第40話 誤算発生、対処してきます
次は、今日中に投稿します。
あとですが、前話で感想についてあれこれ言っていましたが、訂正いたします。
読者様のご想像にお任せいたします。
それぞれが好きなようにお読みくだされば、それで筆者は満足です。
それでは、これからも今作をよろしくお願いします。
サウザー公爵領についてすぐに領都ベーヨンに着いた俺たちは街に避難してきた領民と擦れ違うと、噂話が飛び込んできた。
何でも何万もの魔獣がこの領都に向かって来ているかららしいのだが、俺はそれを聞いて耳を疑った。
おかしい、俺が今回引っ張ってきた魔獣って精々1万程度だぞ、いくらなんでもそれ以上は有り得ないだろ。
斥候がいい加減だったのか、それとも本当にそれだけの数を見たのか…遠目から見ても万を超える魔獣を把握出来る訳がない、誤認だろうと考えていたんだが、違った。
斥候をしたのは冒険者ギルドでも優秀な冒険者らしく、間違いなく数万もの魔獣が押し寄せてきているらしい。
「…おいユーリ、どういうことだ?
このままだと無関係な連中まで…というか、この公爵領が壊滅するぞ?」
「……うーん、おっかしいな、こんな事になるなんて計算外なんだけど…もしかして、これに便乗した魔獣が増えたとか?
それなら分かるんだけど……こっそり数減らしてこようかな」
アッキーの懸念は理解出来たし、遠目からでもハロルドさんの表情が険しくなってる。
魔獣の行動原理をよく知りもしない俺が洗脳した結果がこれか…今度から大量に魔獣を洗脳するのはやめよう、今回の事でリスクが高すぎるって十分理解したからな。
「手伝おう、人よりも魔獣の方が楽だからな」
そりゃありがたい、単独だとまたうっかりが発動して今度こそ死ぬかもしれないしな。
勇者補正にぜひとも期待したいところだ。
「勇者様に協力してもらえるなんて魔王感激。
そいじゃあ今日の夜当たりぱぱっとやって済まそう。
王子様から別件の仕事も入ってるから、急がないと。
そうだアッキー、分かっていると思うけど火魔法と光魔法は使うなよ、勇者が生きているとかふざけたアマリア教共が騒ぐかもしれないからな」
冒険者初の魔獣退治が魔獣大侵攻になるなんて、アッキーもついていないというか。
一通りの魔法が出来るし剣術もそこそこだが、俺の使っていた魔法も教えたから何とかなるだろう。
ハロルドさんとエルライドに連絡して俺達は夜も更けてきた頃、領都を後にした。
さぁて、魔王と勇者の最強タッグの無双劇だ。
哀れ魔獣共、自ら火を付けた手前大層な事は言えんがこれだけは言わせてもらおう。
お役目ご苦労さん、もう逝っていいぞ。
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月明かりが淡い光で大地を照らし、微かに風が吹いている。
静まった魔獣達は夜行性の魔獣を除き、その活動を停止し体力回復に努めていた。
日がまた明ければ再び活動を再開するだろう。
魔獣たちの目的はただひたすら前に進んで行くことだ。
「「切り裂け、烈風!!」」
しかし、そんな魔獣たちが休息としていた森に、突然の脅威が訪れた。
断末魔をあげる魔獣を呼び水に、異変に気付いた魔獣が目を覚ました。
だが、寝惚けてまだ覚醒していない魔獣たちは見えない刃に次々と屠られていく。
真っ先に夜行性の魔獣が襲撃者を嗅ぎ取ると一斉に逆襲に走った。
「喰い殺せ影狼!!」
「地走り、穿て!!」
だが逆襲を仕掛けた魔獣もまるで見越していたのか、襲撃者たちが先行を取って魔法による遠距離攻撃が容赦なく襲い掛かる。
「順調順調、調子良いじゃんアッキー、人間殺すよりも意思疎通の出来ない魔獣の方がやっぱり楽だったり?」
「黙れ魔王め、その軽口を魔獣と一緒に駆除するぞ!!」
「ムリムリ、暴走したバアルならともかく、この【灰銀の魔王】が本気でアッキーと戦ったらそれこそ10秒、いやさ3秒も持たないよ。
まずは頑張って3分くらいを目指しなよ」
イラついた青年の声と無駄に明るい口調の少年の声が夜の森に響いた。
魔法の放たれている中心地には2人の影がある。
1人は180センチ強のヒューマンの青年で、端正な顔立ちを不愉快に歪めて魔獣たちを1匹1匹確実に狩っている。
大群の魔獣に立派な剣と鎧を付けたその青年は、まるで勇者のような荘厳さを見せつけた。
もう1人は130センチ弱のハーフエルフの少年で、幼さの残る可愛らしい表情を喜色満面の笑みを浮かべては多彩な魔法で多くの魔獣を次々と惨たらしく虐殺していく。
一切の容赦の無く屠るその隔絶した強さはまさに魔王、絶望の権化といえた。
「アッキーもうちょっとペース上げようよ、この調子だとまだ4桁の大台にも来ていないのに朝が明けちゃうよ!!」
「ユーリみたいな魔力無制限なチートと一緒にするな!!
こっちは魔力制御が上手くいかなくて魔獣にあたらないんだよ!!」
「魔力回復系のポーションは作り貯めしているからバンバン撃てばいいんだよ、チマチマしてたら囲まれ始めているんだから呑みこまれるだろうが!!」
「それならそうと早く言えっ!!」
悪態をつく勇者と叱咤する魔王が迫り来る魔獣を屠っていくが、ようやっと覚醒し殺意を剥き出しにした魔獣の脅威が2人に襲い掛かる。
地上から空からと魔獣は周囲を2人の襲撃者を取り囲んでいき、逃亡不可能な鳥籠を形成した。
「おい囲まれたぞ、さっさと転移しろ!!」
「もっと引き付けてからだって、一気に狩るなら大穴空ける気で行かないと!!」
「ポーションよこせ、体がだるい!!」
「1本300コルドだよ!!」
「こんな時に請求する気かお前は!?」
「当ったり前だ、材料費かかってるんです!!
友人割引してるんだからありがたく買いやがれ!!」
「買わざるをえない状況にしときながら押し売りしやがって!!
後払いだ、さっさとよこせ!!」
「あざーっす!!」
異次元バックから紫色の液体の入った小瓶をアキラに投げつけると、ユーリはアキラが小瓶の中身を飲み終えてすぐにその手を掴んだ。
既に半径5メートルまで距離を縮めた魔獣達が踊りかかるような勢いで2人に殺到していくが、着地した時には2人の姿はどこにも無かった。
そして遥か後方から詠唱が響いた。
「深淵よ、生在る物を全て堕とせ 【深淵門】!!」
先程まで2人がいた場所を基点に闇が生まれた。
闇は大地を走り、更には空を駆け上がり空にいる魔獣すらも飲み込んでいく。
何が起きたか分からずに喚きながら闇に沈んでいく魔獣の断末魔に楽しげな声が向けられた。
「決まりましたよ魔王様必殺魔法【深淵門】が!!
ゲージ1個使った闇魔法は強力だー、いぇーい!!
これで一気に500は減ったね、ぶっぱした割りにもう少しいくと思ったのに、次はもっと…」
「…中二が再発したのか……可哀相に」
ぼそりと呟いたアキラにユーリがびくりと反応した。
自分でも気付いたからである、何十年も前に誰しもが通ってきた恐るべき黒き闇歴史に。
「な、なに言ってるんだよアッキー!?
そんな訳無いじゃん!!
い、今のはそう、景気付けの一発みたいなノリな奴で、そ、そんな可哀相な目で見るなよ、泣くぞオイ!!」
必死に否定するユーリだったが、先程までノリに乗ったテンションで魔獣達を屠っていたのは確かである。
否定材料は欠片も無く、状況証拠だけで一発有罪であった。
「泣き顔が、似合い過ぎて、キモいです、字足らず」
「ちょっ、そこまで!?
そこまで言うかアッキー!?
この両親から受け継いだ顔面偏差値90の俺に言うに事欠いてキモいだと!?
ちょっと出るとこ出てみようかアッキー、弁護士無しの裁判にかけるぞこらぁ!!」
容赦なく止めを刺したアキラに、ピントの合わない逆上を起こしたユーリだったが、やる事はキッチリとやっていた。
無詠唱で不可視の刃を再び群がってくる魔獣に叩き込み、影の触腕が握り潰しながら口ゲンカをする2人はまるでこの危機的状況に対して何の恐怖も感じていない心境で立ち会っている。
そもそもユーリが夜も更けてきた頃に襲い掛かったのは自らがつけた火が思った以上の大火事となったから慌てて火消しに来たのである。
とはいえ、大火事を小火(ユーリ基準)に戻すだけで、決して罪悪感だけ出来た訳ではないが。
「黙れこの自分大好きめ、自覚した可愛さを振りまくなんて悪行、天が許しても俺が許さん!!
お前には謙虚さが足りんのだ、もっと粛々としていろ!!」
「俺は前世で学んだんだよアッキー、謙虚過ぎて溜め込み過ぎた結果があのウツだ!!
だから俺は現世ではもっと解放的に生きる!!
そしてこれがもっとも重要なんだが、俺はこの世界に生んでくれた両親が大好きで、転じて自分が大好きだ!!
ナルシー上等、自分が大好きでナニが悪い!?」
この世界で生きてきたユーリが前世からの生の失敗から検証し、現世でどうやって生きていけば良いか考えに考えた末にこうした結論付けた。
生物が己という存在を最も優遇するものであり、優先するものだ。
自らの『個』に絶対の基準を定めたユーリは、もはや振り返ってその場に留まるだけの存在ではなくなった。
その行き過ぎた結果がコレなのだが、その被害を被る周りとしてはたまった物ではない。
魔法で爆散する魔獣を睨み付けながら、アキラがもう何も言っても無駄だといわんばかりに溜息をついた。
「このナルシー中二め、勝手にしろ!!
後でハロルド氏にちくって盛大に叱られてしまえ!!」
「だから中二は違うって、勘違いだよアッキー!!
ていうか、ハロルドさんに言うのは卑怯だぞアッキー!!
魔王VS勇者の決戦イベント発動してやろうか!?」
「口封じか、中二がバレるとさぞかしハロルド氏はユーリを可哀相な目で見るだろうな、今から楽しみでならんよ!!」
「ちょっ、マジで言う気かよアッキー!?
やめて下さい勘弁しろさっきのポーション無料にするから!!
ハロルドさんに嫌われたら冒険者ギルドに行き難くなっちゃうだろ!!」
人間関係における距離感が完全に迷走しているユーリの切実な悲鳴なのだが、長年の経験から知っているアキラはむしろそれを逆手にとってユーリをいいように使っていた。
『自分大好き』と豪語するユーリでも未だ改善する余地があるのだと呆れながら、友人が『男』に依存してしまっている今後が本気で心配になってきたアキラなのであった。
まずそこで考えるのならハロルドの勤務時間外、夜の部に行けば済む話なのだが、自分優先な人生を謳歌しているユーリにとって夜の部は完全に検討されない案件だった。
「―――って、ヤバッ!?
アッキーと話し込んでたらアイツまで釣っちゃったよ!?」
「■■■■■■■■■■―――っ!!」
全身に鳥肌が立つような、大気を震わす魔獣の咆哮に魔獣すらも本能的な恐怖がこみ上げて萎縮した。
ユーリもアキラも、突然の魔獣の方向に目を見開いてしまった。
そこに現れたのは―――、
「ド、ドラゴンだと!?
ユーリ、まさかアレ…」
「あーあはは…てへ?」
可愛らしく小首を傾げ、自分は悪くないと主張しているのだろうがアキラはそんな可哀相な友人に騙されはしなかった。
そんな2人の小さな襲撃者に、全長20メートルに届く程の巨大な怪物が再び咆哮する。
月の光に照らされながらもその燃える様な鱗は日中と変わらぬ輝きを誇り、ぱっくりと開いた口からは凶悪な牙が並び、そして何よりも憎悪に爛々と滾らせた瞳をした巨大な怪物。
人々はそれを災厄―――ドラゴンと呼んだ。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




