第47話 醜悪祭≠喜劇(1)
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サウザー公爵家当主ザクネスの誤算は何も最初から失敗続きだった訳ではない。
しかし、ザクネスの計画に『ケチ』が付き始めたのは、ガレリア共和国からソラージュ王国に帰還する途中で暗殺者を襲わせ、盗賊の仕業と処理しようとした計画であった。
それが蓋を開ければエルライドは護衛を1人残して生きてラザニアの街へと逃げ延びてまんまと王都へと帰還したのだ。
当時見習い騎士だったという子爵家の青年フィリップを近衛騎士に昇格させ、専任の騎士にするあたりかなりの実力者なのだと警戒したザクネスはそれから何度もその隙を付こうと画策した。
だが、そのどれもで失敗した。
決して仕掛けた暗殺者が弱かった訳ではない、送られてきたのはどれも一流の暗殺者たちだ。
だがそれ以上に、エルライドを守護する近衛騎士がそれ以上に強かったのだ。
近衛騎士団総団長であるフラウ・フォン・ミュンハウゼン子爵がエルライドの護衛の層を厚くしたのだ。
暗殺者という駒は密かに関係を続けている帝国がいくらでも用意してくれるが、その代金は高額だ。
10年以上も前から暗殺者を帝国から供与されているとあって、その金額がたとえ貴族であろうと素直に頷けないほどの額になってから、ようやくザクネスは暗殺者を使うのを控え始めた。
そして、再びエルライドが辺境であるラザニアの街にと向かうと知って、ザクネスは取り巻きの1人に帰還途中に手勢の騎士を使ってエルライドを暗殺させようとしたのだ。
しかし、それも失敗に終わった。
ユーリ・ミツミネというハーフエルフの登場によって、ザクネスの計画は何度も阻まれるようになっていたのだ。
王都守備隊の不正も明るみに出て、高位冒険者であるシャークスを使ったアボリスの株を上げる計画も、それによる不正行為も全て阻まれた。
協力者である彼も、この事態は問題だと感じて計画の変更を余儀なくされ、その間ザクネスは独自に動いていたのだ。
そんな時起きたのがこの魔獣大侵攻である。
まるでこれまでの悪事を神が断じようとしたのか、魔獣の波は公爵領になだれ込んできたのだ。
そしてその途中、サウザー公爵領を通っていたアマリア教国の聖女、そして勇者シャインというアマリア教国でも最重要人物とされる青年が魔獣大侵攻を目撃し、聖女を逃がす為にこの地で行方不明となったのだ。
現在少数だが部隊を編成して捜索をしているが、なんら手掛かりが見つからず難航していた。
他国の重要人物が亡くなった場合その国の咎となり、突き詰めればザクネスの責任となる。
しかし、魔獣大侵攻は災害である為に聖女は今回の件は厳重な抗議をするだけで終わらせるというとザクネスは安堵した。
王国に即座に連絡をし、アボリスにこの魔獣大侵攻の討伐指揮をさせれば間違いなく王の座に近付けるし箔が付くと思い画策したものの、当のアボリスが突然の体調不良を訴え辞退してしまったのである。
するとどうなるのか、簡単である。
エルライドが討伐指揮を執ることとなり近衛騎士団総団長と最精鋭300、そして冒険者義勇軍4400を連れ公爵領へと訪れたのだ。
1万以上の公爵が集めに集めた連合軍もそれに加わることにより、この討伐は完全にエルライドの手柄で総取りとなってしまったのである。
ザクネスが打った手が回り巡ってエルライドの手柄になってしまうなど、完全に予想外であったのだ。
勝手な真似をしたと協力者も呆れこの件では完全に手を貸さないと宣言されたザクネスは完全に手詰まりとなってしまった。
ザクネスが打てる手は限られている。
問題はどうやってそれを成功させるかだ。
たとえ少数といえどエルライドには護衛が付いている。
大人数で掛かろうと、事態に気付いた者がいれば本陣に人が集まってくるだろう、そこで手詰まりだ。
ここで諦めればまだ連合軍の壊走だけで済んだが、ザクネスは諦めずにいた。
聞けば誰もが呆れ果てるだろう大事を考えたザクネスは間違いなく後世で悪し様に評価されるような事を、当然のように仕出かした。
だが、それすら失敗に終わればもはやザクネスは道化である。
哀れまれる事なくただ笑われるだけの、更には呆れ果てるしかない道化に成り果てるのだ。
―――そう、まるで喜劇のような。
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「呼ばれてきましたよ王子様……で、これってどういう状況?」
俺は千里眼なんて能力は持っていないからな、空間魔法でもそこまで先は把握出来ない。
エルライドの影からにょろりと現れた俺に驚いた見知らぬ近衛騎士とサウザー公爵(名前知らないおっさん)が周りにいるがとりあえず無視。
天幕も潰れちまってるし、いったいどういう……ていうか隻眼の奴、本当にエルライド残して行きやがったのかよ。
いくら俺が空間魔法の魔道具渡しているからって、信用しすぎだろ、何考えてやがる。
「どうもこうもない、突然天幕が潰れだして慌てて魔道具を起動したら目の前にユーリみたいな服を来た集団が襲ってきたんだ」
ほほう、そりゃまた。
そこまでは予想通りだったのに、どうして目標を聖女に変えたんだろうな。
「さぁ、そこまでは僕にも分からないな。
最初は人質と考えたんだ…人質と僕の命で交換、とかなら理解できたんだけど、聖女を連れ去った後の事はちょっと僕には分からないかなぁ」
ご尤もだな、それなら分かりやすい、どういう条件だろうと絶対にさせないけどな。
まぁ、これをやったどこぞのアホ公爵は素知らぬ顔をしているが、どこまで続くのやら。
いま戦況が面倒なのに、よく本陣でこんな真似出来たもんだ。
下手したら中央を破られてそのまま魔獣がなだれ込んでくるかもしれないとか、考えなかったのか?
……考えなかったんだろうなぁ、見た目からして『自分だけは大丈夫だ』的な思考してそうだし。
「俺も同感だね、それなら置手紙の一つでもしていそうだけど…見た感じどこにも落ちてないしなぁ?
んで、隻眼の奴は王子様ほっぽって聖女の護衛の聖騎士と一緒に誘拐犯を追走していると、そういう訳で?」
「……それについては申し訳ないと思う、ユーリのくれた魔道具なら安心だからと言ってフィリップを行かせたのは僕だ。
だからフィリップのことを悪く思わないで欲しい」
……まぁ、言いたい事は分かるつもりだ。
聖騎士だけ追走させてもどうして協力者も付けずに行かせたのかとかなんだとどこぞのアホ公爵に弱みを衝かれまいとしたんだろう、この見知らぬ近衛騎士がいるだけでもまだマシというところか。
「……ちっ、こんな事ならもう少し隻眼に便利な魔道具でも渡して置けばよかった」
現在研究途中の空間魔法の魔道具に相手を一定時間動きを止める魔道具がある。
魔石を相手にぶつけ、それを基点にその周囲1メートルの空間を凍結させる代物だ。
逃げようとする存在を捕まえる時に役立ちそうだと思って作っていたんだが、まさか今必要なるとはなぁ。
運が悪かったと思うしかないか。
「……分かったよ、隻眼の事は悪く思わないし言わない。
王子様が無事ならもう文句はねえよ。
それじゃあ俺はこれから隻眼の影を伝って聖女を誘拐した馬鹿を捕まえてくる。
尋問はどうしようか、王子様そういうの出来る奴いる?」
「いないからユーリがしてもいいよ。
どうせ聖騎士の彼らに尋問なんて出来っこないからね」
同感だ、アッキーが言うにはあいつらの専門は戦闘だからな、護衛も本来彼らの仕事じゃないんだから、尋問なんて専門外で門外漢だ。
なるほど、俺の尋問スキルが役立てると言うことか、闇魔法の腕が鳴るな。
「エ、エルライド王子、尋問なら我が領地に法務官が…」
「いや、それには及ばないサウザー公爵。
僕のユーリは優秀だから何でも出来るからね、尋問もお手の物さ」
持ち上げてくれて嬉しいんだがねエルライド、俺いつからお前の物になったんだ?
……まぁ、俺を上手く使えるっていうのなら、別に良いかもしれないが。
にしてもこのアホ公爵、バレバレだって気付かないかなぁ…証拠が無いから追求出来ないのが本当にイライラする。
魔獣の波に放り込んでやりたいよ、出来ないが。
「いってくる、絶対にその魔道具止めないでくださいよ王子様?
それまでしたら本気で怒るから」
「はいはい、分かったから。
いってらっしゃいユーリ、|情報(お土産)楽しみにしてる」
俺は近くにいた近衛騎士に軽く挨拶してエルライドの影に入っていく。
まったく、うちのご主人様は人使いが荒い。
それじゃあ、期待に応える為にも手早く行こうか。
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ユーリがフィリップに追いついたのはエルライドの影に入ってからおよそ5分後の事であった。
予想以上に離れていたのか、戦場から遠く離れ森の中に出たユーリは突然フィリップの影から現れた聖騎士たちに驚かれた。
「な、新手だと!?
フィリップ殿、聖女様を攫った誘拐犯の仲間ですぞ!!」
「待ってもらいたい聖騎士殿、彼は味方だ。
……知っているだろう、勇者シャイン殿を連れて戦ったというハーフエルフの少年を。
ユーリ、頭巾を取ってくれ、誤解が解けないだろう」
影を伝ってくるまで暇だったという理由で頭巾を被っていたユーリは完全に聖女を攫った誘拐犯と完全に同一の姿であったのだろう。
笑いながらユーリは頭巾を剥ぎ取って軽く挨拶した。
「これはアマリア教国の聖騎士様、この度は何度も不幸が起きたようで、真に残念ですね」
まるで聖女もこれから勇者のようにいなくなるのだと言わんばかりの表情にフィリップは溜息をつくしかない。
フィリップではユーリを止められないと分かっているからだ。
この傍若無人を止められるのはフィリップの主人であるエルライド、そして異様なほど仲の良いギルド員ハロルドだけである。
その両人がいない以上、なるべく穏便に済ませるよう努力しなければならないのがこの場にいるフィリップの勤めである。
「ユーリ、この先に聖女様を誘拐した者達が逃げた痕跡があるのだが、この森だとその痕跡を見つけるのが大変なのだ。
どうにかして聖女様を助けなければならないのだ、協力してくれ」
「了解だ隻眼。
俺も王子様から言われていてね、ばっちり依頼は完了してやんよ。
あとは全部俺に任せてくれれば良いぜ?
大船に乗った気でいてくれよ」
その後その大船を自ら破壊して終えるのだろうという予感が過ぎったフィリップは話半分にユーリに頷くのだった。
ユーリは森の木々にこの辺りに人が通らなかったかと尋ね回った。
すると瞬く間に木々から口々に情報が寄せられる。
『わたしはあっちから女の子を連れた黒い格好をした集団を見たわ、ちょうど貴方みたいな格好よ』
『わしも見たぞ、何とも陰気な魔力を纏った気味の悪い集団だったわい』
「……ありがとう、今度魔力を分けに来るから、またな」
捻くれた植物がいなくて助かったとユーリは安堵すると、フィリップ達に誘拐犯がどこに行ったのかを伝えた。
「……本当にそのハーフエルフの言う事は正しいのか?
ステータスの魔法適正値を見るに、植物の声を聞こえるとは思えないぞ」
「よもや我らを謀る気か!?」
ステータスを偽装している事にも気付けていない聖騎士に、ユーリはこの程度なのかと普段自分が見られているような、残念なものを見る目で彼らを見た。
「嫌なら別に来なくても良いですよー?
別に聖女様を俺達が助ければいい話ですしー?
聖騎士様達は、この森でどこにいるとも分からない連中を探しておけばどうですかー?」
勝手に憤った聖騎士に対してはっと馬鹿にしたように笑うユーリは完全にケンカ腰である。
何しろ勇者であるアキラを誘拐同然でこの世界に連れてきた誘拐犯である彼らをユーリは許していなかった。
たとえ懐かしの感動を果たしたとはいえ、それとこれとは問題は別だと言わんばかりに嫌っていたのである。
当然アマリア教のような欠陥宗教組織には以前から嫌っていたが、こうした神に仕えているという一種のステータスに酔った聖騎士達にユーリは吐き気がするほどに嫌っていたのだ。
面と会って交わればすぐに反発し合うのは目に見えていたのである。
「んじゃいこーぜ隻眼の、誘拐バカと聖女様はあっちだ」
「……聖騎士殿、ユーリはこういう時絶対に嘘はつきません。
当てがないのでしたら同行しては如何ですか?」
『余計な事を』とユーリの顔が顰めているのを気付きながらフィリップは声を掛けると、渋々聖騎士達はユーリたちの後を追いかけることにしたようだった。
読んで頂き、ありがとうございました。
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