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迷宮都市アトモス散策 その2

 紫姫ちゃんの疑問には、後で纏めて答えると言う事にした。

多分、私がどこから湧いて出たのか以外にも疑問が出てくるだろうし、なによりあんまり人が居るところで話したい話題でも無い。


 湖のほとりをぶらぶらと歩いて行くと、少し奥まった場所に人がたくさん集まっているのが見えてくる。


「あの人だかりがある辺りに、『逃走植物と虫の迷宮』があるのですー。」


 『アレはなんだ?』と首を伸ばしていたら、紫姫ちゃんがすかさず説明を入れてくれた。


「へぇ~! あそこに迷宮があるのか。」

「……興味があるかね?」

「ちょっぴり。でも、危ないよねぇ……。」


 わたしが『迷宮』と言う言葉に反応して目を輝かせると、アルが『ゲームではあんなに行くのを面倒がったのに?』と言わんばかりに首を傾げる。

うん。

ゲームでは確かにあんまり行かなかった。

でも、でもね?

現実にあるって聞くと、少しで良いから覗いてみたいなーとか思っちゃうんデスよ。

かと言って、モンスター的なナニカも出るんだろうし、我儘言うのもどうかなぁと逡巡してると、あっさりと紫姫ちゃんからゴーサインがでた。


「んじゃ、チョロっと覗いて行くです?」

「ちゃんと、護衛としてお役にたてるところを御覧に入れられるかと思いますよ。」


 輝さんの頼もしいお言葉のお陰もあってか、アルも特別反対し続ける気は無いらしく、2人の言葉に頷くと私の手を引いて歩きだす。

愛弟子のリエラちゃんが作ったって『迷宮』だって言う話だから、どんな物なのか彼も気になってるのかな?


「どんな迷宮か、確かに興味があるな。」

「流石に、お野菜は収穫済みだとは思うですが、虫さん達は元気に暴れてると思うです―。」

「お野菜?」

「逃走植物と言うのが、トマト(ママト)トウモロコシ(コロン)きゅうり(キューカン)大根(ディン)枝豆(ソーン)すいか(ウォーン)の魔物なんですよ。」

「みんな、何らかの形で逃げるですよー?」

「へぇ。それで『逃走植物』なのか。」



成程納得。



 ちなみに、トマト(ママト)は葉っぱを使って空を飛んで、大根(ディン)は2股に別れた根っこを使って、すいか(ウォーン)は8本の根っこを使って走って逃げだすんだって。

みんな、逃げ出して暫くすると勝手に力尽きるんだけど、その状態だと萎びてしまって食用には向かない状態になってるらしい。

 逆に攻撃してくるタイプもいて、トウモロコシ(コロン)は実をマシンガンの様に撃ち出して攻撃してくるらしい。

でも、あんまり撃たせると実が無くなる。

きゅうり(キューカン)は実の部分を棍のように振り回して襲いかかってくるけど、すぐに実が折れて勝手に再起不能になるとか。

まさかの自傷行為。

枝豆(ソーン)は蔓の部分を鞭のように振り回してくるので、この中では粘り強く戦う方らしい。



というか、自滅型が多いな……。

なんかの嫌がらせ??



「まぁ、植物なのでどれも魔物としてはタカが知れてるのですが……。」

「ママトもウォーンも逃げる速度は遅いですしねぇ。ディンは以外と足が速いので、捕獲が難しいのですぅ~!」

「でも、なんか面白そう♪ 動いてるとこ見てみたいかも。」


 説明を聞いて、わたしがそう口にすると、先に立って歩く事になった紫姫ちゃんが笑顔で振り向いた。


「それじゃ、試しにそっちから見に行くですぅ~♪」

「稀に残ってる事もありますからね。」

「お野菜そんなに人気があるの?」

「食用としてはとても美味しいので、高級品の扱いでお小遣い稼ぎにはもってこいなのですぅ~♪」

「なるほど~。」


 迷宮に入る為に並んでいる行列に並んでいる間、そんな感じで会話を交わす。

のんびりとしたその会話は、なんだか、危険のある場所に行く前のものと言うよりも、遊園地のアトラクションに並んでいる様なイメージだ。

いいのか?

迷宮に入るのにこんなまったりモードで??

内心、首を傾げている内に私達の番になって、迷宮の入り口にやっと辿り着く。

崖の下には小さな石造りの社……というか、ギリシャのパルテノン神殿ぽいのを想像させる建物があって、その一番奥の岩壁に、うっすらと森とそこに住んでいる生き物らしい絵が描かれている。

こう、古代風の図柄で、いかにも大昔からここにありましたよ的な雰囲気だ。

これが、ごく最近になって創られた物だなんて誰も思うまい。

というか、わたしが思えないだけだけど。


「この壁画に触れて、『中に入るぞー』って思うと中に入れるですぅ~♪」

「ほほー。」


 紫姫ちゃんのお言葉に従って、さっそく試してみると一瞬視界がブレたと思うと、ムワッとした熱気に包まれた平原にある社の中に立っていた。

さっきまでいた場所が大分涼しかったので、寒暖の差が激しい。

なにはともあれ、わたしは今、猛烈に感動していた。

なんていうの?

こう、あれだ。


「……ふぁ」


 んたじー!

と叫ぼうとした口は、後ろからそっと塞がれ、代わりにフガフガと言う入れ歯を外したばーさんの様な声が漏れた。


「ここでその発言は不味かろう。」

「ふぁんふぇ?」


 耳元でそっと、アルに窘められてそちらに視線を向けながら訊ねるものの、口を塞がれたままなのでなんだか間抜けな音になった。


「人目が多すぎる。」

「そうやって、イチャイチャする方のがよっぽど人目を集めてると思うです―。」

「新婚なのでお目こぼし願いたい。」

「そんなの、身内しか知らない情報なのですぅ~☆」


 アルの希望を鼻先で笑い飛ばす紫姫ちゃんを、輝さんが可笑しそうに笑いながら優しく見詰める。

実際、前後して入ってきた人の視線を集めてるのは事実で、ソレに気付いてしまった事によって自分の頬が熱くなるのを感じた。

紫姫ちゃんが、アルの手首にチョップを入れたことによってやっと外れたソレから逃れると、わたしが彼女の後ろに隠れると、彼はショックを受けた様に耳を萎れさせる。


「ここでグズグズしてる内に、お野菜さんが狩りつくされちゃうので急ぐです~♪」

「ソレは大変。すぐ行こう、今行こう!」


 テンション上げていくぞー!

とばかりに、拳を振り上げる紫姫ちゃんに合わせて手を上げると、彼女と視線が絡まった。


「それじゃ、りりんちゃん(・・・・・・)行くですか♪」

「姫ちゃん、ご案内よろしく~♪」

「了解でーす☆」


 シュピっと敬礼すると、紫姫ちゃんはわたしの手をとって走りだす。

この世界の敬礼もわたしが知ってるのと随分近いものなんだな、と感心する間のほんの短い時間での出来事で、気が付いたら一緒に走りだしていたわたしの後ろで、アルの「あ!」と言う抗議の声が聞こえる。

その声に、紫姫ちゃんが『してやったり』と言わんばかりの笑みを浮かべて振り向いたので、わたしは思わず声を上げて笑い出してしまった。



紫姫ちゃんって、意外と悪戯っ子だね!

うん。

こういう悪戯は、嫌いじゃない。

2017/6/3 ルビ設定のミスを修正いたしました。

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