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人類敗北間近の世界で俺がこみゅりょく♡で無双する件。  作者: バニハ


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第二十六話 敵対者を越えて

 目の前には異形がいた。

 そいつはずっとそこにいたはずだった。俺とそいつの間にある光の道。その光に照らされたそいつが、一瞬だけブレたように見えたのは気のせいだったのだろうか。しかし、どうしてかそいつから感じ取れる雰囲気が、ついさっきのものとは違っている気がする。

 「……どうした。さっさと行けばいいじゃないか」

俺は異形に話しかけた。

「……」

奴は微動だにしない。しかし、その眼を持たぬ顔からは、俺に対しての視線が感じ取られた。

 お互いに言葉は発しなかった。風も吹かない。鳥もいない。聞こえるのは自分の息遣いだけだ。そうして見合って、長い時間が過ぎたような気がした。

 「……もう……行ってきた……」

搾りだすように、異形は言葉を発した。それだけで、俺は理解した。

 「思ったような成果は得られなかったようだな。俺は変わらず、こうしてここに立っていて、そしてお前は戻ってきている」

「……お前だけの力ではないがな……。エステルが……上手くやったのだ」

「何? エステル?」

俺は聞き返した。確かに、エステルには守ってもらっている。この異形が問答無用で肉弾戦を仕掛けてきた時に、助けてもらった。そして、俺はもう一度この異形と対峙して、ついにスキルを獲得した。そのことを言っているのだろうか。

 「ハァトよ……。お前のスキルの覚醒には……条件があったのだ……。それは……我と対峙し……我の目的を聞き……そしてその上で……我に対抗意識を持つ……ということだ……」

「……? それが、どうしたっていうんだ。お前が俺のスキル覚醒の条件だったとして、お前に何の関係があるんだ?」

「お前にとって……我が条件になっていることと同じように……お前という存在が……我のこの旅に介入して……それの進行させるための……条件となっているのだ……」

「……別に、そんなの俺だけのはずないだろ。お前がこれまで歩んできた道のりの中で、お前に何かしら指導をした師匠もいたって言っていたじゃないか。……確か、時を遡るスキルの師匠だったか。そういう人だって、お前にとっては進行方向に作用する条件の一つじゃないか」

俺がそう言うと、異形ははっきりと首を横に振った。

 「そういう者たちと……ハァト……お前は違う……。我にとって……お前は明確に敵なのだ……。何かしら……スキルを習得するための……師匠などとは違う……。師匠は……無視することも……できる……出会わないことを……選択することも……できるのだ……。我が……そのスキルの習得を……諦めることさえ……できればな……。しかし……」

そこで異形は足を前に踏み出した。俺は一瞬身構えたが、その足は光の道に踏み込むことはできなかった。持ち上がった膝のように見える部分が、見えない壁に遮られたように何かにぶつかる。異形は膝に体重をかけるように、少しだけ体を曲げたが、効果は無かった。そうして、再び足を下すと、言葉を続けた。

「我が……我であるがゆえに……お前は敵なのだ……。エステルは……我とお前の間柄を……そのように規定して……この世界に組み込んだ……。これは……今までの……エステルの遣いには無かったことだ……。今までの面々は……お互いに自由に……行動する中で……たまたま衝突……せざるを得なかったに過ぎない……」

 そう語る異形の声は震えていた。

「しかし……お前は……我が乗り越えるべく用意された……存在なのだ……。これは……エステルからの挑戦でもあるが……我にとっては……長い退屈を紛らわせるもの……なのかもしれぬ」

「……」

異形は確かに苛立ちを抱えていた。ただ、それだけではないようだった。深く息を吸いこみ、俺のつま先から頭の先までをじっと見ていた。

 しかし、やがて残念そうに息を漏らすと、異形は街道に座り込んだ。

「……お前のスキルは我を完全に遮っている……。これほどの難題は初めてだ……。正直に言って……我はここからお前を越えてゆくことはできん……。時間をかけても……どうにかなるものではないな……」

 意外だった。殊勝に感じた。しかし、異形の持つスキルのことを思い出して、合点がいった。こいつはきっと、俺が知らない間に、何度も俺と対峙したのではないか。だから、俺から見ればすぐに諦めたように見えたとしても、こいつにとっては何回も繰り返したことなのではないか。

 しかし、この異形の存在とは別に、俺は俺でこれから何をやっていくべきなのだろう。

 コンラッドの街で受けてきたジェリからの依頼のことを思い出される。まさか街の外にある様々な可能性が無くなってしまい、もはや霧に隔絶された街しか残っていない、という事実を伝えるしかないのだろうか。あの小さな女の子の覚悟に、俺は報いてやることはできないのだろうか。せっかくスキルを覚醒したというのに。

 「ん……?」

その時、俺はあることに気が付いた。それは自分のスキル、そして目の前の異形のスキルの相性についてだった。

 俺は一瞬だけ迷った。このことを伝えるべきかどうか。それは選択の瞬間だった。何を優先し、何を優先しないか。それはすなわち、自分がどう生きるか、ということを決めることだ。そして、それについて俺はやりたいことは決まっている。

 「おい、良いことを思いついたぞ。俺と取引をしないか」

俺は異形に向かって声をかけていた。

「取引……だと……?」

怪訝そうな声が返ってくる。俺は頷いて、光の道を挟んで座り込んだ。

 「お前は俺を倒せない。俺のスキルがお前を遮っているからだ」

「あぁ……そうだが……」

「だが、俺のスキルはお前以外に対しては、まだ発動させていない。それに、誰も予想していない突発的な何かが起こっても、そういうものに素早く対処することができるような便利な能力じゃない。例えば、今いきなり地震が起こったとして、それがお前由来のものではなかったら、俺は普通に怪我をするだろう」

「……?」

異形は静かに俺の言葉の続きを待っているようだった。まだ、ピンと来ていないらしい。俺は続けて口を開いた。

「お前が俺のスキルを破れないのは、この環境のせいでもある。この、何も起こりえない環境……あらゆる可能性が無くなってしまった環境、だ。お前がそうしたんだけどな」

「……! ……なるほど。我にはお前を攻略する方法は無いが、我以外の何かがお前を攻略しようとすれば、話は変わってくる、ということか」

「その通りだ」

「……だが……何故……それを我に伝える? お前の望みは……なんだ?」

「俺は、人探しをしている。しかし、その人はコンラッドの街から出て、帰って来なくなった。恐らく可能性の消え去った環境にでて、存在を保つことが出来なくなったんだろう。俺みたいに、エステルの加護があるわけじゃないからな」

「……なるほど……つまりその者を呼び戻せ……ということか」

「いいや」

 俺は鋭く否定した。

「全部戻せ。お前が奪ったこの世界の可能性を、全てだ」

「……なに……?」

「悪い話じゃないはずだ。この世界に可能性が満ちれば満ちるほど、お前は俺を倒す手段が増えるってことなんだぞ」

「……時間がかかるぞ……」

「それはお前にとっては、だろ。オートセーブ・クイックロードを使えば良い。全部終えたあと、またここに戻ってこいよ。俺の体感時間は一瞬だ」

 異形は考え込んだように見えた。それは俺にとって、そう見えただけかもしれない。奴からしてみれば、今まで準備した自分の取り組みを無かったことにするようなものだ。

 しかし、やがて奴は頷いた。


次回も月曜更新!

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