であった。


「……分かった、従おう」


「だが、それでも聖女様に何かあれば、分かっていような?」


「……面倒だな、だったらアンタ達だけでしろよバカバカしい。

 隻眼、帰るぞ。

 嫌々やるような連中と一緒に仕事されて失敗になってみろよ、間違いなく失敗するぜ?

 立派な建前を言える大層人の出来た聖騎士様なんだ。

 俺達の考え以上の成果を見せてくれるって。

 帰って来なくても聖騎士様が手助け無用といって後は知らないとか言えば終わりだって」


 面倒ばかり掛ける2人にユーリがついに業を煮やしたのか、聖騎士をこの場に置いて自分達は帰ろうとフィリップに声を掛けたのである。


 元々護衛をしていたのにも拘らずむざむざ誘拐までされてエルライドが自らの護衛と戦場からワザワザ呼び戻したユーリを協力者として向かわせたのに、当の本人達はまるで邪魔者扱いどころかやる事為す事疑い、悪態をつき、そしてその責任すら擦り付けてくる卑怯者(・・・)など知った事かと吐き捨てたのである。


「ほら、どうしたよ隻眼の。

 急がねえと俺戦場で仕事残ってるんだって」


「き、貴様、我らを愚弄するのか!?」


「下賎な混血児が神に祝福されし我らをバカにするなど、天に唾を吐くも同然だ、覚悟は出来ておろうな!?」


 この状況下で尚それだけの態度が取れるものだとユーリとフィリップは思わず感心してしまい、お互いが感心し合った事に驚き顔を背けた。


 フィリップはこの時エルライドがユーリをこの場に使わせたのが間違いだったと思うしかなかった。


 大船に乗った気でいろとユーリは言ったが、それ以前に同じ乗客がユーリより先に船を破壊し出したのである。


 聖騎士がユーリを、混血とされるされる彼らを差別対象と見ているのは分かりきった事だったのに、成功率が上がるだろうという判断でユーリを戦場から呼び戻してこの聖女奪還の任務に加えたのは失策だったのだ。


「―――っ!!」


 一触即発の空気でいた中で、ユーリは何かに気付いたのかその場からフィリップに向かって突撃した。


 突然の味方からの攻撃にフィリップは受身も出来ずにもんどうり打つしかなかったが、その理由は次の瞬間に判明した。


「ぐああっ!!」


「ペトフィエール!?

 い、一体何が…」


 苦悶の声を上げたペトフィエールという聖騎士に同僚が声を掛ける。


 ペトフィエールの喉には深々とナイフが突き刺さっていた、それも黒塗りで艶を消された、特定の国の暗殺者が好んで使う兵装だ。


「聖騎士殿、頭を低くするのだ、攻撃されているぞ!!」


 木陰に身を隠したフィリップはすぐにそう声を掛けた。


 当然といえよう、あれだけ激しく声を上げて気付かない訳がないのだから。


 優位な状況であった所を自らブチ壊したのだ、結果、奇襲する筈がされてしまったのである。


「あーあ、あいつ、死んだな。

 あのナイフ、帝国の連中が大好きな『暗黒の毒』を使ってるぜ?

 隻眼が目をダメにされたアレだ」


 舌打ちしたユーリが即座に分析した結果をフィリップに伝えた。


 フィリップも同じく舌打ちしたい気持ちに駆られた、これで更に面倒事が増えたと内心大きな溜息をついたのである。


「…敵は何人だ?」


「ん…5人だな、3対…いや、2対5か。

 俺が4やるから隻眼1な、手っ取り早く終わらせる」


 魔法感知力の低い聖騎士の事もあり、空間魔法で周囲の状況を完全に把握したユーリはこの囲まれた状況(・・・・・・)で最善の行動をとることにした。


「分かった、手早く終わらせよう」


 もはや頭数に聖騎士などは入っていない、戦力になる前に息絶えた仲間を見て完全に腰が抜け、股から汚い温水を流しているのだ。


「…あっちの木陰に1人入る、隻眼はそれをやれ」


 敵のいる位置をフィリップに伝えると、ユーリは単身戦闘を開始した。


 剣戟の音など起きはしない、正面からユーリと戦って剣を交えるのならば、まずフィリップの実力まで追い付かなければならないだろう。


 完全に位置を把握された襲撃者は即座に1人殺された。


「…囲い込め、殺すぞ」


「了解だ、確実に殺す」


「……強い、だが殺す」


 仲間が殺されたことを意に介さず、即座にユーリ1人に狙いを定めて襲撃者―――帝国の暗殺者達が牙を向こうとした。


 しかし彼らは気付くべきであった、敵対したソレ(・・)が一体何なのかを。


「―――影狼、食い千切れ」


 絶対者の冷酷で残酷な詠唱が響いた。


 ユーリの影から12体の漆黒の狼が飛び出してきた、それが一斉に暗殺者達に襲い掛かったのである。


 ただの狼としか判断出来なかった彼らは影狼を切り伏せようと猛毒を塗ったナイフで一閃するが、狼の体をすり抜けた(・・・・・)


 影狼は自らを通り抜けたナイフをまるで無かったかのように無視して暗殺者に噛み付いた。


「はっ、バカが。

 これだから頭パーな暗殺者は()り易いんだ。

 普通なら警戒して逃げ出す筈なのに、殺されにやってきやがる。

 魔獣の方がまだ賢いぜ、あいつら影狼(コレ)から逃げようとはしていたからな、殆ど噛み殺されたがな」


 暗殺者達の両手両足に噛み砕いた影狼はユーリの意思により変形し猿轡をして3人を拘束した。


 勢い余って1人殺してしまったが、尋問をしなければならないのである、殺した1人がリーダー格でない事を祈るのみのユーリであった。


 そしてその頃、フィリップは担当の暗殺者の攻撃を完全に見切り柄を鳩尾に叩き込んだ。


 動きが一瞬固まった暗殺者にフィリップは瞬時に両脇を切り裂いてみせた、これでもう両腕は上がる事はない。


「…おせえよ隻眼、1人にどれだけ時間掛けてるんだよ。

 ったく、見ているだけでも胸糞悪いなこいつら」


 ユーリはフィリップに悪態をつくと拘束した暗殺者達の頭巾を取った。


 そこに見えたのは、ユーリよりも少し大きい程度の、まだ子供と言ってもいいほどの年齢の少年少女だったのである。


「…すまないな、戦闘中に頭巾が取れて…その、子供だったんだ、お前と同じくらいの」


「あっそう、ったく…帝国の連中もこんなガキに狂った英才教育しやがって。

 笑ったり泣いたり出来ない人形じゃねえかこんなの。

 ……おい隻眼、聖女連れてきな。

 どうやら全員で俺達に襲い掛かってきたみたいだ、聖女以外もう向こうに気配がない」


「……分かった、いってこよう」


 剣が鈍ったとまではフィリップは言わなかったが、ユーリはフィリップが暗殺者の顔を見た時の驚愕した表情を見てしまっている。


 ユーリとしても不愉快指数が限りなく上昇している為に理解はしているが、その程度で動揺して隙を作るなと呆れてしまったのである。


 この暗殺者達はもう元には戻れない、帝国の施設で常軌を逸した狂気の教育を施された子供達は立派な暗殺者(・・・・・)と変貌させられてしまったのだ。


 情報を得られなければ殺すしか止める事の出来ない彼らに同情しながらも、ユーリは一層帝国への憎悪を深めたのだった。





 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 胸糞悪いとは正にこの事だろう。


 選民エリート意識の高いアホ騎士と口論になって襲撃しようとした帝国の暗殺者に逆に襲われるわ、拘束した暗殺者の連中が俺と同じかちょっと上くらいの年のガキ共ばっかりだったんだ。


 しかも俺の影で拘束しているのに殺気を俺に向け続けている、口を開けば『殺す』としか言わないこいつらは見ていて毒でしかない。


 ただ、俺はしておかなければならない事があった。


 この暗殺者達の記憶を読み込むことである。


 こいつらの記憶を読み込むことで、将来帝国の闇である暗殺者教育施設を一つ残らず破壊する為に、こいつらの壊れた頭の中を覗き込まなきゃならんのだ。


 隻眼の奴が聖女を連れてくるまでに、ぱぱっとやっちまおう。


 あとはそれらしい尋問してからこいつら始末して帰ればいい、それで終わりだ。


「……うえ、気持ち悪いな」


 たった1人の記憶を読み込んだだけで眩暈がした、思わず膝付いちまった。


 酷い、酷すぎる、ここまで人は残酷になれるものなのか?


 精神を壊して人形に仕立て上げて暗殺術を覚え込ませる方法か…、狂ってやがる。


 残りの3人も同様だ、残念ながらこいつらは全員同じ施設だったから一つしか分からなかったが、まぁそれでも収穫だ。


 帝国の首都付近にあるらしい、いつか時期が来れば絶対に潰す。


 それと当然だが、こいつを雇っているのはアホ公爵、サウザー公爵だ。


 しかも動機が訳が分からない。


 何でもこいつら、エルライドじゃなくて護衛である俺達を殺そうとしたらしい。


 俺とエルライドを分断しようとして、どうして護衛を殺そうとしたのかさっぱり分からないな。


 普通エルライドを殺しに向かうだろう、邪魔な上に強過ぎる護衛である俺達をワザワザ殺すリスクを抱え込もうとするとか理解に苦しむ、というか出来ない。


 何がしたかったんだこいつら、胸糞悪くして終わりとか……まさかな?


 が、物的証拠がないし、こいつら突き出しても自白しないだろう。


 ていうか奥歯に『暗黒の毒』仕込んでいやがった、気付かなかったら自殺していたのかよ。


 いや、別に死んでも良かったんだが…まぁ仕方ないか、演技するにしても死体とお話なんてぞっとしないからな。


「……ユーリ、連れてきたぞ、聖女様は無事だ」


「そう、じゃあ尋問しておくから隻眼は聖女守っていてよ、そこのデク(・・)は使いにもならないから」


 漏らしてるとか軟弱にも程がある、アッキーと聖女逃がす為に散った連中はそれ以上の恐怖を受けて死んで一旦だ、目の前でナイフで仲間を殺されてくらいで腰抜かしやがって。


 その後、起きた聖女が死んだペトフィエールの死体をアマリア教国に連れ帰りたいと駄々をこねたんだが、全面的にこれを拒否。


 色々と理由はあるが、こいつの為に何かしてやる事をまず俺はしたくない。


 そんなに連れ帰りたいのなら自分でやってくれ、少なくとも俺は差別発言したこいつを異次元バックに入れてやる気はない。


 ぽろぽろと泣く聖女は確かに絵になるが俺には気味の悪い物にしか見えなかった。


 帰ってきて聖女を渡したのだが、エルライドが俺を睨んできたので知らん顔しておいた、隻眼に言ってくれ、俺は知らん。


 俺はエルライドに許可を貰って左翼に戻ることとなった。


 さてアッキーやダニエル、あとついでのついでにハーレム野郎の生存報告を聞こうとするかな。







読んで頂き、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。

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