第38話 冒険者のお仕事
19字予定が少し遅れました、申し訳ありません。
次はまた明日となります。
ブックマーク80件、ありがとうゴザイマス。
今更なんだが、冒険者の仕事って幅が広いと思う。
前世でいう所の職業安定所的な場所なのは確かで、しかも日雇いから短期、中期、長期と配達から討伐まで多岐にわたる。
そして冒険者にとって一番大事なのは自分なことだ。
冒険者は体が資本、健康管理や怪我に気を付けていないと、長く働くことが出来なくなる。
実際前世だとスポーツ選手がこういった管理を怠って体を崩してあっという間に引退するっていうのもよく聞いた話だ。
冒険者も同じだ、自分の管理を怠れば待っているのは破滅である。
例をあげると怪我をして治療院で借金を背負って怪我が治りきらずに奴隷落ちとかだな。
これが一番冒険者が強制引退する理由だ。
奴隷になると冒険者から名前が削除されるらしいからな。
奴隷でもまた冒険者になれるが、どんなにランクの高い冒険者でもランク0から始める事は出来る。
借金奴隷の冒険者の多くは同じく冒険者に買われる。
そして優秀な元冒険者なら優遇され、役にも立たない元冒険者は魔獣の盾にされたり囮にされたりと、酷い扱いだそうだ。
借金奴隷の扱いは借金以外は衣食住の権利があったりと人権はあるが、命令権は絶対だ。
こういった隙間を縫ってさっきもいった盾にしたり囮にしたりという非道な事をする冒険者が一定数いるらしい。
そういった冒険者は冒険者ギルドや奴隷商人からも要注意人物としてマークされていて、証拠を見つけ次第即逮捕しようと目を皿のようにして探している。
んでもって、何でこんな話をするかは訳がある。
アッキーが違法奴隷にされかかったのだ、未遂だったが。
大変な美形であっと驚くほどの顔面偏差値を誇るアッキーはいいカモにされそうになったのだとか。
薬草採取の依頼中10人がかりで襲われたらしい、人海戦術ですな。
でもそこは元勇者、剣と魔法でどうにかしたらしいんだが、まぁ初めての実戦で動転していたらしい。
勢い余って半数以上殺してしまったそうだ。
おいおい、どこかで聞いたような話だと思ったら俺の時とそっくりじゃないか。
俺も依頼中に襲われましたよ、3人だったけど。
…やっぱガタイも良くて立派な剣と鎧をしていたら警戒されるんだろうな、周囲の評価がよく分かる一件だった。
とはいえ、アッキーは人を殺したのは初めてで、帰ってきてすぐに部屋に篭ってしまった。
一言でいうと引き篭もり。
勇者が引き篭もりって……ナニそれ笑えない。
昨日魔獣大侵攻の情報が王都を駆け巡った、王宮は現在会議中だ。
明日になれば正式発表されて冒険者ギルドに正式な依頼が来るだろう、義勇軍だな。
俺も出ないといけないし、そうなると俺はこの王都を出ることになる。
本当は昨日の段階でアッキーがランク1になって一緒に義勇軍になって行く計画だったのに、計算が狂ってしまった。
なのでアドルフに頼みこんで補助員として連れて行くことを認めてもらったんだが、肝心のアッキーが部屋から出ない。
クリミナ達が言うには食欲はあるらしく、扉の前には空の食器が置かれているという。
…ほほう、あれだけ利子付けて恩を返すとか言っときながら、たかだが数人殺した程度でヒッキーだと?
ハロルドさんがキレる前に俺がキレるぞ?
生憎俺は優しくないからな。
引き篭もりに対して対話から徐々に心を開いてもらうなんて涙ぐましい努力なんてしてやらない。
とはいえ、ここは俺の家だ。
少しくらい壊しても後で直せばいい。
という訳でだアッキー。
俺とちょっと『O・HA・NA・SI』しようぜ?
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
光魔法で扉を強化していたのか、闇魔法と空間魔法でようやく破壊すると、カーテンも閉め切った暗い空間が俺を出迎えた。
ベットの上には毛布に包まった山がある。
「よぉアッキー、お邪魔するぞー」
壊した扉の破片を避けながら俺は部屋を進んでアッキーのいるベットの前にと着いた。
…ったく25にもなって引き篭もりとか勘弁してくれよ。
「……」
返事がない、まるで引き篭もりのようだ。
「おーい、アッキーさん?
アキラくーん?
返事しようよアキラちゃん、無視は酷いぞ?」
「………何の用だ?」
「ナニって…アッキーに用があるに決まってるじゃん?
具体的に言うと、明日には魔獣大侵攻に対して冒険者ギルドが義勇軍を発足して昼には出発するらしいから、その報告かな。
アッキーはランクが0だから補助員として登録する予定だから、がんば―――」
「―――ふざけるなっ!!」
おやおや、アッキーが怒鳴っちゃったよ、まだ気が高ぶってるのかね?
ていうか、ここまでアッキーがイラついているのははじめてかも。
いつも飄々として皮肉な笑みを貼り付けていたし、人を殺した事でメッキが剥がれたのかな。
「何だよアッキーうるさいな、何がふざけるななんだよ?
なんか俺おかしなこと言ったか?」
「よくいうっ、人を殺したんだぞ!?
正当防衛じゃない、過剰防衛だ!!
しかもあんなに酷い…あ、あんな酷い事になるなんて!!」
なるほど、アッキーは魔法で思った以上の威力を出して襲い掛かってきた連中を惨たらしく殺した事を後悔したのか。
確かに過剰防衛だな、損壊具合は知らないがアッキーの狼狽振りに大よそどれくらいの威力を放ったのかは分かる。
人間の形が残らないくらい、酷い有様だったんだろう。
勇者として鍛えられても実際に人を殺すまで訓練をしていなかったのか、それとも同じく人を殺すという事に拒否感があったのか…まぁ後者だろう。
「なるほどね、殺人童貞卒業おめでとうと言われても嬉しくないか」
「当たり前だ、俺がやったのは大量殺人だぞ!?」
「がなるなよ聞こえてるって。
あとなアッキー、アッキーは後悔してるのか?
自分を奴隷、しかも世界中が禁止している違法奴隷に手を出しているような極悪人を殺した事を?」
前世の俺でもはじめて人を殺した時落ち込まなかったんだが…やっぱ俺どっかおかしいのかな?
とはいえ、俺の感覚は完全にこの世界で違和感なく発揮している、前世の感覚で生きていくにはこの世界は過酷過ぎる。
だからアッキーにはなんとしても立ち直ってほしいんだよ。
「だ、だが、それでも人殺しは…もっと上手くあの連中を逮捕して、然るべき機関に…」
「それであいつらに待っているのは拷問から死刑の確定コースだな。
これはどの国でも同じ刑が一律で決まっている、ハーフにも適用されているある意味平等な刑罰だな。
あと然るべき機関っていうがなアッキー、この世界にはマトモな司法機関は存在しないぞ?」
「な、なに?
どういうことだ!!」
どうもこうも、この国には弁護士という職業は存在しない。
ならどういった司法が存在するのか。
法務官という存在がいて、その人物が検事役を務め、そして裁判長なのだ。
集めた証拠を犯罪者に突きつけて、反省しているか否か、もしくは犯罪の度合いを見定めて判決を下す。
つまり、法務官の匙加減で犯罪者の運命なんて決まってしまうのだよ。
「…という訳よ、分かるアッキー?
でだ、俺も全部の法律を知っている訳じゃないから確実なことは言えないけど…まぁこれだけは言っとくな。
アッキーがやった事はこの世界じゃ何の罪にもならないよ。
むしろ善行に当たる、冒険者ギルドも高く評価していたよ。
ランクが上がらなかったのが不思議なくらいにね」
「ひ、人を殺しておいて評価なんぞっ!?」
「―――アッキーはさぁ、今どこにいるの?」
閉まっているカーテンを開いて部屋に日が差した。
暗澹としていた空間が一気に明るくなった。
暗い場所にいるから暗い気持ちになるんだよアッキー。
もっと周りを見てみようぜ。
「異世界だよ異世界。
剣と魔法の世界だ、ある意味夢の世界に来た訳だよアッキー。
アッキーと俺のいた世界の…地球じゃないんだぞ、分かってる?」
「そ、それくらい―――」
「分かってないよねぇ、だってアッキーの言ってる事って全部前世の…っと違った。
地球にいた頃の話だよね?
だったら、こっちの価値観に合わせないと。
『ローマにいるときにはローマ人がするようにせよ』って言うことわざもあるでしょ?」
毛布を引っぺがして…破れたけどまあいい。
2日振りに会った我が友人は目元を真っ赤にしてクマも出来て酷い顔だった。
しかも元の顔に戻っている、高校の頃から変わっていない顔だ。
「まぁ今回は運が悪かったんだよアッキー。
心構えも出来ていないのに人を殺すのは辛いし怖いしで頭の中がグチャグチャになっちまったんだよな?
アッキーは根が真面目だからその辺り自分が許せないって言う事なんだろ?」
俺が目を合わせてじっと見ているのが辛いのか、アッキーが目を逸らそうとしたがそうもいかん。
両手で頭を固定して俺の方へと持ってきた。
大事な話してるんだから目を見て話せよな。
「ぐっ…そうだ、俺は怖かった。
あんなに簡単に人が殺せるなんて俺は考えてもいなかったんだ。
異世界に召喚されて気付かない内に浮かれていたんだろう、恥知らずにもほどがある。
…なぁアオイ…ユーリ、俺はどうしたらいい?
どうしたらこの罪悪感から解放されるんだ?
お前も10年以上生きてきて人を殺したんだろう?
お前は、この苦しいくて辛い思いにどうやって折り合いを付けているんだ?」
なんと言ってやればいいかねぇ。
俺は聖人君子じゃないからそんな説法は出来ないし、する気もない。
アッキーが苦しんでいても、俺に出来る事なんて話を聞いて相手が納得してもらえるような言葉を返せればいいが、アッキーが納得してもらえるかどうか。
とはいえ、不誠実な返答はしない。
俺も通った道だからな。
「…アッキー、俺も人殺しが悪いっていう事は分かる。
特に俺の中には初代魔王バアルの魂があるからな、闇魔法を使えば使うほど俺の中にある罪悪感を抱かなくなったりするのは正直怖かった。
自分がやっている非道に何の感情も浮かんでこないなんて、それじゃあまるで化け物だ、魔王と言われても仕方ない。
だからなアッキー、こういうことは自分で何とかするしかない。
お前が俺に何を言われても、結局は自分の問題だ。
自分の感情に合わなければ意味はない。
だから、自分で答えを探すしかないんだ」
「だ、だが、お前はもう見つけているんだろう?
折り合いを付けれる方法を、だったら―――」
「甘えんな!!」
俺ははじめて友人を殴った。
思考が負のスパイラルに陥っているアッキーに前を向いてもらう為にも、ここで手綱を緩める訳にはいかない。
「お前の問題は誰にも請け負えないって言ってるんだよ、気付けバカ!!
殺したくないならもっと修行しろよ、結局自己満足だって分からないのか?
優しくされたいなら歓楽街行って女でも抱いて嫌な事全部快楽に流しちまえ、心の弱い奴は適当にそれで納得してるさ。
だけどお前は違うだろうアッキー、お前言ったよな『人を殺しておいて評価なんぞ』とか何とか?
他人の評価なんか気にする位ならまず自分の問題を解決してから反論してみろ!!
この命の価値が安い世界で、どういう風に自分の心が納得出来るか答えを探し続けろ!!
こんな狭い部屋でグルグルグルグル無い頭絞った所で答えが落ちている訳無いだろうが!?」
もう一発殴っておく、これで言って分からなければもうどうにもならない。
別に俺はアッキーが嫌いな訳じゃない、同郷ので友人の誼だ、金ならあるし一生養ってやるよ。
とはいえこれで最後だ、ここは偉大なる母カルラの様な言葉を不甲斐無い我が友人に贈ろう。
「ヒントくらいはくれてやる、線引きしろ。
どこから殺して、どこまで殺さないか、お前が見て考えて結論を出せ。
…以上だ、夕飯は届けてやらないから、降りてきて食え。
1人で食っても味気ないだろ?」
俺はアッキーの部屋から出て行く。
あとはもうしらん、言いたい事は言えたし俺も暇じゃないんでな。
一階に降りるとクリミナ達側仕えが揃っている、しかもニヤニヤしやがって、なに笑ってやがる。
「……なんだよ、言いたい事があるなら言え。」
代表してクリミナが口を開いた。
「ご立派なお言葉でしたねユーリ様、まるでカルラ様を思い出しました」
「母さんを?」
そういえば、母さんの言葉をアッキーにも言ったな。
俺もよく言われた言葉だし、よく覚えている。
「カルラ様も命を奪う行為に葛藤を覚えていました。
ユーリ様と同じく秘術継承者である為、闇魔法を使い続ければ心が病んでしまい、いつしか怪物になるかもしれないと泣いて夜を過ごしていた日もありました」
クリミナ達にも母さんの葛藤を全部吐き出していなかったようだったが、それでも自らの線引きを教えてはいたようだ。
「『一生をかけて答えを探していく』、それがカルラ様の線引きでした。
命を奪うという行為を一生をかけて、逃げずに探していくとカルラ様は仰っていました」
「……そっか、じゃあ俺の返した答えは随分とガッカリしただろうな。
『俺と関係しない生き物は殺さない』なんていい加減な答えとか、自分の事しか考えていない答えを返しちまったよ」
「……それでも、カルラ様は何も仰らなかったでしょう?」
そうだ、あの時母さんは俺の言葉を聞いて頷いてくれて、それで抱き締めてくれた。
その時の母さんの顔を俺は見ていない、どんな反応をされるのか怖くて、俺はその顔を見られなかった。
「カルラ様は、ユーリ様を認めていたのでしょう。
ユーリ様が返された答えは、ある意味で絶対の価値観です。
必要以上の殺生はしないと取れますし、必要なら大量虐殺も辞さない覚悟も取れます。
自分という絶対の基準において、これほど単純でいて明快な答え、そうそうございません」
クリミナは別に俺の事を慰めている訳じゃない、それくらい分かっている。
母さんの事を長い間見てきた側仕えのクリミナだからこそ、母さんの事を理解していたんだろう。
ある意味父さんよりも母さんを理解しているかもしれないこの側仕えに、俺は本当に頭が上がらない。
他の側仕え達もそうだ、俺には勿体無いくらいの出来た奴らで、俺は貰ってばかりだ。
だから俺は安心して大切な家を任せられる、新しい『家族』に。
「……悪かったな、単純な思考回路で。
あとアッキーの夕食は持っていくなよ、今日は全員テーブルで食事を取るからな。
お前達に持っていかせるなんて贅沢、あんな引き篭もりには必要ない」
「畏まりました、そういたします」
数時間後、日も暮れてハロルドさんが帰ってきた。
引き篭もっているアッキーにそろそろ火焔魔人が降臨するかと思ったが、のろのろと一階に降りてきたアッキーが自分の席についた。
「……ご迷惑をおかけした、申し訳ない。
クリミナさん達も、食事を届けてくれてありがとうございました」
「アッキー、俺に言う事はないの?
感謝の言葉とか、感謝の言葉とか、讃える言葉でもいいぞ?」
クマは残っているが、アッキーの顔はどこか吹っ切れた顔をしていて、これで気兼ねなくからかう事が出来る。
ハロルドさんはアッキーの葛藤に『軟弱な奴め』とか言っていたけど、まぁ平和に育ってきた地球の人間には一大事なんです。
「ふん、後で壊した扉の破片を一緒に拾ってもらうぞ。
壊したんだからちゃんと片付けもしろよ」
「なにそれ、自分の部屋なんだから自分で何とかしなよ。
あとなんで感謝の言葉が無い訳?」
「一方的に説教かまして殴ってほったらかしてどこに感謝する所があると?
寝言は寝て言え」
恩知らずな答えだが、期待していた以上の返しに俺は思わずニヤついてしまった。
少しは前に向けたんだと、そう思ったんだ。
アッキーがどんな答えを探すのかは知らない、別に興味もない。
言いたければ言えばいいし、秘めていても構わない。
ジメジメウジウジしていた奴が吹っ切れたんだ、それでもう十分だ。
「せっかく励ましてあげたのに恩知らずな奴め。
ハロルドさん酷いんだよアッキーの奴、せっかく励ましたのに感謝の言葉一つも返してくれないんだ!!」
「ユーリが説教出来たって事が一番の驚きだな」
ハロルドさんは味方じゃなかった、敵でもないけど。
どいつもこいつも失礼な、これじゃあ俺が空回りしたみたいじゃないか。
さしあたっては、明日の義勇軍に同行してくれるんならそれでいい。
結末を見届けて、はじめてお前はこの世界にいるって事を実感してくれ。
これまで相談してもらってきた恩がこれで少しでも返せればと思っただけなんだから。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




