第29話 どうなるか実演すれば、少しは大人しく…?
次は、18時投稿です。
『お土産よろしく』
『無茶言うな』
とエルライドからの注文に頷かず、かといって拒否もせずに俺はエルフの使者たち…名前忘れたな、そいつらと一緒にエルミナ神樹国へと向かっていた。
会話なんて一言もない、お通夜モードで馬車を悠々と向かっている。
俺は沈黙が嫌いじゃない、口を開いていないと落ち着かないような子供でもないし、アドルフからもらった2冊目の魔道書を黙々と読んでいた。
これが中々面白い、この魔道書によると、魔法を使う際にどうやって効率良く魔法を発動させるといいのかを事細かに書いていた。
ちなみにお気に入りな方法は『やり込む事』だ。
なんという脳筋、本当に魔法使いかと疑ってしまう。
いわばパブロフの犬、最終的になると反射的にその魔法を使えるレベルにまでやり込む事で、次第に効率的な発動に行き着くという…なんとも気の長く、魔力を大量に使う方法である。
が、俺向きな方法だ、この手のルーチンは苦痛でもなんでもない。
ゲームで言うなら熟練度を上げるといった行為なのかもしれない、まあ成果は実感するしかないが。
伊達に事務職を短い間経験しただけあってか、同じ事をグルグルとする作業は慣れたもので、いたって落ち着いて魔法を行使していけた。
現在は火魔法と地魔法を順調に効率化していっている、一部イメージが曖昧な部分もあった所は、今では楽勝で発動出来ていた。
横から見ていたエルフ達は俺が秘術継承者だという事が分かっていてか、特に何も言ってこない。
最初は驚いていたのに、つまらないな。
そんな事を1週間も続けていて、ついに話しかけてくるエルフが来た。
やっぱりエルフ、どこからどう見ても美形です、だが男だ。
何で俺の周りには男ばっか寄って来るんだ…もっとマトモなお姉さんと仲良くなりたい。
「ユーリ殿、何か不便な事はありませんか?
次による村で、何か必要な物がありましたら買ってきます」
途中で俺が帰るだなんて言わせない為に、少しでも好感度を上げたいんだろう。
だが、生憎とハロルドさんとかエルライド以外の野郎の好感度は上げる気はない。
「結構です、必要なものは全て異次元バックに入れてますから。
使者殿は自分の必要な物だけ買っておけばいいんですよ」
ちなみに、俺と連中の食事は別の物だ。
手作りだったり、露天で買ったものを食べたりと羨ましそうに横目で見られながら食べていた。
毒なんて入れられたらたまらんからな、警戒はしっかりしないと。
俺は同行しているだけで、友好関係なんて築くつもりは欠片もなければ微塵も、完全無欠にない。
ハロルドさんからも散々注意されたが、とにかく俺は問題を起こすトラブルメーカーみたいだから問題が起こる前に芽を潰しておかないとな。
「そうですか、では、また何かあれば仰ってくださいね」
「はい、ありがとうございました」
すごすごと自分の席に戻ったエルフは任務が全う出来なかった所為なのか項垂れていた。
それにしても…皆似たような美形過ぎて顔の判別がつかん、最初に交渉したエルフってどれだったけ?
どうでもいい事を考えていた俺だが、突然馬車が止まった。
なんだ、国まであと1週間はかかるのに、こんな所で止まるなんて。
「何かあったんですか?」
「盗賊です、それもものすごい数が!!」
「はぁ?」
そういえば、空間感知していなかったな。
いや、だってさ、守ってくれるって言ったんだから、俺別に警戒しなくてもいいと思って何もしなかったのに…何こいつら、ロクに警戒していなかったの?
風魔法に探査あるだろう、何やってるんだよこいつら、こんなに接近されて気付かないとか、本当に俺を守り切れるのか?
そうそう、俺は手を出すつもりはない。
こいつらが死んだらそこまでだ、俺はエルライドに事情を説明してソラージュ王国に帰る。
エルミナ神樹国にも俺を護送途中に盗賊にやられて全滅したと報告して終わりだ、次はない。
魔王になるのは怖いが、別にあの国に頼らなくても自分でやればいいだろう。
これでも適正値は人外レベルだ、アドルフと研究すれば、そのうち見つかるだろ。
「ユーリ殿、ここは我らが!!」
「あ、はい、よろしくお願いします」
こんな状況なのに無駄に冷静な俺の気のない返事で声をかけたエルフが面食らっていたが、俺にはどうでもいい事だ。
まぁ、仕事ぶりを監査しようじゃないか、どーれどれ?
「馬車にある食料や金目のものを置いていけ!!
そうすれば命だけは助けてやる!!」
「無礼な!!
我らをエルミナ神樹国の使者団と知っての狼藉か!?
そのような理不尽、断じて聞く訳にいかぬ!!」
白熱していますエルフさん、遅れてはいるが臨戦態勢に入ると先手の魔法を放っていく。
風魔法による風の刃だな、やっぱり見え難い攻撃っていうのは避けるのも受けるのも難しい。
盗賊たちは仲間を殺されたとあって喚きながら突進してくるが、エルフたちの魔法は圧倒的で、まるで近付けさせない。
へぇ、中々やるな、一度スイッチが入るとこうまでなるとは…母さんもいい側仕えがいたんだな。
連携がうまい、連発したエルフに代わって控えていたエルフがその穴を埋めて再度魔法が放たれる。
盗賊がどんどん倒れていく、まるでプチ『長篠の戦』、織田側だな。
鉄砲の代わりに魔法だが、これもまたすごい、一撃必中だ、必殺じゃないところが残念だが。
「くそう、こうなりゃ…やれ、てめえら!!」
『おおっ!!』
盗賊の1人がなにやら大声を上げた、何か作戦があったみたいだな。
「これで挟み撃ちだ、覚悟しやがれ!!」
「なに、背後からだと!?」
視界の悪い森だからな、大きく回って俺達の背後を突いたのか、へぇ、やるじゃん盗賊。
にしても、エルフの連中は不甲斐無い、感心したのにこれかよ。
控えているエルフは周囲を警戒しとけよ、連携上手とか言ったけど、撤回だな。
さてと、控えているエルフが俺の方へとやってきて魔法を使おうとするが、詠唱に手間取っている。
あれだけ魔法を連発していれば体内の魔力もまるで回復していないだろう、精神状態も若干焦りが見えるし、終わりかなここで…。
「ユーリ殿、お逃げください!!」
俺はこいつらが死んでから残りの盗賊を片付ければいい、だから控えているんですよ?
さて盗賊君たち、がんばって抵抗するエルフさん達を頑張って仕留めてくださいな。
そうすれば、次はお前らだから。
「そこのガキ、まずはてめえからだ!!」
「は?」
オイ待て盗賊そのGとかFみたいな顔した奴、どうして俺に向かってくる。
お前らが狙うのは抵抗しているエルフさん達であって、ボケッと突っ立っている俺とかじゃないだろ?
こんな可愛い男の子を真っ先に狙うとかナニ、ホの字なんですかヤダー。
「ブッ殺す」
「がひっ!?」
盗賊の首が飛ぶと体が無造作に転がった。
言わずもがな、俺が魔法で刎ね飛ばしましたよ、はい。
「しまった、つい手が出ちまった」
「くそっ、こいつも魔法使いか!!
やっちまえてめえら!!」
嗚呼、なんていう事だ、盗賊共が俺に向かってくる。
青色吐息のエルフなんぞより、俺の方が脅威だと認識しやがったぞコンチクショウ!!
「盗賊如きが俺の前に立ってんじゃねえよ、息臭いんだよ顔汚いんだよ近付くな!!
走れ疾風、切り乱れろ!!」
カマイタチを連射すると、俺に向かってくる盗賊たちを次々に斬殺していく。
もうどうにでもなれ、近くにいる盗賊たちから殺してやる。
「バ、バケモノっ!!」
「じゃあ死ね」
「に、逃げろっ、殺されるううううううっ!!」
「逃がさない、死ね」
ナニ逃げてるんだよコラ、頑張って盗賊行為働けよ襲ってこいよ逃げてんじゃねえよ照準合わねえだろうが!?
紙みたいな防御力しやがって、魔法対策ロクにしてねえじゃねえかあの世で反省しろ!!
「…す、すごい」
「すごいじゃねえよエルフ!!
お前らが不甲斐無いから俺が始末つけてるんだろうが約定早速反故にしやがって帰るぞコノヤロウ!?」
盗賊たちを皆殺ししておいて周囲を警戒しているとエルフのバカがおかしな事言ってた。
ナニ感心してやがる、楽しようと思ったのに結局手を出しちまったじゃねえか!?
しかも礼までしてくるし、何こいつら、反省してるのか?
「も、申し訳ありませんユーリ殿。
我らが不甲斐無いばかりに…」
「ホントだぜ、この役立たズ。
守ってくれるって言うから守られていたのに、ロクすっぽ警戒もせずに盗賊に襲われるは背後から急襲されて危機的状況に陥るとかありえない!!
しかも護衛対象の俺が手を貸すって…ねえ、この世界の『守る』っていう行為は護衛対象も抵抗するのが普通なワケ?
俺は護衛をしてくれる奴がきちんと守ってくれる事を言って、護衛対象が安心して目的地まで旅を続けられる事を意味していると解釈していたんだけど、違った?
ねぇ、俺の認識って間違ってる?」
「た、大変申し訳なく…」
「謝るくらいなら実力つけろやこのザコ!!」
結局こいつらを見殺しにしようと思っていたのに助ける形になるなんて…あーもう、何で生きてるんだよ、俺だよ助けたのは。
俺はしたくもない説教を何故かエルフ達にする羽目になって、更には魔法の効率的な発動方法の講義までしていた。
まったく、これじゃあおちおち目的地までいけないからな、俺が安心して目的地まで着く為にもこいつらには強くなってもらわないと。
という訳で、エルミナ神樹国に着くまでこいつらを『ザコ』から『使えるザコ』レベルに強制レベリングを始める事にした。
国境に付くまでの1週間、満足に寝かさず魔法の講義、更には接近された時の対策として牽制する為のナイフの操り方まで覚えさせて、何とか『使えるザコ』にレベルアップした。
その結果、何故か俺を見る目が尊敬する上官みたいな感じに見られるようになったんだが…どうしてこうなった?
なんか俺、また何か仕出かした気がする…どうしよう、ハロルドさんとエルライドに怒られる気がしてきた。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
草木も眠る丑三つ時、辺りが木々の擦れる静かな音しか齎さない闇の中に、一つの火が上っていた。
近くには馬車があり、幾度かの戦闘を経験したのか、所々穴が開いたりしている。
火の番をしているのは2人のエルフだった筈が、何故かその場には5人のエルフがいた。
ソラージュ王国を出た時は身奇麗だった彼らも、ユーリの特訓という名の嫌がらせでボロボロであった。
この場にいたのは、その嫌がらせが今日で終了した為、既に寝てしまっているユーリを残して小さな祝宴を上げているのだ。
もちろん、寝てしまっているユーリには与り知らぬ事である。
「…これで終わりですか、あっという間でしたね」
「ええ、まさかここまで訓練が続くとは、思ってもいませんでした。
ユーリ殿は余程我らの事がお嫌いなのでしょう」
「無理もない、我らが祖国はカリュラリシア様に対してあまりにも酷い仕打ちをされた。
その事を子であるユーリ殿は知っているのだろう。
大方、カリュラリシア様の日記を読んで知ったという所か…お隠れになった際、日記は全て持ち去られていたからな」
「最後まで友好的な関係になれなかったのは残念です」
「なってどうする、首都に付けばどうなるかも分かっていように」
愚痴が大半の宴だったが、それでもクリミナ達はユーリに対して悪し様に言う事は無かった。
そして彼らが暢気にも愚痴をしているのにも拘らず辺りを警戒していないのは、ユーリが空間魔法で一帯に結界を展開しているおかげであった。
彼らはこの1週間で濃密な特訓を受け、以前とは比べ物にならない位にその実力を上げていた。
実力だけなら、エルミナ神樹国が誇る最強戦力、神殿騎士と互角に戦えるほどだ。
「…ずいぶんと強烈な方でしたね、ユーリ殿は。
最初の時とはまるで違います」
「良くもまぁあれだけ人を悪し様に言える言葉を知っているといいますか…そのおかげで、我らは強くなれたのですがね」
「口では散々面倒だと言っておきながら、世話を焼いてくれたりと…素直じゃない御方だ」
「なんだかんだで助けてくれましたからね、昔のカリュラシア様を思い出しました」
「いや、あの過激さはラインハルト殿にそっくりだ、優しそうに見えてその実が大嵐だぞあれは?」
口々にユーリの事を口にする彼らだが、一頻り愚痴のネタも無くなると、皆一斉に黙り込んだ。
風がざわめく中で、クリミナがおもむろに口を開く。
「…このまま、ユーリ殿を首都にお連れして良いのだろうか?」
その言葉は、他のエルフ達の心にあった思いを代弁していた。
そう、今もってユーリ達はエルミナ神樹国へと向かっているが、それは決して観光などではない。
陰謀渦巻く彼の国に、ユーリを放り込もうとしているのである。
それが、クリミナ達元第二皇女付き側仕えとしての最後の務めであった。
「しかし、これは陛下の命です。
我らがそれを達成出来ないとなると…」
エルフの1人が苦々しそうに口にした言葉がその場の空気を暗澹とさせる。
事実、彼らに今回の使者として送り込んだのはエルミナ神樹国皇帝、バルトリアス・アサムド・オン・ハーシェル四世が命じたことであった。
かつてカリュラリシア―――カルラをライルとの逃避行を許した結果、エルミナ神樹国から秘術が失われてしまった。
秘術はエルミナ神樹国において最も重要な存在だ、それは内憂にとっての結束の希望として、外患を打ち払う最終兵器として存在していたのだ。
もちろん兵器として使われた事などない。
使われたのは遥か昔、『魔王』と呼ばれた存在が暴走した時だけだ。
”象徴”として神殿に隔離された秘術継承者は、それから満足な自由を与えられず、ただ生きてきただけだった。
楽しみも無く、ただいつか起こるだろう有事になるまで、ただ脈々と、静々と、気が遠くなるほどの歳月をかけて続いてきたのだ。
しかし十数年前、その隔離していた筈の当時の継承者カリュラリシア・アサムド・オン・ハーシェルが隣国の王子と雲隠れした。
帝国が強引な婚姻を押し付けようとする中で起きた反発で、当時を知る者は蜂の巣を突いた状態だったといえよう。
バルトリアスは2人の仲を知ってからなんとしてもその関係を破綻させようとしていたが、その悉くが逆効果で、最終的に逃げられる形となったのだ。
以来エルミナ神樹国は秘密裏にカルラ達を探していて、ようやく見つけた時には既にユーリが生まれていたのである。
連れ戻そうとした暗部達だったが、王国、帝国の暗部達との三つ巴となり、ラザニアの街でライルが帝国の暗殺者との戦いで命を失った事で、カルラが完全に消息を絶ってしまったのだ。
情報収集に長けたエルフ達も情報を探ろうと周辺の植物に話しかけるが、頑として『知らない』と言って情報は一向に集まらず、冒険者となって有名になった事ではじめて見つかったのである。
ユーリの存在を知っていた彼らは王国や帝国が気付くより早く連れ出そうとしたが、ユーリの継承者としての適性が破格過ぎて間違いなく返り討ちに遭う事が予想された。
手を拱いていた彼らだったが、予知の巫女からの言葉から、急遽このような手段をとる事になったのである。
「…しかし、本当なのでしょうか?
ユーリ殿が初代魔王と同様、『覚醒』を起こすなど…」
「継承者の中でも、ユーリ殿の力はずば抜けたものだ。
何を引き金にして『覚醒』をするかは知らぬが…それを止めるにも、処置を受けてもらうしかあるまい。
過去『覚醒』の兆しのあった継承者達は全員この処置を受けている。
今回もそれと変わらないだろう」
「ですが…」
「くどいぞ、これは本国の決定事項だ!!」
ぴしゃりと言い放つクリミナはもうこれで終わりだと言わんばかりに祝宴の席を立った。
最初こそ楽しかった宴のはずがいつの間にか殺伐として状況へと変わり、残ったエルフ達も馬車へと戻っていく。
祝宴の事など知らないユーリはぐっすりと寝ていて、警戒心の欠片もないが、周囲に更に結界を張っているので、警戒する事無く、ストレスを感じずに寝る事が出来たのである。
「―――う…ん、か…さん」
寝言を呟くユーリだが、この先何が起こるかも知らずに夢を貪っているのを見たクリミナはしばらくユーリを見つめて、自らも毛布に包まって寝ていった。
読んで頂き、ありがとうございました。
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