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人類敗北間近の世界で俺がこみゅりょく♡で無双する件。  作者: バニハ


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第二十八話 帰還

 「あ、あの……俺と一緒に、コンラッドの街に戻ってはもらえませんか?」

俺はオトムにそう申し出をしていた。

「ん? 街に、か……。もしかしてどこか怪我をしたのか。だったらこのまま一人で街に行け、というのは流石に可哀想だな……」

オトムは顎に手を当てて考えつつ、目線を街道の一端に向ける。そこには、陽光を反射して鈍く光っているコンラッドの街の門が、百メートルほど先に見えた。

 「霧が晴れている……」

「ん?」

「ああいえ、何でも……」

俺は思わず呟いていた。白い霧は消え去り、視界は開けていた。いくら走っても突っ切ることが出来そうになかった霧は、跡形もない。

 「ムスース、隊商を率いてしばらく進んでくれないか。俺はこの少年を一旦街まで連れて戻ることにする。門のところまでなら送ってやれる。旅の進行に遅れを出させては良くないからな」

オトムは仲間の一人を呼びつけると、そう言って俺の肩に手を置いた。自分にできる範囲のことをして、俺を安全に街へ届けようとしてくれているのが分かる。俺は門ではなく、ジェリに会うところまで一緒に来て欲しかったのだが、それを提案することはできなかった。

 結局、馬を一頭だけ馬車から離し、その背にオトムと俺はまたがって進むことになった。

 「そういや、君は、どうしてジェリと知り合いになったんだ? 俺だってコンラッドの街に住んでいる人物を全員知っているわけじゃないけれど、それでもどこかで見かけたら何となくは覚えていそうなんだが。ジェリはまだ小さいから、街の外に出したことは無くてね」

オトムは馬上で、俺の前に座りながらそう声をかけてきた。これは、暗に「どこから来たんだ?」と質問されているような気がした。

 俺は何と答えるか迷った。

 親切に俺を街まで運んでくれようとしてくれているオトムに、これ以上悪印象を与えたくは無かった。先ほどの反応から、オトムが一ヶ月行方不明になっていた時の記憶は、彼自身にはないことが分かっている。このまま真実を伝えても、彼のことを記憶の抜け落ちた人扱いすることになりかねない。それは本人からすれば、面白いものではないだろう。……しかし、その一方で、これも話し方でなんとかなるのではないか、という想いが頭をよぎった。

 「オトムさん……」

「ん?」

「今から話すこと、信じてもらうのは難しいと思っています。ですので、もし不快に思われたら、俺をコンラッドの街まで運ぶのは中断して、ここで降ろしてもらっても構いません。街までは頑張って歩くことにします」

「おいおい、それはまた随分かしこまった感じだな。だが、まあ街まではまだ距離があるし、聞こうじゃないか」

オトムは少し冗談ぽく笑った。俺はそのことに礼を言いつつ、口を再び開いた。

 「俺は、ほんの数日前にコンラッドの街に来た者です。そして冒険者ギルドのルーシーに借金を作ったので、その返済にあたるためにギルドの仕事を行うことにしました。ジェリちゃんに会ったのはその時です。ギルドでは人探しの依頼がかなり多く寄せられていて、ジェリちゃんも街の外に出て一ヶ月ほど戻らない父親を探す依頼を、ギルドに提出しにきたところでした。街に来たばかりの俺と気さくに話してくれて……会話しているうちに彼女の依頼を受けようと思ったのです」

俺はかいつまんで話した。依頼主がジェリではあったが、ルーシーの反応を思い出し、そのことは伏せておいた。俺が受けたのは正式なギルドの依頼ではない。だが、そのことは今は重要ではないと思った。

 「……ふうむ」

しばらくの沈黙の後、オトムは呟いた。

「君、名前はなんていったかな」

「ハァトです」

「ハァト君……正直に言って、君が今話したことは信じ難い。俺は本当に今朝街をでた記憶しかないし、ジェリは寝ていたけれど、妻のカーツヤとは出かける前に挨拶を交わしたことも覚えている。だが、君がそう言った嘘をつく利点が見当たらないし、ついている嘘の内容で、何か君に利益があるとも思えない。それに……」

「それに?」

「君の丁寧な前置きが、俺から不信感をぬぐい去っている。どのみち、街に戻ればわかることだ。そんなに長く滞在はできないが、聞けばギルドのルーシーとも知り合いのようだな。ちょっとギルドにも顔を出すとしよう。それで、全てが明らかになる」

「……ありがとうございます」

 俺は嬉しかった。丁寧に話をした甲斐があった。俺の話の内容は信じてもらえずとも、話し方自体を評価され、俺はこうして馬の背に乗せて運んで貰えているのだ。

 徐々に街の門が近づいてきた。

 この門をくぐったのはほんの数時間前だった。その後、異形に会い、話し、戦い、エステルの元に行き、そしてまた戻って相対した。数時間のはずなのに、もう何日も戻っていないような気がした。

 「おや、どうしたんだ、二人とも」

 門にたどり着いた時、門の脇にある詰め所から出てきた人物に声を掛けられた。警備のケビンだった。俺とオトムは顔を見合わせた。

「街を出て、すぐにお戻りとは、何かあったのか? しかも先に出発したハァトを連れているってことは……どこか怪我でもして、オトムに助けてもらったのか?」

 ケビンは心配そうにこちらを覗き込んできた。

「い、いや……怪我はしていません。オトムさんが守ってくれので。それに……もう用事が無くなったというか……」

「狼の群れに襲われているハァト君を見つけてね。撃退はしたが、念のため一緒に戻ってきたのさ。ケビン、馬を少しだけここで預かってくれないか。俺はすぐに隊商に合流しないといけないから」

 俺が言葉に困っていると、オトムが素早く答えた。ケビンは頷くと、門を開いてくれた。馬を預けて、再びコンラッドの街に足を踏み入れる。街道の地面ではなく、靴越しに感じる街の石畳の感触が懐かしく感じた。

 「さて、ケビンの言い方では、ハァト君は確かに街を出はしたようだな」

「はい……。ですが、僕が出たのはオトムさんを探すためですし、そういった意味では、既に辻褄が合わなくなっていますね。僕の出発した後に、オトムさんが出発したことになっているみたいですから」

「それなら、ギルドに行こうじゃないか。君の受けた依頼とやらも、何か変わっているのかもしれない。それを確認してから、俺は君が勘違いをしているかどうかを判断するとしよう」

オトムは静かにそう言った。

 「オトムさんは、俺が勘違いをしているだけだとか、頭がおかしくなってしまった奴、とは考えないのですか?」

「ははは、そんな失礼なこと……。いや、俺も正直に言うと、少しはその線も考えたんだ。しかし、さっきのケビンの反応で、一つ分かったことがある。ハァト君は街の人に憶えられているってことだ。俺だって、ここ数日間、外を出歩かなかったわけじゃない。それなのに、俺は君に街の外で出会った時、初対面だと思った。つまり、街の他の人が憶えているのに、俺だけが君を見かけてすらいないないのはおかしいじゃないか、と思っているんだ。案外、頭がおかしくなっているのは俺の方かもしれないぞ」

そう言うと、オトムは再び軽快に笑った。それを聞きながら、俺も次第に安心した気持ちになった。

 「日数にすると僕が街について、出発するまでに滞在したのは、ほんの二日です。ですので、オトムさんと顔を合わせていない可能性は十分にありますよ。僕だって、その短い期間で、この街の人全てと出会ったわけじゃないですから」

「なるほど。それもそうか。なら、実際のところどうなっているのかは、いよいよここで分かるな」

 そう言って前を見たオトムにつられて、俺も目線を彼の顔から正面へ向ける。そこには、二日しか滞在しなかったのに、妙に親しみを湧かせるギルドの扉があった。






来週も月曜更新!

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