旅立ちの条件 下
噛まれた腕を擦りながらブーブー文句を言うアルの手を引いて、リエラちゃんの後に続いてお屋敷を出ると、綺麗な石畳の道が伸びている。
その割に、近くにある建物はなんだかぼろっちい感じの木造住宅で、なんだか今出たお屋敷が妙な違和感を醸し出す。
せめて、木目そのままの状態じゃなくペンキでも塗れば随分と外観が映えるんじゃないだろうか?
そう思いつつ首を傾げると、同じ事を思ったらしいアルがアスラーダさんにコソッと耳元で何かを訊ねている。
「ああ……この町は、急に大きくなる事になったせいで色々と整備が間に合ってないんだ。」
「2年……3年足らずで人口が200人位だった村が、5000人を超える町になってしまったので、住宅の建築が間にあってなくて、美観に手を掛ける余裕が無いんです。」
「ああ……。迷宮が発見されて急に大きくなったせいか。」
「その割に、道の舗装作業は以外と早いんですよねぇ……。」
「住宅と道は、必要な工程が違うせいだろう?」
「そういうもんですか。」
「外壁を綺麗に塗るだけでも全然、イメージが変わりそうなんだけどなぁ……。」
わたしがそう呟くと、リエラちゃんは驚いた顔をしてこちらをクルンと振り向いた。
「それなら、手軽に手を入れられますね。検討するように提案しておきます。」
「え? ああ、うん。参考になったなら良かったよ??」
「ありがとうございます。」
なんだか、お礼を言われた。
大した事言った訳じゃないのになぁ……。
それはそれとして、魔法がある世界だから、家とかもにょにょにょ! っと立ってしまったりするのかと思ってたんだけど、こう言う話を聞くとそうでもないらしい。
折角だからわたしも魔法をなんかしら使ってみたいし、後でアルに聞いて見る事にしよう。
神力関係やら、わたしの許可が無いと使う事の出来ない魔法とかを除外すると、今は何の魔法も使えないから、少し楽しそうだ。
お屋敷を出て、少し歩いたところにある広めのお家が目的地らしい。
先に立って歩くリエラちゃんが説明してくれたところによると、彼女が最初にこの村に来た時に住み始めた場所らしい。
そこに、ヒカルさんの連れ合い的な女性が住んでるんだって。
どんな人なのかなーと思いながら、彼の綺麗な横顔を眺める。
まつ毛長いな。
着いた先は素朴な2階建の木造住宅。
道中の家を見ていても思ったんだけど、ガラス窓って言うのは一般的じゃないらしい。
お屋敷にはステンドグラスっぽい窓はちらほら見かけたものの、他の家にはさっぱりだ。
まぁ、見た感じ富裕層の家って雰囲気でも無かったからそのせいもあるのかもしれないけれど、基本は木製の観音開きの窓を開けると、すぐにそのまま室内が見える感じ。
あ、カーテンはあるよ?
しかも、網戸もなーんもないので、虫なんかは入り放題に見える。
「アル、この世界ってガラス窓とかってないモノなの?」
「君の世界の様には流通していないな。」
「ガラスは高価ですし……窓の様な大きなサイズを作るのは大変かと。」
「そっか。だからアルの部屋も、小さな明かり採りの窓にしかガラスが付いてないのか。」
「君が望むなら作らないでもないが……。」
「不思議に思っただけだから。別に要らない。」
まぁ、地球でも板硝子が普及したのってきっと結構最近なんだろうな。
虫が入ってきたら嫌だけど、その時はアルに責任を取って退治して貰おう。
そう思いつつ、玄関をくぐると銀髪ツインテールの少し小柄な16~7歳位の女の子と、大きなクマ耳の男の子が出迎えてくれる。
彼女が名乗った名前に、なんだか聞き覚えがあって首を傾げていたんだけど、不意に思い出す。
ああ。
この子が、ツンデレのコンカッセちゃんか!
2角ちゃんの言ってた子かと納得して、ひとり頷く。
なんかすっきり。
一緒に居るクマ耳君、男性と言うのにはなんだか雰囲気が幼い感じがするけど、2人は夫婦らしい。
互いの小指に繋がる赤いリボンが、なんだかとても可愛らしい。
アルと短く挨拶を交わすと、2人は応接間に通してくれた。
銀髪ちゃんが部屋を後にして少しすると、彼女といっしょに輝さんと同じ種族の三つ目の女の子がお茶を用意してやってくる。
どうやら、この子が輝さんの『想い人』らしい。
互いの指に伸びている赤い糸を見る限りだと、両想いかな?
まだ、成就はしていないみたいだけど。
彼女も輝さんに負けない位長い、真っ直ぐな黒髪の持ち主で背丈はわたしとあんまり変わらない感じだから160ちょっと位かな?
わたしと同じ藤色の瞳の、綺麗な子だ。
多分、銀髪ちゃんと同じ位の年齢だと思う。
「三つ目族の紫姫と申しますですぅ~♪ 記憶喪失だった時の名残で、皆はアッシェと呼ぶのでお好きな方で呼んで下さいです~☆えっとぉ、お師匠様の奥様の……?」
「あー……、りりんです。よろしくー!」
少し語尾を伸ばした、特徴的な話し方。
わたしがやると間抜けにしか聞こえない話し方なんだけど、彼女がやるとなんだか刃物でもチラつかされている気分になるのは何故だろう?
微笑むように細められた目が、私の事を値踏みしている様に見えるからか?
暫くの間視線を交わしたところで、不意に彼女はリエラちゃんに向き直り、突然外出許可を求めた。
「取り敢えず、お師匠様と彼女をお借りして、街中ウロウロしてきていいです??」
「うーん……。まぁ、いきなり知らない場所をうろつくより安心かな?」
「ですぅ。」
「じゃあ、色々案内してあげて。」
「了解でーす!」
リエラちゃんは、彼女の事をよっぽど信頼しているらしくて、あっさりと許可を出す。
かくして、わたしとアルはお目付け役候補の2人と共に、アトモスの町見物に繰り出す事になった。
「リリンさん。」
「ほい?」
「アスタールさんと一緒にある程度満喫したら、グラムナードに適当に戻って下さい。」
「りょーかーい!」
リエラちゃんはこの後、アスラーダさんとフーガさん達を王都に送って行くらしく、帰宅は自己責任だと言い渡される。
その方が気楽なので助かるし、先に言ってくれて助かった。
何にも考えずに出掛けて、途中で『どうしよう?!』ってなってしまっている自分の姿が容易に想像出来るし。
「それじゃ、お目付け役の姫達は適当について行くので、お好きに町をうろついて欲しいですよー?」
「私達は後から付いて参りますね。」
紫姫ちゃんと輝さんのその言葉を受けて、アルと視線を交わす。
「では、お言葉に甘えて見物でもするかね?」
「……うん。異世界の町を歩くのって、初めてだねぇ?」
「ネットゲームで新しい町に行くのと、どう違うのかね?」
「おおう。そう言う見方もあった! っていうか、グラムナードの町中もまだ殆ど歩いてないよ??」
「それは明日から嫌でも歩く事になる。」
「そかー。」
『お好きに』と言うお言葉に素直に甘える事にして、アルと手を繋ぎながらぶらぶらと人気の多い方へと向かう事にする。
きっと、私達の好きにさせた場合にどうなるかをみたいんだろうから、本当に好きにしてみよう。
暫く、アトモス観光が続きます。




