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第30話 こっちのおじいさんはムカつく

次は新年21時投稿です。

ブックマーク50件ありがとうゴザイマス。

うたがっせんです。

 




 エルミナ神樹国について3日、一向に呼ばれる気配がない。


 どうやら想像以上に俺の力が強かった所為か、どうやって俺に秘術の情報を引き出させて殺すのか日夜協議しているらしい、ゴクロウサマデス。


 影魔法万歳、協議中の大会議室で紛糾する激論を俺はのんびりと影から拝聴していましたとも。


 影の中でお茶会を2回は出来るほどの会議を聞き、観光もせず宿屋で閉じ篭っている事になっている俺は世話役という名の監視が部屋に入ってくるまで(ここ)で盗聴タイムだ。


 観光しようと思ったんだが、思っていた首都と違ってエルフの国はあまり煌びやかじゃなく、ジメジメした感じの都市だった。


 一度行って十分、美味しい物も楽しい物もない都市には観光客なんて見渡す限り誰もいない。


 右を見てもエルフ、左を見てもエルフ、観光業に力を入れていないからとかいう理由ではなく、エルフ至上主義が招いた種族差別の惨状が見て取れた。


 どうやってこの国は生きているのかと調べてみたが、どうやらこの国は通貨など交易以外ではしていない様で、基本物々交換をしていた。


 何と言うか、タイムスリップした気分。


 物々交換で済ませるなんて…正直通貨経済を生きる都会人には肌が合わない、ていうか、買い物が出来ないとは思わなかった。


 今泊まっている宿も使者達が寝泊りするタイプの専用の施設で、1日5000コルドで美味しくも不味くもない料理を食わされる、最低だな。


 自炊したい思いに駆られるが、厨房は貸してもらえない。


 縄張りを侵されたくないらしい、納得の理由だが、この程度のふざけた味しか作れない調理人が縄張り意識とかチャンチャラおかしい。


 なので、俺は2日目から異次元バックにある買い込んだ料理と形態食料で何とか凌いでいた。


 栄養バランスが悪いので、近い内野菜を食べたいです、肉はそろそろ飽きそうだ。


 エルライドからの近況報告だと、王都はそろそろ社交シーズンが終わる所為なのか、領主同士のパーティーも佳境に入ってきているみたいだ。


 シーズンが終われば表だって俺やエルライドに手を出せる奴はいなくなる、諜報畑の連中なら探すのが得意になってきているから、捕まえるのは容易いだろう。


 あとは俺が変えるまでに、何事もなければ問題はない。


 はぁ、早くエルライドに会いたい、ハロルドさんに会いたいもんだぜ、この国陰気すぎて帰りたい。


 そして6日目、俺を食事会に誘ってその際に自白剤入り、筋弛緩剤入りの料理のフルコースを振舞った後に謁見らしい、筒抜けすぎて対策し放題だな。


 夜の内に材料を集めて解毒剤を作っておいた、これで万全だな。


「ユーリ殿、お時間です。

 皇宮からお呼び出しがきました」


「はい、わかりました。

 支度をします」


 使者の…もう顔も忘れたエルフが俺に声をかけてきて、俺は了解の返事をした。


 ここまで来る事も出来たし、どうでもいい連中を鍛えていたという微かな記憶しか残っていないこいつらに興味なんてない。


 俺は宿屋を出ると浴びせられる無遠慮で侮蔑的で排他的な視線を無視して、何度も通った皇宮へと向かった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 食事はどれも似たような物で、美味しくもなければ不味くもない味だった。


 こいつら一体、何が楽しくて生きてるんだろう、権力闘争?


「ようこそいらしたユーリ・ミツミネ殿。

 私がこのエルミナ神樹国皇帝、バルトリアス・アサムド・オン・ハーシェル四世である」


 中年姿の豪奢な服を着たエルフがいる、エルフにもヒゲが生えていたりするんだな。


 謁見の間は広く、かなりの人数が入るが、俺と面と向かった人数はたったの10人だ。


 皇帝におそらく予知の巫女と呼ばれる女のエルフと神官服をきたエルフ、そして俺を連れてきたエルフが数人。


「はじめまして陛下、冒険者のユーリ・ミツミネと申します。

 お呼びということで、参じました」


 無駄に笑顔でいやがって、空間感知で隠し扉や背後の控え室にいる神殿騎士とやらがいるのに気付いているんだぞ?


 どうしよう、弱っていく演技をしないといけないんだけど、笑いたくなってきた。


 いや、油断はダメだぞ俺、あっちには『適正な処置』という名の必殺的な方法があるんだ。


 にやけ面が本当にムカつくな、ヒゲを全力で引き千切ってやりたいが、我慢しよう。


「…それで、今日になって呼ばれたのは、自分に一体どのような処置をするのかが決定したからと考えてもいいのでしょうか?」

「自分がどういう立場にいるのか、頭の良い君なら理解出来ているだろう」


 …自分から口にはしないか、いやらしい、『|適正な処置(殺す)』大義名分がほしいのか。


「さぁ、良くわかりません。

 自分はありもしない罪をでっち上げられて、国ぐるみで殺されるんだと理解していましたが…周りにいる観客は、それを見るために集められたのですか?

 汚らしい混血のガキを惨たらしく殺すのが趣味だなんて、大変良い趣味をされているようで」


 試しに煽ってみると、不快そうな顔をする自称祖父、母さんとは似ても似つかない顔つきだから、やっぱり俺の母さんこのエルフの血をついでいないんじゃないか?


 周りにいる連中はいわゆる神殿の関係者達なんだろ、どこか病的な目で俺を見てくるが、やはりどこか恐れを抱いているのか、何人かは怯えて眼を背けていた、殆どは敵意丸出しである。


 まぁ、正直ここに来た段階でオハナシで解決出来るなんて思ってもいなかったから、実力行使ウェルカムなんだが。


「ほう…いいよるわ小僧めが。

 ならば勅裁に言おう、我が血族が貴様に施した秘術、ここで返すが良い」


「持ってもいない物を返せとは、なんとも理解出来ないですね。

 確か随分なお年でしたし…頭をやられたのですか?

 それは大変です、今すぐ高い所から真っ逆さまに落ちてみられたら如何です?」


 元々あんたら物じゃないだろうに、これは初代魔王の開発した秘術だ、偶然種族がエルフだっただけで、あいつが必死になって作った成果を取り上げただけのお前らが、我が物顔をして偉そうに言う資格はない。


 ホント、これは確かに嫌になるよ母さん、権力欲に凝ったこいつらと同じ血族と思われるのも恥ずかしいだろう。


 さて、遠回しに死ねと言ってみたが、どうやらこいつらには煽り耐性は殆ど無いみたいだ、簡単に逆上して最大にして最強戦力、神殿騎士とやらを呼び出した。


「―――どうじゃ、これだけの騎士に囲まれて、まだ同じことを言えるか?」


「じゃあ率直に言いましょうか。

 ―――やれるものならやってみろクズ共、皆殺しにしてお前の首に手をかけてやろうか?」


 脅迫には屈しません、俺は尊厳を守ります。


 騎士にしては軽装備だが、身体能力がそれほど高くないエルフ達にとって戦闘とは基本的に魔法攻撃を意味する。


 よって無詠唱でもしない限り、詠唱という隙が出来てしまうのを、俺が見逃す訳が無かった。


 ナイフを取り出すと、すぐに近くにいたエルフの首を切り裂いた。


 ほら、大義名分を作ってやったぞエルフ共。


 さあ、真っ赤に染まるパーティーの始まりだ。





 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 敵はエルミナ神樹国最強にして最大戦力神殿騎士、数は目算して約40強、前衛、中衛、後衛、支援の隊で別れていて、練度は…高い、強いな。


 対する俺は一人(ボッチ)、実に頼りないが、個としての能力はこの場にいる誰よりも高い。


 最終目標はとりあえず皇帝、そして鬱陶しい命令の原因となった予知の巫女だ、おそらく皇帝の横にいる白装束の女だろう、どことなく母さんに似ているから、血縁関係があるんじゃないかと思う、戦闘能力はそこまで高くなさそうだ。


「風よ、刃となり―――」


「おせえっ!!」


 身体強化した全力で詠唱をしていた後衛魔法使いに前衛騎士を蹴り飛ばして、詠唱を中断、周囲の妨害を図った。


 ありゃあ背骨逝ったな、嫌な音がした、気持ち悪い、さっさと終わらせないと。


 妨害は…うん、成功している。


「クソ、敵は1人だ、なんとしてもっ―――!!」


 騎士連中はギャアギャア喚いているが、無理矢理ブチ抜けばクモの巣だってどうにかなるもんだ。


式をなぞり発動しろ(エーミッタム) 影狼っ!!」


 俺の影から狼が背後にいる騎士達に襲いかかった、防御不能な奇襲を喰らえば、更に場は混乱するだろう、もっと陣形を崩して、戦い易くさせてもらうぜ。


「怯むなっ、矢を射掛けよっ!!」


 指揮官から後衛にいる弓兵に指示が入った、さすがに遠過ぎるし陣が厚い、今から妨害にはいけないか、全方位から矢を向けられているが、さすがに弓に長けたエルフだ、確実に俺の四肢を狙ってくるだろう。


「はなてぃっ!!」


「嵐よ、吹き荒れろっ!!」


 俺を起点に突風を起こした、これならどうにか弓を防げるだろう。


 ついでに前衛騎士も吹き飛ばした、少しインターバルだ、周囲の状況を確認していく。


 …殺せたのは6人くらいだが、追加で20は来てるな、さすが最大戦力、まるで黒いアレ並みにいやがる、殺虫剤撒きたくなってくるな。


 …撒くか、取って置きを。


 空間感知を発動すると、俺は詠唱を開始する。


「剣と槍による万雷の劇場よ、今こそ来たれ!!」


 音速に匹敵する剣林弾雨が神殿騎士を襲う。


 この魔法は奥の手、空間魔法による剣や槍、果てはありとあらゆる固形物を射撃する『魔弾の射手』だ。


 とはいっても、この魔法には仕込が必要だ。


 空間を繋ぎ合わせ、弾丸を何百も繰り返して動体視力でも追い切れないほどの速度にまで弾丸の限界強度まで落とし続け、最高速度に至った状態で異次元バックとは違う、『弾装』と名付けたい空間に保管する事で仕込みは完了する。


 殆どの弾丸はゴブリンが持っていたボロイ武器や圧縮した岩だ、空間感知による位置把握で対象の心臓を照準に命中率100%で必中させる、一撃必殺の魔弾だ。


 集団戦において、これほど有効な魔法はない、何しろ仕込みを除けば弾丸は殆どタダだからな、弾装も維持するのに魔力の消費も微々たる物、エコな魔法だ、破壊を撒き散らすがな。


「ぎゃあっ!!」


「がはっ!?」


「シルヴィーっ!?

 くそう、魔王め、よくも俺のなかまをっ!?」


「笑わせる、お前らが俺を呼び込んで薬を盛ってまで殺そうとしているのに、俺が何もせず黙って死んでやると思っていたのか、殺せると思っていたのか?

 甘い甘い、吐き気がするほど甘過ぎる!!

 俺達が一体何をしていると思っているんだ、殺し合いだぞ?

 死ぬ覚悟のない奴が、この俺の前に立つんじゃねええっ!!」


 魔弾に加えてカマイタチを放つと、ふざけた事を言ったエルフの首を刎ねた。


 不愉快な奴だ、覚悟もないのに戦場に立つなよ。


 俺は覚悟してきたぞ、これだけ準備をして国と戦うんだ、一瞬の隙を衝かれて死んでもおかしくない。


 最善の準備を短期間で入念にやった、鈍い頭を回し続けて、これでもかという位に注意して今臨んでいるんだ。


 仲間が1人や2人死んだ程度でうろたえやがって、もっと殺す気で来いよ、そうでないと俺は止まらないぞ。


「応援はまだなのかっ!?」


「現在急行中です、神矢ももうすぐ到着します!!」


「よし、持ち応えろっ!!」


 なんだ、半数以上殺したのに、まだ士気が衰えないとは、驚いたな。


 さっきのふざけたこと言ったエルフはどうやら少数派みたいだな、まだ秘策を持っているこいつらは勝利を確信しているようだ。


 急行中ねぇ……なら、その希望を打ち砕かせてもらうかな。


 俺は空間感知の範囲を倍に広げた、一瞬だけ広げただけだから、そこまで負担にはならない。


 だが、ここで不可解な事が起きた。


 増援が急行中といっていたのに、その増援が見つからない。


 俺の空間感知を免れただと、まさか、ありえない。


 周りにいる騎士を殺しながら、再度空間感知を広げた。


「…いないだと、ハッタリ(ブラフ)か?

 おかしい、最大戦力だぞ、100も殺していないのにこれ以上の増援がないだと?」


 ちっ、計算が狂ったな、嫌な予感がしてきた。


 あのクソ爺にも引導渡さなきゃならねえのに、1時間も経たない内に計算が狂い始めるとか、運が悪いにもほどがある。


 仕方ない、少し早いが強行突破だ。


「白き雷よ、道を開け!!」


 風魔法による高電離体(プラズマ)だ、周りの騎士を一瞬で丸焦げにして、玉座に座った爺をブチ殺すっ!!


「―――――――っ!?」


 空間中が白い光に覆われて爆音を上げた、これで生きている奴はもう生物として常軌を逸しているとしかいえないだろう。


「…魔力を結構使ったが…これで詰みだ」


 予想通り、この場にいる戦力はすべて殲滅した。


 炭と化した神殿騎士だったモノが転がっている。


「……よぉクソ爺、待たせたな。

 今そこに行ってやるから、動くんじゃねえぞ?」


 皇帝がはじめて余裕だった表情を崩して慌て始めるが、予知の巫女は驚いた様子がない。


 秘策っていうのを確信しているのか、それとも、諦めているのか…分からないな、無表情すぎて俺には見当もつかない。


「く、くるなっ、くるでないっ!!」


「つれない事言うなよ爺、余計殺したくなるだろうが。

 あとそっちの予知の巫女って奴も、今回の一件で随分と世話になったからな。

 礼も兼ねて酷い目に遭わせてやるよ。

 ああ、心配するな、ちょっと拷問して殺すだけだ。

 何も悪魔を召喚するときの生贄にしようなんて考えていないから、安心してくれよ?」


「貴方は…危険です」


 そうかい予知の巫女、それはようござんしたね。


 俺からすればお前らの方が危険だ、見解の相違って奴だな、良かったよ。


 魔力もまだ半分近く使ったところだ、これならまだ空間魔法の防壁を展開させても十分だ。


 ―――だが、俺が玉座に足をかけようとした時、それは起きた。


「か、掛かったなっ!?

 やれいっ!!」


 クソ爺が声を上げた瞬間、玉座の裏からクロスボウを構えた騎士が俺に目掛けて矢を放った。


 バカが、そんな武器を今更出したとしても、俺の防壁を貫くなんて―――、


「―――なっにぃっ!?」


 放たれた矢が防壁に触れた瞬間、何かの力が俺の防壁を消し飛ばし、俺の手の平を貫いた。


 ここ数年見なかった俺の血が溢れて、激痛に顔を顰めた。


 ―――参ったな、こりゃ罠に嵌められたのは俺かもしれん。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 初代魔王が世界における脅威となった最初の頃、まだ誰もその脅威を認識していなかった。


 だが、気付いた時には既に手遅れになるほどに、魔王の力は強大になっていた。


 ありとあらゆる魔法を行使し、強大な魔獣を操るその力は、瞬く間に世界を侵していった。


 誰も魔王には敵わない、滅びを待つしかなかったのだが、そんな時、一つの『希望』が現れた。


 神の意向を受けた『勇者』の登場である。


 異世界から召喚された勇者は全てを切り裂く『光の剣』を用いて魔法を切り裂き、魔獣を切り裂き、ついには魔王をも切り裂き世界を救ったという。


 ―――ユーリはこの力を知っていた。


 この力もまた、ユーリの記憶の奥底に眠っていた『初代魔王』から溢れ出てきた物だ。


 これもまた、魔王が発見して作り出した研究成果の一つだったからだ。


「クソっ…これが『神鋼(オリハルコン)』…しかもそれを(やじり)にした物かっ!!」


 手の平から溢れ出る血を睨み付けながら悪態をつくユーリに、 バルトリアスが先程まで見せていた慌てふためいていた表情が無くなり、してやったりといった顔をしていた。


 予知の巫女は『秘策』がうまくいったと胸を撫でて溜息をつく。


「その通り、これは魔力を断ち切る上に魔力を阻害する特性を持った世界最高の金属『神鋼(オリハルコン)』だ。

 どうやら過去の自分が斬られた記憶でも思い出したか、魔王よ?」


「お生憎様、俺が思い出したのは初代魔王の研究成果を盗み出したコソ泥の顔をばっちり思い出しただけでね。

 他人を陥れる事に何の躊躇もないお前らクズを殺せなかった初代魔王はさぞ無念だったろうなあっ!!」


 ユーリは矢を半ばで折ると、突き刺さった部分の矢を抜いた。


 鏃には返しが付いていて、引き抜くことが出来なかったからだ。


 すぐに抜いたものの、身体を襲う虚脱感がユーリの表情を曇らせるが、それすらも怒りに変換して気迫は衰えない。


「まだ生意気な口が叩けるか…だが、それもこれまでよ!!」


 バルトリアスが手を振ると、一斉に隠れていた騎士達が飛び出してきた。


 その数、謁見の間を埋め尽くすほどの600という数の暴力だ。


 そしてその騎士達を見た時、ユーリはどうして自分の空間感知がこの増援に気付けなかったのを悟った。


 最初空間感知をした際に、既に増援は潜んでいて、オリハルコンの鎧を着ていない神殿騎士しか感知できなかったのだ。


「…なるほどな、オリハルコンの鎧か…道理で空間感知が気付けないはずだぜ。

 魔法を無効化していたら、そりゃ気付ける訳もないか…」


 ユーリは薄手ではあるが全身を薄手のオリハルコンの鎧を纏った神殿騎士達を見て、確かにこれが最強にして最大戦力だといわざるをえなかった。


 神殿騎士最強の精鋭部隊を見て、ユーリも自分が死地に降り立っているのだと冷や汗を掻いた。


 しかし、どれだけ不利な状況であろうとユーリは表情を変える事は無い。


 相手に隙を見せない為、優位性を疑わせない為、なにより自分がまだ勝てるのだと確信したユーリは不適に笑って見せた。


「は、はは、はははははっ!!

 いいぜ、ようやく五分になってきたじゃねえかっ!!

 こいよ、ザコばっかり殺してつまらなかったところだったんだ。

 どっからでもかかってこいよ、満遍なく鏖殺(おうさつ)してやる!!」


 ユーリは『魔弾の射手』を発動し、空間感知同時起動するが、推測通りなのか目の前にいる神殿騎士達を感知することは出来なかった。


 弾丸はまだ残っているが、さすがに最初の一斉掃射でかなりの弾を使ってしまって、削れたとしても半数だと低く計算を見積もったユーリは、確実に殺すよりも相手を行動不能以上にする事を目標に切り替えた。


 しかも自らの手の平に溢れ落ちる血を思い出し、空間防御も出来ないとあっては後衛に控えた弓兵、そしてクロスボウを構えた騎士がユーリに照準を合わせていて隙を見せれば容赦なく撃ち込んでくるだろう。


「剣と槍による万雷の劇場よ、今こそ来たれ!!」


 今最も危険なのは目の前にいる前衛にいる騎士よりも後衛にいる弓兵や魔法使い達に魔弾を掃射したユーリは、前衛の騎士から武器を奪って、それを使い鎧ごと切り裂いた。


 武器さえもオリハルコン製の剣を使っていたからか、オリハルコンの鎧はユーリの斬撃を受けて砕け散りながらも神殿騎士を殺しきった。


「―――ぐぁっ!?」


 しかし、ユーリの魔法から生き残った弓兵から矢が放たれて、ユーリの肩に刺さるとあまりの痛みにユーリは剣を落としてしまった。


 一瞬の隙を付いて、背後からユーリの肩に正確に射撃して見せたのである。


「いまだっ、やれ!!」


 前衛の騎士が一斉にユーリに襲いかかる。


 この時ばかりは弓兵や魔法使い達は攻撃を仕掛けないが、ユーリよりも遥かに体格の良い騎士達が押し潰す勢いなのだ、遥かに体格に劣るユーリでは、確実に押し潰されてしまうだろう。


「ちぃっ、舐めるなザコどもぉっ!!

 魔法が使えなくたって、簡単に殺されてやると思うなよ!?」


 ユーリはこの時自分に突き刺さった矢を抜くこともせず身体強化一本に絞り、ナイフ片手に騎士達を迎撃した。


 しかし、思った以上に強化が上手くいかない上に全身に襲いかかる虚脱感で、ユーリは舌打ちするしかなかった。


「くっそ、鏃が貫通しておけばこんなめんどうにっ!!」


 ユーリは最初に受けたクロスボウの一撃で負った怪我を水魔法で治そうとはしなかった、いや、出来なかった。


 すぐに抜きはしたものの、身体に流れる魔力が上手く循環しなくなっていて魔法を使ったとしても治癒しないと知っていたのだ。


 なにより初代魔王の記憶を読み取ったユーリは、オリハルコンで傷を付けた箇所の治りがたとえ魔法で治療してもすぐには治らないと知っていた。


 しかも今度の矢は射抜いていない上にユーリの肩に埋まっていて、動かす度に激痛を引き起こしていて、身体強化以外に魔法を使う精神力がなかったのだ。


 ユーリは騎士の一撃をギリギリで避けると鎧の隙間を縫うかのようにナイフを脇の下から突きこんで仕留める。


 腹を貫こうとする槍兵には槍を切り落とすと、刃の部分を掴んで背後から襲おうとする騎士の咽喉に押し込んだ。


「ガハッ!!」


 そこからは絶戦だった。


 ユーリは激痛を抑えながら身体強化魔法を維持し続け、放たれる矢を避けながら騎士を切り伏せては新たな矢傷を背中に受け、このままでは埒が明かないとばかりに騎士の一人を掴むと、棍棒のように振り回し始めた。


 しかし、受けた矢傷の所為で満足に身体強化の出来ていない状態でそのような事をすれば、すぐに体力に限界が来てしまうのは明白だった。


 それでも、ユーリの鬼気迫る攻勢に衰えぬ士気を保ち続けた神殿騎士達に変化が生じた。


「ど、どうして、これだけの傷を受けて生きているんだ、化け物か!?」


 そう、矢傷だけでなく身体にも何度か切られて焼けるような感覚に襲われているはずなのに、ユーリの意気は衰える所か上がり続けていた。


「はっ!!

 この程度で化け物かよ、俺の知っている初代魔王は、これ以上だったぜ?

 数と装備は確かにすごいが、それでもお前らの練度は並より少し上って所だ。

 それだけお膳立てされておいて俺一人殺せないなんて、才能無いんだよ凡俗、自分の不明を恥じてここで死ねっ!!」


 嘲笑するユーリに激高する神殿騎士達だが、ユーリは容赦なく敵対する騎士達を屠っていった。


 その勢いは衰えず、600いた神殿騎士達は、いつの間にか半数を切っていたほどだ。


 距離をとっては周りの弓兵の一撃を警戒しながら『魔弾の射手』で後衛を減らしていき、激痛に苛まれながらも順調に数を減らしていったのだ。


 この満身創痍な快進撃が最後まで続くのではと、バルトリアスと予知の巫女が不安を感じてしまうほどに、常軌を逸した戦いだったのだ。


 ―――だが、


「死ぬがいいっ!!」


 一人の神殿騎士の一撃がユーリのナイフと打ち合ったが、ナイフが耐え切れず、根元で折れてしまった。


 正面に構えていたユーリは折れたナイフに驚き避けようとするが間に合わなかった。


「なっ…ああああああああああああああああっ!?」


 顔面を切り裂き、母カルラから受け継いだ碧の瞳をも切り裂いた。


 偶然から起きた一撃にまさか一矢報いることが出来ると思っていなかった騎士が再度切りかかろうとするが、ユーリは強引に転がって回避した。


「あ、ああ、うう、いたい、いたい、あつい、ぐっ、ああっ!!

 クソ…くっそぉ、こんなっ、こんなところでぇ、おれはっ!!」


 叫び声を上げながらも痛みを怒りに変えてユーリは息を荒げながら立ち上がろうとした。


 ユーリは身体が悲鳴を上げているのを無視して、この戦場を生き抜こうと諦めていなかったのだ。


「殺してはなぬぞ、取り押されるのだ!!」


 バルトリアスが立ち上がるユーリがただでさえ満身創痍なのに、顔面に致命傷を負ってまで未だ衰えない気迫に押されながら、殺してしまっては秘術を今度こそ失ってしまうことに慌て神殿騎士達にユーリを取り押さえろと命じた。


 今のユーリは満身創痍の獣同然の気性の荒さで周囲を警戒している。


 神殿騎士達はゆっくりと、警戒しながら近付いていき、ユーリを取り押さえようとした。


「―――っ!」


 隙を突いた神殿騎士が一気にユーリに迫り、ユーリの肩を掴んだ時、


『くすっ』


 謁見の間に、小さいが女性の笑い声が響いた。




読んで頂き、ありがとうございました。

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