迷宮都市アトモス散策 その1
紫姫ちゃんに、簡単な地図を書いて貰うと家を出る。
この町は、大きく分けると4区画に分割されているらしい。
今いる辺りが旧市街……というか、村を作った時からある地域で北西部にあたる。
建築物は当時のままだから、あまり見てくれが良くないということらしい。
あと、この辺りは町の中では低所得者も住みやすい価格帯の住宅街なんだとか。
「町の西側は、ディナト大森林と言う魔獣の住む森があって、ごく稀にではあるものの森から魔物が迷い出てくる事があると言うのが、価格が抑え気味である理由なんですぅ~」
「なるほどぉ~」
「……世知辛い。」
安い物には理由があるってやつだね。
確かに、安くても危険があるかもしれない地域に、お金持ちは住まないだろうなぁ……。
さっき後にしてきた、リエラちゃんの実家は北東部。
こっちは富裕層向けの住宅が多いらしい。
東は森から距離があるって言うのと、もう一つ……。
「領主の屋敷があるのもありますけど、王太后様が暮らしている狩猟館と言うのがあるというのが大きいですぅ~☆」
「王族がいるんだ?」
「叔母上は、リエラの作った迷宮で騎士団を鍛えているらしいから……。」
「って、叔母上??」
「うむ。王太后は、父の妹なのだ。」
「……アルって、貴族だったんだ?」
「私はただの引き篭もりだ。」
「ソウデスカ。」
引き篭もり……。
町から出ないと言うのも、まぁ、引き篭もりの一種かもしれないけど……。
なんか違くないか??
まぁ、アルに今更『貴族』って言う称号が増えてもなんて事無いか。
神様の一柱だってだけで、もう十分すぎるし。
次に、南西部は探索者ギルドや宿の類が多い地域。
ちょっぴり治安に不安があるんだって。
まぁ、探索者と言うのは、説明を聞いて見たら冒険者チックな職業らしく、荒くれ者も多いらしい。
そう言う人が多くたむろしてるなら、そりゃあ『安心・安全』ってのとは見た目からして違ってくるだろう。
最後は南東部。
ここのほぼ端の方に、リエラちゃんが作ったと言う『騎獣の平原』と言う迷宮があるんだそうだ。
「『騎獣の平原』は、上手く騎獣を手懐ける事が出来れば纏まったお金が手に入るので、割と人気のある迷宮なのですぅ~♪ 通ってる探索者も多いですから、昼間は割と賑わっているですよ?」
「ほうほう。」
「姫のお薦めは、騎乗ウサギさんですぅ~♪」
「!!! 憧れの兎馬!?」
「君の世界ではロバと言うのではなかったかね?」
「詳しいね、アル……。でも、ソレは夢がないのよ~!!!」
兎馬はロマン生物であって欲しいのだ。
ロバの事だと知った時には、ショックのあまり地面に膝をついたものさ……。
紫姫ちゃんにお薦めを聞いて見ると、町の北部にはジェルボア湖と言う湖があって、その湖畔がちょっとしたデートスポットでもあるんだとか。
まずは場所も近いみたいなので、そこに行ってみる事にする。
「ちょっと、階段が急なので気をつけるですよー?」
と言う、紫姫ちゃんの言葉通り、湖へと降りる階段は急なものだ。
3階建の建物位の高さの崖にへばりつく様に刳り抜いて作られたようなもので、壁の側に寄り過ぎると岩肌で皮膚が削れそう。
落ちない様にと割と頑丈な手すりが付けられているのはちょっと親切。
2人で並んで歩くのは難しい程度の幅しかないので、アルの後をえっちらおっちら追いかける。
紫姫ちゃんの言う、デート風の男女の姿も見えるけど、なんか冒険者チックな人の姿も割とあって、ソレについて訊ねてみると、この町に二つある迷宮の内の一つが湖畔にあるんだと言う事で納得。
迷宮は、町の北と南にあるのか。
「それにしても引き篭もりの割に、健脚だね。」
さっきのネタで混ぜっ返すと、真面目な返事が返ってきた。
「工房は階段が多い。」
私の求めていたのはそんな真面目な答えじゃなくてこう……。
むむむ?
なんて返事が来れば良かったんだろう?
でも、もうちょっとオチャらけた答えが欲しかった……。
「弟子の部屋は最上階なので、階段の上がり降りが大変だったですぅ~!」
「エレベーターみたいなのは無いもんねぇ……。」
「えれべーたーって、なんです??」
思考を迷走させていると、紫姫ちゃんが代わりに話題に乗ってくれる。
ええ子や……。
この世界にはエレベーターに類する物は無いらしく、概略を説明したら、えらく驚いて羨ましがった。
まぁ、便利ではあるからなぁ……。
「アル、類似品的なのってないの?」
「作ろうと思えば簡単だが……。」
「簡単なのです?」
「作るのには膨大な魔力と、魔力操作能力が必要になる上、燃費が少々悪い。」
「お師匠様か、リエラちゃんにしか作れないと言う事です?」
「うむ。」
「つまらないですぅ……。」
紫姫ちゃんは、アルから詳細を聞くとつまらなそうに口を尖らせる。
「でも姫。移動で楽をするという事はその分、身体が鈍ると言う事でもありますから……。」
「そーだねぇ。お腹や足にプニプニのお肉が付くと言う悲しい事態になるかも。」
「う。ソレは胸だけで十分ですぅ~!」
はは。
紫姫ちゃん、おもしろいなぁ~!
階段を降りている時にも見えてはいたけれど、ジェルボア湖と言うのは随分と大きくて透明度の高い綺麗な湖だ。
遠くの方は、光を反射してキラキラと光っていてとても綺麗。
近くに寄ってみると、小さな魚が浅瀬を泳いでいるのがチラチラ見えてる。
ここから見える感じだと、魚の形は地球のモノと大差なさそうだ。
「りりん。」
「ん。」
アルに手を差し出され、その手をしっかりと握ると、彼の長い耳が嬉しげにピコピョコと跳ねる。
彼がずっと憧れていたと言うソレは、いわゆる『恋人繋ぎ』ってやつ。
「そんなに、この手の繋ぎ方に憧れてたの?」
「うむ……。」
前々から、VRゲームでは指を絡める事が出来ないとぼやいていたのを思い出してそう問うと、短く肯定の返事が返ってきた。
「……お2人は、お付き合い長いのです?」
「かれこれ……20年近く?」
「12の時からだから、17年だ。」
「17年もの間、お師匠様は、こんなに可愛い恋人さんを一体どこに隠してたのです??」
アルと手を繋ぎながら、湖畔を歩くわたし達を見ていた紫姫ちゃんが、不意に質問を投げかけてくる。
わたしの大雑把過ぎる返答を、彼が正確に訂正すると、より一層納得がいかないと首を傾げた。
確かに、一体どこから湧いて出たんだろうって言う存在だよね、私。
グラムナードの人が、当たり前のように受け入れていたから、ちょっぴり忘れかけてたよ。
ブルフォレの兎馬は大変萌えたモノです……。




