葬送
ある朝、せっけんが死んでいた。
僕のベットの横っちょでまん丸くなって死んでいた。
僕はご機嫌いかが、とキスしてやったけどよくも悪くもあろうはずはなかった。
泡が弾ける寸前に時計を止めた。
今日はいつもの一日を始まらせてはいけない。
考えた。
お風呂に入れてやるちょうどよい機会であったが、とっても上手にやらないと、猫の死骸風呂になってしまう。
もう日が昇ったことだし。
考えた。
夜を待ってお月様に放ってやろうかと。
でも今日は新月だから、四の五の言わず放り投げられたものを呑み込んでしまうだろう。
水槽がガチガチと音を立てた。
僕は知らんぷりをする。
お前たちが仲が悪いことなんてとうに知ってる。
目を瞑っていたから、土の中でもよいかもしれないと思ったが、まだ季節は変わっていない。
冬の地面は春を孕んで、受け入れるものを選り好みして機嫌が悪い。
キッチンの壁にピン止めしてあるたくさんのメモから電話番号を選んで葬儀屋を呼んだ。
棺を選べと言われてバイオリンケースを選んだ。
しっぽの長さがぴったりだった。
ぴしりと喪服を来た子ども二人がなんだかおかしな歌を歌ってくれた。
それで──おしまいだった。
僕はもう少し何かしたくて、医者を呼んだ。
葬儀屋たちはその間、居間でハイティーを楽しんでいた。
医者は聴診器をせっけんに当てて、それから僕の額に当てて「うーん」と言った。
「ここに少年用と大人用、男性用と女性用と両性用、老人用に、お一人様用と家族用と孤立者用、宗教者幹部用と平信者用と陰謀論者用、精神越境者用の説明があるんですがどれにしましょうか?」
医者が値段の違うチラシを見せた。
僕は少年用の説明を指差した。
「ふむ。坊っちゃん。残念ですが、この猫は非常に重い病気です。ポックリ病と言うのだが、治療に何十年も何百年も、何千年もかかります。うちの病院に入院させますが、ずーっとずーっと後にならないと退院できません。勿論、重い病気ですから面会謝絶です。ナニ、君が死ぬ頃には会えますよ。それじゃ」
葬儀屋たちが白衣に着替えて、ストレッチャーで医者と共にバイオリンケースを運んで行った。
僕はソファーでそれを見送った。
せっけんは子ども用の嘘の世界に行ってしまった。
ボコり、と止めた時計から泡が生まれた。




