第20話 噂の守備隊と鉢合わせ…偶然ですよ?
次は21時投稿です。
その日、俺は前日に楽しんだ誕生日のおかげで酷く気分が良かった。
あの守銭奴のノエルがまさか高価な魔道具をくれるとは思わなかったからな。
本人は『先行投資です』といっていたが、それだけの価値があると思ってくれた分だけでも嬉しいもんだな。
他にもお忍びでエルライドと隻眼の奴が祝いに来てくれたのにも驚いた、隻眼はエルライドの護衛としてだから来たくなさそうだったが、それでもそれらしいプレゼントもくれたので、少しは見直すことにする、その内名前で呼ぶとしよう…ハロルドさんに名前聞かないとな。
エルライドは王都の高級料理店を貸し切ってくれたのが誕生日プレゼントだといって好きなだけ食べさせてもらった、さすが王族、太っ腹だな。
アドルフはかなり古い魔道書をくれた、どうやら俺の魔法が一部独学なのに対して、宝の持ち腐れは良くないと言いたかったのだろう、ありがたく頂戴した。
そのあと念願の俺特製の魔道具を渡すと大喜びして高級料理店から出て行ったのは少し呆れたが。
そしてハロルドさんなのだが…服をくれた、しかも黒いのじゃない奴だ。
俺の好きな色は黒だ、あの黒服連中の着ていた服は特にお気に入りだから、依頼をしない日でも同じ服を着回しているくらいに好きなのだ。
あのしっとりとした肌触り、音を立てない素敵設計、防水加工もされているなんて素晴らしいとしか言えないだろ?
なのに、ハロルドさんがくれたのは見た目がまるで貴族のお坊ちゃんが着ていそうな服だったのだ。
しかも採寸していないのにサイズぴったりとか、不思議を通り越して不気味だ。
そしてプレゼントのチョイスが服だ……俺、大丈夫だよな?
ハロルドさんは『たまには違う服を着てみろ』と言っていたが、せっかくのプレゼントを袖にしないまま異次元バッグの肥やしにする訳にはいかない。
気分は良いが、服がいつもと違うので少し痒い感じだ。
まぁ今日は何もしないオフの日だし、たまには王都を回ってみよう。
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王都の市場には何でも揃っている。
服から食料品、書籍、更には魔道具まで売っているのだ。
しかも別の場所では曲芸師までいた、本当に何でもあるな。
珍しい食品やインクが薄れて読めなくなった書籍まで、本当に何でも揃っている。
「活気があるな、さすが王都の市場だ」
俺は露天を巡っては冷やかしていたが、おいしそうな食べ物を見つければすぐに買い食いしていた。
さすが王都だな、露天の食い物までかなりのレベルだ、特にこのランク2の魔獣の串焼きとかすごくうまい、香辛料が利いてるな。
串をこっそりと火魔法を使って一瞬で灰にして手を空いた状態に戻すと、俺は次の露天を巡っていく。
たまにスラムの孤児達が食料品を強奪していってるが、まぁこれも日常茶飯事なんだろうな、誰も驚いていない。
にしても孤児か…そういえば、前エルライドがスラム対策について良い案が無いか聞いてきてたっけ。
父さんも王都のスラムについてかなり困っていたらしく、あそこは犯罪の温床になっていて抜け出すのが難しいらしい。
しかもかなり古い組織があるみたいで、そこの頭領と交渉しようにも首を縦に振ってくれないらしいんだよな。
一度スラムの人間として生まれたら、子供の頃に抜け出せるならまだマシで、一度足を突っ込めば間違いなく深みに嵌るっていってたか。
…俺がやると正直闇魔法一択で不味い事になるんだよな…正直前みたいに虐殺にしかならないから、あんまりしたくはねえんだが。
正直精神年齢36のガキが百戦錬磨の闇組織の頭領と交渉したってどうしようもない、エルライドが協力を求めてきた時に指示に従えばいいか。
しかしここは熱気がすごい、鉄板でもの焼いているっていうのもあるが、人の熱気って奴か?
「っ、わるいっ!!」
―――と、俺と同じ位のガキがぶつかってきそうになったから、俺は寸前で避けた。
甘いぞクソガキ、掏る相手間違えたな?
「ちっ!!」
しくじった顔をすると、クソガキはすぐに逃げ出した、捕まれば王都守備隊に突き出されると知ってるからだろう。
王都守備隊、王族を守る近衛騎士団とは違う、王都の守備を任されている軍事組織だ。
前世の記憶に照らし合わせると、軍隊と警察のちょうど中間の立ち居地にいる連中だ、しかもこの組織には貴族の子息、特に出来の悪いバカが集まっていて、よく問題を起こしている。
そしてその元締めがこの国の第一王子だというんだから、もしこいつが王になったらこの組織がつけ上がるのが目に見えていた。
…父さんの、エルライドの為にも、こいつらは邪魔だな。
「―――捕まえろっ、ドロボウだ!!」
何だ、また泥棒か、活気がありすぎて警備する奴がいないのは少し問題だな、今度エルライドにいってみるか?
…ん?
「どけよチビ、邪魔だ!!」
考え事をしていると、猛ダッシュで走って来る薄汚れた服を着た子供が走ってきた。
さっき言っていた泥棒はこいつか、さて…捕まえるか。
「誰がチビだとこのクソガキ、物理的に俺より小さくしてやろうか!?」
進路を邪魔していた俺を突き飛ばして逃げようとしたんだろうが、人様の身体的特徴を悪し様に指摘するとは良い度胸だ。
ちなみに物理的な方法は考えていない、グロイ事しか考え付かないけどな。
俺は伸ばしてくるクソガキの手を掴むと、捻り上げて転がした。
「うわぁっ!?」
勢いよくもんどうりうって転んだクソガキは俺に何をされたか分かっていなかったが、膝を擦り剥いているのを無視してすぐにまた走り去ろうとしたので、今度こそ押さえ込んだ。
「よーし捕まえた、大人しくしろよクソガキ、俺に対しての悪口は高価買取だ。
具体的には尻が真っ赤になるくらい引っ叩くのが今回の罰だな」
「こんのっ、はなせ、はなせよこのっ!!」
暴れているが完全に押さえ込んでる以上クソガキが動ける訳が無い、何せ空間魔法でこいつの周りの空間固定してるからな。
にしても必死だな、やっぱりこいつが泥棒だったようだな。
スラムが荒れているとはいえ、こういうガキが盗みを働くとは気分が悪いぜ。
「待てこのっ―――む?
捕まえたか、よくやっ―――ちっ、混血のガキか」
うわぁ、出たよ大層なゴツイ鎧着たゴロツキが。
これが王都守備隊か、なるほど、これはエルライドが気に喰わないのも納得だ、品性が腐ってやがる。
口の臭さもあるが、中身も腐ってるのが原因の腐臭か、気持ち悪い。
「おい混血、そこのコソ泥をよこせ、窃盗の現行犯だ」
うーん、さすがヒューマン至上主義に毒されたクズだな、当たり前に俺の事混血って差別してやがるよ。
さて、本当はこのクソガキ引っ叩いて突き出そうと思ったが…気が変わった。
「コソ泥?
なに、このガキ何か盗んだのか?
ぱっとみ何も盗んでいないみたいだけど?」
実際このクソガキは何も持っていない、転がした時と押さえ込んだ時に金の擦り合う音なんて何もしなかった。
「気安く話し掛けるな、気持ち悪い。
だがいいだろう、盗まれた店主がそこにいてな…おい」
「そっ、そいつですぜ!!
そのガキが俺の店の売り上げ盗みやがったんだ!!
金貨3枚も盗んだんだ、絶対に返してもらうぞ!!」
いかにもさっき思いついたような三文芝居だ、慣れているだけあってか大根役者じゃない所がこいつらの下劣さを感じるところだな。
ていうか他の見物してる奴らは何してやがる、まるで見世物みたいに遠巻きにしやがって。
前世の時と一緒だな、野次馬根性じゃねえけど遠巻きに見て被害が来ないようにびくついてやがる。
しかもイラつくことに、その状況を楽しんでるゲスがいるがいるってことだ。
「ざけんなっ、通りがかっていきなり盗人呼ばわりされたら逃げるだろうが普通は!!
おい、頼むから放せよ、放したら俺が何も持ってないって証明してやるから!!」
…やっぱり狂言か、まあ分かりきってはいたが、こういう場合どうやって証明するんだろうな。
「いいや、逃げている間に他の仲間に渡したかもしれないのでな、詰め所に連れて行くのは変わらん!!
混血、これが最後だ、そのコソ泥をこちらに渡せ!!」
「え、やだ」
あ、やべ、反射的に本音が出ちまった。
まあいっか、別に。
「きさまっ、王都守備隊、このアルヘルダ・フォン・ブリヒアー様に逆らうのか!?」
「うわぁ、自分の事を様付けしてる奴俺はじめて見た。
よってたかってこんな貧相なガキ1人苛めて楽しんでるゲスに様とか…笑える」
いやホント、ばっかみたい。
こんなクズが王都中に蔓延っているとか、王国やばいんじゃねえの?
こいつのステータスを確認してみる。
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名前:アルヘルダ・フォン・ブリヒアー
種族:ヒューマン
性別:男
年齢:32
魔法適正値
火:15
地:10
水:10
風:10
無:10
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しょぼい、しょぼすぎる、あと年齢高いな、おっさんじゃん。
ていうか、32のおっさんが自分の事を様って…あいたたた、痛々しいよう。
「何だと…そうか、貴様もそのコソ泥の仲間なんだな、そうだろう!?
はん、混血風情が、我等王都守備隊を敵に回して、タダで済むと思うな!?」
「妄想逞しい奴だな、気持ち悪い。
狂言をして弱者から金を取って悦に浸ってる奴に従う訳ねえだろ、鏡見てみろよ、恥ずかしい自分と御対面出来るからよ?
……場よ固まり閉ざせ」
俺はゲス2体に空間魔法『空間固定』を詠唱して動きを封じると、ゲス共の元へと向かった。
ゲス騎士は動こうとしたが何故か身動きが取れない事に喚いているが、まぁ無駄な努力だわな。
クソガキが逃げようとしたが、固定化を解いて引っつかんで連れて行く、まだ逃げんでくれよあとが面倒なんだ。
「放せよ、お前馬鹿か、こいつら敵に回したら王都にいられなくなるんだぞ!?」
「馬鹿はお前だクソガキ、今お前が逃げてもスラムと結託してるこいつらのゲスなお仲間がお前ら捕まえて痛めつけるに決まってるだろうが、少しは頭働かせて考えろ」
「っ!!」
クソガキが黙った所で俺はゲス店主の目の前に立った。
「キサマ、この混血めっ!!
この俺に何をした!?」
「……なぁ店主、お前は本当にこいつから売り上げの金貨3枚を盗まれたんだよな?」
「そっ、そうだ…こいつは盗人だ!!」
闇魔法で記憶を読み込まなくても分かる、こいつは黒だ、ウソツキだ、そういう目をしている。
1日の制限がある以上、闇魔法は慎重に使わないと不味いんだが…まぁ、1回でいけるか?
「なぁ…本当の事を言えよ店主?
正直になれば、こんな茶番すぐ終わるんだぜ?
悪いと思っているのなら、誠意を以って、大きな声で宣言してくれよ?
本当に…本当に、こいつが金を奪ったのか?」
俺はゲスの言葉を無視して、共犯のゲス店主に魔法をかけた。
さぁて、これで面白い結果になるぜ。
「い…いいえっ!!
それは違いマスっ!!」
市場の一部がゲス店主の声に驚き視線を向けた。
突然大声を上げたゲス店主に、ゲス騎士も驚いていた。
「へぇ、何が違うんだ?」
俺はわざとらしくゲス店主に聞いてみた。
「俺は、王都守備隊の方々と結託シテ、何の罪も無い連中を陥レ、奴隷に落としていまシタ!!
分け前の大半を守備隊の方にお渡しシテ、そのお零れを俺はもらっていまシタ!!
本当ニ、申し訳ありませんでシタ!!」
ゲス店主の暴露が始まった。
へぇ、そうやって金稼いでいたのかよ、さすがゲスな連中だよ、俺には到底思いつかない稼ぎ方だな。
「な、何を言っているキサマッ!?
気でも狂ったか!?」
「いいえアルヘルダサマ、俺が間違っていまシタ!!
何の罪も無い連中を陥レ、金を稼いでいた自分に後悔しているのデス!!
このような悪事、神はきっとお許しにならナイ!!」
そして何度も何度も壊れたレコーダーみたいに同じ事を繰り返すゲス店主の大暴露は次第に人を集めていく。
…頃合か。
「聞きましたか皆さん!!
この人達は何の罪も無い子供に罪を着せて奴隷にし、金銭を稼ごうとしていたんです!!
そんな非道な事を、許していいんですか!?」
「ゆ、許せるもなにも、キサマ、ナニをっ!?」
ゲス騎士が喚くが、お前のシナリオはもう無くなってるんだ、気付けよ。
そらきたぞ、お前らを弾劾する連中が。
「―――許せるものか!!」
「なんて酷い、こんな小さな子に罪を着せようとするなんて!?」
「しかも王都守備隊の連中が裏で手を引いていたんだろ?
えげつねぇな」
「こんな連中に俺達は守られているのかよ…」
さぁて、一般市民の皆さん?
思う存分、好き放題に連中に今までの鬱憤も纏めて言っちゃってください。
その間に俺らは消えるからさ。
「おい、今の内だ、逃げるぞ」
「え…おいっ!?」
こんだけやったんだ、これで王都守備隊の悪事の1つは大暴露された。
その対応に今後手一杯なるだろう、ガキ1人相手にしてる場合じゃないからな。
念押しにゲス2人には俺とクソガキの顔を忘れるようにしておいたし、報復はされないだろう。
俺は市場から抜け出すと、クソガキを路地に放り込んだ。
「ってえな!!
おい、本当に逃げて良かったのかよ!?
さっきは逃げるなとか言ってたのに、今度は逃げやがって…意味わかんねえよ!!」
「いいんだよあれで、こんだけの騒ぎになったんだ。
連中はこの騒ぎが王都中に広がってお前1人にかかずらっていられなくなる。
あの大騒ぎになって逃げれば、もう問題だけが大きくなって、原因なんて気にもとめられなくなる。
お前だけが被害にあったわけじゃねえんだ、王都守備隊、さっきの店主、そして奴隷商人がグルになってやった悪事だぞ?
王宮が騒ぎにするに決まってるだろ」
「お、王宮って!?
…にしても、あの店主なんで話したんだ?
お前、なんかしたっけ?」
しましたとも、ばっちりと。
闇魔法『強制自白』っていう飛び切り最悪な奴をな。
この魔法は対象の『罪悪感』を魔法で強制的に増幅して、罪の意識に当てられて悪事を自白するんだ。
しかも本人は本当に罪悪感を抱いて自白するから、臨場感のある一人舞台が出来上がる。
まぁ軽い洗脳だわな、えげつねえがゲスのあいつらにはお似合いだ、罪悪感に駆られて何度も何度も罪を暴露し続ける人形になったゲス店主は死ぬまであのままだが、何人もの人生を潰してきたんだ、痛い思いして死ぬよかマシだろ、最終的には死刑だが。
「いや、なにも?
いい加減疲れてたんじゃねえのか?
良心の呵責って奴だな、本当に悪いって気付いたんだろ」
「……ふーん、そっか、じゃあいいか。
助けてくれてありがとよ」
「バカ言え、俺は混血呼ばわりしたゲスを大々的に潰しただけだ。
お前みたいなクソガキを助けた覚えなんてねえよ。
さっさと行っちまえ」
バカかこいつ、なに勘違いしてやがる。
俺は俺の為に、引いてはエルライドの夢の為に布石を打ったんだ。
この一手は間違いなくエルライドと対立している第一王子陣営に響く。
これを利用して、連中の勢力を少しでも削いで手先になっている王都守備隊の連中をどうにかして一新しないと、おちおち散歩も出来ねえよ。
「そうかよ、なら、そういう事にしておいてやるよ。
俺はシドってんだ、じゃあな」
クソガキ―――シドは手を振って路地の奥へと走って行き、曲がり角を進んで消えていく。
「…ったく、せっかくオフの日だったのに、面倒なんて起きやがって…ったくついてねえ。
にしてもあのゲス共、今度俺の前でふざけた真似したらもっと酷い目に…って、あ!!」
俺は路地の曲がり角にまで走って行った。
しかし、そこにはゴミが転がっているくらいで、他には誰もいない。
「しまった…クソガキを引っ叩くの忘れてた。
これじゃあ本当に俺が助けただけみてえじゃねえかよ、ったく。
しまらねえ落ちだな」
溜息をついた俺はシドを追いかけるのを止めて路地から出た。
市場で楽しんでゲスを潰して満足したし、帰るかな。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




