12 ユリウス vs 殿下1
昼休みの食堂はかなり混雑している。
中等部も高等部も、ほぼ全員がここで昼食を取るので相当な人数だ。
そこにセドリック殿下とユリウスという二人の美少年が一緒に現れれば、女生徒の視線を集めるのは必至だった。
「今日も混んでいるね。晴れているから、テラス席に行こうか」
食事を乗せたトレイを持った殿下が言い、私とユリウスも彼の後に続いた。
「殿下とユリウス様だわ」
「今日も素敵……」
女生徒の囁き声が聞こえてくるけど、二人と一緒に歩いている私のことは視界に入れていないらしい。
思わず苦笑してしまった。
(私は二人の付属品みたいなものかしらね。なるべく目立たないようにしていましょう)
私たちは普段、あまり人が来ない場所を選んで座っている。
寒い季節や雨の日は屋内の窓際の席で、今日のように晴れて暖かい日は会話が聞かれる心配のないテラス席だ。
テーブルまで来た殿下は最も端のテーブルを選んで座り、私は彼の向かい側に着席した。
そしてユリウスは私の隣だ。
これがいつの間にか自然と私たちの定位置になってしまった。
(昼休みは他の生徒とお近づきになるチャンスなのに……)
授業の合間にある休み時間はせいぜい十分程度で、誰かと親しくなるには短すぎる。
だからユリウスには昼休みを有意義に使ってほしいんだけど、彼は馬鹿正直に私の護衛を務めているせいで、他の生徒は公爵令嬢たる私に遠慮して近寄ってこない。
ユリウスに手紙を渡そうとした伯爵令嬢はそれを分かっていて、私とユリウスが離れるあのタイミングを狙ったのだ。
(朝のことをユリウスに話したいのだけど……。殿下の前では少し言いにくいわね)
いつの間にか無意識に、ユリウスをちらちらと見ていたらしい。
私の様子に気づいた殿下がにっこり微笑んで言った。
「どうしたの、リアーナ。ユリウスに何か言いたいことでもあるのかな?」
私はハッとして、軽く頭を下げた。
「申し訳ありません。殿下の御前でぼんやりとしてしまい……」
「僕のことは気にしなくていいよ。きみさえよければ、ここで彼と話したらどうかな?」
殿下の言葉で、私は周囲の様子を窺った。
隣のテーブルは空いているし、私たちの会話を聞かれる心配はなさそうだ。
「では、失礼して……。ユリウス、朝のことなのだけど」
「朝? 何かありましたか?」
彼は涼しい顔でちぎったパンを口に運んでいる。
朝に女生徒の告白を無視したことなんて、すっかり忘れているようだ。
ユリウスが告白という、勇気を振り絞った行動を軽視しているように見えて、私は頭痛がしてきた。
「あなた、女生徒から手紙を渡されたでしょう」
「ああ、あれですか。ご安心ください、俺は受け取っておりません」
そう言って、ふわりと柔らかに微笑む。
私はますます頭痛が強くなった。
「そうじゃなくて……! どうして手紙を受け取らなかったの? きっと彼女は悩みながらあの手紙を書いたはずよ。せめて読むぐらいのことはして、誠意を示さないと」
「それが誠意になりますか?」
ユリウスの声には少しの温度も感じられなかった。
怒りでもなく悲しみでもなく、彼は心の底から不思議に思っている様子で続けた。
「俺が彼女に好意を抱く可能性はまずありません。どんなことがあろうと、彼女と恋人にはならないでしょう。それが分かっていたから手紙は受け取りませんでした。俺なりの誠意を示したつもりです」
「ど……、どうしてそう言いきれるのよ……。知り合ってみないと分からないこともあるでしょう?」
遠目から見ても可愛らしい令嬢だった。
ほとんどの男子生徒なら、彼女の告白を受け入れていたはずだ。
あの子で駄目だというなら、ユリウスが在学中に伴侶となる女性を選ぶ可能性は相当低くなるだろう。
そこで私はあることに気づいて、義弟の顔をまじまじと見つめた。
「ユリウス……。あなた、まさか」
「はい、姉上」
ユリウスの紺碧の瞳がきらきらと輝いている。
ようやく分かってくれたか、と言いたげな期待に満ちた瞳で、私は緊張しつつ言葉を続けた。
「女性が苦手なの?」
「……」
ユリウスの瞳の光は急速にしぼんでいった。
彼はがくりと項垂れて、小さな声で「どうしてそうなるんだ」と呟いた。
「え? 違うの?」
「あはは! なんて面白いんだ、きみたちは」
私たちの様子を興味津々で見守っていた殿下が大笑いしている。
殿下はひとしきり笑ってから、ユリウスに視線を向けた。
「そうかぁ、ユリウスは女生徒から告白されたのか。さすがだね。きみならモテそうだと思っていたよ」
「……セドリック殿下にお褒めいただき光栄です。でも殿下の方がよほど女生徒から慕われているのでは?」
少しも嬉しくなさそうな顔でユリウスが答えると、殿下の笑みはますます深くなった。
どこか意味深な微笑みだ。
「そろそろ確認しておきたいんだけどね。きみは将来の伴侶を選ぶ気はあるのかな?」
「どういう意味ですか」
「言葉通りの意味だよ。きみとコンテルノ公爵が義理の親子だと、誰もが気づいている。でも噂にならないのはリアーナが僕の婚約者で、いずれきみが公爵家を継ぐと内定しているからだ。将来のコンテルノ公爵を敵に回す馬鹿はまずいないからね」
殿下が私たちの込み入った事情に切り込んできて、私は驚きに息を飲んだ。
(殿下が今まで何も言わなかったのは、ユリウスが公爵家の令息としては未熟だから手加減していたのね)
でもユリウスは十三歳になり、すっかり貴族として相応しい教養やマナーを身につけた。
そして将来のことを真剣に考えるべき段階に入った。
セドリック殿下はユリウスへの手加減をやめたのだ。




