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断罪後に娼館送りになったら、義弟が大金を持って私を迎えにきました(私たち不仲のはずでは???)  作者: 千堂みくま


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10/21

10 愛せそうですか?

コンテルノ公爵家が王都に構える屋敷には、大ホールと小ホールがあった。

大ホールは主に我が家が開催する夜会で使用され、小ホールは演奏家を招いた小規模なコンサート等で使っている。

どちらも床は絨毯ではなく、ダンスに向いた素材が使用されているから、私は小ホールの方でダンスのレッスンをすることにした。


「ユリウスは、ダンスのレッスンは受けているの?」


私とユリウスは一般教養はいつも一緒に授業を受けているものの、それ以外の時間は別々に行動している。

ユリウスが剣の稽古をしている間に、私はダンスやピアノのレッスン、そして護身術を習ったりと様々だ。


私がダンスについて尋ねると、彼は自信なさそうな様子で答えた。


「ワルツを、数回だけです」


「定番の曲ね。じゃあまずは、私とクリストフでダンスするわ。あなたはそこに立って、男性パートの動きを観察していなさい」


私はクリストフと侍女長のマーサを呼んで、ダンスのレッスンの手伝いをさせることにした。

マーサが小ホールの隅に置かれたピアノの前に座り、ワルツを弾き始める。


「クリストフ、よろしく頼むわね」


「はっ、お任せください」


執事の経験が長いクリストフは、相手がどんな身長、体型だろうと見事に合わせてくれる。

二回踊ってからユリウスの様子を窺った。


「どう? 覚えられそう?」


「足の動きがよく見えなくて……。うまく踊れないかもしれないです」


「まぁ、最初はそうよね。私も足の運びには苦労したもの。……あっ、そうだわ。チョークを使って目印をつけましょう」


「目印って、この薄く残っている円のことですか?」


ユリウスが床にうっすらと残るチョークの線を指差している。


「そうよ。これは去年私が床に描いた目印なの。今日はあなたのために、青いチョークを使いましょう。まずは基本のステップからよ。足の幅はこれくらいかしらね……」


私は青いチョークを使って、床にいくつかの楕円を描いた。


「楕円の横に、数字も記しておくわね。ここが最初よ」


全部を描いてから、ユリウスを呼んだ。


「いらっしゃい、ユリウス。踊ってみましょう」


「は、はいっ……!」


ユリウスはがちがちに緊張していた。

手も足も木の棒みたいにかちんこちんになって、恥ずかしそうに俯いている。

もっと体を寄せないといけないのに、私とユリウスの間にはがばっと隙間が空いていた。


「顔を上げなさい。あなたはユリウス・コンテルノでしょう。私に恥をかかせないで」


びしっと言って、ユリウスの肩をぐっとこちらに引き寄せる。

彼はハッとした様子で慌てて顔を上げた。


「も、申し訳、ありません」


「その姿勢を維持しなさい。さぁ、いくわよ」


我ながら、ひどいことを言っているわねと思った。

ユリウスは恐らく男性パートを一人で踊る訓練だけで、女性と組んで踊ったことはないはずだ。

ユリウスが覚えるまで何度もステップを繰り返していると、次第に足首にズキズキと痛みが走るようになった。


(また靴ずれになってしまったわ)


私の異変に目ざとく気付いたクリストフが、「今日はここまでにしましょう」とダンスを止める。

そして私を横抱きにすると、部屋の隅に置かれたソファに座らせてくれた。


「お嬢様、足が痛いのではないですか?」


「え……!? 姉上、怪我をしたのですか!?」


何が起こったのか分からない様子だったユリウスは、慌てて私の足元にしゃがみこんだ。


「血が出てる……。無理をさせてごめんなさい」


「あなたのせいじゃないわよ。合わない靴を履いていた私が愚かだっただけよ」


マーサが薬箱を持ってきて、私の傷に軟膏を塗り、丁寧に包帯を巻いてくれる。

だんだん痛みが強くなってきたけど、私はやせ我慢で笑っていた。

ユリウスは泣きそうな顔をしていたものの、何かを思い出したかのように右の手の平を上に向けた。

ぱきぱきと何かが氷るような音がして、少しずつユリウスの右手に氷の塊が出来上がっていく。


「すごいわ、ユリウス……! 上手に氷を作れるようになったのね」


「これを使って、傷を冷やしてください」


「ありがとう」


マーサが氷を布でぐるぐると巻いて、包帯の上から固定してくれた。

そして「休憩いたしましょう」と言って、テーブルに紅茶とお菓子を運んでくれた。


「どう、ユリウス。男性のパートは覚えられそう?」


「はい。ちゃんと練習して、今度こそ立派なパートナーを務めてみせます。姉上のために……」


彼はそう言ってお菓子を一口食べると、しばらく考え込む様子を見せてから顔を上げた。


「姉上は、セドリック殿下を愛せそうですか?」


いきなり変なことを言うので、私は飲んでいた紅茶が喉の奥に入って盛大にむせた。


「きゅっ、急に何を言うのよ! お茶を零すところだったわ」


「すみません。でもどうしても確認しておきたくて……」


俯いてモジモジしてから、さらに言葉を続ける。


「僕は後ろからずっとセドリック殿下を見ていましたけど、殿下は少しも楽しくなさそうでした。目が笑っていませんでした」


(よく見ているわね……)


私はユリウスの観察眼に感心してしまって、しばらく何も言葉が出てこなかった。

私が殿下に対して感じたことと全く同じ感想を、弟は口にしたのだ。


「そういうことを言うのは、ここだけにするのよ」


「はい、分かっています」


「今日はお互いに初対面だったから、セドリック殿下が楽しくなさそうでも無理はないでしょう。それにね、王族と貴族の結婚なんてそんなものよ」


「好きじゃない人と結婚してもいいんですか?」


ユリウスの問いに、私は「あら?」と疑問を覚えた。


(ユリウスのご両親は、恋愛結婚だったのかしら。やっぱりこの子は市井で暮らしてきたのね)


私のお父様とお母様も仲のいい夫婦だったけど、家の都合による結婚だった。

家格が合うから二人は夫婦になったのだ。

私の両親は運よく愛し合う仲になれたけど、そうでない夫婦も貴族には大勢いることを私は知っている。

だからユリウスに淡々と答えた。


「いいも何も、そういうものと私は割り切っているわ。愛はなくても尊敬できる相手ならいいかなって」


本音を言えば、お互いに愛し合って夫婦になれたら最高だろう……とは私も思うけれど。

現実はそこまで甘くない。


「……僕は割り切ったりできなさそうです」


弟はぼそぼそと言うと、まっすぐに私を見つめた。


「好きな人と結婚できないなら、ずっと一人でいいです」


「ちょ……、ちょっと落ち着きなさい、ユリウス。結論を出すのは、まだ先でいいんじゃないかしら?」


これから先、あなたはたくさんの令嬢たちと出会うでしょう。

きっと気の合う誰かを見つけるはずよ。


(……と言いたいところだけど、貴族は政略結婚が普通よと宣言した私がそれを言ってもね……)


説得力がなさすぎる。

自分は恋愛を諦めているのに、ユリウスには「いい出会いがあるわよ!」なんて。

すごく白々しい。


(でも跡継ぎのユリウスが結婚を諦めているなんて、由々しき事態だわ。そのうちユリウスも割り切れるようになるかしら……。親から受け継ぐ価値観は侮れないのよね)


どう説得するべきか悩んでいると、彼は私の手をそっと握った。


「僕は姉上の騎士として生きていきたいです。あなたの傍にいるのが望みです」


(そこまで騎士になりきらなくていいわよ……!)


たった一日の護衛で、すっかり騎士道精神に目覚めてしまったんだろうか。


(困ったわ。どこで教育を間違えたのかしら……)


「あなたの意思は騎士として立派だとは思うわ。でも今は、気持ちだけ受け取っておくわね」


「はい。ずっと忘れないでください」


ユリウスはにこにこしながら私の手を握っていた。

そして彼は宣言通り、騎士学校に行くまでずっと私の傍にいたのだ。


すみません!

書き溜めするのでしばらく更新が途絶えます。

再開をお待ちくださいませ・・・!

書き終えたら一気にドバドバ更新するのでよろしくお願いします~

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