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むかしがたり 上

 迷宮から出ると紫姫ちゃんから、ちょっと遅めのお昼ご飯を物色しに屋台村に行く事を提案された。


「屋台村!」

「どーですぅ?」

「行く行く♪」

「んでは、れっつらごーですぅ~!」


 おー!

と、2人で拳を振り上げウキウキしながら、繋ぎ直したアルの手ごと、ブンブンと前後に手を振りながら彼女の後に続く。


「君は、屋台の類が本当に好きなのだな……。」

「んむ~♪ なんか、わくわくしない?」


 呆れ交じりでありながらも、どこか楽しげに耳を揺らしながら彼は私を優しく見降ろす。

その視線がなんだかこそばゆくて、私はさり気なく目を逸らした。

彼が優しくしてくれるのが、なんだか気恥ずかしいんだよね……。

VRゲームの時には、普通の事だったのに。

……泣いて良いって言われて、素直に泣いちゃった時から余計にかもしれない。

何をしててもしてなくても、ふっと、足元が無くなった様に不安になる瞬間があって、その時に彼と目が合うと泣きそうになっちゃうんだよね……。

心配掛けちゃうから、泣きたくないんだけど。


「ついたでーすよぉ~♪」


 紫姫ちゃんの言葉に、はっとなって周りを見回すといつの間にか屋台が沢山並んだ公園に着いていた。

結構な広さの丸い広場の中央には噴水があって、その周りをグル―っと囲むように大小様々な食べ物屋さんが並んでいて、辺りには美味しそうな匂いがたちこめている。

屋台村って言っても、イメージはフードコートに近いかもしれない。

沢山の屋台にぐるりと囲われる様にして、テーブルとイスが整然と並べられているのが目に入った。


「おおおおお~♪」

「りりんちゃんは何食べるですぅ~?」

「何がお薦めかなぁ??」

「……氷結シカの串焼きとか、氷結シカのブラウンシチューとか?」

「何故にそこで鹿セレクト?!」


 沢山の屋台の姿にテンションの上がるわたしに、何故か紫姫ちゃんはやたらとシカ推しだ。

さっき、あんだけわたしがビビってたのを見てたのに?

そう思って、抗議の声を上げると口元に手を当てて悪い顔で笑いだす。

アレだ。

例えるならば、昔のトゥーンの『シシシシ』と笑う性格の悪い犬みたいなかんじ。


「うしししし~♪」

「まさかの嫌がらせ?!」

「いえいえ、本当に美味しいんですよぅ~?」


 その企み事が成功した的な笑いに大げさに驚いて見せると、彼女は堪え切れずにケラケラ笑いながらお薦めのモノが売っているらしい屋台へ向かう。


「色んな種類を買って、みんなで少しずつ分けて楽しむのはどーです?」

「いいねぇ、そうしよっか。」


 アルと輝さんの2人に目を向けると、ソレで問題ないと言う返答が仕草で返されたのを確認すると、紫姫ちゃんは先頭に立って人ごみの中をスイスイと縫う様に進んで行く。

彼女は、私達に食べる場所を確保するように指示すると、お目当てだったらしい屋台の列にさっさと並ぶ。

その屋台からは、他の串焼き屋より一際香ばしいお肉の焼ける匂いが漂って来ていて、匂いを嗅いでるだけでもよだれが湧いてくる。

アルは、鼻をひくひくさせてる私の手を引いて、輝さんが確保したイートスペース的な場所に連れていく。


「おっちゃーん! 2本よろしくですぅ~♪」

「あいよー!」


 紫姫ちゃんが注文する声が、そちらを振り返りながら引っ張られていくわたしの耳にも届く。

2本って事は、アルとわたしで1本ってところか。

屋台から少し離れた場所に作られた、テーブル席は丁度空き始めたところらしく、いい感じに直射日光が当たらない程度の場所が確保されている。

 しばらくして、ようやく紫姫ちゃんが串焼きを両手に掲げて戻ってくると、そのこんがりといい感じに表面の焼けた串焼きにわたしの目はもう釘付けだ。

彼女は、あえて片方をアルに渡して、さっさと自分は齧りつくと嬉しそうな声を上げる。


「ん~♪ やっぱり、あそこの屋台が一番ですぅ~♪」


 渡された串を手に、それを目を瞬かせながら見ていたアルと目が合う。

わたしが口を大きく開けると、何か納得いった様に目を細めると食べやすい様に横向きにソレを差し出してくれる。

まだ熱い串焼きを、火傷しない様にフーフーと息を吹きかけて、思いきって齧りつくと思いの外柔らかくてあっさりと千切れた肉が口の中に飛び込んだ。

良い塩加減で程良く焼かれたお肉を噛みしめると、旨みの詰まった肉汁が口の中に広がる。

思わずほっぺを押さえると、アルがわたしが一口齧った部分をパクリと口に入れてしまう。


「なかなか……。」

「それ、わたしの……。」


 齧りかけをとられて思わず涙目になると、彼は面白そうに耳をピコピョコさせながらまだ肉の塊が3つ残っている串をわたしの手に押しつける。


「残りは君が食べると良い。」

「ええ???」

「他のも食べてみたい。」

「……おししょーさまって、小食ですもんねぇ~。」

「うむ。」

「んでは、遠慮なく。」


 そういえばVRゲームをやっていた時に、リアルではあんまり量は食べれないって言ってたな、と思いだす。

確かに、わたしがここに来てから食べてる量も随分少ない。

彼の、5歳だか6歳になる妹の方がよっぽど良く食べるって位だ。

 その後も、紫姫ちゃんが次々と買って来てくれるお料理を、みんなでのんびりと味わわせて貰う。

そうやって屋台を周る彼女の姿を見ていると、本当に何気ない動作でお財布をスリ盗ろうとする手や、間違った振りをしてお尻に伸びていく手やらをすり抜けていっているのに、ひどく感心する。


「姫ちゃん、アレ分かっててやってんのかなぁ……。」


 思わず、呟くと輝さんが首を傾げる。


「アレ……と言いますと?」

「あれやこれや、さり気なくかわしてるなぁと……。」

「……君は目が良いのだな……。」


 ポツリと、何やら寂しそうにアルが呟く。


「アルは見えないのか……。」

「うむ……。」

「……私や姫の特技の様なものですから。」

「「ああ、先読族だからか。」」


 期せずして、アルと言葉がハモった。

思わず目を見合わせて、発言が被った事に対してニマニマしていると、追加のブラウンシチューのお椀が目の前に置かれる。


「……『先読族』って、なんですぅ???」


 自分の席に座りながら首を傾げる紫姫ちゃんは表情は笑ってるのに、目は何故か笑っていない。


「えっと……?」


 思わず、助けを求めてアルの腕を握ると、彼は逆に問いかけた。


「今回、同伴して貰うと言う件について君達はどこまで聞いているのかね?」

「……世間知らずのおししょーさまが遠くに旅に出る事になったので、そのフォローが出来る人に同伴して貰いたいってい言う話だけしか聞いてないのです。詳細は、本人達に聞く様にと言われたです。」



わぉ。

超丸投げだ。

どこまで事情を説明するかはわたし達次第って事なんだろうけど、紫姫ちゃんはそれでよくこの話を受ける気になったもんだ。



アルも流石にその返事に頭を抱える。

まぁ、確かにコレだと何をどう説明したものか中々悩ましい。

それに、公園で飲食しながらっていうのもどうなんだろう??


「それと、さっきの『先読族』って言うのと何か関係があるです??」

「んー……。アル、遮音結界張ろうか?」

「……頼む。」

「ほいほい~♪」


 首を傾げる紫姫ちゃんと輝さんを含む、自分達をなぞる様にこちらの音だけを外に漏らさない様に結界を張る。


「こっちからは外に音が出ないようにしたよ。」

「うむ。」

「ところで姫ちゃん、そろそろ瞬きはしよう?」


 何からどう説明したらいいものやらと頭を悩ますアルを、瞬きもせずにじっと凝視し続けていた紫姫ちゃんは、その言葉にハッとした様に目を瞬く。


「あ、今、瞬きしてなかったです?」

「カッと見開いてた。めちゃこわい。」

「何としてでも聞きだそうと思うと、つい忘れちゃうのですぅ~……。」

「今、何から話せばいいか悩んでるみたいだからちょっと待って上げて?」

「じゃ、食べながら待つデス。」


 暫くの間、沈黙が流れた。

不意に、ポツンと紫姫ちゃんがわたしに問いかける。


「りりんちゃんは、おししょーさまとどうやって知りあったです?」

「……最初は、アルからお手紙くれたんだよね。」


 その時の事を思い出すと、今でも思わず口元が緩む。

メル友募集の掲示板で『女』だってうっかり開示してしまったせいか、物凄い量のメールが来た中に埋もれるようにしてあったアルの初めてのメール。

たった一行だけのソレは、なんだかちょっぴり求愛の言葉みたいだったのだ。


『いっしょう だいじ する ください』


 たった一行だけのそれを見ながら、パソコンの前で散々考えて出した答えが『一生涯の友達になって下さい』。


 と、細かい自己紹介文やポエムか!? って言いたくなるような返答に困るメールの中で、逆にソレはひどく目立って見えた。


『色々遣り取りしていくうちに、そういう関係になれたらいいですね。』


 だから、わたしは結構真面目にそう返したのだ。

なんでカタコト風なんだろうとかと思いながら。


「……聞きたい?」

「聞きたいですぅ~♪」


 そう言いながら、紫姫ちゃんの視線がわたしの横にずれる。

その先にあるのは、アルの耳。


「……説明考えてるんじゃなかったの?」

「君が何を話すのか気になって……。それに……」

「それに?」

「詳しく話すのなら、それに補足する方がいいかと。」

「おししょーさまは自分が聞きたいだけと言う訳なのですね?」

「そうとも言う。」


 2人のやり取りに苦笑しながら輝さんを見ると、彼は目元だけで笑って先を促す様に頷いた。


「それじゃぁ、わたし目線の昔語りをはじめまーす!」

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