道しるべ
あの後、俄然やる気に満ち溢れた紫姫ちゃん達を宥めるのはちょっと大変だった。
すぐ行こう! 今行こう!
って言われても、まだ準備が整っていないんだよね……。
なんとかかんとか、きちんと旅に出る為の準備を整えるようにお願いして、こちらの準備も出来たら迎えに行くと言う事で話がまとまった。
紫姫ちゃん達の方も、今行こうって言ってはいても、まだ何の準備もしていない状態だったみたいで、冷静になった輝さんがこっちに参戦してくれたから纏まった様なモノで、そうでなかったらもう少しもめたかも知れないなぁ……。
ついでに、死亡フラグについてもなんか聞こえてたらしくて質問されたので、教えておいた。
ケラケラと笑っていた紫姫ちゃんだったけど、笑い止むと一転して真面目な表情になり、小首を傾げながら口元を緩める。
「それじゃあ、そのフラグとやらも折っておくデスよ☆」
そうして、紫姫ちゃん達と別れてグラムナードに戻って、早3日。
今はアルと2人で、この町の人達が最初にこの地にやってきた時に暮らしたと言う住居の家探し中だ。
400年は放置されているに違いないと言う元住居だから、もう埃を通り越して土埃に変化してしまっている。
その粉塵を吸ってしまってひどい目にあったのもあって、2人とも彼が作ってくれた毒ガスマスク的なモノを付けて、軍手的なモノを装備して作業のしやすいツナギを着用している。
つまり、色気も減ったくれもない格好なのだ。
でも、コレが一番動きやすいので仕方がない。
こんな色気のない格好でも、『お揃い』であると言う事だけで彼が嬉しそうなのであんまり深く考えなくて良いかなーと思いながら作業を進めている。
ここで今探しているのは、コネコ大陸に渡る為に必要になるナニカ。
あちらに置き去りにされているモノと、繋がりの深いものが見つかれば、わたしの空間転移であちらへ転移する事が出来るのです。
アルは、何がその対象になるかは分からない物の、適当に何かを見付けるとわたしのところに持ってきてくれている。
まぁ、今のところ全部、該当する物が無い訳だけど……。
「……となると、君は代行者を決める事は出来ないのか。」
「そうみたいなんだよねぇ。」
そんな中で2人で話していたのは、代行者について。
何でこんな話になっているのかと言うと、どうも、少しずつわたしの神力が衰えていっているのが感じられていて、その事を彼に話したところ、管理者の神力の劣化版とはいえ有る程度の権限を使用できる代行者に紫姫ちゃんか輝さんのどちらかをお願いしてみたらどうかと言う意見がでたのだ。
「どうも、よっぽど『時流』や『空間』系の能力を使わせたくないみたい。なんというか……ひどく燃費は悪いし、解放した場合の縛りはきついんだよね。」
「ふむ……。私の方にも、他のモノに使えるようにするのが難しいものは有るのだが、君の方はもっと難しいのか。」
「代行者以外に私の権限で与えられるのは『空間』系の能力だけなんだよね……。しかも、1人1つだけ。」
「兄上に渡した『結界』と、リエラに渡した『空間移動』か。」
「アレが最大限なんだよね……。」
そう口にしながら、この部屋にも飾られていた壁像の埃をザッと払う。
いくつも見つかっているこの像は、多分アルの先代様を象ったモノなんだと思う。
持ちだされていない理由は、部屋の壁の凹んだ場所に直に彫られているからじゃないかな?
なんとなく、彼と似た面影のあるソレは、一つ一つ手で作られたモノみたいで一つとして同じものは無かった。
同じ部分があるとしたら、優しそうでいて、どこか虚無的で寂しそうな笑みだろうか?
それを見る度に、この町の過去を覗いた時に目にした、アルに良く似た男性の葛藤する様子を思い出して胸が痛む。
「アルのお祖父さんって、結局、どんな人だったんだろ……。」
心の中でだけ呟いたつもりの言葉は、口からこぼれ出ていて、彫りつけられた家具以外が全て朽ちてしまっているがらんとした部屋に虚ろにひびいた。
アルの、きっとトラウマになってるかもしれない人の事をこんな風に口にするつもりなんて無かった。
それなのに、なんて事を口にしてしまったのかと激しく後悔しながら彼の事を窺い見ると、意外な事に彼は記憶を手繰るかのような遠い目をして虚空を見つめている。
「……私が祖父と接していた時間は、長い様で短い。」
ポツリと彼が話し始めたのは、沈黙に耐えかねて私が言葉を探し始めた頃。
「彼の声を聞いたのは、本では学ぶ事の出来ないものを教わる時と食事の挨拶くらいで、雑談の様なモノはした記憶が無いのだ。」
「……そう、だよね。」
ネットゲームで話した時にもそんな感じの話は聞いていたから、今更と言っても良い位の話題だ。
彼にとっては辛い話題の筈で、だからいつもは考えない様に、気にしない様にしていたのになんであんな事を呟いちゃったんだろう。
心の中で猛反省していると、彼が思いもよらない事を言い出す。
「ただ、私が知らない祖父の姿と言うも興味はある。
もし、良かったら君が見た祖父について話して貰えると嬉しい。」
「え……?」
思わず聞き返すと、彼は理由を口にする。
「彼は、自らの記憶は私に遺さなかった。
輝影の支配者の力を使えば、知識も、記憶も、思いのままに私の中に刻み込む事が出来たのに、だ。
その方法ならば、私に教育を施す必要すらなかったのに。」
「……でも、わたしに見えるのは『声のない映像』だけだよ?」
「君が見て、感じた物を知りたい。」
「……分かった。」
一体、どんな心境の変化があったものか想像はつかなかったものの、わたしが希望に応える事を告げると、彼は機嫌良さげに耳を揺らす。
アルの疑問の答えがでるとは思えない。
けれど、今まで目を逸らす事しか出来なかった先代に、彼が向き合うつもりになってくれた事はなんだかとても誇らしい。
それから3日後、最上階の部屋の壁にぽっかりと開いた横穴の一番奥から、やっとブローチの入った小箱が発見できた。




