迷宮都市アトモス散策 その3
暫く走ったところで、紫姫ちゃんも笑いが堪えきれなくなったらしく2人で爆笑してるところに、アルと輝さんが追いついて来る。
アルはちょっぴり不機嫌そうに。
輝さんはなんだか微笑ましいものを見るように。
不機嫌そう、と言うより寂しそう……?
彼の様子がおかしくて、首を傾げつつも近くまで来たアルから無言で差し出された手を取ると、グイっと強引に引き寄せられてそのまま抱きしめられた。
「え、ちょ、アル待っ……」
そのまま流れるように、彼の顔が近付いて来る。
慌てて避けようにも顎クイされてて逃げられない!
あっという間に、唇を奪われた。
「ん!」
ついつい、条件反射的に受け入れてしまってから同行者の2人が側に居るのを思い出す。
『あ!』と思ってそちらに目を向けると、輝さんはさりげなく余所に視線を向けているモノの、紫姫ちゃんはガン見してる。
見るな!
見ちゃアカン!!
そう思うのとほぼ同時にアルが魔力の譲渡を始めて、意識がそっちに持っていかれた。
この、エロタール~!!!!!
なにも、人が側に居る時にしなくてもいいじゃないか~!!!!!!
長いキスが終った後、しっかりお仕置き替わりに齧りついておいた。
涙目で、『補給しないといけない時間だったから』だのと呟いていたけど、無視しとく。
それ、半分位は口実だろう……。
本当は、置いて行かれそうになったのが原因なのに違いない。
……まだ、あんまり離れると不安になっちゃう状態なのに、悪ふざけが過ぎたかな……。
少し冷静になって来て、チラッと、噛みつかれた肩を確認している彼の方を窺っていると、紫姫ちゃんがコソッと質問を投げかけてきたので、コソッと返事を返す。
「なんか、離れるとまずかったです?」
「ちょっと……あんまりわたしが離れすぎると、今のアルは情緒不安定になっちゃうんだ。」
「ありゃりゃ。ソレだとアレは、悪ふざけが過ぎたですねぇ……。」
「わたしもうっかりしてて……ゴメンね。」
「他に注意事項あるです?」
「さっきみたいなのが、1時間に1度位あるかなぁ……と……。」
「……了解ですぅ。」
わたしの言葉に頷くと、彼女はアルに頭を下げに行く。
わたしも付いて行って、一緒に頭を下げる。
彼女だけに謝らせるのはちょっとどうかと思うのだ。
アルは、驚いた様に耳をビビク! と跳ねさせた。
「謝るの、そんなに意外……?」
「……ちょっとだけ……。」
あんまりにも素直すぎるその返事には、甘噛みで仕返ししておいたら、紫姫ちゃんに笑われてしまう。
「お師匠様と、りりんちゃんは随分と仲良しさんなのですねぇ~♪」
その後の迷宮見物は平穏に進んだ。
平原部分では、なんとかトマトがフラフラと空に舞い上がって捕獲されるところも見れたし、大根が地面から抜けだして走りだすところも見れた。
スイカが8本足で走り始めたのを見て、「そこは10本じゃないの!?」とツッコミも入れた。
スイカだから、そっちを意識したのかと思ったんだけど、イカって10本だよね?
いやしかし、そもそもこの世界にイカは居るのか??
キュウリが勝手に自滅するのを見て笑ったし、枝豆の蔓さばき(鞭さばき?)には素直に感嘆の声を上げる。
「いやぁ~! 面白かった~!!」
「なかなか……。」
「食べても美味しいので、お昼御飯で何か作るです~♪」
リエラちゃんと仲良しだという紫姫ちゃんは、彼女の仕事が褒められてとても嬉しそうにしてた。
続けて森の方へ移動すると、今度はちょっぴり変わった動物(魔物?)が現れる。
ヘビやカマキリやバッタの大きいのが出た時には、悲鳴を上げてアルによじ登ってしまって、紫姫ちゃんに指を差して笑われたけど。
でっかいクモが出た時には、思わず互いに握手してしまった。
元々のわたしは、虫とかてんで駄目だったんだけど、何故かこのクモとは意気投合してしまったのだ。
どうも、クモとかの糸を出す生物はわたしの『眷族』ってやつらしい。
そうしてとっても付いてきたそうなクモさんを、アルに頼みこんでこっそりとお持ち帰りする事にした。
彼なら、50センチもある大きなクモも、見えない様に出来るから。
いわゆる『認識阻害』ってやつだ。
アルの神力も結構便利だねと言うと、彼はちょっぴり得意げに耳を揺らした。
そうそう、『眷族』っていうのは、管理者一柱毎に1系統づつ存在する、私達の命令かを忠実にこなしてくれる生き物の事だ。
魔物であっても動物であっても関係なく、その種類に属する生物はわたしの指示に従ってくれるらしい。
ちなみに、アルの『眷族』はネコ科の動物なんだって。
……そっちの方が可愛くて良いなぁ……。
モフモフ……。
まぁ、自分の眷族はなんだか可愛く見えるもので、付いてきてくれる事になったクモさんには『ケニー』と言う名前を付けた。
引用はギリシャ神話の織物勝負に負けた女の子ね。
アルケニーのケニーだ。
アルと一緒に呼ぶと、なんだか笑っちゃいそうだから気を付けないと。
ちなみに、一番この森で私にとって怖かったのは、氷の角をもつ青いシカ。
奈良でシカせんべいを求めるシカに追いかけられてから、シカが怖くて仕方がないんだよ!
シカ怖い。
シカ怖い!!!
紫姫ちゃんは、わたしがシカから悲鳴を上げて逃げ回るのを見ながら爆笑してた。
ヒドス。
ちなみに、輝さんが狩ってくれたこのシカさんは、今日のお昼のメインディッシュだそうです。
わーい。
シカ肉って食べた記憶があんまりないから楽しみだ。(棒読み)
そういえば、ふと気が付いたんだけど……。
いつの間にか紫姫ちゃんが、わたしの事を『りりんちゃん』と呼んでるんだよね。
もしかして、少し距離が縮まったと言う事だろうか?
そうだと良いなぁ……。
なんだか、彼女と居るとヘンな気を張らないで済むと言うか……昔から知っている友達と一緒に居る様な感じがして心地が良い。
ちょっぴり、側に居て貰えると安心できるんだよね。
リエラちゃんが『男女の』同伴者にこだわった理由がちょっと分かった気がする。
女同士、男同士でないと言えない事がこれから出てくるかもしれないからなんだろう。
色んな事をきちんと考えてて、なんかすごいなぁ……。
わたしにとっては、ちょっと苦手な分野だ。
奈良の鹿相手に、せんべい投げつけて逃げ出したわたしが通ります……。(涙目)
シカ怖い。




