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断罪後に娼館送りになったら、義弟が大金を持って私を迎えにきました(私たち不仲のはずでは???)  作者: 千堂みくま


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4/10

4 俺がいない間に何があったんですか?

「自分を大切になさってくださいと言ったでしょう。それに姉上は誤解していますが、俺はあなたを買いにきた訳ではありません」


不機嫌そうに言ってから、手をすいっと振る。

すると不思議なことに、氷柱は粉々に砕け散って霧散してしまった。


(すごい魔力ね。どう考えても主要キャラのような気がするんだけど……。駄目だわ、やっぱり思い出せない)


義弟という関係を抜きにしても、ユリウスの顔は整っている。

引き取られたばかりの七歳の時は髪がぼさぼさだったから、私は最初彼のことを女の子かと思っていたのだ。

お父様の後ろに隠れて不安そうにしていたせいもあるだろうけど、小さなユリウスは中世的な顔立ちで、守ってあげなくちゃと決意したくなるような可愛さだった。


でも成長するにつれて精悍な顔つきになり、今私の目の前に立つユリウスは、誰が見ても立派な美青年だ。

騎士として訓練を受けたからか、細くてもしっかりと鍛えられた体をしていると分かる。


(公爵家に義弟として入って、成長してから騎士になったキャラ……。結構いたと思うのよね。攻略対象が何人かいるタイプの作品とか?)


読んでいた漫画には、ゲームの世界が舞台になった作品もあったはずだ。

でもやっぱり数が多すぎて、ハッキリと「これだ」と思い付くものがない。


俯いて考え込んでいると、ユリウスが私の肩にそっと手を置いた。


「とりあえず、姉上の身に何が起こったのか教えてください。俺は王都に戻って来たばかりなんです」


「そうね……」


ユリウスに肩を抱かれたまま、ひらひらふりふりの飾りが付けられた広いベッドを通りすぎて、四人掛けのソファに並んで座る。


「あっ、そうだわ。お茶くらい出さないとね」


「気にしなくていいですよ」


「駄目よ、マダムからお客をもてなせって言われてるもの。それにね、これは私が生きていくための訓練でもあるの」


公爵令嬢ではなくなった私は、今後は一人で生活していかなくてはならない。

前世の記憶が蘇ったから家事について困ることはないけど、ユリウスが知っているリアーナは侍女に世話をされて暮らしてきた人間だ。

家事なんか何もできないはずの女の子なのだ。


(前世の記憶のことは話せないものね。努力してお茶出しくらいはできるようになったって、見せておかないと)


魔道具のポットでお湯を沸かして二人分のお茶をいれた。

ソーサーにティーカップを乗せてユリウスの前に置くと、彼は複雑そうな顔で言った。


「すっかり慣れたんですね。俺がいない間に……」


「そんな暗い顔しないでよ。悪いことじゃないでしょう」


ユリウスは「そうですね」と言ったものの、苦い気分は消えていないようだ。

私は彼の隣にもう一度座って、何から話すべきか考えた。


「私にも、何が起こったのかよく分からないのよ……。あっという間の出来事だったわ」


色々と思い出して遠い目になっていると、ユリウスが私の手を握った。


「姉上の努力は、俺が誰よりも知っています。辛かったでしょう。父上の件でも不在で、心細い思いをさせてすみませんでした」


「ユリウス……」


そうね。

あなたは私の家族だったから、誰よりも近い場所で私を見ていたものね。


「子どもの頃は家庭教師を呼んで、俺と並んで授業を受けましたよね。でも姉上は授業が終わってからも、一人で夜遅くまで復習をしていたでしょう。ドアから明かりが漏れていました」


よく見てるわね……。


「ダンスの練習もかかさずしてましたよね。足の運びが覚えにくいと言って、床にチョークで目印を描いて……。足首にできた靴擦れが痛そうでした」


「あの時は、あなたが魔力で氷を出してくれたのよね。それをタオルで巻いて、足を冷やしたわ」


その練習のお陰で、毎年学園で行われるダンスパーティーでは恥をかくことなく見事なダンスを披露できた。

過去の思い出に浸っていると、私の頬を涙が伝った。


「もういいわ、ユリウス……。過去を思い出しても、辛いだけだもの」


漫画として読んでいる時は、他人事のようにページをめくるだけだった。

でも私はただのキャラクターじゃなくて、生身の人間だ。

何年も生きてきた積み重ねがあるし、たくさんの思い出には感情もついてまわる。


あの努力の積み重ねは、全て無駄になってしまった……。

それを考えるたびに私は無力感に襲われる。


「じゅ、十年も頑張ってきたのに……、何も報われなかったわ。今は何も考えたくないの……。お父様に会いたい……」


とうとう涙腺が決壊して、涙がぼろぼろと零れた。

ユリウスは何も言わず、私の肩を優しく抱いてくれた。

これまで義弟には厳しい指導をしてきたけど、こんな姉でも優しくしてくれて……なんて心が広い弟だろうかと思う。

ユリウスにとっては迷惑かもしれないけど。




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