★同伴者
愛弟子が旅に出る条件として提示してきたのは、誰かを同伴させる事だった。
彼女の口調や態度から、ほぼ、その同伴者は決定しているらしいのが分かる。
そして、出来る事なら同伴させたくないらしい事も。
それでいて、どうしても同伴者無しでは駄目だと言い張る理由は、……まぁ、私に対する信用の問題なのだろう。
すぐに思いだせるだけでも、言い忘れたり、故意に言わなかったり、ちょっぴり誤魔化したりして来た事がアレコレ心当たりがあるので、信用ないのは仕方がない。
……ただ、この旅が終った時にはもう、彼女が傍らに立っている事が無い訳で、最後に2人きりでいる事の出来る時間が同行者が居る事によって減らされてしまうというのは何とも腹立たしかった。
リエラの提示した同行者は、彼女と共に王都近辺でウチの工房の支店を開きに旅立った仲間の1人で、この世界でも珍しい先読族の娘と、その娘の連れ合いだと言う同じ種族の青年の2人組。
先読み族と言うのは、今現在はネコジャラ諸島にしか居ない闘姫族という種族の中に突然変異的にしか産まれない筈の種族だ、
その希少性の理由でもあるのか、彼等は他の種族と比べると生まれつき備えている属性の種類が多い。
少なくとも5属性以上を備えている為、その潜在能力はかなり高いと見ていいだろう。
基本的には、所有属性が多い程、内在魔力の限界値が高くなる。
そんな種族が、2人も彼の島から離れてここに居ると言うのは正直異常な事だ。
内心、驚きながらも何とか普通に振る舞う事に成功する。
ところで、先程、この娘の名を聞いてからずっと記憶を辿っているのだが、弟子の中に『アッシェ』と言う名の娘が居たのは思いだしたものの、彼女の顔と一向に一致しなくて困っている。
お陰で、この娘が本当に『アッシェ』という娘なのか悩んでいる状態だ。
リエラがそう呼んでいたから、間違いないのだとは思うのだが……。
こんなに特徴的な喋り方をする上に、そうそうみる事のない先読族と言う種族である事を考え合わせれば、一度見たら忘れるとは思えないのだが……。
ついでに、『アッシェ』と『紫姫』と、二つ名乗られたのだが、どちらで呼べば良いのだろう?
……りりんの呼び方に合わせればいいだろうか?
彼女がどう呼ぶかを見てから考える事にしよう。
顔合わせをしたところで、一緒に町を歩いてみたいと言い出した先読族の娘の言葉にリエラはあっさりと頷くとりりんに「適当に帰ってくる様に」と伝えてさっさと実家に戻って行った。
きっと、すぐに父上達を王都に送って行くつもりなのだろう。
彼等は明日から仕事があるらしいから。
りりんは先読族の娘に好きな場所を歩いて良いと言われると、お薦めの場所を訊ねる。
「そーですねぇ~……。北にあるジェルボア湖の畔は、割とデートスポット的な感じなのですぅ~。」
「ほほー。んじゃ、そこに行ってみよっか? アルもそれで良い??」
「君の行きたい場所ならどこへでも。」
いつものようにそう答えると、先読族の娘は探るような目を向けてきた。
先程から、何度も同じ様な視線を向けてくるが、一体何が知りたいのだろう?
私が首を傾げていると、先読族の青年……輝が彼女に何か囁きかける。
その言葉を聞いた途端に、彼女の視線が私の耳に集中した。
ああ、成程……。
先読族と言うのは、その名の通り数瞬先の事を見通す事が出来る種族だ。
その中でも魔力の強い者は、稀にだが、表層意識を読む事が出来る力をもつ事があるらしい。
彼女がそういった力を持っていて、その上で下位神である私の心を読む事が出来ない事に戸惑っていたのだと納得がいった。
私の感情は耳の動きに出るらしい。
先にソレに気が付いた彼が、彼女にソレを教えたのだろう。
私の耳を凝視する、彼女の目がまん丸に見開かれたのを見る限りだとそうに違いない。
ただ、読めるのが表層意識であったとしても、他人の心を勝手に覗き見るのは、流石に私の目から見ても良い習慣だとは思えないのだが……。
年齢から行くと、彼女も孤児院出身という事だろうか?
ならば、その能力を使ってなんとか世間を渡ってきたという事なのかもしれない。
世間と言うのは、私の思うよりもずっと厳しいものらしいから……。
「姫が失礼しました。」
彼がそう声を掛けてきたのは、リエラの作った『逃走植物と虫の森』と言う迷宮に入ったところで、私の前から彼女等が楽しそうに笑い声を上げながら走って行った時の事だ。
「いや、気にしていない。」
「貴方方に、特にご不満が無ければ同伴させて頂く事になりそうですね。」
そう口にしながら、彼女等が走って行く先を見て彼は微笑む。
つられる様にそちらに目を向けながら、こんな事が前にもあった様な気がして記憶を探る。
ああ……。
答えに行きつくと、思わずうめき声が上がってしまう。
りりんと一緒に過ごしていたVRゲーム内で、私の事を『兄さん』と呼んでくれていた少年が従妹の娘に向けていた視線と同じものを、彼が同族の娘に向けているのに気が付いて。
りりんが亡くなった時、その魂を彼の世界に接触する為に使っていた賢者の石に封じた為に、もう会う事のない友人達の事が不意に思い出された。
……もう、二度と会えないからと、思い出さない様にしていたのに。
あの世界で、私が彼等の元へ行けたのなら兄として、息子として迎えてくれると口にしてくれていた彼等はどうしているのだろう?
りりんの事は……知っているのだろうか?
思考が、普段考えない様にしているあの事に向かいかけた時、輝が声を掛けてきてハッと我に返った。
「早く追いかけないと、追いつけなくなりますね。」
「……うむ。」
追いついた先で、2人が何故か爆笑してるのを見たらなんだか腹が立って、彼女を少し強引に捉まえて思いきり濃厚なキスをして魔力を与える。
丁度、少し彼女の体内の魔力が減って来ている頃合いでもあるし。
と言うのは、単なる言い訳だ。
りりんがソレを嫌がるのは承知の上だったから、肩に齧りつかれるのは覚悟していた。
彼女は感情の処理がしきれなくなると、齧りつくという困った癖があるのだ。
今回は、覚悟したほどの痛みはなく、めずらしく手加減してくれたのかと様子を見て見るもその様子は無い。
内心で首を傾げながら、噛まれた箇所の確認をしてみたが、やはりいつも程ひどく噛まれてはいないらしかった。
いつもなら、人前であんなキスをしたのなら血が出るまで噛まれるモノなのに。
言葉にし辛い不安を感じながら、彼女の様子を観察しても、いつもと特に変わって見える事はなく、単なる杞憂かと不吉な考えを振り払う様に頭を振った。
彼女の感情の起伏が薄くなってきているなんて、きっと、単なる気のせいに違いない。




