第49話 醜悪祭(4)
今日最後のお話です。
そしてお知らせ、明日の投稿はお休みです。
別作品が遅れてますので、そちらに集中します。
次の投稿は、明後日の11日です。
ブックマーク110件となりました、ありがとうございます。
茶番劇を終わらせてきて戦場に帰ってきてみると、左翼は殆ど片付いていた。
アッキーはどうやら後方へと後退したらしい、俺の部隊は半数以上は残っているようだ。
あれからまたヒドラが出たらしいが、取り囲んでから魔法でボコった後、深い落とし穴に落として生き埋めにしたらしい、生きたまま埋めるなんて恐ろしいな。
ダニエルには戦線復帰と本陣で起きた茶番劇を簡単に説明しておいた、興味もないのか軽く頷いただけで終わったが。
中央はもう3割以上の被害が出ている、生き残った兵たちは逃げる奴と奮戦している奴とでどちらも必死の様相を見せていた。
右翼は何度か陣形を立て直して完全に押し始めたようだ、右翼は最も人が少なかったのに優勢にするとはフラウ爺さんもやるな。
魔獣大侵攻もじきに終わるだろう、これ以上中央の被害がかさむとエルライドの采配ミスと判断されることに成る、中央の連中はいくら減ってもいいが、それでエルライドの評価が下がるのは避けなきゃならんからな。
そして左翼の魔獣の殲滅も終えて中央へ救援にと向かうこととなる。
【醜悪祭】は終わりを見せ始めていた。
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中央の兵士たちは今か今かと両翼軍からの救援を待ち続けていた。
しかし、前衛の騎兵隊を失って数時間経っても一向に救援が駆けつける様子はなく、諦めかけていた所、ようやく左翼がその進路を中央へと向けたのである。
この時点ですでに中央にいた13000の大軍勢は3割以上の損害を出してまともな組織行動を出来ず、ただ魔獣の侵攻を耐え凌ぐ事しか出来ていなかった。
「よしお前ら、中央の連中を後方に下げさせろ。
部隊長を筆頭に高位冒険者の特別チームで魔獣を押し留める!!」
「「「「「りょうかいっ!!」」」」」
異様なほど若い、子供の声が左翼から響いてくる。
するとちょうど中央に直進してくる魔獣の波が乱れ始めた。
「やれ影狼、影鬼、魔獣どもをブッ飛ばせ!!」
『ガアアアアアアアアアアッ!!』
大量の漆黒の狼と巨大な影が魔獣たちと衝突したのだ。
突然横っ腹に一撃を受けた魔獣たちはその直進を止めざるを得なくなったのである。
巨大な影の一閃で大型魔獣が一度に10体以上屠られ、小型の魔獣も影狼に集団で襲い掛かられてその数を減らしていく。
一方的で圧倒的な虐殺である、瞬きする度に魔獣の屍骸を築き上げ、中央軍の損害を防ぎ切っていた。
「おいお前、何をちんたらしてる、さっさと後方に行って手当てしてこい。
いても邪魔だ、失せろ」
あまりな物言いに声を掛けられた男は言い返そうとしたが、その声の主の姿に驚いて固まってしまった。
子供である。
黒装束に身を包んだ灰銀の髪をした美少年が、その端正な顔を不機嫌にして戦場に立っていたのである。
自分の半分も生きていないだろう少年が何故こんな場所にという疑問と、どうしてこの状況で平静でいられるのかという疑問が混ざり合い、彼の思考は完全に停止してしまった。
「…ったく、どいつもこいつも俺の顔を見て固まりやがって、そんなに俺の顔が女顔なのかよ。
父さんと母さんに綺麗な顔で生んでくれてありがとうと感謝しているが、もう少しばかり父さんよりの、男らしい顔で生まれたかったぜ」
愚痴る少年は近くにいた冒険者に声を掛けると、固まってしまった青年を後方に連れて行けと命じた。
冒険者は少年の命令を聞くと青年を簡易担架に乗せると後方に走っていく。
「精々生きて家に帰れる事を祈るんだな、こんな惨劇なんて忘れちまえ」
去っていく青年には届きもしないが、一瞬悲痛な顔をした少年はそう呟いた。
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「ユーリ君、影狼が足りない!!
もっと広範囲に展開させてくれ!!」
戦場に1人ポツリと立っていたユーリの元に左翼冒険者義勇軍指揮官、【疾風】ダニエルが指示を出してきた。
中央の士気と疲弊が限界になっていた為、左翼の殆どを使って後方へと後退させて部隊長クラスで特別編成したチームを一時的に結成したダニエルたちは中央に押し寄せて来る魔獣の波を押し留めていたのだ。
「無茶言うなよダニエル、俺がどれだけ影狼出してると思ってるんだよ!?
120だぞ、これ以上出したら俺の制御が利かなくなるわ!!
しかもとっておきの影鬼だって5体も出してるんだ、もう無理、そっちで何とかしろっての!!」
ユーリはこの魔獣の波から中央の兵士を助ける為に影の魔法を制御出来る限界まで広げていた。
小型の魔獣を倒す為に120の影狼、そして大型の魔獣を即座に狩る影鬼を5体だして中央の一角に安全領域を展開させていた。
冒険者たちは負傷者や重傷者を後方に連れて行き何度も前線に戻ってきてそれを繰り返しているが、それでも部隊長のみでは長時間魔獣の波を押し留めていけないだろう。
そんな中、ユーリの担当外の部隊長の手が回らず、魔獣を取り逃してしまったのである。
ユーリの称号にある【万象の賢者】はあらゆる魔法のサポートをする特別なものだが、それでも限度というものがある。
それを駆使した現状では、これ以上の魔法は出来ないと判断したユーリは間違っていない。
むしろ薄氷に穴を開けた部隊長を叱責すべきであるとユーリは怒鳴りつけたのだ。
「―――っ!?
分かりました、後方の部隊をいくつか戻してそこに当てます。
無理を言ってすいません」
ダニエルは表情を固くして後方へと走っていく、手の空いている小隊長格に声を掛けに行ったのだろう。
だが、それによって抜ける穴を一体誰がフォローするのかと言えば、それを唯一知っているユーリだった。
「ぬがあああああっ!?
あのバカ指揮官、ナニ持ち場から離れてやがる!!
フォローするこっちの身になりやがれあのバカエルフ!!」
魔力回復のポーションの小瓶を飲み干すと、ユーリは影狼と影鬼を使って担当していた区域をゆっくりと伸ばし始めた。
それはダニエルが最初手伝ってほしいと言っていた区域でもあり、ダニエルの担当していた区域にも範囲を広げたのだ。
もちろんリスクはある、広範囲な為に影狼と影鬼の隙間を縫って行く魔獣が出始めるのである。
「ちっ、さすがに手が回らないな。
他の魔法を使って大規模にブッ飛ばす訳にもいかないし……」
雨でも降っていれば雷を発生させて偶然魔獣の波に落とすという手が使えなくもないが、空は雲なぞ見当たらない、地上の凄惨さをただ眺めているのみである。
一匹、また一匹と魔獣たちがユーリの展開させている担当の隙間を縫って後方へと向かおうとする。
「……あ、やばいな、あっちまだ負傷者いるじゃねえか」
向かっているのは数匹の猛禽型の魔獣で、担架を運んでいる冒険者たちに目掛けてその鋭い爪を立てようとしていた。
護衛をしている筈の冒険者は何故かおらず、もう間に合わないと諦めようとした時―――、
「風よ唸れ!!」
ユーリの耳に聞き慣れた声が響いた。
魔法による突風が魔獣に襲い掛かり吹き飛ばされ、追いかけてきた影狼が一斉に魔獣に襲いかかる。
冒険者たちは更に急いでその場から去って行き、魔法を放った青年1人が残った。
「アッキー、ナイスタイミング!!
けどタイミングが良過ぎてすごく気持ち悪いぞ!!」
「同感だな、まるで物語の主人公になった気がして気味が悪いくらいのタイミングだ!!」
お互いが悪態をついてニヤリと笑いあった。
後方で休息を取っていたアキラが帰ってきたのである。
続けてダニエルも戻ってきた、ユーリの部隊、ランディたちを連れてきたのである。
「すまないユーリ君、面倒を掛けてしまって!!」
「文句なら後で散々言ってやるからさっさと行きやがれバカ指揮官!!
てめえらもだハーレム野郎、さっさと仕事しろ!!」
「「わ、分かりました!!」」
怒りの形相で現場に戻れと怒鳴り散らしたユーリはダニエル達の後姿を見て小さく溜息をつく。
これでようやく自分の担当に戻れるのだと安堵したのである。
「……もうどっちが上司か分からんな」
遠くでアキラがその様子を見てごちていたが、ユーリが睨むとすぐにその場から離れていく。
とばっちりを受けまいとしたのだろう、お互いをよく知っているとあってか文句を言う機会を失ったとユーリは鼻息を鳴らすと、影狼と影鬼たちが展開していた担当区域を元の状態に戻し始めた。
後は右翼の殲滅が終わるまでユーリたちが中央を防ぎきれば完全な勝利である。
魔獣大侵攻を討滅する為の彼らに、希望が見え始めていた。
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