↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/93

第36話 作戦開始

次は、たぶん…明日です。

2話投稿は維持していきますので、よろしくお願いします。

それでは、どうぞ。


 



 アッキーたち勇者御一行がこの道に来るまで、2時間を切った。


 俺は最後の魔獣の洗脳を終わらせた。


 失敗続きの1週間だったが、何とかエルライドのシナリオ通りの展開に持ってこれたと思う。


 まだ唸っている魔獣に再度命令を焼き付けた。


 一つ、勇者と聖女、聖なる騎士達を分断する。


 一つ、殺すのは聖騎士(オス)だけ。


 一つ、聖女(メス)は殺さない。


 以上だ、頑張ってくれ給えよ焔竜(フレアドラゴン)クン?


 魔物大侵攻(スタンピード)で頑張って襲撃してくれ。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 魔物大侵攻(スタンピード)という現象がある。


 異常繁殖した魔獣が森の奥深く、山の頂から降りてきて村や街を襲うというものだ。


 対処に遅れてしまうと、領地の殆どが魔物大侵攻で荒廃してしまうだろう。


 平均的な数は優に5000を超す大群である。


 魔物大侵攻とは、国にとっての一大事なのだ。


 この現象を防ぐ事はまず不可能で、見つけ次第その地の領主は保有する戦力及び冒険者を招集し事態に当たるのである。


 凌いでいる間に魔物大侵攻の情報を王都や他の領地へと情報を送り、救援を求めるのだ。


 そして、この魔物大侵攻を最初に発見した者達の殆どは逃げ切る事が出来ずに絶望しながら果てるのだ。


「―――急げ、呑みこまれるぞっ!!」


「やっている、だが馬車の速度ではもうむりだっ!!」


 数台の馬車が全速力で近くの街へ向けて逃げようとしていた。


 背後からは地鳴りが響き一層緊張感が増している。


「勇者シャイン様、馬には乗れますか!?」


 アマリア教国が保有する聖騎士の1人が勇者シャイン―――アキラに声をかけた。


「す、すまない、まだ馬に乗る訓練はそれほど…」


 申し訳なさそうな表情をしたアキラに聖騎士が小さく舌打ちをしてしまった。


 聖騎士の考えは勇者の乗った馬と一緒に聖女を乗せこの場からいち早く離脱させようと考えたのである。


 馬車用の馬ではあるが、馬車を引くよりもヒューマン2人を載せたほうが遥かに軽い上に早く走れるだろう。


 万が一の為に鞍も装備させていたので対処は万全にしていたと思っていた矢先、アキラの乗馬経験の未熟さが露呈したのだ。


 当然だが聖女に乗馬経験などありはしない、常に守られる側にいた彼女はその様な訓練を受けた事など無かったのである。


「仕方ない、ならば少しでも時間と距離を稼ぐ為、二手に分かれましょう」


 アキラと聖女と数人の護衛を逃がし、そして聖騎士達の二手に分けれて時間稼ぎを図るのだ。


 アキラと聖女は各聖騎士に馬に乗せられると小さく頭を下げた。


 聖女は悲しそうな表情をして涙を零した。


「この様な事態になるなんて…ごめんなさい、ビゼー」


「いいのです聖女様、後は我等に任せ、勇者様とっ!!

 勇者様、聖女様をお願い申し上げます!!」


「は、はいっ!!」


 馬車から切り離された馬に乗って勇者シャイン、そして聖女は勢いよく飛び出していく。


 あとに残された聖騎士達はすぐに馬車を降りると、追走してくる獣方の魔獣に目掛けて魔法をぶつけていく。


「さぁ、我ら聖騎士の力で、勇者様と聖女様の為の時間を作るのだ!!」


「「「おうっ!!」」」


 勢いよく掛け声を上げた聖騎士達は果敢に魔獣と相対した。


 ―――15分後、聖騎士はおろか馬車さえも見えない魔獣の波に流された彼らは、この地上から姿を消した。


 魔獣たちは進む、脇目も振らずひたすらに進んでいく。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 勇者シャインと呼ばれた青年―――アキラは作戦が順調である事を実感しながら馬に乗っていた。


 先頭には何も無い為、聖女の背後を守るという言葉で後ろについているが、実際の所自分もその標的には入っているが、暴走したとはいえ魔王の魔法にも耐えた光魔法の鎧があれば凌ぎ切れると計算したのだ。


「か、彼らは大丈夫なんでしょうか?」


「ええ、彼らは勇者様と聖女様を守る為に残ったのです。

 我らは彼らの遺志を継ぎ、街へと戻りこの魔物大侵攻に備えましょう!!」


 アキラを乗せた馬を操る聖騎士が苦々しそうに語った。


 この魔物大侵攻自体がシナリオの内であり、アキラは聖騎士達を犠牲にして『勇者シャイン』を殺す為の踏み台にするのである。


 何も知らない聖騎士を殺す事に若干の抵抗感を覚えたアキラだったが、そもそもこの世界に勝手に連れてきたのに命を懸けて魔王と戦えといわれも使命感も何も無いアキラはそんな気はさらさら無かった。


 そして偶然とはいえ魔王と呼ばれる存在の正体が前世で死んだ友人三峰葵(ミツミネアオイ)こと―――ユーリ・ミツミネ知って尚更戦う気にはならなかったのである。


 計画を修正したとはいえ、この計画は間違いなく成功するだろう。


 大量の犠牲の元に。


 国すらも動かすこの大事件に乗じて勇者を殺し、アキラを自由にしたのだ。


 最初ユーリが反対したものの、エルライドが事情を説明するとすぐに引き下がったのはアキラも衝撃的だった。


 何せ人の言う事をロクに聞かないユーリがエルライドに説明されただけで素直に言う事を聞いたのである。


 高校からの仲であるアキラもあれほどすんなりと事が運ぶとは思っていなかった。


 今でもこの作戦には抵抗感があるものの、自分の為、そしてエルライドに協力する『対価』として差し引きゼロになるのならばということで承諾したのである。


 この魔物大侵攻に乗じて『勇者シャイン』を殺すだけでなく、エルライドに反対する貴族勢力の戦力を削ごうとしたのだ。


 その証拠に、この魔物大侵攻が起きた地はエルライドの政敵、第一王子アボリスの後見であるサウザー公爵家なのである。


 現当主ルーファの性格を知るエルライドは、間違いなく自分の派閥にいる貴族を中心にこの魔物大侵攻に対抗するだろうと推測した。


 その情報をまず持ち帰る為に、アキラたちは全速力で魔獣大侵攻から逃げているのだ。


「―――来ました、魔獣です!!」


 アキラの頭上から聖騎士の大声が響く。


 先頭を走る聖騎士、そして聖女がその大声に反応した。


 そして、アキラの役目はここからなのである。


「俺が食い止めます、聖女様と他の皆さんは逃げてくれ!!」


「いけません勇者様!!

 御身にはまだ魔王を倒すという使命があるのです、諦めないでください!!」


「だが、このままでは追いついてしまう!!

 聖女様だけでも逃がして、この地の領主にお願いすれば!!」


 必死に自分以外を逃がそうと表情を作るアキラは無理に馬から下りようとして勢いよく落馬した。


「勇者さまっ!?」


「シャイン様、早く馬にお乗りくださいっ!!

 魔物がすぐ近くまで来ています!!」


 聖騎士と聖女が馬を止めてアキラに声を掛けるが、落馬した痛みからかアキラはその場から動こうとしない。


 身体強化で最低限の防御してから落馬したが、それでもやはり痛いものは痛いのである。


「…ぐうっ!!」


「シャイン様!?」


 ようやく立ち上がったアキラだが、あと3分もしない内に追走してくる先頭の魔獣はアキラを捉えるだろう。


「行ってくださいっ!!」


「ですがっ!?」


 痛みを本当に押さえ込みながらアキラは聖女達に声を掛けた。


 天秤が揺れている聖女ならば、あともう一息で勇者を見捨てると判断したのだ。


「大丈夫です、俺にはまだ魔王を倒すっていう使命があるんです。

 こんな魔獣、俺が全部倒してみせます!!

 だから、みんなは安全な所に、街に非難してください!!」


 思ってもいないことを口にしたアキラだが、聖女や聖なる騎士たちには届いたのか、


「………御武運を、シャイン様」


 迫り来る魔獣たちを見て、聖女は辛そうな表情を作ると、ゆっくりとだが涙を零した。


 アキラは内心『聖女っていうのは涙を自在に流せる演技派の事か』と嘲笑い、ワザとらしい笑顔を張り付かせてガッツポーズで応えた。


「必ず帰って来ます、待っていてください!!」


 最後にそう言い残し、アキラは光魔法の鎧を掛けると魔獣達の波、魔獣大侵攻と向かっていく。


「シャインさまああああああっ!!」


 聖女の声が虚しく響き渡り、魔獣の波に呑みこまれたアキラの姿は完全に見えなくなった。


 聖女はサウザー公爵領へと逃げ延びると魔獣大侵攻が起きたと報告。


 国を揺るがす一大事とあって、事件は大きく報じられた。


 そして、表舞台から『勇者シャイン』は完全に姿を消した。




読んで頂き、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。