第9話
学園祭の準備はどのクラスも大忙しだった。通常の授業の他に、学園祭の準備だ。勉強の時間が割かれてしまうほど忙しい。
特に教室の内装を凝ることにしたクラスは地獄絵図だったと、のちに語られた。
委員長はその話を聞いて、ブラックウェル君の意見を採用して本当に良かったと彼に感謝した。
学園祭当日は、生徒たちの家族もやって来る。
いつも以上に人が集まった校舎は賑やかだった。静かに授業を受ける学び舎が、まるで笑い声を上げているようだ。
キリアたちのクラスの紅茶喫茶も好評で、丁寧に淹れられた紅茶は教頭からも褒められた。
白地のテーブルクロスには光の加減でわかる刺繍が施され、高級感が漂っている。
紅茶やテーブルクロスを気に入った保護者からはどこで手に入れたのかなどを聞いてきた。
商魂たくましい令嬢は注文をしっかり受け付けている。商売の機会を取り逃さない。
まさに、学園祭も『学びの場』である。
店内に流れる曲は来店者の会話を邪魔しない音量に調節され、和やかな雰囲気を作り出している。
それに聞き惚れる客は少なくない。
そんな中、エリオットは悔やんでいた。演奏の組み分けでキリアと別のグループになってしまったため、空き時間がなかなか被らない。
これでは一緒に回れない。
キリアの演奏を聞いていてもいいが、やはり今日は学園祭を一緒に楽しみたかった。
「エリオット様、よかったら一緒に回りませんか?」
アイシャが上目遣いで声をかけてきた。丸い赤い瞳がエリオットを見上げる。エリオットはうんざりした様子で首を横に振る。
「いや、結構だ」
エリオットの声は素っ気なかった。身を翻し、教室を出ていく。アイシャは懲りずに彼について行く。
それを見ていたキリアは心の中にモヤモヤが浮かび上がってくるのを感じた。
自分だってエリオットと学園祭を回りたい。しかし、クラスの出し物にも貢献したい。
せっかく取りまとめ役を任命されたのだ。蔑ろにするわけにはいかなかった。
演奏は最後までしっかりとやり通す。
キリアは譜面に視線を戻して演奏に集中した。
演奏が終わると拍手は教室を包んだ。奏者たちはお辞儀をして、控えスペースに戻る。
「人が近くに座っていると緊張するわね」
女子生徒の一人が息をつく。これほど近くに聞き手がいる演奏は初めてだったのだろう。
事前練習でクラスメートたちの前で演奏した時とはまた違う緊張感があった。
三十分ほどの休憩を挟んで、別のグループの出番となる。
「キリア、お疲れさま」
シーナが声をかけてきた。キリアは頷いてバイオリンをケースにしまう。
「一緒に回らない?」
「え、でもオックス様は……?」
シーナの誘いにキリアはためらう。シーナにも一学年上の婚約者がいる。先ほど、教室に来ていたことも確認していた。
「いいのよ。あっちも忙しそうだし、お互い顔を見せるだけにしようって決めてたから」
シーナは笑って答えた。それなら、とキリアは頷く。
休憩に行ってくると他のクラスメートに告げ、二人は教室を出た。いつもなら整然と人が歩く廊下は人でごった返している。
二人は離れないように気を付けながら歩いた。
「どこに行ってみる?」
「確か、二年生で魔法の出し物をしているって聞いたわ。勉強のために見てみたい」
「真面目ねえ」
キリアが提案すると、シーナはため息交じりに笑った。それでも反対はしない。
二年生の教室が並ぶ階へ移動した時、前方に見慣れた背中を見つけた。
エリオットだ。そのすぐ後ろをプラチナブロンドのロングヘアが追いかける。
キリアの表情がスッと消えた。それを見たシーナは修羅場にならないことを祈るしかなかった。
突然、前方の消失で爆発が起きた。ドンッと身体に響く大きな音と同時に煙が教室から吹き出す。
エリオットの姿が、それに飲み込まれた。
お読みいただきありがとうございます!
学園祭当日って結局バタバタするんですよね。
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