第7話
次の休日、エリオットとキリアは街へ出かけた。
久しぶりに街に出るのだから、オシャレをしたい。
キリアは前の日からどちらのワンピースがいいか姿見の前で何度も身体に当てた。何度も悩んだ結果、クリーム色のほうを選んだ。
歩くたびにスカートがひらりと揺れる。
髪の毛もハーフアップにして普段は使わないちょっと華やかな髪留めを付けた。蝶をモチーフにしたバレッタが太陽の光でチラッと光る。
エリオットはキリアが自分との外出のために頑張ってオシャレをして来てくれたことに内心悶えていた。
(いつもと違う雰囲気にしてくれてる! 可愛い! 僕のキリア可愛い!)
顔はいつも通りに澄まして、いや、いつもより澄まして感情が溢れださないように抑えている。
何でもないような顔で歩き、目的のカフェへキリアを案内する。
カフェの中はまだ満席にはなっていないが、混雑していた。すんなり座ることが出来て、エリオットは安心する。
「良かった、すぐ座れて」
「はい。タイミングが良かったですね」
キリアは店内を見回した。
カップル、友達同士、親子連れ、様々な客層がいる。黒に近い茶色の柱は店に落ち着いた雰囲気をもたらしていた。
「ここはパフェが人気でね。食べてみたかったんだよ」
エリオットはメニュー表を広げた。飲み物はもちろんデザートの種類が豊富だ。
キリアはどれも美味しそう、とメニュー表を食い入るように見る。どれにしようか。難しい顔になってしまう。
それを見てエリオットはまた締まりのない笑顔になった。
(可愛いなあ)
キリアは他の同世代の女子と比べると幼さが残っていた。それでも、美しく成長している。
その変化を間近で見られる自分は幸せ者だとエリオットは幸せをかみしめる日々だ。
彼とて、身長がかなり伸びた。出会った頃はキリアとほとんど変わらない高さだったが、今では頭半分くらいは高い。
声変わりもして、落ち着いた大人の男性への階段を着実に登っていた。ただし、見た目だけ。
キリアに対する気持ちだけは幼い頃から変わらない。
それを子供っぽいと友人のジェイクからは指摘されてはいる。
「私、チョコレートパフェにします」
キリアはようやくメニューを決めたようだ。エリオットはイチゴパフェにして、店員に注文する。
「そういえば、今度の演奏会に国王様も出席されるそうですね」
思い出したようにキリアが言う。エリオットは音楽の時間に先生から言われたことを思い出した。
年に一度、学校で演奏会が開催される。音楽の授業で成績が優秀な人が選ばれ、演奏を披露することになっていた。
「ぜひ、選ばれたいものですわ」
ふふっとキリアは楽しそうに笑う。と、彼女は言うが、大抵は二、三年生から選ばれる。一年生で選ばれることは稀だ。
「キリアなら選ばれるかもしれないよ」
エリオットも笑った。
(キリアを選ばないで誰を選ぶっていうんだ!)
思っても顔にも口にも出さない。
彼女のバイオリンの技術は、とうにエリオットをも超えている。学年で一番だと思うのは身内の贔屓目ではない。
談笑しているうちに、パフェが運ばれてきた。綺麗に盛り付けられているパフェは崩すのがもったいないくらいだ。
キリアはスプーンでチョコレートがかかった生クリームをすくう。
口に入れると、チョコレートの甘さと生クリームの甘さが口いっぱいに広がった。
思わず頬が緩む。
それを見て、エリオットの顔も緩む。
「美味しいです!」
キリアは満面の笑みを浮かべた。エリオットも一口食べた。甘酸っぱいイチゴの香りが鼻に抜ける。
「ここを選んで正解だったね」
エリオットは頷いて食べ進めた。キリアもグラスからこぼれ落ちないように慎重にスプーンをパフェに入れた。
あっという間に、エリオットのグラスは空になってしまった。
「ゆっくりでいいよ」
エリオットはキリアに笑いかけた。彼のグラスが空になったのを見て、キリアが慌てて食べる速度を上げたからだ。
キリアは頷いて、手のスピードを落とす。
彼女が食べる様子を、エリオットは優しい眼差しで見守った。
食べ終わったキリアは小さく「ごちそうさまでした」と言ってスプーンを置いた。
その頃には店の中は満席で、入り口に並んでいるも大勢いた。
長居するのは気が引ける状態だ。
「そろそろ出ようか」
エリオットが立ち上がりながらキリアを促す。キリアも頷いて席を立った。
店の外に出ると、外にまで列ができている。本当にタイミングが良かったらしい。
「すんなり入れて良かったね」
「そうですね。これほどの人気店だったとは」
外に並ぶ列を見て、二人はこそっと囁く。
寮への帰路に就いたその時、悲鳴が上がった。切羽詰まった悲鳴だった。
振り返ると、近くのパン屋から火の手が上がっていた。
お読みいただきありがとうございます!
人気店って、行くタイミングが大事ですよね。
よろしければブックマーク、★の評価、リアクション等よろしくお願いします。




