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第31話 覚醒、邂逅、そして…

次は1月1日0時投稿です。

おそばの準備はOK?

 




 顔が熱い、まるで熱湯をかけられたような、炎で炙られているような激痛が俺を襲っている。


 そうだ、おれはあの時ナイフが折れたのに驚いて、半瞬間に合わずに騎士から斬られたんだ。


 それだけじゃない、俺の背中はもうどれだけ矢を射がけられているのやら、まるでハリネズミだ、身体強化も循環が上手くいかないし、全身が鉛みたいに重く感じる。


 判断が遅かったとしか言い様がない、これじゃあ空間転移で逃げる事も適わなくなってしまった。


 あのオリハルコン製の武器の所為だ、あれさえなければあの程度の数物ともしなかったのに、俺の予測を遥かに上回る戦力が揃っていた、さすがエルミナ神樹国の最大にして最強戦力、神殿騎士。


 練度はともかく、あの装備と人員があれば大抵の戦争は勝てるだろう、あの騎士達にまともに対抗出来る連中なんてそうはいない。


 俺はなんと過半数は持っていったが、これだけが戦力とは思えない、国境付近にもこの装備をした連中はいるだろう、逃走する際にまた戦いになるのを思うだけでも憂鬱(ゆううつ)になってくる。


 おそらく俺は戦いに負けて、尋問、いや、拷問部屋に連れて行かれるだろう。


 そこで楽しくもない拷問タイムだ、俺から秘術…禁術の情報を得る為に、生かさず殺さずの拷問をするに違いない。


 最悪だ、俺は痛みには弱いんだよ、いっその事闇魔法使える奴が俺の頭から記憶を読み取りゃすぐに終わるんだが…そうなれば俺の死が確定する、選択肢が少なすぎて吐き気がするな。


 どうせ道具はオリハルコン製の拷問具だ、初代魔王の研究成果がそんなゲスな事に使われるとはあれも思っても見なかったろうな。


 はぁ、どうしようか、目を覚ましたくない、目を覚ませばすぐに拷問が始まる。


『大丈夫よユーリ、あとはお母さんに任せなさい』


 …おかしい、懐かしい声がする。

 ―――嗚呼、ダメだ、意識が遠のく。



 ―――――――――――――――――――――


 警告、初代魔王バアルが強制覚醒を試みました

 ・

 ・

 ・

 ・

 警告、初代魔王バアルの魔核に異常が発生しました

 覚醒は失敗しました



 警告、先代魔王カリュラシアの魔核に異常が発生しました

 覚醒を試みています

 ・

 ・

 ・

 ・

 覚醒に成功しました

【白金の魔王】 カリュラリシアが覚醒します



 条件を満たしました

 称号【白金の魔王】を獲得しました

 注、既に特異魔法【闇魔法】を獲得しています



 条件を満たしました

 特異魔法【精霊魔法】を獲得しました

 魔法適正値が上昇します



 条件を満たしました

 特異魔法【光魔法】を獲得しました

 魔法適正値が上昇します



 条件を満たしました

 称号【万象の賢者】を獲得しました

 魔法適正値が上昇します



 名前:ユーリ

 種族:ハーフエルフ

 称号

 受け継ぎし者

 秘術継承者

 灰銀の魔王

 白金の魔王

 万象の賢者

 性別:男

 年齢:11

 魔法適正値

 火:100

 地:100

 水:100

 風:100

 無:100

 樹:100

 闇:100

 光:80

 空間:100

 精霊:100


 ―――――――――――――――――――――




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 ユーリを神殿騎士達が押さえようと手に掛けようとした瞬間、ユーリの周囲が突如爆発した。


「な、何が起きた!?」


 バルトリアスが突然起きた爆発に驚き立ち上がる。


 そして予知の巫女は何かに気付いたのか、手で口を押さえながら震えていた。


「あ、ああ―――っ!!」


『―――ふふ、久しぶりの現世だわ。

 見知った顔も何人かいるし、まるで…そう、ユーリの記憶にある「同窓会」というやつね』


 楽しそうな、まるで喜劇を見て楽しむ淑女の声音が謁見の間に広がる。


 しかし、その声は先程まで激戦をしていたユーリのもので、雰囲気からしてまるで違っていた。


 事実、声の中心にいるのは満身創痍のユーリであり、見間違いようがない。


 なのに、バルトリアスが、予知の巫女が、そしてその場にいた全員が固まってしまった。


『…もう、こんなになるまで神殿騎士達と戦うなんて無茶して、あとで手紙にたくさんお小言書いておかないと』


「…か、カリュラリシア、なのか?」


 バルトリアスの口が開いた、それは確認の様でいて、確信していたのだろう。


 ユーリの姿をしているが、仕草、口調、そして雰囲気がかつての皇女、カリュラリシアに瓜二つだったのだ。


『―――ええ、その通りですわ陛下(・・)、そして第三皇女にして予知の巫女、アーデルハイト。

 わたくしはこのエルミナ神樹国第二皇女カリュラリシアにございます…いえ、だったものですわね。

 今回は愛息のユーリが危機とあって参上しました』


 華の様に笑うユーリ、否、ユーリの母カルラは返しの付いたオリハルコンの矢を強引に引き抜き、まるで痛みを感じないのか、一本、また一本と矢を抜いていく。


 そして全ての矢を抜き終えると、おもむろに水魔法を使った。


「全ての命の源となる水よ、我が身を清らかにし癒しなさい」


 オリハルコン製の武器には全て魔法を絶つ力、そして魔力を阻害する特性を備えている。


 たとえ水魔法による治癒をしたとしてもまず発動するかも怪しい上に、怪我が治るのかも不明だった。


 ―――しかし、


「ば、ばかな!?

 何故オリハルコン製の武器で受けた傷が塞がるのだ!?」


 バルトリアスは今度こそ狼狽し震え上がった、予知の巫女(アーデルハイト)も同様に、この世のものではない存在を見たような怯えた目でカルラを見つめた。


 満身創痍だったユーリの身体から溢れ出る出血が止まったばかりか、その傷を塞いだのである。


 だが、眼球に至っては止血だけで、痛々しい痕を残していた。


「ふふ、陛下、アーデルハイト、何を驚いていますの?

 この程度の傷で、この程度の魔力の乱れようで、わたくしが魔法を使えない訳がないではありませんか?

 これでもわたくし、先代魔王(・・・・)なのですよ?

 ユーリのような新米魔王ではなく、永い時を掛けて過去の記憶を思い出していたのです。

 オリハルコン対策(・・・・・・・・)なんて、この国を出る前からとっくに思い出していましたわ」


「な、なんだと!?」


「そ、そんな!?」


 簡単に種を明かしてしまったカルラだが、その衝撃はこの場にいた全員がもう何度目なのか分からないほどに固まってしまう。


「今回は…そうですわね…いえ、この口調もおかしいわ。

 私はもう、この国の皇女ではないのだから。

 私は、ユーリの母カルラとしてこの場に立っているのです陛下。

 だから私は、倒れてしまったユーリの為に、改めて申し上げますわ陛下」


 ―――私は、先代魔王カルラはエルミナ神樹国に”宣戦布告”致します。


 毅然とした態度で、凛とした声で宣言したのだ。


 この言葉にバルトリアムも、アーデルハイトも、そしてカルラを囲む神殿騎士達も騒然とした。


 そして次の瞬間、バルトリアムはこれがどういう事なのかを察した。


 カルラはこう言ったのだ、『先代魔王による戦争』だと。


 魔王として生きてきたカルラとユーリでは年期というものがまるで違うのは明白だ、それだけかつての初代魔王の記憶を何度も思い出し続けたカルラにとって、一国を相手取るなど、簡単な事だったのである。


 かつて初代魔王と呼ばれた以前、バアルという名の研究者が発見、または発明した物は数多くあった。


 オリハルコンの技術然り、現代では禁術、秘術と呼ばれる魔法、その他の技術の多くが現世では失伝したが、初代魔王の記憶を受け継ぐ継承者(カルラ)はその殆どを思い出していた。


 そして、その猛威を一身に受けるのは、かつてカルラを檻を守護―――監視していた神殿騎士達だった。


「大地に潜みし暗黒よ、その大いなる顎を以って敵を飲み込め!!」


 詠唱が終わるとカルラを中心に、謁見の間に大きな地割れが起きた。


「なっ、地面が!?」


「お、おちっ!!」


 地割れはどんどんと広がっていき、遂には謁見の間の殆どに大穴を空けた。


 吸い込まれるように落ちていく神殿騎士達はその数を減らしていき、悲鳴を上げるしか出来なかった。


 そして、玉座とカルラのいる場所以外何も無い空間が出来上がった。


「―――顎を閉じよ」


 再び地響きが起きると、今度はぽっかりと出来た大穴が元の状態に戻っていく。


 全てが元の状態になると、神殿騎士達は一人も残らず消え去っていた。


 地の底に落ちていった者達は、そのまま戻ってこなかったのだ。


「ふふ、ほら、ご覧の通り。


 これで邪魔者がいなくなったわ。


 さて、まだしますか?


 残っているのは戦闘能力の低い、障害物にもならない者達ばかりだけど」


 圧倒的だった。


 一歩も動かずに、一切の怪我を負わず、一顧だもせずに、カルラは敵を殲滅したのだ。


「たとえ魔法を切り裂き、無効化する武具であろうと、それを用いるのは生き物なのよ?

 だったら対処法なんて決まりきっているじゃない。

 ―――身動きも取れない地の底に放り込んで生き埋めにすればいいのよ。

 大地の栄養分にもなって、一石二鳥ね」


 オリハルコン製の武具に対してではなく、装備者自身を標的にした攻撃ならば、武具はその魔力に反応しない。


 そもそも、武具が守るのは装備をしている部分だけで、剥き出しの状態、兜を被ってもいない部分など、守れる筈も無いのである。


 加えてカルラの言った地の底とは地下500メートルを優に超えるほどの深さで、たとえ這い上がろうとしても、それまでに体力、そして酸素が足りずに息絶えるしかない。


「さて、これでようやくお話…いえ、交渉ね。

 この国の戦力の約半数を殲滅しましたが…まだ戦争をされたいのでしたら、国境付近に配備している者達を呼び戻されますか?

 されるのでしたら、待っていますよ」


 かつてこのエルミナ神樹国で皇女としていたとあってか、国の持つ戦力を把握していたカルラは笑顔でバルトリアム達に微笑んで見せた。


「それが嫌でしたら、交渉をしましょう。

 幸い、こちらには貴国との交渉の余地があります。

 こちらの要求を呑んでいただければ、この戦争は終結するので…ほら、交渉の席に付きたくはありませんか?

 付きたくないのでしたら…この国の皇帝が今この場にいない皇族の方が継ぐ事になりますが、よろしいですか?」


 人を操るには相手の持つ選択肢を制限し、狭め、それ以外を選択する事しか出来ない状況にする事が出来れば、態々洗脳する必要はない。


 カルラはこの戦争とも呼べない茶番劇を有利に終わらせる為に、バルトリアム達に要求したのである。


 「…わかった、まずは席に付こう」


「陛下!?

 いけません、あの方は危険なのです、予知にもありました!!

 この状況にさせないために、準備を重ねたのに…どうして…」


 予知の巫女、アーデルハイトの嘆く声に、カルラが高らかに笑ってみせた。


「おかしな事を言うのねアーデルハイト、準備を重ねたって、この程度の準備で私がどうにかなるとでも?

 貴方の異能とも呼べる力、『予知』は確かに素晴らしいものだわ。

 この国の森がかつて原因の病に侵された時、特効薬を予知して技術を逆輸入して森の被害を抑えられた功績も認めている。

 けど貴女…未然に防げた(・・・・・・)事なんて、一度としてあったかしら?」


「そ、それはっ!?」


 カルラの言葉に思わずびくりと震えたアーデルハイトは反論することも出来ずにいた。


 カルラの言葉、どんな未来を予知したとしても、未来を変えることは出来なかったのだ。


 アーデルハイトに出来た事といえば、何らかの災いが起きたとしてもその後の処理に対して素早く対処する事しか出来ず、未然に防げた事など過去一度としてなかったのである。


 そして、アーデルハイトは今回の一件に深く関わっていながら、『今度こそ』という思いからこの『魔王覚醒』を防ごうとしたのだ。


 結果、状況が少し変わりはしたものの、予知通りの未来が訪れてしまった。


 今回も、アーデルハイトは未来を変える事は出来なかったのだ。


「―――そして、これから起こる未来を、貴女は防ぐことは出来ないわ…いえ、出来なくなる、といえば正しいのかしらね。

 私の要求が呑まれれば、の話だけれど」


 バルトリアムはこのカルラの言葉になんとしてでも譲歩を引き出さなければと内心奮い立った。


 譲歩出来る立場ではないのは承知していた、状況のどれを取っても、バルトリアムにはカルラに対して慈悲を請う以外道はないのだ。


 だが、バルトリアムには僅かな血の繋がりを便りに、祈るしかなかった。


「…では、要求を聞こう」


 戦争に勝利した魔王の要求する物が一体何なのか。


 領土か、財貨か、それとも命か。


 命ならばかつてカルラやライルの仲を引き裂こうと、阻もうとしたバルトリアム自身とそれに関係した者達の命で(あがな)える事が出来れば飛びついていただろう。


 だが、カルラはこれらの要求を一切求めなかった。


「これより一切、エルミナ神樹国が我が愛息ユーリに対して干渉をしない事、この一点です。

 より正確に言うなら、貴国とユーリの相互不可侵の契約を交わしていただきます。

 どうですか、この要求を呑んでいただけるのでしたら、すぐにでもこの国から退去しますよ?」


 それは、ユーリの事を案じたカルラがバルトリアムに対して最も要求されたくない物の最たるものであった。


 この要求を呑んでしまえば、ユーリと接触する事はおろか、その力を手に入れる事が出来なくなってしまう。


 この国の拠り所である『象徴』が消え去ってしまう事と同義であった。


「そ、そんな事になれば…また初代魔王が復活してしまえば、封印の処置はどうするのだ!?

 1700年ほど前の継承者が覚醒して初代魔王が復活し、どれ程の被害を及ぼしたと思っている!!

 一部の地域が、生物の住めぬ地になったのだぞ!?

 その爪跡を、よもや知らぬとはいわせんぞ!?」


 バルトリアムの言う所の爪跡、それは1700年前、先々代の魔王ベリファリナが起こした悲劇である。


 ユーリやカルラ同様、継承者としての適正が高すぎた彼女はある事がきっかけで封印処置を施されていたのにも関わらず覚醒し、初代魔王を復活させてしまった。


 しかも最悪な事に、その復活は中途半端な結果を齎した。


 復活は成功したものの、何らかの変化が起きていたのか、魔王は暴走を始めたのである。


 結果、エルミナ神樹国の東端には今現在も生物の住めない、死の大地が残されているのだ。


「その初代魔王ですが…もう心配はないのですよ陛下」


 ―――初代魔王バアルは、復活する事は出来ないのですから。


 その衝撃の事実に、バルトリアムはどういう事なのかと叫んだ。


「その復活が原因だったのですよ。

 …そもそも、初代魔王が死んで一体どれだけの年月が経ったと思うのです?

 軽く見積もっても7000年は前ですよ?

 それだけの月日に、魔王の精神がマトモな状態で保持されていると、本当に思うのですか?」


「で、では、過去の暴走がきっかけで、もはや初代魔王には復活する可能性など、無いというのか?

 だ、だが、あの魔法は我が国に安寧を…」


 バルトリアムにとって、秘術とはこの国の内外において有利なアドバンテージを持つ存在だった。


 いつ起きるかもしれない脅威の為の対抗策としていっているが、事実自国の為にしか利用されなかったこの魔法を今更関わらないようにするなど、まるで考えていなかったのである。


「あと、封印処置に付いてはむしろしない方がいいですね。

 元々、封印なんて事をしようとしたから、継承者達に余計な負荷が掛かってあのような暴走を起こしたのですから。

 よくあの術を知りもせず、強引な封印をした過去の愚か者達を非難こそすれ、私達が非難される覚えはありません。

 …というか陛下、貴方に選択肢があるなど、よもや夢にも思っていませんよね?

 何なら、この場でこの国の幕を下ろしても構わないのですよ?」


 そうしてしまえば、もはやエルミナ神樹国がユーリの持つ秘術を欲することも、その事実を知るものもいなくなるだろう。


 目撃者もとい、真実を知る者全ての口を塞ぐ事で、エルミナ神樹国からの一切の干渉が無くなる事とは同義に当たる。


 しかし、そこまでするのは最終手段である。


 カルラとしても、縁を切ったとはいえ血の繋がった親族を全て狩り尽くす等という非道な行為をしよなどと思っていなかった。


 ユーリとこの国には直接的な繋がりはない、間接的にカルラが、秘術が関わっているだけで、ユーリにとってエルミナ神樹国は大して何の思い入れもない隣国でしかない。


 そして、カルラはユーリの線引きに対して不安があったのだ。


『俺と関係しない生き物は殺さない』というユーリの誓いは、ユーリの持つ死生観の表れだとカルラは感じていた。


 前世で何かあったのか、ユーリは物事の殆どに対して深く考えようとしない事が多々あった。


 正確に言えば、何に対しても興味を持とうとも、心動かされる事など滅多に無かったのである。


 唯一といってもいいのがカルラやライル、そして現在ではハロルドやエルライドといった者達だが、それでも両手で足りてしまうほどに、ユーリの持つ繋がりは少なかったのだ。


「…今この場でユーリと一切関わらないと契約を結べば、この国に一切の干渉を起こさない事をユーリに言いつけますと約束しましょう。

 ……でなければ、私でなくとも、ユーリはこの国を滅ぼす為に、一切の躊躇もなく実行するでしょう。

 一度火がついてしまえば、あの子はもう止まりません。

 だから、この契約が必要なんです」


「…わかった、魂を縛る契約を交わそう。

 この契約を以って、我が国は魔王に関する一切の干渉はしない。

 対して、魔王もわが国に対して一切の干渉をしない。

 ……これで、よいのだな?」


 譲歩など最初からなく、一切の妥協もないカルラの言葉にバルトリアムはついに観念する事になる。


 カルラは異次元バックから契約用の羊皮紙(スクロール)を取り出すと、契約内容を一気に書き上げた。


 これにカルラとバルトリアムの名前、そして血判を押せば互いがこれから関わる事は一切なくなる。


 アーデルハイトは最後まで反対したが、妨害しようにも何の手立てもない以上、壁になる事も出来ず、ただ眺める事しか出来ずに終わった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 契約を完了した後、へたり込んだバルトリアムがこれからどうすればいいのかとうわ言の様に呟いていたが、カルラの知ったことではなく、後はもう安全な場所まで去れば終わりである。


 自らが眠りに落ちれば、肉体の所有権を速やかにユーリに返上して、再びカルラは眠りにつくことになるだろう。


 これ以上ユーリの肉体を使用し続ければ、いずれは拒否反応が起きて肉体が自壊を始めてしまう事をカルラは過去の覚醒を起こした継承者の末路を知っていた。


「か、カリュラリシア様!!」


 謁見の間から出て、皇宮から去ろうとした時、カルラを追いかけてきた者がいた。


 元第二皇女側仕えのクリミナ達であった。


「そういえば、貴方達の事をほったらかしにしていたわね私。

 …おほん、久しぶりねクリミナ、それにみんなも、元気にしていた?」


 にぱっと笑って見せるカルラの姿に―――ユーリの表情ではあるがその背後にカルラの面影を見た―――クリミナ達は昔と変わらないカルラに苦笑いするしかなかった。


 言いたい事はたくさんあった。


 どうして相談してくれなかったのか。


 何故あの時、自分達に何も言わず去っていったのか。


「…カリュラリシア様の所為で、国からの目が厳しくなりましたね。

 針の(むしろ)にいたような気持ちです」


 クリミナは、バルトリアムが自分達にユーリを要求しようとした計画に加担した事を素直に自白した。


 カルラは肩を竦めると、『気付いていたわ』と答えると、続けてこう言い放ったのだ。


「で、だからどうしたの?

 貴方たちの上司は皇帝陛下でしょ?

 その命令を聞かない方が問題だと思うのだけど…?」


「し、しかし、われらはカリュラリシア様に恩義のある身、それを仇で返すなど…!!」


「…むしろ、恨まれていると思っていたわ。

 私は結局、この国を、貴方達を捨ててライルの手を取ったのだから」


 溜息をつくカルラは悩ましい表情を付いて過去を振り返った。


 カルラがライルの手を取った時、クリミナ達を筆頭に後ろ髪に引かれた事は間違いなくあった。


 だが、それすらも天秤にかけてカルラはライルの手を取った事を後悔した事はなかったのだ。


「…けど、そうね。

 貴方達がこの国に居辛くなってしまったのが私が原因なのなら…私と、いえ、ユーリと一緒に来ない?

 今度は私じゃなくて、ユーリの側に仕えてくれないかしら?」


「わ、我らが…ユーリ様のですか!?

 し、しかし、我らはユーリ様に疎まれていまして…」


 疎まれる所か、既に顔すらも忘れ去られようとしているクリミナ達5人なのだが、カルラはそんな事をお構いなしに勧誘の手を緩めない。


「あら、ならこのままずっとこの国に居続けるの?

 私が言うのもなんだけど、エルフという種族は粘着質なのよ?

 私が逃げたという事を10年以上経っても未だにグチグチウジウジシしている連中と一緒に居たいの?

 それなら止めないけど…そんな事をしても、クリミナ達が苦しむだけよ?

 私みたいにもっと自由にしてもいいんじゃない?」


「カリュラリシア様は自由過ぎます」


 自由過ぎて愛の逃避行までしたカルラにクリミナ達は頭を抑えた。


 そして5人が輪になると、カルラの勧誘に乗るか乗らないかの相談を始めた。


 実際の所、仕えるのはカルラではなくその息子であるユーリになるのだ、彼の魔王が側仕えを必要としているのかといえば、否としか言えないだろう。


 数週間旅を共にしてきたクリミナ達であったが、ユーリは自分の事は全て自分でやってみせていた。


 着替えから洗濯、料理、勉学も熱心に行っていて、欠かしていなかった日は無かったほどで、何も出来なかったカルラとはまるで違い、仕える必要性が感じられないのだ。


 居ても邪魔な置物としか見られないのは目に見えていて、カルラによく似たあの顔で邪険にされるなど、旅の間でもきつかったクリミナ達ではとても耐えられそうに無かった。


「ああ、そうよね、確かにそれは問題だわ。

 あの子ったら、本当に興味が無い物事にはそっけなさ過ぎるのよねぇ…素直じゃない所は可愛いのだけど、まだあって間もないクリミナ達じゃ無理な話ね。

 …いいでしょう、それについては私から一筆書いておきましょうか。

 貴方達をユーリの側仕えに任命するといえば、ユーリはいう事を聞いてくれるわ。

 これで問題は解決したわよ、対応についても邪険にしないように書いておくから、酷い事にはならないわ。

 これならどう?」


 巡り巡って来たツケというのなら、いっその事抱えてしまえば解決出来ると判断したのか、カルラはおかしそうに笑って、クリミナ達を唖然とさせた。


 クリミナを筆頭に、これにはもう断ろうに断れないと気付いていたのだ。


「……分かりました、ユーリ様に口添えの方、宜しくお願い致します」


「…まさか、ユーリ様に仕える事となるとは、嬉しいのやら、怖いのやら…」


「また特訓と称したイジメを受ける事になるのでしょうか?」


「それはないと思いたいですが、弱いままではユーリ様の側仕えに相応しくないと言われるのでは?」


「結局特訓は受ける事になるんでしょうねえ…はぁ」


 5人がそれぞれ思いの丈を吐露したのだが、カルラとしてもそれには苦笑するしかない。


 事実彼らの危惧している特訓については、その懸念通り側に居る以上強くなってもらわねば困るからだ。


 これから先、ユーリ一人ではどうにもならない事が数多く発生するだろう。


 悪魔(アルベルト)を下僕にしていても、それでも手の届かない事はやはり出てくる。


 しかし、クリミナ達ならばこと情報収集において右に出るものはそうは居ないだろう。


 それはつまり、世界でもトップクラスの諜報スキルを持つ者達なのだから。


 彼らは戦闘能力は低いものの、樹魔法の才能に特化した、所謂諜報畑のエルフ達だった。


 とはいえ、任務といえばお転婆なカルラを探す為にその能力を使われてきたので、国の役に立ったのかといわれれば微妙な所だが。


「じゃあ決まりね?

 ユーリの事、お願いするわね」


「はっ、この身に代えましても、ユーリ様を見事支えてみせます」


 勢いよく頭を下げたクリミナ以下4名はカルラに、ユーリに仕える事を決めたのだった。


 カルラは安心した表情になると、すぐにこの首都から出る為の準備をするように命じた。


 エルミナ神樹国の皇宮で起きた戦争が終結して3時間後、カルラ達6名は行き同様、馬車に乗って首都を出た。


 ユーリが次に目を覚ました時、何故か馬車に乗っていてカルラからの手紙より先にクリミナ達と一悶着起きたのは、蛇足といえよう。


 こうして、ユーリとエルミナ神樹国との関係はこれを機に完全に潰え、知らぬ内に終わったのであった。



読んで頂き、ありがとうございました。

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