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第27話 神樹国からの使者

次は12/31、0時投稿です。


 



 グルーヴ伯爵家の一件が終わって1ヶ月、ランク4になった俺はエルライドに呼び出しを受けた。


 護衛の時以外で呼び出しをされるのは久しぶりだったので、何か新しい依頼を受けるのかと思って来てみると、エルライドと隻眼が難しい顔をして執務室にいた。


「王子様、来ましたぜ。

 んで、用件ってなに?」


「うん、ユーリは神樹国を知ってるよね?」


 神樹国、もちろん知っている。


 エルミナ神樹国、エルフ族が治めている現在鎖国状態の国だ。


 大神林と呼ばれる地域一帯を治めていて、国土の殆どが森に覆われているらしい。


 ソラージュ王国以上の国土だが、生活圏は首都だけとかなり厳しい環境だ。


 そして、俺の母カルラの生まれ育った国だ。


 母さんは日記を読む限り、陰湿な性格をしたエルフが多いようで、嫌味をいうのが平常運転らしい。


 俺としては復讐する気もない国だから進んで行こうとは思わないし、その国のエルフ達と率先して関わろうとは思わない。


 冒険者ギルドにいるエルフはそこまで酷くない、むしろ優しい。


 神樹国出身のエルフに話を聞いてみたが、性格の悪い連中が多くて肌に合わず飛び出してきたという話が多かった。


 ヒューマン至上主義とは違うエルフ至上主義ともいえる国で、他の種族をバカにしているとも聞いて、物語のエルフもそんなのだったなぁと思いながら、実際に会うと散々罵倒されそうなので、会おうという気もしなかった。


 そんなエルフの国が、なんでも使者を送ってくるらしい。


 ソラージュ王国はドワーフとエルフの国と隣接していて主にドワーフ族が統治しているガレリア共和国と交流はあったが、エルミナ神樹国とはそこまでの交流もなく、使者も王が交代したり、条約の更新する際の使者が来る時だけ交流があったくらいだという。


 最近締結された条約の期限まであと30年はある為、使者が送られてくるなど珍事だったのだ。


 だが、事情を知る者達からすれば、どうして使者が送られてくるかは明白だった。


 つまり、俺だな。


「あー、なるほどねー。

 なに、俺を引き渡せとかいう要求とか来そうな感じ?」


「十中八九、そうだろうね。

 僕も詳しくは知らないけど、あの国には予知能力を持つ巫女がいるらしくて、この前のユーリの暴れっぷりに何か思う所があるんじゃない?

 何せユーリ、『魔王陛下』だからね、危険な存在として見られたのかも。

 あとは…ユーリのお母さんの件で、怪しまれてるんじゃないかな」


 なるほど、それもそうか。


 ハーフエルフであんな化け物じみた力を発揮出来るなんて、色々と調べてみたが未だに見つかった事がない。


 つまり、そのハーフエルフには何か秘密があるということになり、神樹国からすれば心当たりのある存在なのだろう。


 なにしろ、魔王の称号を持つ存在は例えどんな存在だろうと空前絶後の適正値を叩き出す存在なのだから。


 対抗出来るとしたら、御伽噺に出てくる『勇者』くらいだろう。


 物語の勇者は一定して『光の勇者』と呼ばれていて、おそらく使える魔法の中に光魔法があったのだろう、単純に考えても戦闘能力は高いだろうな、使いこなせればの話だが。


 だが、勇者のその後を知る者はいない。


 異世界から召喚されたって事らしいから、元の世界に帰ったのか、それとも世間から雲隠れしたのか。


 それとも、邪魔になったから殺されて、都合よくいなかった事にされたか、そのどれかだろう。


 まぁ、俺は称号に魔王があるだけで、世界を滅ぼそうとか面倒な事したくないからどうでもいいが。


「面倒だな…名前とかもう知られてる?」


「シラを切っても意味がないレベルには、色々と知られていると考えていいだろうね。

 なにしろ相手は国だからね、その気になればそこらへんの草花からも情報を得られるんだから、諜報能力は未知数といってもいい。

 加えて予知能力のある巫女だ、下手したら筒抜けなんじゃない?」


「笑い事じゃありません王子、どうするのですか?

 こちらはユーリ…殿を、あの国に引き渡す気などないのですよ?」


 おお、隻眼がなんだか俺に優しい…気がしないでもないな、気のせいだ。


 にしてももエルフの国ねぇ…面倒な国じゃなかったらこっそり変身していったかもしれないが、諦めるしかないな。


 強制連行もごめんこうむる、ていうか、引き渡すにしてもそれなりの理由が必要なはずだよな、どんな理由をつける気だ?


「どんな理由って…決まってるじゃない、ユーリの称号にあるでしょ、『秘術継承者』っていうのが。

 秘術を盗んだとかいって連れて行こうとするんじゃないかな、あそこの国ならそれ位する気がするよ。

 まあ、あっちには解析魔法がないから偽装しているユーリのステータスは分からないにしても、怪しいからそれで十分なんじゃない?」


「いえ、エルフの国は魔道具作りが盛んな国でもあります。

 ステータスを解析する魔道具も作っているかもしれません、油断は禁物です」


 面倒極まる国らしい、しつこ過ぎてイラっとするな。


「1週間もすれば来るらしいから、それまでに対応策を考えよう。

 あとユーリ、暴力は最終手段だからね?」


 念押しされた、前科がありすぎるので、俺は黙って頷くしかなかった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 そして1週間後、本当にエルフの国エルミナ神樹国からの使者がやってきた。


 謁見の間で俺はエルライドの影の中に潜んでいたが、この場には大臣クラス以上の重鎮と近衛騎士クラスの護衛しかいない。


 使者達は割かしマトモそうに見えるエルフ達で、最初こそ形式ばった挨拶をしていたが、次第に本題に入るとなると場の空気が張り詰めてきた。


「…それでは、本題に移らせていただきます。

 エルライド殿下、単刀直入に申し上げる。

 ユーリ・ミツミネなる冒険者を引き渡していただきたい」


 遠回しにいってくると思ったが、使者は直球でやってきた。


 どういった事情で俺を捕まえようとしているのかは不明だが、今になって俺を見つけたというのは辻褄が合わない気がする。


 エルフの情報収集力は種族の中でもずば抜けている魚人族も引けは取らないらしいが、陸と海の情報では差がありすぎるからな、樹魔法万歳。


 この場ではシギリウスは裁定役のような立場にいて対応はエルライドが対応していた。


「…使者殿、確かに私は彼を護衛として雇っていますが、臣下ではありません。

 貴国で犯罪を犯した者が私の臣下にいるならば引き渡しますが、彼の所属は冒険者ギルドからの指名依頼で私が雇っているだけです。

 引き渡してほしければ、冒険者ギルドで正式に請求すればよろしいのではありませんか?」


 とりあえず正論で返してどこまで相手が強行してくるのか試してみると、使者が苦い顔をして事情を話し始めた。


「冒険者ギルドには既に通達しておりますが…ソラージュ王国冒険者ギルドのギルドマスターは現在総本部に出張中で帰って来ず、返答待ちとなっています。

 代行を任されているアドルフ殿も『ギルドマスターが帰り次第直ちに返答する』としか帰ってきませんでした」


 そういえば、まだ俺ギルドマスターとは会った事がないんだが…いや、高々ランク4の冒険者が会える立場の人じゃないな。


 最近帰ってきていたらしいが、ワザとらしく擦れ違いを起こす辺り、こちらに協力的なようだ。


 アドルフにも魔道具をチラつかせて協力してもらった、チョロイな魔導師ギルドマスター様は。


「ではどうします、指名手配を要求されますか?

 ですが大変申し訳ありませんが、何の罪状もないただの一般市民に罪人にする等という恥ずかしい(・・・・・)行為を、私はしたくありません」


『うわ、酷いな王子様。

 いや、実際その通りなんだけどさ?』


『少しは情報を吐き出してくれると嬉しいんだけど、乗ってくれるかな?』

『見下しているヒューマンにコケにされたんだし、逆上くらいはするんじゃねえの』


 まあ明らかにバカにした態度に大臣達も顔を引き攣らせたりしてるんだが、この程度はまだ許容範囲ないだろう。


 そもそもあっちは内政干渉しようとしているんだ、国土はエルミナ神樹国が上でも国力は圧倒的にソラージュ王国が上だ。


 戦争にはなりはしないだろうが、それでも十分に両国の関係は悪化するだろう。


「ですがっ、彼の者は我が国の秘術を盗み出した疑いがあるのです!!

 貴国の武芸大会で彼が見せたあの魔法はその秘術に関わりがあるとされる魔法で、直ちにその秘術を返還(・・)していただかないといけないのです!!」


 ……ふーん、なるほどねぇ。


 こいつら、俺を殺そうとしてるのか。


 母さんから教わったこの秘術は日記によると一子相伝、つまり継承者は世界にただ1人という事だと書いてあった。


 この秘術を次代の者に継承させる時、それは前任者が死ぬ間際の数分の間だけ2人になる。


 つまり、こいつらは俺を捕まえてから殺すような目に遭わせて、自分達に都合のいい巫女に秘術を継承させようとしているんだ。


 あとは用済みになった俺を殺してはい終り、という訳か。


 そりゃあ、この秘術を最初に開発した国がエルミナ神樹国(・・・・・・・・)だからって、魔王を生み出した原因となった国だからって、そんな危険な秘術を他所に知られたくはないのは分かるけどさぁ。


 ちょーっと、殺意が湧くな、そんなだから初代魔王が生まれる原因になったんだって、何で分からないかなぁ?


 ただ、アイツ(・・・)は認めて欲しかっただけだったのに、自分の証を残したかっただけなのに、オマエらが勝手に『魔王』だなんて蔑んで迫害して殺そうとして、だから魔王は…魔王は…あれ?


 ―――なんで俺、親しげに初代魔王にアイツなんて言ってるんだ?


 思わず影の中で首を傾げたが、これも継承者の影響かと諦める事にした。


 気付かない内に夢の中で初代魔王の記憶でも見て忘れたんだろう、夢見が悪かった事が前にあったから、その時かもな。


「ですが、彼の者はまだ11歳の子供ですよ?

 その秘術を盗み出したのは何時だか知りませんが…少なくともそれ以前にその秘術とやらを盗んだとされます。

 そんな子供に盗まれるなんて…貴国はそのような重要な品を警備も置かずに放置しているのですか?

 それとも、置いた上で子供に盗まれるくらい、貴国の兵は弱卒なのですか?」


 うわぁ、エルライドがすっごい可愛い笑顔でバカにしてる、さすがにエルフの使者もバカにされていると分かってか逆上した、グッジョブ。


「わ、我が国をバカにしているのですか!?」


「でしたら、秘術を何時、どこで、どうやって盗まれたのかを詳細な報告書をお教え頂きたい。

 貴国の問題に協力して差し上げたい気持ちはあるが、ロクな証拠もなく彼を罪人扱いして冤罪などすれば、我が国は周辺国にいい笑いものになります。

 内政干渉という言葉もご存知ですか使者殿?

 今の様な状況を示しているのですよ?」


「い、言わせておけばっ」


「どうすると?

 剣を向けますか?

 魔法で切り刻みますか?

 その場合、貴国からの宣戦布告とみなしますが、それでもよろしいですか?

 王族に対して、そのような口を利くだけでも十分に不敬だと理解も出来ないのですか?」


 ……うん、酷いわ、分かってたけど、酷い。


 ワナワナと震えてる使者だが、端正な顔が赤くなったり白くなったりとまあ大変。


 その内頭がプッツンするんじゃないか…いや、帰りの途中になって欲しいな、特に自国内で。


 暗殺と疑われたくないからな。


「…大変失礼いたしました、平にご容赦ください」


 屈辱だろうな、挨拶以外でヒューマンに対して頭を下げるだなんて、俺もバカにしてくる奴に対して頭を下げたくないから気持ちが分からなくはない、同情なんてしないが。


 エルライドは分かってくれればいいのですといって薄く笑ったが、次はないぞと顔に書いていた。


「で、では、彼の者に事情を聞くだけでもお願い出来ませんか?」


「引き渡さなくてもよろしいので?

 なんとしても本国に連行しろと言われているのではありませんか?」


 要求下げてまでいるのに、ワザと分からない振りしているんだが、なんかノリノリだなエルライド。


「いえ、我が国も少々焦り過ぎていたかと思いまして…まずは彼の者から話を聞いてみようかと思いまして。

 疑いが晴れれば、我が国もこれ以上貴国に対してとやかく言うつもりはありません。

 どうか、殿下のお力で彼の者との面会をお願いしたく存じます」


『…との事だけど、どうするユーリ?

 あとはユーリとエルミナ神樹国と問題にするけど、僕達はこれ以上関わらないよ、いいの?』


 そう、ここからは俺の番だ。


 指定された場所で俺はこいつらと事情聴取を受ける事になる。


 だが、その時俺はエルライドから一切の援護を受けない。


 俺の生まれに関わってはいるが、これは母カルラと俺の関わる問題だ。


 ソラージュ王国の、エルライドに迷惑をかける訳にはいかない。


 エルライドは気にするなといっていたが、そういう訳にもいかない。


 この手の連中は納得なんてする気がないんだからな。


 勝手に自分の妄想を事実として相手の事実を認めようとしない連中なんだから。


 エルライドからの念話に、俺は頷いた。


『ああ、構わないぜ。

 予め指定していた場所にそいつらを行かせてくれれば、あとは俺が始末(・・)をつける。

 王子様は心配せずに聞いて(・・・)くれていればいい』


『その気になれば全面的に庇ってもよかったのに…ユーリ、無茶はしないでよ?

 ユーリがいなくなるなんて事になったら、兄上と僕の計画が10年は確実に後退するんだからね』


『分かってるって、俺も父さんと王子様の夢に協力させてもらっている身だ。

 こんな面倒な事が終わらせて、ゆっくりとオハナシしてくるよ?』


 まぁ、結末なんて分かりきってるけどな。


 未来が見えるとかいう予知の巫女さんじゃないが、俺にだって未来が見えるんだぜ、限定的だが。


 エルライドが場所を指定した、場所は冒険者ギルドにある会議室だ。


 徹底的に思い知らせる、自分達が犯したツケを、どれだけ高くついたかを。





読んで頂き、ありがとうございました。

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