暴動鎮圧 下
それはさておき、練習の結果、『精神投射』の時にはリエラちゃんの傍にアスラーダさんに居てもらう事になった。
結局、ソレが一番成功率が高かったのだ。
彼女に行ってもらう演説モドキの間はずっと、彼女の後ろに立って支えておくというのが、彼のお役目。
精神的にも、物理的にもね。
多分、全部終わったら立ってるのもきついと思うし。
結構ね、魔力消耗するっぽいんだよ?
『精神投射』って。
「それじゃ、やってきます。」
「うん。頑張ってね。」
「うう……。他人事だと思って……。」
暴動一歩手前くさい人たちの前で、一芝居打たなきゃいけないと言う緊張で倒れそうな彼女に安心材料を一個提供するか。
「おにーちゃん、ちょっとこっちに。」
「俺か?」
「そーそー。」
チョイチョイと、アスラーダさんをお呼びして、近づいてきたその額をちょんと突っつく。
「?」
「リエラちゃんを守るのに、ちょっと心もとないと思うから特別に『結界術』を授けました☆ 使用制限のないバージョンだから、物騒な使い方をしないように。」
「は?」
「あと、燃費が少し悪いから長時間使わないようにね?」
「えええ?! アスラーダさんだけに、ですか?」
ソレを見ていたリエラちゃんから、抗議の声が上がる。
「リエラちゃんには、無事に終わらせて帰ってきたらご褒美上げるから楽しみにしててね?」
「今じゃないのには、何かちゃんとした理由があるんですか?」
「先に渡して、余分な魔力を使っちゃうと成功率が下がる。」
「分かりました……。」
ちょっぴり不満げにしながらも、彼女は外に居るお客様方の元に大急ぎで向かっていった。
何気に、部屋を出る時にアスラーダさんの事を口説きながら。
アレ、天然なんだろうか?
天然なんだろうなぁ……。
素晴らしいスキルだと思います。
ちなみに、アスラーダさんにわたしが近付くのはあんまりお気に召さないらしい。
結構ヤキモチ焼きなんだねぇ……。
あんな口説き文句をしょっちゅう口にされてたら、他所見る余裕なんてないだろうに。
実際、アスラーダさんは耳どころか頬まで紅くなってたし。
さてさて、それはそれとして、だ。
わたしのほうは念の為この住居に進入されないように、軽めの結界を張っておくことにしよう。
アスラーダさんが、リエラちゃんの安全がかかっているところで手を抜くとは思えないけど、万が一と言うこともあるし。
「『輝影の支配者』アスタールの代行者・リエラが、グラムナードの民に伝えます。」
風に乗って、リエラちゃんの声がわたしの居る、アルの寝室まで明瞭に響き渡る。
きちんと、集まった人々の耳に声が届く様に、魔法か何かで音を補強しているらしい。
そうでなければ、どんなにリエラちゃんが、遠くまで響くいい声をしていたとしたって、この部屋にまで朗々と響くなんて事は無い筈だよね。
「先程の闇は、創造主様への彼の神からの悲しき叫び。」
声は、微かに震えているけれど、それによって言葉の効果に支障が出るほどじゃなさそうだ。
大仰な言葉回しは、もう少しなんとかならないか考えた物の、これ以上はどうしようもなかった。
あんまり崩すと、シミュレーションの結果が宜しくなかったのだ。
「その叫びが届き、とうとう永きに渡り孤独であった彼の神の元に、伴侶として新たな神が降臨されました。」
『永きに渡り孤独であった』のは、本当はアルの祖父である先代『輝影の支配者』の事だ。
アルが孤独で無かったとは言わないけれど、それでも先代ほどじゃない。
彼には、お兄ちゃんもリエラちゃんも居たんだから。
……この2人が居なかったら、アルは、もっと早くに潰れてたんじゃないだろうか?
そして、このフレーズは古くからこの町で生きている人達に効果が高かった。
この町…グラムナードは、ここ100年位前から子供の出生率が下がっているそうで、ある程度長く生きてる人が多いそうだから年長者に効果の高い言葉を選ぶ事にしたんだよね。
「創造主様への訴えに疲弊した為、『輝影の支配者』は眠りに就いています。
彼の神が伴侶を得られた事により、この地はより一層の安寧と繁栄が約束されました。」
ここでリエラちゃんは、グラムナードの敷地内全体に向かって指示通り、意識的に『満ち足りた思い』『幸福感』『安心感』を放出する。
周りに満ちていた、『不安感』『怖れ』がその感情に上書きされ、払拭されて行くのがまるで目に見えるかのように感じられた。
上出来。
ホッと、吐息を吐きながらリエラちゃんのアスラーダさんに対する絶対的な信頼に、感心してしまう。
コレと同じ事を、アルにやらせてもきっとこんなにすんなりとはいかなかったに違いない。
「祝いの宴は、改めて日取りを発表いたします。本日は、どうかお引き取りを。」
彼女が言葉を締めると、周りを囲んでいた人々の気配が安堵の想いと共に遠ざかって行くのが感じられた。
結果的に、わたしの作戦は拍子抜けするほど上手くいった。
リエラちゃんは、舞台度胸があるとでも言うんだろうか?
ともかく、本番で言葉回しを誤ることも、つっかえる事もなく、『精神投射』も上手くやってのけた。
なんとも結構なお点前でとしか言いようがないね。
最後の一人が視界から消えるのとほぼ同時に、気力が尽きたらしい彼女は、だんな様に横抱きにされて戻ってくるなり、わたしに訊ねた。
「無事、お役目を果たしてきました。ご褒美はなんですか?」
はいはい。
ちゃんと、ご満足いただけるだけのお品を用意させていただきますよ?




