閑話 何故かお説教
次は12/30、0時投稿です。
強制報復イベント執行をしてから2日後、ハロルドさんが起きた。
俺がいない間に起きていたらしい、目を覚ましたら守銭奴の治療院だとわかると、絶叫したらしい、いくら請求されるんだろうな?
とか思ったら、意外な事に良心的な価格だった、5日ほどベットを占領しただけで、治療はしていないからだ。
まぁ俺が治療は済ませていたからな、少し高い宿屋(内装は微妙だが清潔)と思えば精神的苦痛も消えるだろ。
で、俺はというと……、
「何で俺が起きたら全部終わってるんだ、ああ?」
ハロルドさん、久々の鬼モード降臨、解せぬ。
あーあ、爽やかイケメンが鬼になっちゃったよ。
「起きたら先輩の治療院だし、大会は終わってるし、王都は貴族の行方不明事件でてんやわんやだし…ユーリー、どういうことだこれは!?」
「…なんで俺怒られてるの?」
「お前だろうがやったのは!?」
いや、そりゃ、やったけどさ、何で分かるんだ?
「わからいでか!!
お前大会始まる前に、『ハロルドさんがもし負けたら、俺そいつブッ殺しますんで』とか言ってただろう!?
それでこの大騒ぎで、しかもお前は知らん顔だと…俺の知っているユーリは状況がどう変化しようと目的を達成しようとする奴だ、それで動いていないとなると、既にやった後で、結果が分かっているから動いていない、違うか!?」
な、なんという…俺、そこまで俺の心理分析が出来てるなんて、ハロルドさんの信頼ゲージもとい、好感度が恐ろしい。
どこか打ち所悪かったのかと疑いたい、そうであってほしい気もするが。
「おお、さすがハロルドさん名推理!!
ヤク中探偵も真っ青な推察力だ…ぃだっ!?」
な、殴られた…い、今の、身体強化で拳骨されたぞ。
あ、頭割れてないよな?
俺は名探偵ハロルドさんに強制的に自白させられたあと、また拳骨された、頭超痛い。
「やっぱりやってるじゃねえか!?
何でそんな危ないことをした!?
バレたらお前王国から指名手配喰らうところだったんだぞ!?」
「や、バレてないし。
死体も魔獣に処理させたからあだあっ!?」
さらに拳骨、今度は振りかぶってされた。
なに、何で俺本当に怒られてるの、意味分かんない。
「だから、お前のその考えが甘いと言ってるんだ!!
いいか、貴族っていう連中の権利は強大だ。
政治への参加もそうだが、特にタチが悪いのは『犯罪者に対する逮捕権』だ!!
証拠なんて1つも見つかっていないのに、貴族だという理由でそいつが捕まえた奴が犯罪者に早代わりするっていうこの国の穴だらけの法律だ!!
これを盾にお前を捕まえる事になってみろ、抵抗すれば殺すこともやむなしで、お前は殺されることに…いや、殺されることは無いだろうが、間違いなくこの国にはいれなくなる。
お前は俺の報復の為に、お前の親父さんお袋さんの夢を台無しにする気か!?」
…あ、そういう事か…。
ようやく分かった、ハロルドさんがこれだけ怒っている理由が。
心配されたんだ、一人でここまでやって、この後自分がどれだけの面倒を被ったのか。
確かに、これだけ行方不明者を大量に出したら国が動く、国が動くということは、貴族だって血眼になって探すだろう。
特に第一王子側は、今回の件で周りにいる貴族たちが一気に消えた。
ここで予想するとすれば、最近消えた貴族たちが一体何をしていたかということだ。
そして彼らが今回の武芸大会で、何らかの工作や根回しをしていたとなると、その被害にあった者に目が行くことになるだろう。
そこまで気付けば後はそれらしい理由をでっち上げて逮捕する、という筋書きをたとえ駄作だろうと敢行するだろう。
そうなってしまえば、俺はともかく、下手をすればハロルドさんまで逮捕される可能性が高い。
しまったな、完全に予想外だった。
そこまでの計算なんてしてなかった、完全に頭が報復にしか行ってなかったな。
「…ごめんなさい、考えが足りてませんでした」
「…お前の事だ、どうせいざとなったらエルライド王子に言って何とか釈放してもらえばどうとでもなるとか思っているのかもしれないが、いくら王子でも犯罪者の可能性、しかも有力な下手人を釈放するのは難しいぞ。
そうなれば、冒険者ギルドもお前を守るのが難しくなる。
一冒険者を守る為だけに国と戦うのはあまりにも利益が無いからな。
お前がランク8とか9の冒険者なら話は別だが、お前のランクは3だ。
ランク3の冒険者の為に、国に喧嘩は売れない」
現在このソラージュ王国にランク8以上の冒険者は3人しかいない。
全世界から見てもランク8以上の冒険者は少ないから、それだけ危険な依頼をしているらしい。
…やばいな、詰んだか?
「あと、お前の言っていた悪魔か?
それもまずい、下手にバレると教会が騒ぎ出す。
アマリア教は悪魔を根絶推奨しているからな、いくら強い悪魔だろうと、聖騎士とよばれる戦力5000を相手に戦うのは無理だ」
な、なんと、俺、下手打ちすぎて八方塞か?
い、いや、けど俺はあの日のアリバイはしっかりしているぞ。
あの日俺は3日程度で行ける範囲の街に行って冒険者ギルドで生存報告をしている。
しかも宿屋はそっちの宿屋を空間転移で部屋に直行している、俺があの街にいた事を証明出来る筈だ。
「意地の悪い貴族なら、魔法で何とかしたからどうとでもなるといえるな。
考えてはいるが、まだ難しいな」
ま、マジか……そこまで追い詰められるのかよ。
さすがに小手先だけのアリバイじゃ魔法っていう都合の良い言葉で潰されてしまうのか…。
『ユーリいるかい?
エルライドなんだけど』
…ヤバイ、エルライドから魔道具越しだけど連絡が来た。
どうしよう、お説教第二弾なんだろうか?
『お説教?
ああ、無能どもを処理してくれた件だね?
あーうん、出来れば面と会ってお説教もしたいけど、それはまた今度ね。
話はちょっと別かな…と言っても、今回の件に関わる事だけど』
ああ、あるんだな、お説教。
俺はやぶ蛇を突きたくないので、話を黙って聞く事にした。
『うん、今陛下から今回の貴族行方不明事件についてお触れが出てね、『犯人は帝国が放った刺客の可能性が高い、だから貴族達を探すのは王国が指揮を取る』っていう事になったんだ』
………ん、どういう事だ?
「そ、それは本当ですかエルライド王子!?」
ハロルドさんが身を乗り出して俺の魔道具をひったくった。
あれ、ハロルドさんさっきのエルライドの言った意味分かったのか?
俺さっぱりわからんかったんだが…こういう深い考えの出来る人ってすごいよなぁ、人生経験が無駄にあるだけで深くない俺にはよくわからないぞ。
『本当だよ、つまりこの件は貴族が介入する事は出来なくなった。
例えそれらしい人間がいたとしても、まずは王宮に報告してから指示を仰ぐ事になる。
つまり、報告した所を僕が、または陛下が握り潰せば『ユーリというハーフエルフが怪しいです』って報告しても潰されておしまいさ。
無能な兄についてはそもそも今回の件で大きな声を上げられないから、ただ黙っているしかない。
陛下はあの無能が何をしていたのか、気付いていたからね。
都合よく行方不明の貴族、掻い摘んで言えば、ロクデナシ貴族共を消せて闇に葬る理由が出来て喜んでいたよ』
「…へ、へぇ、そういう事だったのか?
そりゃありがあだぁっ!?
な、何で俺叩かれたの!?」
ナニ、助かったからこれでおしまいなんじゃないのか?
あとハロルドさん、そうポンポン頭叩かないでください、頭が割れたらどうしてくれる。
「ったく…ユーリ、今回の件、国王陛下にバレたっていうことだぞ?
つまり、近い内非公式でお前と陛下がエルライド王子を介して会う事になる」
…え、いま、ナント?
『あーうん、誓って言うけど、秘密裏にユーリを闇に葬ろうなんていう事はしないから。
僕の協力者であるユーリに一目会いたいって陛下が聞かなくてね…。
あ、君の両親の事については話していないから、陛下に真実を話すのかどうかは好きにしていいから。
あと、陛下は僕の味方の一人でもある、今回かなり無理をしたけど、少しくらいオイタをしても何とかなるから、そこまで心配する事は無いよ?』
「へぇ、そりゃすごい、王様公認で貴族殺せるんだ?
さすが俺のご主人様、これで俺も眠れない夜を過ごさずにぃひぃっ!?
は、ハロルドさん、い、いまの、いままでで一番痛かった!!
目から火花が出たよ!?」
「王子、ユーリが調子に乗るようなことを言わないでいただきたい!!
庇う事も出来ないような事をしでかしたらどうするのです!?」
「そ、そこまでしないよ!!
俺今回の件ですごく反省した、しました!!
だから、次はもっと計画を立てて、自殺に見せかけてから殺せぶっはぁっ!?」
『あー、ハロルドさん、ハロルドさーん?
ユーリも十分反省しているようだし、今日はこの辺で…』
「いま何を聞いていたんですか王子!!
このバカ、また物騒な事言い出していたんですよ!?
反省なんてしていないじゃありませんか!!」
『あ、はい、スイマセン…』
え、反省してるよハロルドさん!?
いま言ったじゃん、行方不明じゃなくて、自殺に見せかけて殺して、尚且つ遺書とか置けば完璧なはずじゃないの!?
けど、拳骨食らったって事はダメっていう事なのか?
あーもう、じゃあどうすれば良いんだよ、政治闘争って本当に面倒だな。
邪魔な奴はサクッと殺せばそれで終わりじゃん、何がおかしいんだよ?
「何でもかんでも殺す事を最初に考えるな!!
まずやる事はエルライド王子に報告だ!!
そのあとに判断を仰げばあとは王子の指示に従え!!
その時にどれだけやれば良いのか聞けば、その範囲内でいくらでも好き放題出来るだろうが!?
ユーリ、お前また前みたくやる事が過激になり過ぎてるぞ、自覚していないのか?」
………え、そう…なのか?
俺、前みたいにヤバイ状況になってるのか?
…………あー、言われてみれば、俺随分とやり過ぎてる感があるな。
頭に血が上って…っていうのもあるけど、前みたいに殺す事に対して胸のモヤモヤを感じなくなってる、危ない傾向だ。
「う…そういえば……そうかも、です。
楽しいは無くても、満足してました…です」
「で、報復は楽しくなくとも満足は出来たと?
それ、殺す事に満足したって言い換えても良いよな?
お前の大嫌いな快楽殺人者的な思考な気がしてならないんだが、そこ、どう思うよ?」
ハロルドさんからの視線が痛い、グサグサくる。
「…う、はい、否定の仕様がありません。
全面的に俺が悪いです、殺しあり気での行動は、皆さんにとても不快な思いをさせていたと思います、反省しています、はい」
『はは、ユーリが本当に反省してるよ、これならお説教も必要ないかな』
エルライドがなんかいってるが、さすがに俺も凹むんだぞ?
思い出すと正直サイコパスも真似できない方法であいつら殺していたよな。
悪魔の供物にして、尚且つそいつに魂ごと食らわせるとか救いの無い殺し方をするなんて、俺の嫌っている外道的思考だ、いくら頭に血が上った報復だからって、あそこまで酷く殺す事なんて無かった。
はぁ、いくら闇魔法の影響を受けてるとはいえ、こうまで危ない思考に陥りやすい俺ってなんなんだろうな。
やっぱあれか、身の程知らずな力を得たから精神が歪んだのか、それとも、母さんから秘術を継承した時、どこかミスがあって俺の魂に傷が入って壊れ始めているのか?
「分かった以上、意識して直していきます。
ありがとうございました、ハロルドさん」
「分かったんならいい、俺からの小言は以上だ。
それと、怪我を治してくれてありがとうな、仕事を辞めないで済んだぜ」
ハロルドさんに頭を撫でて、そして笑顔のお礼をもらった。
ううむ、さすが爽やかイケメン、今までの頭の痛みが若干和らいだ気が…イケメンパワー恐るべし。
本当によかった、ハロルドさんが死ななくて。
あ、やばい、安心したら涙腺が緩んできた
「…ぐすっ、と、とりあえず、ギルドに復帰しても毎日見に行きますから!!
ハロルドさんが何か面倒事に巻き込まれたりしたら、依頼ほったらかしてでも解決しますね!!」
「……お前、本当に反省したのか?」
『うーん、やっぱりお説教は必要だね。
ユーリ、明日僕の執務室に来てね?』
ハロルドさんとエルライドから何故か苦言が漏れている。
そしてお説教第二弾が決定した、解せぬ。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




