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「ラビットの木」



日中に片さなければならない冬の人生セットの収納もやっと終わったので、雪の降る午後に読書をした。


「ラビットの木」

美しい水彩画の挿し絵の本だ。


ゆるゆるとした平和に漬かった、馬鹿正直なものばかりのウサギの村があった。

村は大きな大蛇によって取り巻かれていた。

蛇は、好きなときにウサギを食べた。

ウサギたちは泣いて仲間を悼み、また日常に戻った。


ある時、満月の日に生まれた特別美しい毛並みの子ウサギが言った。

「こんなの、おかしいよ」


おかしい、おかしい、こんなのおかしい。


言葉はウサギたちにあっという間にしみわたった。


だけど蛇を退治するのは無理だった。

蛇は村をぐるりと取り巻いて、自分に疑問を持ったらしいウサギの言葉も聞いていた。


反乱の相談も逃亡の相談もできない。


ウサギ達は対処を思い付けなかった。

それで、子ウサギは悪魔と呼ばれた。


けれど疑問を覚えぬ頃には戻れなかった。


ちょっぴり余計な知識を持った老ウサギがいた。

彼は何も気づかなければ村はもう少し長く続いただろうと嘆いていたが、元には戻らないと諦めて余計な知識を吐き出した。


敗北の自由だ。


そうして村の真ん中にあった立派な枝の大木にウサギたちが並んで結実した。


蛇は舌打ちして、村を離れた。


賢かった子ウサギは大木の根本に押し込められて泣き続けている。

「気づかなければ良かった……」


作者の画家は命を断つ前に書いたという後書きを見てから、挿し絵をもう一度眺めた。


顔を上げると、窓硝子にキャンバスに向かう黒い影が見える。

フーッと息を吹きかけると、黒い影はびっくりしたようにキャンバスから飛び退いた。


目があった気がした。

黒い影は慌てて絵筆を放り出して、窓硝子から見えない場所に駆け込んで行った。


この後自分で死んでしまう結末までは変えなかったかもしれない。


僕は本を水槽にくれてやる。


さわさわ、さわさわ。

ラビットの木が揺らいだ。


そのまま色は溶けだし、悲劇は消えていった。


心までくすんでしまった灰色の子ウサギは泣き止んで、僕の膝で眠っている。


明け方、冬の森に姿を消すのを僕は止めなかった。


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