閑話 また怒られました
現在良い物件を探し中のユーリだ。
ソラージュ王国に帰ってきてから1週間、ようやくエルライドと会う予定が整った。
怪我が治ってから会いたかったんだが、そうも言ってられなかった。
ちなみにハロルドさんからは俺の怪我について言及されて余す事なく吐かされた。
エルミナ神樹国に干渉する事が出来ないと話したら、『じゃあ代わりに燃やしてくるわ、有給とって来る』と言われて止めたくなかったんだが止めた。
いや、燃やしてくれても良いんだが、環境破壊はよくない。
特にハロルドさんが犯罪者になるのは非常に申し訳ないからな。
お土産とか渡してなんとか宥めた、説教は相変わらずされたけど。
ていうか、少し呆れられてた。
『逃げようと思えば逃げられたのに、逃げないとか何やってるんだお前』と至極真面目に、怒りもせず言われた。
正直判断が甘かったと思う、そこは俺も思った。
あの時母さんが現れなかったら、今頃俺は拷問所送りになっていただろう。
今思うとぞっとする、反省は大事だ、次の機会の教訓としよう。
『危なくなったら即離脱』だ。
さて、エルライドとの話なんだが…お土産を渡したんだが、さすがにそれ位じゃ怒りが収まってくれる訳もなく、上半身裸の状態で正座させられていた。
…オリハルコン製の武具セット、そんなに気に入らなかったのかなぁ?
そして始まりました、もう何度目か分からないお説教。
特別ゲストでハロルドさんも来ていました、仕事どうしたんですか?
あと側仕え達も連れてこられていた、観客らしい…正直主人のこういう所を見せたくないんだがなぁ。
「…といっても、お説教の殆どはハロルドさんが先にしてくれたから、こうした体罰込みのお説教をしている訳なんだけど…ユーリ、鏡見て思わない?」
「…すごく…惨めですね、はい」
上半身の殆どは切り傷、特に背中は矢傷でボロッボロだ、母さんが何とか塞いでくれたが、未だに痛いのはあの状態ではこれが限界だったんだろう。
特に右目の切り傷は寝る時本当に痛くて痛くて…思わず切られた部分を抉りたくなる位に痒くて痛い。
クリミナ達が触らないように手作り眼帯を作ってくれたおかげで掻き毟らずに済んでるが…今度は中二病的な要素がまた増えた。
眼帯ですか…なんですか、邪眼でも発動すればいいんですか?
生憎と、見た者を石にしたり射殺したりは専門外なんです、悪しからず。
「そうだよね、無様だよね、見ていて痛々しいよね?
ハロルドさんにも言われたらしいけど、もう一度言うね。
ユーリ、逃げようと思えば逃げられたのに、逃げないとか何やってるんの?
…いや、まぁ目の前にご両親の仇というか、復讐相手がいたらここで引いたら逃げたとか思われるのが嫌だとか考えていたんだろうけど、ユーリはあの国に対して復讐はしないって言ってなかったっけ?
カルラ義姉様が穏便に…ていうか、下手したらユーリあのまま死んだかもしれないんだよ?
復讐するとして、目の前で無様に倒れるって…そっちの方が屈辱的だと思わないかな?」
「ぶ、無様って…そ、そこまで…そこまで無様じゃないというか…奮戦したというか…」
「知ってるユーリ、奮戦と犬死の意味知ってる?」
……ヤバイです、泣きたくなってきました。
何を言っても正論の滅多打ちで、反論したら10倍で返って来る。
知ってるよそれくらい、犬死=無様だろ!?
タイムスリップしてあの時の俺をすごく止めたいです。
犬死して無様な姿という屈辱を晒すなんて堪えられんからな。
「…それにしてもカルラ義姉様はすごかったみたいだね、手紙読ませてもらったけど、かなりの魔導の使い手なのは読んでいて分かったよ。
…いや、初代魔王の知識という所かな。
何千年も前の研究者の技術が未だに残っていて、なおかつ現代より遥かに優れていたとか、まさに御伽噺における伝説だね、勇者以上に恐ろしいよ」
勇者ねぇ…あの宗教国家が勇者を育てているとか聞くが、本当の所どうなのか。
勇者と魔王の差は前世の物語でもそうだが決定的な差異がある。
勇者は理解される強者で、魔王は理解されない強者という事だ。
そして魔王を倒したことでその勇者は理解されない存在へと墜ちる、堕とされるんだ。
本当に救われない存在だ、まるで喜劇における道化だ。
ていうか、初代魔王バアルを倒したといわれる勇者とか完全に作り物だし。
あの宗教国家が召喚したらしい『異世界人』とバアルは確かに戦ったけど、結局負けた上に無残な最後を迎えた、その後にバアルがエルミナ神樹国からの暗部に隙を突いて暗殺されて、予め盗んでいた研究資料から秘術を行使して、現在の継承者たちに受け継がれているという訳だ。
隙を作り出した原因の異世界人に対して…勇者に対して、バアルは結構な恨みを抱えている。
正直、俺とその異世界人が出会えば、俺の中のバアルが暴走しない恐れが……無いと思いたい。
異世界人の特徴は黒髪黒目の…前世でいう所のアジア系の人間らしいということだけだ。
……いまさら殺し合う事に何の躊躇いもないが、自分の意思を失ってまで殺し合いをするのは正直頂けないな。
「ユーリー?
なーに別の事考えているのかな?
僕のお話はそんなに退屈?」
「い、いふぁい…ぎょ、ご、ごめんって王子様、勇者ってどんな奴なのかなぁとか、会いたくないなぁとか、そんな事は別に考えていないからな?」
「…ユーリ様、語るに落ちてます」
クリミナから呆れの声が入った、うん、なに正直に言ってるんだろう。
エルライドから頬を抓り上げられている所為か、ヒリヒリする。
「あーはは…えへ?」
可愛くポージングして見た、顔の作りはそこそこあるし、自信があるんだが。
「…あはは、可愛いねユーリ。
けど、今はそういう事しても逆効果だって気付かない?」
「前から思っていたが、ユーリは本当に空気読めてないよな」
「そ、そんな事ないよハロルドさん!?
俺だって空気の一つや二つ…」
「読めた試しがまるでなかったんだがなぁ」
ハロルドさん、そんなご無体な。
空気…読めた事くらい……あるもんね。
「王子、もうその位で。
正直ユーリにそれ以上言ってもあまり反省はしないでしょうし…」
隻眼まで変な事言い出した、失礼な奴だな、せっかくオリハルコン製の武具やったのに少しは庇えよ。
「…まぁ、ハロルドさんからのお説教も少しは利いた筈だし、これで少しは大人しくなってくれれば、それでいいかな」
「正直ユーリの精神力は頑固過ぎて表面も削れた気がしないんだが…まるで自動修復するゴーレムだ、殴った程度じゃすぐに元通りになる」
…なんというか、叩いたら直るアナログ電化製品じゃあるまいし、ハロルドさん、遠慮がなくなり過ぎてませんか?
親密度がもはや異次元の方向に向かってる…安心していいのやら、むしろ心配しないといけないのか。
心配してくれている…んだよな、そうでもないとここまで説教したり拳骨したりはしないもんな?
前世の俺の両親と違って罵倒込みで殴られたり蹴られたり、そういう発散的な意味でされている訳じゃない、それ位の分別はついている。
「…その、クリミナ達からもっとうまく立ち回るように教えてもらうからさ。
…なんというか…ごめんなさい」
素直に頭を下げた、すいませんでしたと謝った。
側仕えとしてクリミナ達は母さんに色んな世話をしてきたと言っていた。
となると、作法に関した事も教えた筈だ。
覚え切れて実践出来るかは不明だが、意識してすれば少しは変わってくるだろう。
短絡的にならずに、もっとうまく立ち回るやり方があったはずだ。
「……こんな所でいいかな。
もういいよユーリ立ち上がって」
エルライドが溜息をついたが、それでもようやくこの正座から開放された…足が痺れる。
「まったく、こんなに傷ついて顔も…治るんだよね?」
「ああ、新しく増えた【万象の賢者】のおかげで更に精密な魔法制御が可能になったから、あと1ヶ月位でどうにかなるんじゃないかな」
称号を解析してみたら、この称号は魔法の制御をまさしく【賢者】に相応しい力量にまで押し上げた。
正直自分の実力なのかは不明だが、そもそも適正値からして継承者達の力を受け継いでいるからそれも込みで俺の実力とするしかない。
借り物でも、それを使いこなして自分の物にすればいい話だからな。
「そう、ならいいよ。
服を着てから食事に行こう。
前誕生日をした時に貸切にしたお店でまた食べよう」
どうも気を遣ってくれている…んだろう。
「あ…ありがとう…ごちそうになる」
「あはは、珍しいね。
ユーリが素直だ、ご馳走する甲斐があるねこれは」
くっ、可愛い顔で笑いやがって、騙されないからな、さっきまでその可愛い顔で散々説教しやがって。
可愛さ余って…余って……うん、なんでもないか。
その後、エルライドに連れられて料理を食べた俺はそこでようやく帰ってきたんだと実感して過ごした。
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