第28話 うまくいくに決まってなかった
次は12時投稿です。
おおみそかです。
会談の翌日俺は一足早く冒険者ギルドに来て会議室の上座に陣取っていた。
当然ながらこの世界にも上座下座の考え方はあるようで、立場が上の者は上座に、低い者は下座にと立ち位置を変えるのだ。
で、俺の立場はどちらかといえば下座に位置すべきなんだが、その辺りはワザとスルーして上座に座っていた。
これは相手を怒らせるという意味とも、自分の生まれがエルフ達にとってどういう意味になるのかを示してどの程度俺の事を知ってるのかを確かめる指標でもある。
さすがに一国の王が来ていたら俺も考えるが、あの場にいた使者達は全員が文官で王族はいなかった、よって俺と連中の立場は本来ならば俺が上ということだ、たとえハーフエルフであろうとな。
下準備も済ませたし、あとは俺の思った通りの状況になれば、俺の勝ちだ。
2時間後、指定した時間5分前に来たエルフの使者達は、先に来ていた俺が上座にいる事にぎょっとしていたが、すぐに表情を隠して席に座った。
「はじめましてエルミナ神樹国の使者殿。
自分はユーリ・ミツミネ、冒険者ギルドに所属しているランク4の冒険者です」
俺のランクに驚いたのか、一部のエルフが目を大きくさせた。
ハーフエルフでここまでの力があるとは思っていなかったのか、それとも俺が秘術継承者である証拠に気付いたのか、どちらかは分からないが、事情を知っている者が少しはいる事に俺は警戒した。
「…私はエルミナ神樹国が使者、クリミナ・バージニアと申します。
この度はこちらの事情に付き合わせてしまい、誠に申し訳ありません」
口先の白々しさで態度が丸分かりだが、印象を少しでも良くしようとしているんだろう。
涙ぐましい行為なのかもしれないが、俺を殺そうとしている奴に対してはもっと惨めになってほしいとしか思えなかった。
「そうですか、ご理解して頂いているならそれでいいです。
では、本題に入りましょうか。
エルライド王子からお話は聞いています。
何でも、自分が貴国の秘術とやらを盗んだとか?」
「我が国の上層部は、そう判断しているようです。
…こちらをどうぞ、その秘術が盗まれた時の状況を詳細に記したものです」
「拝見します」
クリミナ…使者から書簡を受け取って読み進めていく。
なるほど、良く出来ているがこの報告書は間違いなく偽造文書だ。
そもそも俺はあの国に足を一歩たりとも踏んでいない、ここまで完璧で華麗に秘術だけを盗めるかよ。
しかも、俺みたいなハーフエルフがいたとかいう情報あるけど、そもそもそんな都合よくエルフ至上主義の国にマトモに生きてるハーフエルフがいる訳ないだろうが、舐めてるのか?
「…まぁ、身に覚えがないとしかいえませんね。
そもそも自分は貴国に行った事もなければ、行きたいとも思った事もない。
ハーフエルフの俺に生き辛い国に、進んで行きたいと思われますか?
生憎と、自分のこの魔法は生まれ持ったもので、貴国のいう所の秘術なんて聞いた事もありません」
鼻で笑った俺は報告書をつき返した、『話にならない』と。
「…いいえ、貴方は確かにその秘術を持っています。
いえ…正式に継承したといっていいでしょう」
「なんの事ですか?
さっきと言ってることがまるで違っていますが?
使者殿にとって、自分は秘術を盗み出した汚らわしい混血の存在なのでは?」
ふーん、やっぱりこいつ、母さんの事知ってるのかな?
どことなくその気のない態度ではいるが、なんというか…母さんの事を知っているような口調が見え隠れしている。
「……お互いの腹を探るのはよしましょう。
私は、貴方のお母上の側仕えをしていた事があります。
なので、カリュラリシア様の事を存じていました。
…この者達もまた、カリュラリシア様の下で仕えていた側仕えです」
なるほど、だから敵意はあっても殺意とまではなかったのか。
この敵意はむしろ俺の父ライルの、ラインハルト王子に対する敵意という訳ね。
一生懸命仕えていた巫女がいきなり他国の王子と一緒に逃避行されるとか、まぁ敵意を抱いても当然か。
意外だな、こうまですぐに自分達の身の上を話すなんて…同情作戦でもしているのかね?
「そうですか、自分の母はカルラと名乗っていましたので、その…なんです?
カリュラシア…様ですか?
そのような方を知りません、人違いでしょう」
ごめん母さん、ワザと名前を間違えて。
けど俺にとって母さんの名前はカルラだから、そんな大変な思いをするだけの名前なんて進んで呼びたくないんだ。
「…そこまで頑ななのでしたら、それでも構いません。
こちらの言い分を理解していただければ、ユーリ殿も納得して我が国に来て頂ける筈ですから」
…言い分ねぇ、秘術関連の事なんだろうけど…どれの事をいってるんだろうな?
「問題に上がっている秘術には危険なデメリットがありまして、この秘術は過去の継承者達の記憶を全て引き継いでいるのです。
それだけではありません、継承者達の力の中でも特に強力とされる魔法、『闇魔法』は記憶にまで浸透しているのです。
そしてその記憶は初代魔王の…あの狂気の化け物のおぞましい力を濃く遺していて、適正な処置をしない限り、継承者の魂を汚すのです!!」
…そういう事か、だから知りもしない初代魔王の事を知っていたという訳ね。
なるほど、確かにそれなら適正な処置とやらをしないと、初代魔王の記憶が俺を塗り潰して、『魔王復活』なんて事になりかねない。
…参ったな、これがもし本当なら行かなかったら俺が魔王になって、行ったら俺は『適正な処置』という名の死を受け取る事になる、どっち道性質が悪いのは確かだ。
けど、ようやく合点がいった。
闇魔法を何度も使っていく度に俺が残虐行為に何の感傷も起こさないくらいに壊れていくのかを。
どうする…さすがに自分の将来が魔王の依り代になって世界を滅ぼすとか嫌だし…かといって、エルミナ神樹国に行ってどれだけの数と戦って本当に必要になる処置を受ければいいのか…。
それに、どれだけ向こうにいればいいのか分からないし、その間エルライドの護衛を隻眼に任せるっていうのもなぁ…伯爵の件で同じ陣営からも切られるんじゃないかっていう貴族も少し不穏な動きを見せているし…参ったぞ。
「それは怖いですね、自分も最近夢見が悪いようで、起きた時無性に周りの物を破壊したいと思うようになってきていたんですよ…いやぁ、怖い事もあったものです」
俺の一言でざわつくエルフ達だが、いっている事は半分嘘だ。
破壊衝動は起きていない、夢見が悪いのは本当だが。
さらにいうと、夢見が悪くてもさっぱり覚えていないから、少し前まで夢見の悪さというより低血圧だと勘違いしていたくらいだからな。
「…それで、適切な処置、でしたっけ?
それって、具体的にどんな事をするんですか?
処置というのは、エルミナ神樹国で受けなければならないものなんですか?」
引き攣るどころか痙攣しているんじゃないかと思うほど顔になっている使者達は、どう対処すればいいのか考えあぐねているようだ。
そりゃいきなり脅してくるとは思わんよな、俺としても穏便に済めばいいとは思うが、残念ながら連中は俺を殺す気満々だ。
「は…はい、それはもう。
処置というのは、秘術を継承した者に封印を施す事でして、我が国にある神殿にてそれが可能となっています。
それによって、継承者の魂を守る事にも繋がり、魔王復活を防ぐ要となるのです」
使者がなんとしてでも俺に行って欲しいのか、尤もらしい、嫌、自分の知っている事実を俺に伝えてくる。
うーん、さすがに行かないとそういう処置は受けれないのか…行ったとしても、俺がやってもいない秘術を盗んだという事にされてソラージュ王国に帰ってこれなくなる可能性も高い。
妥協案としては冤罪を証明する為に赴くっていう方法だが…これも長期間この国を空ける事になるから素直に頷けない…。
「そうですか、なら行きません」
とりあえず探ってみるか、どれだけ譲歩出来るかやってみよう。
せめて秘術を盗んだ疑いのある状況からもっとましな、観光客程度の待遇にして欲しい。
「な、なぜです!?」
「だって、盗んでもいないのに連れて行かれたら罪を認めている様に捉えられますし、あの国には恨みこそあれ故郷でもなければ是が非でも行きたい国でもありません。
行った所で嫌な思いしかしない場所に、誰が好き好んで行かなければならないのですか?」
「で、ですが、それだとユーリ殿のお体が!?」
「不愉快な夢なら抑え込めばいい話ですし、そもそもそこまで危険だと思っていませんから。
夢見が悪いのは初代魔王の所為…さすがに妄想が広がり過ぎです、信憑性がない」
「で、でしたら、我々がユーリ殿をお守りします。
この件に関して、私は陛下より全権を預かっています。
ユーリ殿を賓客として迎え入れ、何の問題もなければ速やかにソラージュ王国へと帰還されるよう取り計らいます。
如何でしょうか?」
譲歩は…まぁまぁか、まだ不安だから、とりあえず念押しするか。
「その約束が反故にされた場合、自分は一体誰に責任を取ってもらえばいいんですか?
貴方ですか?
それとも、貴方にその権限を渡した貴国の皇帝ですか?」
報復は大事だ、相手がせっかく持ってきた約束を勝手に破られて泣き寝入りとか俺の性分に合わないからな。
少し予定とは違うが、それでも許容範囲内だ。
「そ…それはっ」
「先程の発言は嘘だったんですか?
守るって言ってくれましたよね、行きたくもないのに行った先で襲われる可能性もあるのに、無駄な労力を費やせと?
…さすがにそれはちょっと無責任じゃないですか?」
この際、責任が誰にいくとかは関係なく、どれくらい相手が俺の事を重要視しているかが問題だ。
ここまで行った上、更に俺の言葉を受けて責任を誰が負うのかはっきりとしっかりと、ばっちり明言してもらわないとな。
でないと、もし何かあったら俺、何を仕出かすかわからないぜ?
具体的に言うと、首都以外の森が焦土と化したり…はやりすぎか、ちょっとでかいクレーターを1ダースほど作れば、少しは相互理解が深まるよな?
「わ、わかりました。
でしたら、私がすべての責任を取ります…ユーリ殿に何かあれば、私が全身全霊をかけてお守りいたします。
如何で…しょうか?」
「………そこまで仰るのでしたら、自分も安心して行けそうですね。
日程はなるべく前もって教えていただければと思います」
俺がようやく首を縦に振った事に喜んだ使者はもう決めていたのか、3日後に王都を出発すると口にした。
まあ1日あれば準備は出来るか。
さてと…それじゃあ、トドメだな。
「そうですか、では―――」
「はい、ぜひ潔白を証明させて頂きたいと思います。
…それじゃあ自分はこれで。
そうだ…聞き忘れてた。
もしあちらで俺に危害が加えられそうになった場合、もちろん加害者にも報復しますのでそれにも協力してくれますよね?」
俺は立ち上がってもう扉に手をかけようとした時、ふと思い出したような演技をして念押しのように聞いた。
守ってくれるという約束はした、じゃあ、俺に危害を向けた相手に対してどう対処すればいいのか。こいつらは頭からすっかり抜けていた様で、完全に固まってしまっていた。
「しょ、承知しましたっ。
全面的に協力させていただきます!!」
やけくそなのかもな、顔を真っ赤にさせた使者…クリミナだったっけ、そいつが言質をくれたのを確認すると、俺は笑いながら会議室から出て行った。
残ったあいつらがどんな悪態を俺につくか気になったが、これだけで十分だ。
…にしても、母さんの側仕えか。
この問題が終わってもし生きていたら…日記じゃない母さんの生の話を聞きたいな。
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「という訳で、ちょっとエルミナ神樹国へお出かけしてきます。
あ、多分お土産は買ってこれるか怪しいんで、あんまり期待しないでくださいね?」
「……そうか、また面倒を起こしに行くんだな」
酷いなハロルドさん、人聞きの悪い。
冤罪吹っかけられて傷心中な俺にそんな事言うなんて。
「何が傷心だ、むしろ自分からやってきた報復相手が来て喜んでいるくせに。
どこまでするかは知らねえが、加減を考えてやれよ…って言っても、あんまり信用ねえんだよなぁ」
「ハロルドさん、俺ハロルドさんにどう見られてるのかな?」
「手のかかる可愛い義弟だな」
なんかとんでもない事言われた気がする、なに、可愛い…弟?
「………ハ、ハロルドさん、それって―――」
「―――あらハロルド、ユーリ様が真っ赤になっていますけど口説いているのですか?
あちらの受付が騒がしいのだけど?」
「「黙れ守銭奴」」
あはハハハ、ハロルドさんと台詞がかぶっちゃったよ。
…うん、俺ノーマルだからハロルドさんに可愛いと言われても別に嬉しくなんて…いや、まぁ嬉しいが。
うーん、ハロルドさんはもっと言葉を覚えた方がいいな、そんな言い方だと勘違いされるから。
あーあ、あっちの腐ったお姉さん達、なんか盛り上がっちゃってるよ。
余計行きたくなくなる…まぁ当分俺王都から離れるし、それほど気にしなくてもいいか。
「それとユーリ様、エルミナ神樹国に行くのでしたら、神殿騎士には警戒した方がよろしいかと。
エルフ特有の選民意識が通常の10倍ほどの分厚さで出来ている戦闘集団です。
何の為にいるかは不明ですが、エルミナ神樹国の最大戦力ですので。
もし戦う事になるのでしたら、速やかに逃げる事をお勧めします」
なにそのキワモノ集団。
フリですか、戦ってこいと?
神殿ねぇ…母さんのいた場所か。
確か、秘術を継承した存在を隔離する為に作り出した場所だったか。
代々皇族の中でも最も力の強い奴が任に就くんだったか。
男なら神官、女なら巫女に名前が変わって、殆ど外に出る事無く一生を終えるという。
うーん、脱走しない為の檻で、かつ追跡役……あとは激しく抵抗した場合殺す存在かな。
ノエルが言うくらいだから、戦闘能力は本当にあるんだろうな。
「ありがとうノエルさん。
情報感謝です」
「では代金を。
安いですよ、金貨5枚です」
「この守銭奴!!」
……減額は出来なかった、守銭奴酷い。
読んで頂き、ありがとうございました。
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