第19話 王都テンプレ、修練場は赤い
次は、18時投稿です。
王都に来て1週間経った、ハーフエルフのユーリだ。
ラザニアの街でもあったけど、テンプレがやってきました。
いや、さすがにランク3の冒険者が10歳、もうすぐ11歳のハーフエルフがなったって聞いた時の同じ冒険者、特にランク2の連中が黙っている訳が無かった。
まぁ、普通はそう思うわな。
こんなチビより自分達が下とか、まぁ思いたくは無い気持ちは分からなくは無い、理解出来んが。
そして一部のランク3の冒険者もこれに文句を付けてきた。
とはいってもこっちは本当に一部だ、実力を見極める目を培ってランク3になった冒険者は俺の前に立ってすぐに避けていった、獣人が特に多かったから、死臭でもしたのかな?
そして現在、俺はギルドに隣接してある練兵場に来ている。
俺1人に対してランク2、3の冒険者が…何人いるんだろうな、たくさんいる。
しかもこの状況を面白がったアドルフのヒゲ野郎が見世物みたいに金を取っていた、出演料取るぞあのヒゲめ。
金を取るだけ取ったらどっかいきやがった。
「はんっ、ギルドを騙した罰は受けてもらうぜガキが!!」
「1年も経たない内にランク3になれる奴がいるわけねえだろうが、化けの皮を剥がしてやる!!」
代表っぽいランク2と3の冒険者がそれぞれ好き勝手にのたまってる、威勢が良いなこいつら。
そんなこと言われてもなぁ…気付いたら一気にランク上げちまってたんだから、しかたねぇじゃん。
俺もまさかここまでの事になるとは計算外だったんだからよ。
「んーじゃあ、はじめるか、誰でもいいから掛かって来ていいぞ?
とりあえずお前らが満足するまで遊んでやる、俺は素手で相手してやるから、お前らは魔法でも魔道具でも何でも使え。
それでも、お前らじゃ俺に傷一つ付ける事なんて無理だからな」
挑発に乗った連中が頭に湯気でも立っているかと思うほどに怒っている。
今回は俺にとっても修行だ、ファミリーの連中みたいに半殺しも不味い、派手さはあるが瀕死にさせないよう気を付ける、いわゆる『手加減』を覚えるんだ。
さぁこい三下ども、俺の手加減の練習台になってくれよ。
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「心配だな…」
ハロルドはユーリと冒険者達の戦闘を心配そうに見守っていた。
普段浮かばせている爽やかな笑顔はどこにも無く、普段から仲良くしている弟的存在を見守る兄のようだった。
「ハロルド先輩、ユーリ君のこと心配なんですっ!?
や、やっぱり2人ってそういう関係なんですかっ!?」
ハロルドの後輩に当たる受付女子が詰め寄ってきた。
興奮している後輩にこいつもかと思いながらハロルドは溜息をついた。
新進気鋭のランク3冒険者、ユーリとハロルドにまつわる心無い中傷の事である。
ラザニアの街から来た可愛らしい冒険者と元主任受付の爽やかギルド員の親密過ぎる関係はすぐに噂となって王都を駆け巡っていた。
普段爽やかさを崩さない辺境帰りの熟練受付が彼だけに普段見せない、親密な間でしか見せないような口調になり笑い合っているのである、冒険者ギルドの受付の一部が一種の異界に見えたと同僚の守銭奴受付は語っていた。
ハロルドからすれば『勘弁してくれ』としかいえない状態だった。
確かにユーリとの関係は受付と冒険者の関係を逸脱しかけているように見えるが、それもこれもユーリの『人見知り』が原因なのだ。
はじめてラザニア支部に来た時もそうだった。
普通男の冒険者ならば―――ユーリは男の子ではあるが、精神年齢上男である―――普通ハロルドのような男の受付ではなく3人娘の方に向かうだろう。
しかし、ユーリは3人娘が『怖い』といって聞かず、朝の部で不人気だったハロルドの受付にばかり来ていたのだ。
そんな関係が半年近く続けば口調も柔らかくなるというもので、ユーリもハロルドを通してラザニアの街を去る時は3人娘と何とか挨拶が出来る程度には話せるようにはなっていた。
あのラザニアの街でユーリとまともに会話を出来ていた者といえば、鍛冶師のダンファール親子とハロルド位だったのだから人見知りも筋金入りだろう。
とはいえ、別段人が怖いという訳ではなく、対人関係の距離感が掴めない残念な子供にしかハロルドには見えなかったのである。
しかも価値観が独特である、たまたま見かけたからオークを倒してきたと討伐証明の首を見た時など、ハロルドはそんなハイキング気分でオークを狩るんじゃないと呆れた。
「やめなさいはしたない、下衆の勘繰りなど受付として品性を疑いますよ?
…ところで、本当のところはどうなのです?
今ならこの情報の拡散を防いでほしいというのなら、10万コルドから受けましょう。
情報操作なら更に40万コルド上乗せです」
「黙れ守銭奴め」
ノエルの誘いにハロルドは乗らずに、ただユーリと冒険者達を見ていた。
「では話を戻しましょう、先程の子も言っていましたが、心配とはユーリ様の事を言っていたのかしら?」
「…まぁ、3割ほどユーリですね、あとの7割は相手の冒険者達ですよ。
連中、ユーリが本当にただのハーフエルフのガキだと思って油断しなきゃいいんですが、あの調子だとダメでしょうね、副支部長を恨みますよ。
こんな大々的にやって…可哀想に、あいつら、多分この王都にいられなくなりますよ」
「…確かに、この目で直に見た訳ではないので不確かではありますが、ユーリ様の戦闘能力は見た目とは裏腹に遥かに高いのでしょう、ランク3の冒険者以上の気迫を感じます」
ノエルはこの1週間、ユーリが受けていた依頼をハロルドから教えてもらい何度か固まった事が何度もあった。
1日に達成する依頼が大量に出てきたのである。
しかも見つけた依頼は片っ端からハロルドを受付に朝一に届出をして出発し、昼になる前に終わらせて帰って来ては新たな依頼をとって届出をして出発、太陽が沈む前に帰ってきて依頼を達成させて帰ってくるのである。
ノエルがはじめてユーリと会った時、体調管理を大切にしろといった忠告など、初めから聞いていなかったのかと思いたくなるほどのハードペースだ。
しかも偶然遭遇したランク4の魔獣を見かけたからといって狩って帰ってきた時は、もうどうとでもなれと内心で諦めていた。
どういった手段かは不明だが、ユーリには見た目とはかけ離れた戦闘能力を有しているのだと、そうノエルは推測するしかなかった。
そんなノエルをよそに、ついに試合が始まった。
冒険者の1人がユーリに襲いかかる。
何も構えずにユーリは冒険者が自分の間合に入るまでじっとしていた。
「くったばれええええっ!!」
両手剣を構えた冒険者がユーリの間合いに入った瞬間、冒険者が宙を飛んだ。
しかも落ちたとき、受身も取れずにぐしゃりとつぶれた音を立てた冒険者を見て、観客の声援が一瞬だが静まった。
「……これは」
ノエルの呟きは練兵場の誰もが思っただろう一言だった。
大の大人が自分より遥かに軽く小さな細身の子供に吹き飛ばされた光景は、まるで悪夢としか言い様がない。
口が開いて塞がらない観客も続出していた。
ユーリと敵対していた冒険者達も動きを止めたほどの状態に陥ってしまったのである。
「…ユーリの戦闘能力は近衛騎士フィリップ・フォン・アルマーク殿と一対一で戦って傷一つ負わなかったレベルだったといえば、どれほどか分かりますか?」
ハロルドの発言に、聞き耳を立てていた受付や観客となっていた周囲の冒険者達に驚きの波が生まれてた。
「まじかよ、あの坊主、そこまで強かったのか?」
「うわー俺とチーム組んでる奴が今あっちで戦ってるぜ、どうにかして止めれないか?」
「無理だろ、あの坊主の手加減に期待するしかねえんじゃねえのか?」
「ユーリ君そんなに強かったんですか!?
心配って、ユーリ君じゃなくて相手側の冒険者じゃないですか先輩!?」
「……去年の武芸大会優勝者『斧乱瀑布』のサムズ様と互角の戦いをした彼と戦って…ですって?
ハロルド、ユーリ様はちゃんと手加減が出来るのですか?」
ノエルの質問に、ハロルドは首を傾げながら考えていた。
聞き耳を立てている他の受付や冒険者達はハロルドの答えをじっと待つ。
「…今日出来るようになる、とユーリは始まる前に言っていました。
先頭を切った冒険者の彼は残念ながらどこか骨が折れているでしょうね、おそらく半数になるまで、ユーリの加減の利かない一撃を貰い続けるでしょう、ご愁傷様です」
「「「死んじゃ困るからな!?」」」
全員の思いが一致した瞬間であった。
そしてノエルは席を立つと、足早に練兵場から去っていった。
ハロルドは横目で見ていたが、すぐに視線をユーリ達に戻した。
まるで子供が大きな人形を投げ飛ばしているような光景だが、現実をしっかりと見つめれば大の男を小さな子供がちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返しているのだ。
「な…なぁ、ハロルド…さん?
あの坊主と敵対しないようにするには、一体どうすればいいんだ?」
声をかけたのは、先程チームを組んだ冒険者がいるといった黒豹の獣人だった。
尻尾が忙しなく揺れている辺り、友人の安否が心配で堪らないのだろう、そして今後ユーリへの対応にもどうすればいいのか分からなくなっていたようである。
今回の決闘騒ぎにはハロルドの中傷も含まれている事もあり、ユーリと敵対している冒険者達もその噂を信じてユーリとハロルドに対してかなりきつい言葉を放っていた。
自分達の立場に置き換えれば腸が煮えくり返っていてもおかしくない状況なのだと気付いた黒豹の獣人は、この決闘後ユーリがどう動くのか気が気でなかったのである。
「そうですね…素直に謝るしかないでしょう。
見ての通り実力は証明されましたし、実力を見縊っていた事と、私とユーリの関係がいかがわしいものではなかったとでもいえば、収まるでしょうね」
「も、もし……もしですよ?
それでもあの坊主…いや、ユーリの怒りが収まらなかったら?」
「それは……」
ハロルドがこれまでユーリと話してきた中で、どうすれば機嫌が直るのかを思い出していた。
その間にも、軽快に宙を飛ぶ冒険者は増えていくが、決闘そっちのけでハロルドの周囲にはその答えを聞こうと集まっていた。
今後ユーリと関係悪化を防ぐ為の重要な情報を逃さない手はないと、周りにいた者達は察したのである。
「褒めてあげる事ですね、わざとらしくても十分です」
「そ、そんな事で?」
「ガ、ガキじゃあるめえし、そんな…って、あ」
「でも、本当にそんな事で大丈夫なんです?
ユーリ君人見知りだし、変に思われませんか?」
ハロルドは周りにいた者達の誰も考えてもいなかった答えを口にしたが、本当にそれで回避できるのかと疑問を口にした。
「…個人的な事で、あまり大々的に知られても不味いのですが…まぁいいでしょう。
皆さんも知っての通り、ユーリはハーフエルフです。
ハーフに対するこの大陸での扱いは、皆さんよくご存知だと思います」
「ああ、アマリアの連中の書いたご利益のねえ御伽噺の妄想だろ?
そんなんでハーフの連中が並みの生活も出来ねえなんて酷い世の中ってもんだぜ。
……たいていはヒューマンとの間に生まれるハーフが多いからな、殆どのハーフはそれで望まれずに生まれてからすぐに奴隷にされて親の顔もロクに知らねえ奴らも多いって話だ…って、おいまさか?」
アマリア教を最も信仰しているのはヒューマンの国家が多く、このソラージュ王国もまた国境はアマリア教であった。
そしてヒューマンの国家にあるアマリア教関係者はこの聖典に更に独自の思想を盛り込んでいた。
それが『ヒューマン至上主義』である。
ヒューマンこそが人種の中で最も優れた存在とし、他の種族を従える権利を持つと同じアマリア教関係者でも素直に頷けない思想に、ヒューマン達はこぞって信仰した。
そして奴隷が最も多いのがヒューマン達の国家で、ヒューマン達は他人種を奴隷にしては従わせ、意にそぐわない行為を悪辣な手段で従わせるという行為をしていたのだ。
ユーリもその内の1人だから、褒められるという行為で怒りが解消されるということなのかとハロルドを睨んだ。
「いいえ、むしろ逆です。
ユーリの御両親は大恋愛の末にユーリが生まれたらしいですね。
ヒューマンの父とエルフの母から惜しみない愛情を受けて育ったと、本人は言っていましたね。
特にユーリは自分の事を、『種族を超えた愛の結晶』と堂々と言ってもいました。
しかし、そんなユーリ達親子も世間の風には苦労していたようです」
ハロルドはユーリから聞いた真実を少しぼかし、幼くして父をなくしたあとは母と隠れるようにラザニアの街の近くにある山の洞窟で最近になるまでずっと2人で暮らしていたのだといった。
「ユーリの強さは確かに異常です、悪夢にしか見えないでしょう。
しかし、ユーリを鍛えた母親は1人になるユーリに辛い思いをしてほしくないという思いから、あれ程になるまで鍛え上げたのです。
そして長い間母親としか関係を持ってこなかったユーリには最近まで『友人』という存在がいませんでしたし、まず距離感というものが理解出来ていません。
私と仲が良すぎるのも、距離感の掴めないユーリが暴走した結果、皆さんの見えたああいう光景になっているんですよ」
ハロルドはそういうと、ユーリが最後の冒険者を手加減して倒しているのを見て苦笑した。
ユーリの雄姿を途中から見れなくなっていたが、最後の1人を手加減で来て倒したのを確認で来て安心したのである。
「ああ、特に褒めるのならユーリもそうですが、御両親を褒めるともっと効果的ですよ。
ユーリは2人の事を恥ずかしげもなく『愛している』といえるくらいすごい子ですから、そこを突けば簡単です、間違いないでしょう」
ユーリは過去を知った冒険者達はユーリがどれだけ大変な人生を送ってきたのか絶句し、一部涙を流す者まで現れていた。
そんな彼を知っていたから、ハロルドというヒューマンの青年はユーリに普段見せないほど親密な態度を示していたのだろう。
引いてしまえば、唯でさえ対人関係の理解出来ないユーリは更に孤立し、いつか大事件を起こしていたかもしれないのだから。
そんな2人の仲がいかがわしいなどと思える者は、もうこの場にはいなくなっていた。
「ああ、ですが…」
―――次の瞬間、爽やかな好青年だった顔が消え去り、誰も見た事の無い様な恐ろしい表情になった。
「俺の大切で大事な義弟に変なちょっかい出す馬鹿を見たら…火傷どころじゃあ済まないから、そこらへん、分かるよなぁ?」
この表情を見た全員が一斉に頷いた。
ユーリとハロルドの関係がいかがわしいなどと思う者はいなくなったが、すぐに『むしろハロルドさんの方がやばいんじゃ』と思う者が現れたのだった。
そしてそんなハロルドの反応にもめげない受付女子の一部は、『やはり2人の関係って…キャーッ!!』という、なんとも腐った妄想をしているのを見て、ハロルドは今度こそ無視すると決めたのだった。
「ハロルドさーーんっ、かっちましたー!!」
両手を大きく振ってハーフエルフの子供がハロルドの元へと駆けてくる。
距離感の掴めない憎めない子供は、ハロルド達の思惑など知らずに、何事も無かったかのような笑顔でいるのだった。
「…ったく、ユーリ、こんのバカっ!!
血塗れでドロドロじゃねえか、いったん宿屋に戻って新しいのに着替えてこい!!
んで俺の仕事が終わるまで待ってろ、祝勝だ、奢りだぜ」
「ホントですかハロルドさん、ご馳走様ですっ!!
1人も殺さずに手加減出来ようになったんで、頑張った甲斐がありました!!」
「あらハロルド、ユーリ様を餌付けでもしているの?」
ノエルが戻ってくると、白衣を着た魔法使い達が続けて練兵場に入ってきて冒険者達の元に走っていった。
ノエルの父が経営している治療院の魔法使い達である。
出張治療として、ノエルが連れてきたのだ。
ハロルドの言葉を聞きすぐにこの惨状となる事を予想したノエルはまさにこの中で一番の得をした存在なのは間違いないだろう。
「喧しいですよ守銭奴先輩」
帰ってきたノエルが開口一番ユーリとハロルドの関係を例えると、ハロルドが一瞬ノエルを睨み付けて黙らせていた。
「……何かあったんですか?」
良く分かっていないユーリをよそに、冒険者達の間からハロルドの二つ名が『火撃な保護者』と囁かれるのに、そう時間は掛からなかった。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想など、お待ちしています。




