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第3話


 中等部に上がる少し前、キリアはメイドのマーナと共にバラクッド家に遊びに来た。遊びに来るのは、もう何度目かわからない。


「待ってたよ! 行こう」

「気を付けていくのよ」


 エリオットは二人を出迎えると、母の言葉も最後まで聞かず、町へ繰り出した。

 三人で町を歩く。もう慣れた道だ。


 バラクッド伯爵が治めるこの町は治安が良く、子供たちだけで遊んでいてもほとんど危険がない。


 今日の目的はキリアのバイオリンの弦をお店で見ることだ。


 屋敷に持ってきてもらうこともできるが、やはりお店で見て、様々な楽器を感じたい。

 音楽が好きなエリオットとキリアには、店に赴くなど何の労力でもなかった。


「わあ」


 楽器店に入った途端、キリアは感嘆の声を上げた。

 バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、オーボエ、あげたらきりがないほどの楽器たちが整然と店内に並べられている。


 今にも音が聞こえてきそうなほど、楽器たちは輝いて見えた。


「おや、エリオット坊ちゃん。いらっしゃいませ」


 楽器店の店主らしき男性がエリオットに声をかけた。


「お邪魔します!」


 エリオットは元気に挨拶をする。その隣でキリアはペコリと丁寧に頭を下げた。


 店主は目を細めてキリアにも挨拶をした。


 バイオリンの弦を見に来たことを伝えると、店主は素材や細さなどを説明してくれた。

 キリアは悩みながらも、必要な本数を購入することが出来た。


 楽器店を出て、再び町を歩いた。


「いい弦が見つかって良かったね」

「はい。親切な店主さんで良かったです」


 エリオットとキリアが微笑み合う。マーナはそれを微笑ましそうに眺めていた。


 ふと、建物の陰から飛び出してきた男たちの手がキリアに伸びた。


 反射的に、マーナはそれを払い飛ばす。


「無礼者!!」


 マーナは怒鳴って、エリオットとキリアを自分の背に隠した。キリアは顔を強張らせてエリオットの袖をつかむ。


 前に気を取られていたマーナもキリアも、背後に迫る男の存在に気付かなかった。


 忍び寄った男は、背後から片腕でキリアを抱え上げた。


「キャア!」


 思わず、キリアは悲鳴を上げる。


「キリア!」


 エリオットは彼女を抱え上げた男に向かって行った。マーナが止めようとするが、彼女の前にいる男たちは拳を振り上げて迫ってくる。


 キリアを抱えた男は、空いている手でナイフを握った。飛びかかろうとするエリオットに向かってそれを振り下ろす。


 キリアの喉から悲鳴がほとばしった。


「やめてぇっ!」


 その瞬間、彼女を抱えていた男の手が緩んだ。キリアはすとんと地面に着地する。男は力なくその場に倒れ込んだ。


 キリアは恐る恐る男の様子をうかがう。動く気配がない。男は気を失っていた。


 何が起こったのか。男の仲間たちはわかっていないようだったが、そそくさと逃げて行った。


 マーナとエリオットには何が起こったのかわかった。キリアの音魔法が悲鳴で発動したのだ。


 彼女自身もそれに気づいていた。口元に手を当ててカタカタと震えている。


 マーナはキリアを抱きしめる。


「大丈夫。大丈夫ですよ、お嬢様」


 キリアは無言のまま、何度も頷いた。顔は真っ青なままだ。その背はあまりにも弱弱しい。


 エリオットは彼女の背に手を当てることしかできなかった。


(僕も、キリアを守れるようにならないと)


 この日の悔しさを、エリオットは忘れまいと胸に刻み込んだ。


お読みいただきありがとうございます!

マーナは強いです。

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