最善の事
リエラちゃんへのご褒美は、大喜びで受け入れられた。
彼女の為だけに、特別に解放したのは『空間転移』だ。
あっちに行ったり、こっちにいったりと始終飛び回っているらしい彼女には、うってつけの魔法だと思います。
まぁ、便利なりに制限はあるんだけどね。
この魔法、術者が『物理的に』行ったことがある場所にしか移動できないのだ。
これは、この能力の管理者であるわたしも同じなので、この魔法を使ってお母さんのところに一足飛びに向かうって事は出来ないんだよね……。
とはいえ、一応、管理者特典で行ったことのない場所に移動する為の方法もない訳じゃないけど……。
「この魔法、すごく嬉しいんですけど……。」
「ですけど?」
「仕事が増えて困ります!!!」
「あー……。自分で管理、頑張れ?」
そこまで、面倒見れませんって。
「まぁ、リエラちゃんの場合、これからアルに突然呼び出されることもあると思うから、持ってて損はないよ。」
「え。」
「え?」
「何ですか、ソレ。」
「あや? もしかして知らない……?」
わたしがこの世界に転生したときに基礎知識として創造主様に組み込まれた情報の中にそれはある。
曰く、『代行者』の扱いについてだ。
代行者って言うのは、管理者である8柱の下位神が何らかの事情でその役目を果たせない場合に、次の管理者になる人間のことだ。
とはいえ、完全に成り代わる…用というか、下位神になってもらうために用意されたものではなく、本来は管理者の神力を一時的に代行したりその補助をするのが主な役目らしい。
で、だ。
その補助をしてほしい管理者が、代行者と離れた場所に居た場合、管理者はその代行者を自由に自分の下に召還する事が出来る。
ふるーいゲームで例えるなら、アイテムボックスの『特殊』欄に『リエラ』が入ってる感じ?
自分から振ってしまった話なのでやむなく説明をすると、彼女の目付きがどんどんと悪くなっていく。
思わず、その傍らのアスラーダさんに視線で助けを求めると、静かに目を逸らされた。
フォローは期待できないらしい。
「後で、本人には一発入れさせていただきます。」
可愛らしい笑顔で、リエラちゃんはそう言ったけれど、表情はともかく言動の内容が怖すぎます!
「自業自得……。」
ポツリとアスラーダさんがそう口にしたので、わたしも諦める事にした。
弟大好きなはずのこの人が庇えないんだったら、どうしようもあるまい。
まぁ、確かに言っておこうよって内容ではあるからなぁ……。
……軽く小突かれるくらいであることを祈ろう。
なにはともあれ、翌日アルを起こすことを約束すると、彼らは部屋を引き上げていった。
ちなみに翌日になって、アルのお腹に切れのいいストレートが吸い込まれて行ったのには声も出ない程驚いた。
滅茶苦茶鉄拳制裁だったよ……。
リエラちゃん、怒らせると怖い……。
妙に慣れた動作に、この制裁は割と頻繁に行われている事が察せられた。
アル、どんだけ彼女を怒らせてるんだ??
彼らが出て行って、静かになった部屋に改めて二人きりになると、なんとなく後ろめたい気持ちになりながら彼の眠る大きなベッドに乗って、すぐ横から彼の寝顔をじっと眺める。
改めてじっくりと眺めると、少し怖いくらいに整った顔立ちに少し気後れしてしまう。
本当に、実在する人間なのかと思ってしまうレベルだ。
完全に感情の抜け落ちた状態で眠っている姿は、呼吸のたびに胸が上下しているのを無視すれば、人形か彫刻だって言ってもいい位。
良く、VRゲーム内だったとはいえ、コレの横に立っていられたな、わたし。
いくら、彼と長い付き合いで更にVR補正で1割増し美形にみんななっていたとはいえ、中々の強心臓っぷりに我ながら感心してしまう。
むしろ、アル…アスタールに至っては現物より1割は落ちてた雰囲気だ。
前の世界でのわたしは、強いて不細工ではなかったけれども特に秀でた容姿ではなかったからこそ余計にそう思う。
コレに明日、『アル、お・き・て(はーと)』的なことをやるのかと思うと、なんだかとっても緊張する。
わたしが今のところ出入りしている場所に、鏡はないので確認することはできないんだけど、今生の父母は超美形だったから、わたしもそうであってくれたらいいなとは思う。
そうしたら、胸を張って隣に立てる気がするよ。
そうっと、眠る彼の頬ラインを確かめるように優しくなぞる。
滑らかなその感触に思わずため息が漏れた。
髭は殆どない。
アスラーダさんもそうだったし、フーガさんもそうだから、コレは種族的なものかもしれないな。
それにしても、30歳近いはずなのにすべすべ素肌とか、どんな魔法だ。
そこまで考えて、そういえばこの世界では魔力が高い人は20歳前後の姿のまま300年以上の時を生きるんだと彼から聞いていたのを思い出す。
道理で、若々しい姿な訳だ。
彼が、もしもわたしの住んでいた地球に来ていたら、きっとがっかりさせちゃったな。
地球では、このキトゥンガーデンのような方法で若さを保つことはないから、きっと年相応のおばさんの姿に幻滅されちゃったんじゃないだろうか?
見た目はおばさん!
性格ガキんちょ!!
とか、誰得だって感じだし。
自分の性格が、年齢の割に幼いのは自覚あるんだよ……。
改善できんかったけど。
地球でのお父さんとお母さん、泣かせちゃったんだろうな……。
ふと、考えないようにしていたそれが頭に浮かんできて、慌てて頭を振って思考の外に追いやる。
考えたところで、あちらに戻れるわけではないのだから、きちんと前を向かなくちゃいけない。
まずは、明日になったらアルを起こして落ち着かせて。
それから、先のことを考えよう。
それが、今出来る中で、きっと最善のなんだとそう思おう。
どうせ、この後は彼の寝顔を眺めて過ごすだけだと、もぞもぞとその隣に潜り込む。
一緒にやってたVRゲームで、よく彼とはこうやって居たからいまさら一緒の布団に入るのに忌避感とかは感じない。
本当は、結婚前の男女が同じ布団で……なんてのは、わたしの主義に反することなんだけど。
今の彼は、創造主様に自らの意思では覚ますことの出来ない眠りに就いているから間違えなんて起こりようもないのでノーカンだ。
それでも、間近に感じる彼の体温とにおいに、一種独特な胸の高鳴りは感じてしまう。
ドギマギしながら、そっと布団の中の彼の手に触れると、彼の内包する魔力がわたしに流れ込んでくるのを感じた。
流れ込んでくる、その魔力の濃密さに身体が震えて、はじめてこの身体が魔力に飢えていたことに気が付く。
『賢者の石』とやらで作られたというこの身体は、食事の代わりに魔力を摂るのだとそれでやっと本格的に認識した。
やだなぁ。
魂が神様もどきにされただけじゃ飽き足らず、身体は得体の知れないモノだとか。
意識のない彼から貰うのは、なんだかフェアじゃないような気はしたけれど、『魔力の枯渇は生命に危険を及ぼす』と言う言葉が頭に浮かんできだのでそこには目を瞑ることにした。
なんというか、女○転生(?)したらしいと言うのに、気分はサキュバスだな。
挨拶はアレか。
「わたしは女神りりん。コンゴトモヨロシク。」的な?
そんな、どうでもいいことを現実逃避的に考えてる内に、眠りに落ちた。




