34 陛下と会う
翌日、私は魔女と一緒に陛下に面会した。
無事に闇属性の魔吸石が出来上がって、新しい魔道具が完成したからだ。
陛下はまだ政務に復帰するまでには至っておらず、ベッドから半身を起こした状態での面会となった。
「リアーナ嬢、この度は愚息が迷惑をかけた。申し訳ない」
私の姿を認めた陛下は深々と頭を下げ、私は慌てて「顔をお上げください」と言った。
「すでにジェレミー殿下から謝罪を受けております。もう充分です」
私の言葉に陛下は申し訳なさそうに苦笑する。
「宰相がそなたの身分を回復させようと奔走しているようだ。不便だろうが、もう少し待ってほしい」
「もちろんです。ありがとうございます」
「セドリックのことだが……」
陛下はしばし言い淀んでから、辛そうに顔を歪めた。
「あやつは廃嫡させようと考えている。私や議会の決定を無視して婚約破棄した挙句、勝手にそなたの身分を剥奪した訳だからな……。廃嫡は免れんだろう」
「そう……ですか……」
私としては複雑な心境だった。
かつては「この人の伴侶になるのだ」と努力を続けてきて、もう少しでその夢は叶うはずだった。
でも手ひどく捨てられて今の私は平民になってしまった。
だからセドリック殿下のことは正直に言って恨んでいるけども、陛下から廃嫡の言葉を聞いて少なからず動揺している。
(もし廃嫡になったら、セドリック殿下はどうする気なのかしら)
考え込んでいると、それまで黙っていた魔女が「その件ですが」と声を上げる。
「セドリック殿下が一人で暴走したのは、先日報告した魔道具が深く関わっていると思われます」
「洗脳魔術が掛かっているという、髪飾りだな?」
「はい。無論、全てを髪飾りのせいには出来ないでしょうが、このまま殿下だけ廃嫡して終わりにはできません」
「確かにな……。私の息子を歪めた責任は取ってもらわねばならん」
無念そうに言った陛下は、握った拳を微かに震わせた。
(陛下も被害者なんだわ……。大事な息子の人生が壊されたんだものね……)
アリサさんに出会う前のセドリック殿下は、いかにも王族らしい考え方を持つ王子様だった。
あの時のままの彼と結婚しても、きっと私は愛してもらえなかっただろうけど、お互いに国にとっては最良のパートナーになれたはずだ。
「そなたはアリサ嬢が黒幕ではないと言っていたな?」
陛下が尋ね、魔女がこくりと頷く。
「彼女の髪飾りには、非常に高度な魔術が組み込まれています。アリサ嬢には作れないだろうと判断し、宰相閣下は彼女の身辺を調査したようです」
魔女はそう言って、何枚かの書類を陛下に手渡した。
ざっと目を通した陛下は「人質か」と呟いた。
「アリサ嬢は、キャンベル男爵家で人質を取られているのだな?」
「体が不自由な実母を人質に取られて、離れで暮らしているようです。聖女として得る報酬も、ほとんど男爵に奪われているらしいですね」
「となると、まずアリサ嬢の母親を救出せねばならんな……。キャンベル男爵が黒幕か」
「そちらは我々にお任せください。陛下はまずご自分の体調を回復させましょう」
魔女はそう言うと、完成した魔道具を取り出した。
一見するとただの腕輪なんだけど、中心に真っ黒な石が嵌めこまれている。
私の闇属性をたっぷりと吸った魔吸石だ。
「聖女アリサの回復魔法は患部の時間を巻き戻すだけなので、病は繰り返すのです。陛下の病を治す方法は、現状ではこの腕輪だけでしょう。つけてみてください」
腕輪を受けとった陛下は、恐る恐るそれを腕に通した。
そして目を見張り、まじまじと腕輪を観察している。
「これはすごいな……、体のほてりが消えた。だるさが吸い取られるようだ」
「この黒い石には、リアーナ嬢の闇属性を付加させています。闇属性は魔力を吸う性質があるのです」
魔女は説明しながら、陛下の脈をとっている。
「脈も落ち着きましたね。ちゃんと機能しているようです」
「ありがとう、リアーナ嬢。そなたのお陰でまた政務に復帰できそうだ」
「お役に立てて何よりです」
私は腕輪の効果にホッとしていた。
もしこれで駄目なら、政治が不安定になるかもしれないと恐れていたからだ。
(王太子のセドリック殿下が廃嫡になるのなら、この国の指揮は陛下が取らないといけないものね)
ジェレミー殿下はまだ十一歳で、立太子するにはまだ早い。
まだしばらくは陛下が頑張る必要がある。
「リアーナ嬢の力ですが、もしかしたらセドリック殿下にも有効かもしれません」
「何……? 元に戻せるのか?」
「洗脳がどこまで解けるかは不明ですが、正気に戻る可能性はあります」
陛下は魔女の提案に一瞬だけ喜びかけたものの、「いや」と目を閉じた。
「元に戻せるとしても、あやつの罪が消える訳ではない。しかしそれでも……」
そこで言葉を切ってから、私に視線を向けた。
「自分が何をしたのか、自覚させることは必要だ。リアーナ嬢、苦労をかけてすまないが……愚息を救ってくれまいか」
陛下の頼みは、私には予測できることだった。
私の力を知れば、きっと頼まれるだろうと分かっていたから……私は頷いた。
「畏まりました。私がセドリック殿下を元に戻してみせます」
これは私にとっても必要な試練だ。
私が前を向いて、新しい人生を歩んでいくために。




