第2話
歌えなくなったキリアは医師の診断を受けた。
老齢の医師は彼女の喉の中を観察したり、首に触れたり、歌わせようとしたりと色々試した。
「極度の緊張からくる喉の委縮でしょう。健康に問題はありませんよ」
老齢の医師はしわがれた声で優しく告げた。
病気ではなかったことに安堵した両親だったが、それではせっかくの音魔法が使えなくなってしまう。
父は楽器を薦めることにした。エリオットも習っているバイオリンがいいだろう。
「キリア、バイオリンを習ってみたらどうだ? エリオットも習っているし、歌だけが音を奏でるものではない」
バイオリンを薦められたキリアは、手に取ってみることにした。
軽そうに見えて、その重さが肩にしっかりと乗ってくる。耳に届くバイオリンの音が心地よかった。
キリアはバイオリンという楽器が好きになった。
「キリアもバイオリンを始めたの!?」
彼女がバイオリンを習い始めたと知ったエリオットは喜んだ。一緒に練習ができる。それだけで励みになった。
指導が良いのか、本人に才能があったのか、キリアはどんどん上手になっていった。
同時に音魔法も自在に操れるようになってきた。
音魔法は自身が奏でる音に魔力を乗せる魔法だ。火や水の魔法のように、それらを生み出すことはできないが、そこにあるものに影響を与えられる。
そこに火があれば火を操り、水があれば水を操ることができる。大気を操り風を吹かせ、大地に働きかけて動かすこともできる。
しかし、父には一つ心配事があった。
音魔法の使い手は希少だ。しかも、キリアは人体に影響を与えることが出来る。そんなことが出来る者はほんの一握りだ。
彼女の力を手に入れようと狙う者が出てくるのではないか。
それが気がかりだった。
「いいかい、キリア。人のケガを治すところを見られてはいけない。悪い人がお前をさらいに来るかもしれないからな」
父はキリアにそう言い聞かせた。キリアは真剣な父の声に頷いた。幼いながらも、稀な力であるという認識はあった。
だから、それだけは他の人に見せていけない。
キリアは胸に刻み込んだ。
しかしキリアにとって、音楽の授業は憂鬱なものになってしまった。
基本的に歌ばかり勉強させられる。緊張の件もあり、歌うことはなんとか先生の理解を得て免除された。
「恥ずかしくて歌えないなんて、授業を受ける意味がないのではありませんこと?」
アイシャは勝ち誇ったように笑う。見下すこの目が、キリアは苦手だった。目を伏せてうつむくことしかできない。
「君はキリアをバカにすることしかできないの?」
珍しく、エリオットが怒った。それ以外の方法が、今の彼には思いつかなかった。深い緑色の瞳がアイシャを捉える。
キリアが恥ずかしくて歌えなくなった原因は、クラスのみんなが彼女を笑いものにしたからだ。真っ先にそれをしたのはアイシャである。
怒りの矛先を向けられ、アイシャの赤い瞳に涙が浮かんでくる。
「わ、わたくし、そんなつもりは……」
涙ながらに訴えても、エリオットは睨むのをやめない。
「エリオット様、もういいです。事実ですから」
キリアは軽くエリオットの袖を引いた。首を横に振ってやめて欲しいと訴える。
エリオットは仕方なく、視線をアイシャから外した。
アイシャの顔が悔しそうにゆがむ。
(あんな子のどこがいいの? わたくしのほうがエリオット様に相応しいのに!)
その表情に、エリオットもキリアも気付かなかった。
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